カテゴリー別アーカイブ: 依頼の刃物

近所の常連様から炭素鋼の包丁の御依頼

 

近くの御住まいの数少ない常連様、と言うだけでなく炭素鋼の包丁を聊か以上に鋭利に仕立てて御使用に成ると言う意味からも希少な存在?であるO様から、御依頼を頂きました。

 

研ぎ前の状態。錆びる鋼材ですので、其れなりに錆は出て居ますが、特に酷いレベルまでは見られませんね。

KIMG0360

 

其れ以上に目を惹くのは、刃先の損耗の少なさ。通常よりも三割増し程度に研いで居るにも関わらず、大きな欠け・捲れが皆無と言えます。

KIMG0361

 

KIMG0362

 

 

 

研ぎ始めは、320番の人造からです。数回の研ぎにより、刃先の厚みが若干ですが増した為、小刃の幅を(多少は広げて来た従来よりも)広げました。

どうしてもと言う事であれば、側面の全体・何割かのの面積に亘って厚みを抜く事も可能ですが、時間と手間(大雑把では意味が少ないので)の観点から代金が高額に成りますし、製造段階で想定していない運用だと考えます。ナイフ・洋包丁にとっては、所期の小刃(1~2mmの幅)から研ぎ進め、5~10mmの幅まで広げつつ、刃先との兼ね合いを鑑み刃先最先端との角度の研ぎ分けを行なうのが妥当でしょう。

そもそも、薄い物が良ければ最初から薄く仕立てられた製品を選ぶべきであり、其の場合はグリップ(ハンドル)との重量バランスも取れた状態で使える筈です。鋼材と熱処理のバランスも、刃体の厚みと刃先角度に見合った(刃先を維持出来る)仕様に成って居る確率も高いと思われます。

KIMG0366

KIMG0367

 

 

人造の1000番で、キズを浅く。

KIMG0369

KIMG0370

 

 

同じく1000番ですが、粒度細かい物。次いで3000番で、小刃の幅を切っ先方向に向かって僅かに広げます(鋭角化)。

KIMG0376

KIMG0375

 

 

天然は丸尾山の巣板、やや軟口と奥殿の中硬から。傷を消しつつ、更に形状を整えます。刃先最先端は幾らか鈍角化(切っ先に向かっては漸次鋭角化)。

KIMG0383

KIMG0386

 

 

最阿雄仕上げは中山の硬口巣板と合いさで。

KIMG0387

KIMG0400

 

 

 

研ぎ上がりです。錆を落とす際、小刃の直近の擦過傷を消す工程では、厚みを抜く(刃先方向・切っ先方向)狙いも含めて行なって有ります。

KIMG0414

 

KIMG0403

 

御要望に従い刃先の最先端も、通常に比して鈍角化は控え目です。

Still_2023-11-22_221941_60.0X_N0005

 

KIMG0405

 

 

 

 

O様には、此の度も御依頼を頂きまして有難う御座いました。刃先の処理への工夫が奏功していると使い勝手が維持できると思われますし、錆の手入れを兼ねた磨きに依り、刃体本体も徐々に状態が良くなって行くと考えて居ますが、お気づきの点が有りましたら御問い合わせを御願い致します。

 

 

 

 

 

ダマスカス地金のVG10牛刀の御依頼

 

大阪府下のM様から、VG10の牛刀を送って頂きました。ダマスカス地金の間に心金を挟んだ仕様では有りますが、殆ど新品と言える段階で有り、刃先の損耗も軽度である事から、今回は小刃の範囲のみの研ぎに留める方向で作業を進めました。

 

 

研ぎ前の状態、全体画像です。全体に渡ってステンレス系統で構成されているものの、部分的に錆が発生しています。其処まで深くは無いのが何よりで、刃先の損耗も酷くは無いです。

日常的に、刃先への負担が少ない御使用法を伺わせると共に、此の段階で研ぎの必要性を感じられた点から、繊細な感性を御持ちである事・包丁を大切にされて居る事が拝察されます。

KIMG0317

 

初期刃付けの段階では掛かりを重視してか、やや荒い小刃が施されて居ます。ステンレスの仕上げでは、(特に人造仕上げ砥では)滑り易くなる傾向が有るので、其れへの対処として多用される方法では有ります。特に硬めに熱処理されたVG10は、超仕上げレバルの話しに成りますが、砥石に対して結構な選り好みが見られます。

KIMG0319

 

拡大して分かるのは、小刃が二段階と成って居ました。最先端の角度は、返りの処理と刃持ちを企図して付けられた物と考えられますが・・・稀に其の面積だけが使って行く内に摩耗して、あたかも別角度に仕立てたかの様に成っている事も有りますので、断定は出来ませんね。

Still_2023-10-28_202235_60.0X_N0001

 

KIMG0321

 

 

 

研ぎ始めは、人造の320番からです。大幅に研ぎ下ろす必要は無いのですが、硬目のVG10(耐摩耗性良好)故に、下りの速さは控え目です。

切り刃のカーブ手前の鎬筋周辺は、厚みが残って居る様子ですが・・・特に刃先周辺の切り刃はマズマズ均一気味の様です。ただ、研ぎ直した小刃のを観察して貰えれば分かるのですが、幅の増減が見られるという事で(今回は殆ど均一か、僅かに切っ先方向へ広がる筈の研ぎ方ですので)厚みの不均等が察せられます。

KIMG0322

KIMG0323

 

 

続いて研磨力に優れる1000番で、より正確な小刃の形成に努めます。刃元は30度弱・中央は25度・切っ先付近は20度程で、両側から研ぎますから刃先角度の合計は、二倍と成ります。

KIMG0325

KIMG0327

 

 

人造の最後は、3000番です。傷の浅い1000番を経て、更に傷を浅くします。

KIMG0328

KIMG0330

 

 

天然に移行し、対馬です。

KIMG0333

KIMG0334

 

 

奥殿の天井巣板、中硬の物で仕上げ研ぎです。普通に切るには充分とは言えます仕上がりに。

KIMG0335

KIMG0336

 

 

普通では面白く無いので、やや硬口の中山の巣板・合いさで。切れは向上するも、未だ本調子を出せていない感も。

KIMG0337

KIMG0338

 

 

超硬口のカラスでは、掛かりが向上。ただ繊細な切れにはもう一つ(違いが分からない人も居るレベルの話です)。

KIMG0340

KIMG0341

 

 

超硬口の戸前では、切れと掛かりの性能が微増。

KIMG0342

KIMG0344

 

 

此処で方向性を変え、水浅葱で。滑らかな切れでは最上の結果ですが、もう一声を狙えそうな感触。

KIMG0345

KIMG0346

 

 

同じく水浅葱ですが、田中さんが惑星と呼称するタイプで。相性的に上画像の個体よりも優って居た様子で、最終仕上げの砥石としました。

KIMG0349

KIMG0350

 

 

 

研ぎ上がりです。小刃のみの研ぎですので、全体画像による差異の確認は困難です。

KIMG0351

 

刃部のアップだと、研ぎ目の違いや小刃の幅の変化が見えて来るでしょうか。

KIMG0353

 

刃先拡大画像なら、使用した砥石の細かさ・砥ぎ分けた角度変化が確認出来ますね。小刃の幅の中で、数本の段階に分けて砥石を当てている結果です。切っ先方向へ進むほど、鋭角化も伴っていますが。

Still_2023-10-30_030218_60.0X_N0003

 

KIMG0355

 

一応、各所の錆も落とせるだけは落としましたが、新品時の仕様と同一とは行きません。使用工具や設備が異なると(扱う人間の違いでも)、完全な再現には成らない物です。

KIMG0357

 

 

 

M様には研ぎの御依頼と共に、ブログ掲載への御協力も頂き有り難う御座います。その理由を御聞きした上は尚更、感謝に堪えません。御自身が研ぎ専門の所へ依頼を出す迄に、かなり悩まれた経緯からだそうで。主婦が家庭で使う包丁を研ぎに出すのに、敷居が高く感じていると思われる為、少しでも身近に感じて貰えればと、御心遣いを頂いての事でした。

確かに、簡単に速く安く研ぐ訳では有りませんので、万人向けでは無いかも知れません(ナイフ・洋包丁は赤字ギリギリラインですが(笑)いや、和式も変わりませんね)。しかし、もしも私の研ぎに御興味が御有りでしたら、御家庭用の包丁だからと遠慮をされる必要は有りません。プラスチックの俎板により、直ぐに切れなくなるけれど、良く切れないと不満が出る方には御薦め出来るかと考えて居ます。

真っ直ぐに押し付ける、「落とし切り」と言われる切り方しか出来なければ「薄さ」しか頼れませんが、刃体も刃先も強度に劣り、刃体の曲がる心配・研ぎ直す頻度も上がります。刃物の寿命に関わる訳です。押し引きのストロークを織り交ぜて切る事が出来るなら、極端に薄く無くても(厚みや角度はテーパーが望ましいですが)充分な切れが出せます。まあ、刃先の角度が正確な必要は有りますが。

基本的には、上記内容に則った研ぎ方ですので、極端に荒く叩く様に扱う場合以外は、切れと永切れのバランスの取れた仕様を感じて頂けるかと。注意点としては、鋼材の種類と熱処理の結果次第で、実用に耐えられる刃先角度も決まって来る所です。

ホームページには、御問い合わせのフォームが有りますので、御気軽にメッセージを書いて御送り頂ければと思います。M様には明日夕刻、御返送の包丁が到着する予定ですが、不都合な点等が有りましたら御知らせ下さい。再度、調整等致しますので、宜しく御願い致します。此の度は研ぎの御依頼、有り難う御座いました。

 

 

 

 

 

ヘレのナイフの御依頼

 

群馬県のY様から、ヘレのナイフ(御友人作)を御送り頂きました。ヘレのファルクニーベンのブレードを使って、との事だったと思いますが、ブレード側面にはノルウェーと在った様な?確かファルクニーベンはスウェーデンでしたが、繫がりが有ったのでしたか・・・まあ、良い品であれば出自を問うのは野暮と言う物でしょう。

 

研ぎ前の状態。切り刃は殆ど初期状態の儘で、小刃を或る程度、研ぎ進めた様子です。やや厚く成って来た小刃の部分の強度を活かし、(サイズの割りにはハードな使い方である)バト二ングをするとか、ガシガシと木を削る作業には支障が少なそうでは有ります。

ただ、厚みの有る対象への最初の切れ込み・走り・抜けも考慮に入れるなら、そもそも鈍角目の切り刃・厚く成って来た刃先・一定角度の切り刃と小刃、の三点が気に成ります。

研ぎ方の御好みを窺った際、任せるとの事でしたので、私は強度(永切れ)と切れの両立を目指している点・研ぎ乍らの(砥石の番手其々で)試し切りを踏まえて、鋼材と熱処理の結果としての耐えられる刃先角度の選定をしている旨、御伝えした上で取り掛かりました。

KIMG0249

KIMG0253

 

峰には損耗が見られますね。

KIMG0254

 

 

御要望としては、ファイヤースチール使用時に使える様、峰の面を平面に・側面との角を直角に。そして刃の研ぎ直しでした。完成品のブレードの背を精密に研削可能な設備は持ち合わせませんので、似通った自分のナイフを用いて、手作業による対応策を探りました。

KIMG0239

 

モーラのコンパニオンシリーズは、峰の面も綺麗に出ているのに対して、ロバストの方はプレス加工時の儘の凹面に成って居ます。下画像では、左方向から型で抜かれた状態でしょう。

KIMG0255

 

勿論、二本共です。

KIMG0257

 

 

其処で、ダイヤモンド砥石を用いて削って見ます。その後、番手を上げて行き最後はペーパーで。

KIMG0278.

KIMG0282

 

削った序でに、ストレート過ぎるブレードバックを、切っ先寄りの四割ほどの範囲で軽くドロップさせました。更にオマケとして、切っ先手前の峰の面取りも。加えて、其の部分の峰は(折角、平面にしましたが)改めて丸みを持たせました。鉛筆を削る様な使い方で、ウィークハンドでの後押しを想定しての事で、エッジが立って居ると皮膚への負担と成りますので。

KIMG0280

 

 

上記を踏まえて、ヘレに取り掛かります。同じくダイヤの低番手から。

KIMG0284

 

次に切り刃もですが、初めは小刃のみの研ぎで様子見しました。ところが、やはり切れに不満が出ましたので、元来の小刃の幅より少々、鎬を上げる程度に研ぐ事に。此の手のナイフに特有の傾向?が見られる、切っ先カーブから先が鈍角な切り刃と成って居る点も改善。

KIMG0287

KIMG0288

 

 

人造の320番で、研磨痕を浅くしつつ、僅かに切り刃に切っ先方向へのテーパーを付けます。鎬付近は、ややふっくらで強度を稼ぎつつバト二ングでの楔効果を狙い、切り刃中央はソコソコ厚みを抜き、刃先までフラット気味に研ぎます。

KIMG0289

KIMG0290

 

 

1000番と3000番で、更に傷を浅く。

KIMG0291

KIMG0294

 

 

天然に移行し、対馬で。切り刃の面の繋がりを滑らかにしつつ、切っ先方向へのテーパーの精度を向上。

KIMG0295

KIMG0296

 

 

丸尾山の蓮華入りの白巣板等で仕上げ研ぎ。

KIMG0298

KIMG0301

 

 

中山の硬口の巣板で最終仕上げです。

KIMG0302

KIMG0303

 

 

と思ったのですが、切れ加減が若干サッパリしていたので、粘っこい掛かりを求めて、合いさのカラスで刃先を2~3ストローク。

KIMG0308

KIMG0313

 

 

研ぎ上がりです。

KIMG0304

 

KIMG0305

 

Still_2023-10-26_000213_60.0X_N0001

 

KIMG0306~2

 

KIMG0316

 

 

 

今回は、御聞きした御要望に加え、ナイフ自体の現状から推し量った使い方に適した仕様にしたつもりでいます。Y様には御試し頂いて、問題が無いか確認を御願いしたいと思います。もしも不都合が有りましたら、刃先角の調整等の対応をさせて頂きますので、宜しく御願い致します。

此の度は研ぎの御依頼、有り難う御座いました。

 

 

 

 

 

兵庫県のU様からの御依頼、Hattoriのフォールディング

 

兵庫県のU様から、服部のカウリX製のfフォールディングナイフを送って頂きました。

新品同様で少々、刃先に荒れが有る程度でしたので、簡単な小刃の付け直しで改善出来ました。

 

 

研ぎ前の状態ですが、全体的に綺麗で刃先の異常も見え難いレベルです。

KIMG0015

 

KIMG0013

 

KIMG0018

 

刃先の拡大画像では、引き伸ばすと光を反射している部分の先に、黒い部分も有りますから刃先の処理は二段階と見受けられます。

Still_2023-09-14_202715_60.0X_N0009

 

 

 

研ぎ始めは人造の320番からです。刃先の荒れが取れて、返りが少し出た所で1000番に繋ぎます。

此の段階で、右の刃元の厚みが僅かに少ない事・左の切っ先カーブの途中が少し、厚みが多い事が判明。但し其処以外は、相当に整っている構造であり「刃体の全面がハマグリ」のブレードとして、優秀だと思います。

KIMG0019

KIMG0021

 

 

次に、同じく1000番ですが研磨痕の浅い物、そして3000番まで進めます。その段階で、小刃を少し広げつつ、切っ先方向へ向かい鋭角化して行きます。

KIMG0022

KIMG0024

 

 

天然に移行し、対馬です。研ぎ傷を浅くしつつ小刃の幅の中で、途中から刃先へ向かって徐々に鈍角化。そして、切っ先方向へは鋭角化です。

KIMG0025

KIMG0026

 

 

仕上げ研ぎに入り、奥殿の硬口~超硬口の黒蓮華です。相性も悪く無く、下りのみならず研ぎ上がりの切れも充分な仕上がり。

KIMG0027

KIMG0028

 

 

超仕上げに相応しい、超硬口の中山の戸前近辺で。久々の登場でしたが、より相性的に適切だった様で上滑りも無く、狙った角度での刃先の処理も容易でした。

KIMG0040

KIMG0037

 

 

 

研ぎ上がりです。と言っても、最小クラスの手の入れ方ですので、事前の状態との判別も難しいですね。

KIMG0044

 

KIMG0046~4

 

刃先の拡大では、流石に違いも出て居ます。左から右方向に掛けて、等高線が広くなりながら続いて居ます。

Still_2023-09-14_220838_60.0X_N0009

 

KIMG0049

 

 

 

U様には、今後の御使用の予定は少なそうでは有りますが、先ずは少しの御試しでもして頂ければと思ってしまいます。御好みの仕上がりであった場合限定には成るでしょうが、その結果として多少は活躍の場も回って来るのも、ナイフにとっては幸せなのかも知れないと。

此の度は研ぎの御依頼を頂きまして、有難う御座いました。切れと永切れを心掛けているだけで、余り綺麗な物は得意として居ませんが今後も私で御役に立てる場合は、宜しく御願い致します。

 

 

 

 

今回の記事は大幅に削る作業の報告や、使用砥石の選別に苦労した等の特記事項は無かったのですが、個人的に懐かしさみたいな物を感じた面も有りました。

下画像は昔、私が服部に居た頃に直接、購入したナイフ(銀紙の方)です。並んで上のナイフ、カーショウの1050は服部が下請けで製造して来たモデルで、確かアメリカ海兵隊で正式採用との触れ込みだったでしょうか。

KIMG0001

 

1050は8Aのブレードと真鍮ベースのハンドル。下のはカウリYのブレードでニッケルシルバーベースのハンドルです。購入時から銀紙に巻かれていたので、ニッケルシルバーの変色防止を狙っての物なのでしょう。関で何度か使って見た後で再度、銀紙に包まれて30年近く引き出しの中で眠って居ました。

KIMG0009

 

おまけに、もう一つは1055というモデルで、1050の一回り半ほどサイズダウンした物です。自分の手は小さいので当時は、此方の方がピッタリだと感じていたのですが、様々な扱いに慣れた現今では、何方も卒なく使えるなとの認識です。

KIMG0011

 

 

 

 

 

北海道のT様からの二本目、特殊鋼の本焼きの河豚引き

 

T様からの二本目です。高橋刃物の本焼きの河豚引き、セミステンレスとの事でしたが、到着時にはマズマズ、整っている様に見えました。後に、長期戦になる事が徐々に分かって来る事に成ります(笑)。

御希望内容として、切り刃は私の研ぎ方・マチと峰の磨きであり、平と裏梳きの部分は元の風合いを残す為に手を付けないと云う物。

 

 

研ぎ前の状態。刃先には少々、立派な小刃が付いては居ますが、切り刃は全体的に薄目で(まあ元々が河豚引きですから刃体も薄く、切り刃は鋭角で広目ですね)厚みの残存は目立っていません。

KIMG5015

 

鎬筋は「下書き状の、目安となる痕跡」に、近からず遠からずと云った所で、標準的な物。

KIMG5009

 

裏は刃元の辺りで込みに向け、砥石に接する面積が広いかなと。裏押しの幅は若干、広目ながら揃っている方でしょうか。

KIMG5012

 

マチの磨きも御希望ですが此方は、三段階に面取りされて居ます。薄いとは言え、軟鉄部分が無いので三段を滑らかに繋いで磨くのは結構、難しいかも知れません。

KIMG5017

 

峰の磨きも含まれて居り、確認した所では無難な仕上げでした。余り問題は無さそうです。

KIMG5018

 

 

 

研ぎ始めは人造粗砥から。切り刃に凸部は少ない代わり?逆に凹面の箇所が。目立つ刃元の大きい半円の他、切り刃中央の鎬寄りにも二本ほど、ホロー状の溝が走って居ます。

KIMG5019

 

荒砥で或る程度、研ぎ進めましたが人造中砥(1000番)に繋いでも、まだまだ凹面は健在で。

KIMG5020

KIMG5023

 

研ぎ目の浅い1000番まで進めると、刃元の大きい部分以外は相当に小さく成って来ました。

KIMG5025

KIMG5026

 

3000番まで来て、裏の平面も進んで来たのですが、裏押しの幅の端(つまり刃先の真裏)が全周に渡り、角度が付いている事が判明。恐らくは、凹んだ砥石による裏押しが原因かと。

KIMG5027

KIMG5028

 

 

裏の刃先の最先端までを平面にする(裏押しの幅をツライチにする)には、角度違いの部分を表から研ぎ落すしか有りません。強引に裏を押し続け、裏押しの幅を広げては構造上のメリットが薄れてしまうからです(切れの軽さ・裏押しの際の難易度の悪化を招く)。此の時点で、最初に戻って刃先を減らし、刃先の厚みを抜き、鎬を上げる作業を行ないます。

 

 

天然に移行し、切り刃の構造を整えつつ、凹面を減らして行きます。刃先を研ぎ落したので厚みが出ましたが反面、角度の変化を付けるのには好都合にも感じます。厚みを減らしつつ、切っ先方向へテーパー状に。

KIMG5032

KIMG5033

 

丸尾山の巣板の各種で、構造を整えつつ研ぎ目を細かく。

KIMG5029

 

中山の巣板で仕上げ研ぎ。しかし相性的にイマイチです。切り刃自体の研ぎ肌に関してでは有りますが、刃先に付いても此の包丁は、中々に砥石の選り好みが激しい様子。

鋼材の特徴と熱処理の結果でしょう、硬さよりも粘りが勝って居る為に、刃先最先端の厚みを薄くすると容易に揺れや乱れが発生します。鈍角にする際も、角度の不安定を敏感に拾うので難易度が高め。おまけに、相性の良い砥石で無ければその傾向に拍車が掛かります。

因みに、相性の良さを探りつつ、砥石の選定を進めた結果は、硬い砥面でありつつも当たりがソフトな砥石でした。

KIMG5036

KIMG5037

 

奥殿の巣板やや硬口・中山の中硬の巣板(巣板層近辺から採れた合いさっぽい物)でも、やや不満が。

KIMG5038

KIMG5039

 

奥殿の硬口の巣板・やや硬口の中山の合いさっぽい物でも試しましたが未だ不足。

KIMG5040

KIMG5042

 

奥殿の硬口の蓮華入り巣板は、硬さと当たりのソフトさで殆ど充分と言える仕上がりに。しかし未だ、もう一段階は切れが出そうなので。

KIMG5043

KIMG5045

 

中山の水浅葱、田中さんが惑星と呼んでいる種類で。硬さと当たりのソフトさでは筆頭格ゆえ、かなり期待が出来ると踏んだ通りに納得の仕上がりでした。

KIMG5046

KIMG5048

 

 

研ぎ上がりです。

KIMG5050

 

KIMG5051

 

Still_2023-09-05_030046_60.0X_N0004

 

中砥の段階での事と思われますが、平の方へ倒した覚えは無いにも関わらず、鎬筋の付近に擦過傷が。

KIMG5053

 

KIMG5058

 

刃元の付近は、より砥石に当たって来ていますね。

KIMG5055

 

 

KIMG5057

 

 

 

御意向を伺うと、平の風合いは捨て置いても、鎬筋の擦過傷を取って欲しいとの事。加えて、下書き状の跡に合ったり合わなかったりの切り刃の部分を、平と切り刃の調整で鎬筋を真っ直ぐに。

久々にリューターと、ダイヤシートを持ち出して刃元の部分の厚み取り。軟鉄部分が無いので、和剃刀の梳き直しの様には削れてくれませんね。その後は2000番までのペーパーと、ダイヤペースト(5・2.5・1ミクロン)で仕上げますが・・・。

KIMG5059

 

砥石に当てると、未だ少しの跡が付きます。リューターから削り直すのを幾度か繰り返し。

KIMG5060

 

平の磨きに取り掛かります。此方は、ペーパーの後に高番手の布ペーパー仕上げです。

KIMG5061

 

 

今度こそ、研ぎ上がりです(笑)。

KIMG5079

 

相性探しの結果、選択した砥石の関係で御希望としての曇り仕上げとは行かなかったかも知れませんが、鋼材の肌が出始めても居て、此れは此れで悪く無いと感じます。

とは言え、私は通常、本焼きは一つの砥石で全体を研ぎ切って仕上げますので、今回の様に小割りの砥石で全体を仕上げるのは稀な事でした。凹凸部分の均し研ぎでは、ソコソコ用いる事も有ったのですが。

 

KIMG5082

 

擦過傷は目立たなく成り、切っ先手前に在ったカーブに成り切れて居ない箇所も減り、全体の鎬筋が整って来ました。

KIMG5066

 

序でにマチも、ペーストで磨き直し。

KIMG5069

 

同じく峰もですが、効果が分かり難いですね。

KIMG5072

 

未だ少し、軽く当たっている範囲は有りますが、随分と減ってくれました。

KIMG5067

 

 

 

 

T様には、いつも希少な包丁類に触れる機会を頂き、感謝して居ります。特に、今回の様に一筋縄では行かない作業や、一癖ある鋼材と熱処理のバランスの個体に巡り合うと、持てる技術や知識を総動員して事に当たる必要性が有り、良い修業とも成ります。

河豚引きは、過去に触らせて頂いた中でも屈指の個性を持つ物でしたので外観上、私の引き出しでは何処まで御満足を頂けたか聊か心配では有りますが(笑)、何時も通り実用上の性能的に問題は無いと考えて居ます。今後も私で御役に立てる場合には、宜しく御願い致します。

 

 

 

 

 

北海道のT様から、柳と河豚引きの御依頼

 

北海道のT様から、二本の和包丁を送って頂きました。下掲の柳と河豚引きですが、先ずは重延と銘の有る柳の方から。

柳は下画像の上側、合わせの方ですね。下側の河豚引きは、本焼きです。

KIMG4834

 

 

 

研ぎ前の状態、全体画像です。余り研ぎべりしては居ませんが、問題点としては刃先の一部の欠けに加え、切っ先カーブ周辺の刃線が多角形っぽく角の有るライン・鎬筋が中央付近から急に反り上がって切っ先へ向かっている・切っ先側の四割くらいの切り刃がホロー気味、と成って居ました。

試し切りをしてみれば、薄目の刃体・幅は狭いが鋭角ベタ研ぎ+中央付近から急激に鎬が上がっている切り刃の効果で、紙の束や其れを捩った物への効果は絶大でした。所謂、写真で言う所の奇跡の一枚的な、対象にぴたりとハマったテスト結果でしたが、此れには刃先の耐久が付いて来られていなかった模様で、微細な欠けや捲れを誘発するバランスでは有りました。

其処で、組織の細かさ・均一さは可成りな物ながら、やや焼きが甘目の仕立てを考慮し、刃先強度を確保しつつも前述の切れ加減に迫る性能を目指しました。

KIMG4836

 

同じく研ぎ前、刃部のアップ。

KIMG4838

 

裏です。平と合わせて、切り刃よりも少ないですが軽い錆も有ります。今回は、オリジナルの木砥の目を活かした風合いの維持を御希望でしたので、其の儘に。

KIMG4839

 

峰の磨きの御要望も有りましたが、全体的に酷い研削痕は少ない状態でした。

KIMG4841

 

マチの磨きも・・・確かに初期状態は、粗削りの儘で焼かれた黒打ちの仕立てと云った印象。

KIMG4844

 

 

 

人造の320番で、刃先の欠け取り・切り刃のベタ研ぎに因る厚み取りから。

KIMG4845

KIMG4846

 

研磨力・平面維持に優れる1000番で、切り刃を整えます。ただ、初期の状態から切り刃の先側の半分は、厚みが減らされ気味でしたので、欠け取りで幾分は刃先の厚みが増したとは言え、完全にベタに成る程には攻められません。

KIMG4847

KIMG4848

 

研削痕の浅い1000番・3000番で、切り刃全体の厚みと角度を切っ先に向けて僅かに鋭角化+テーパー化。鎬筋も元側・先側の中間部分の繋がりを滑らかに。

KIMG4851

KIMG4850

 

天然に移行し、対馬で形状を整えつつ研ぎ目を浅く。

KIMG4852

KIMG4853

 

丸尾山の巣板各種で、更に傷消しと切り刃の整形。

KIMG4858

KIMG4859

 

中山の巣板の後で合いさカラス、やや硬口で仕上げ研ぎ。

KIMG4861

KIMG4862

 

更なる切れを求め、より相性の良い硬口の合いさカラスで最終仕上げです。

KIMG4873

KIMG4881

 

 

 

研ぎ上がりです。

KIMG4883

 

同じく、刃部のアップ。

KIMG4885

 

刃先拡大画像。

Still_2023-08-21_231602_60.0X_N0011

 

裏です。欠け取りの御蔭で、図らずも糸裏と成って居ますが、出刃などと異なり柳ですから刃先の負担は小さく、問題は無いでしょう。

KIMG4886

 

待ちの磨きは、綺麗な水牛を傷付けずにとの御要望でしたので、際迄は少し余裕を持ち過ぎてしまったかも知れません(笑)。

KIMG4889

 

峰は、元からマズマズな状態でしたので、目立つ傷が残る事も無く普通に全体が整いました。

KIMG4888

 

 

 

 

T様には既に、此処までで暫くの御待ちを頂いて居りますが、目前の砥石館イベントを挟みますが河豚引きの方も鋭意、研ぎ進めて行きますので、もう少しの御待ちを御願い致します。

 

 

 

 

 

BUCK110の研ぎの御依頼

 

静岡のT様から、BUCKのフォールディングナイフを送って頂きました。アウトドアでの使用が多いだろうとの事でしたので、通常通りに切れと永切れの両立を狙った研ぎが良さそうですね。

 

 

研ぎ前の状態。初期刃付けから余り、変化はしていない様です。

KIMG4666

 

KIMG4668

 

ブレードは少々、汚れて居ますが刃先のダメージは、全体としては程々です。最も目立つのは、切っ先カーブの先の一定範囲の刃先の摩耗(完全にツルツル)。後はカーブより手前の、直線的な部分の刃線の軽いS字ですが、此れはマズマズ良く見られる物ですね。

KIMG4671

 

 

 

研ぎ始めは、人造の320番からです。主目的は、刃線上の摩耗を落とし、軽度S字カーブを修正する事です。S字を活かす事も可能ですが、使用目的に相応しいかどうか・S字を適正に研ぎ続けられるのかの問題が有ります。どうしても必要とする場合を除き、直線・乃至は寧ろカーブ気味(リカーブでは無い)を推奨しています。

KIMG4672

KIMG4675

 

 

次いで、1000番です。研ぎ目を細かくしつつ、小刃の幅を揃える方向へ。此れは、同程度の角度で研いでも左右で異なる幅になり易い事が判明した為です。ホローグラインドに由る厚み抜きの誤差か、左は少し狭く成りがちな気が。

KIMG4676

KIMG4677

 

 

同じ人造の1000番ですが、研ぎ目の浅い物。そして同系統の3000番。此の段階で、小刃の刃元から切っ先まで、鋭角化を狙って研ぎます。効果の程は、引き切りでの抜けの良さに現れます。

KIMG4678

KIMG4679

 

 

 

天然に移行し、対馬です。研ぎ目を細かく・小刃の構造を強調して行きます。

KIMG4681

KIMG4682

 

 

八木の島の蓮華砥石(中硬)で仕上げ研ぎです。此の段階で、細かい研ぎ目・其れが齎す切れと永切れは、既に充分とも言えるのですが。あ、小刃の幅の中でも刃先向けた鈍角化・鈍角化部分の切っ先方向への鋭角化は盛り込んでいます。

KIMG4683

KIMG4684

 

 

やはり鋼材と熱処理の結果としての個性を、最終仕上げ砥石で引き出したく思ってしまいます。

下画像は、中山の巣板(やや硬口と硬口)です。下りも切れも相当な物には成りましたが、相性的には未だ上が狙えそうでした。

KIMG4685

KIMG4686

 

 

かと言って、浅葱系統との相性は今一の様でしたので、合いさで。殆ど満足すべき結果でしたが、諦めが悪い物で(笑)。

KIMG4690

KIMG4694

 

 

戸前も試した上で、巣板との相性が良さそうとのファーストインプレッションに従い、やや硬口の天井巣板(カラス)を試して合格としました。同じ110でも、年式やマイナーチェンジで相性が変わって来るのが、難しさでもあり面白さでも有ると感じます。

KIMG4715

KIMG4710

 

 

 

研ぎ上がりです。まあ、ナイフ・洋包丁の小刃を研いだ違いは、画像(特に全体)上からは判別が難しいと思われますが。

KIMG4696

 

KIMG4698

 

刃部のアップ。

KIMG4700

 

刃先拡大画像です。

Still_2023-07-29_191124_60.0X_N0001

 

 

 

 

T様には此の度、思い入れのあるナイフを御送り頂きまして、有難う御座いました。御手元に届き、問題点などに御気付きの際は御遠慮なく御知らせ頂ければと思います。刃先の角度調整等、対応をさせて頂きます。

本日、御返送の手続きを致しましたので、もう暫くの御待ちを御願い致します。

 

 

 

 

 

久々のBUCK110の研ぎの御依頼

 

大阪府下のB様から、BUCK110を御送り頂きました。私自身も、112と合わせて所有していますし、之までに幾人かの方から研ぎの御依頼を頂いた事も有るナイフですが、製造時期に因り結構な違いが有ると感じます。

手持ちの物では少し、硬さより粘り重視かなと思って居たのですが、その後に研いだ新しいモデルでは硬さが追い付いて来た印章に。但し金属の組織としては、若干の粗さも感じないでは無かったです(尤も、鋼材自体も初期の425モディファイから420に成って居たんでしたか)。

そして今回の物は(製造の時期・鋼材までは分かりませんが)一番、バランスが整っていたかも知れません。荒砥から中砥段階までは、刃先の軟らかさも有りましたが、仕上げに入って刃先が整って来ると確り感が増しました。

 

 

 

研ぎ前の状態、左側面。恐らくは、初期刃付けの段階での切れに不満が有ったのかと察せられる、鋭角目な研ぎ跡が有ります。ただ、研ぎ目は粗いので鋭利さを感じるには更に細かい研ぎ目の方が良さそうです。

KIMG4288

 

同じく、右側面。研ぎ目の均一性・研ぎ角の安定性はマズマズながら、特に左の刃元寄りの刃線は、凹気味でしたが・・・初期刃付けからの影響も否定し切れませんね。

KIMG4289

 

刃部のアップ。鋭角目に研ぎ直されている心情を鑑み、其れを踏襲する様に、僅かですが広目の小刃の幅で(荒目の研ぎ目を消す意味も含め)研いで行きます。

KIMG4290

 

 

 

研ぎ始めは、人造の320番からです。研磨力も重要ですが、平面維持にも優れるタイプが重宝します。特に、形状が或る程度以上に整っている場合は。

KIMG4291

KIMG4292

 

 

続いて、研磨力の有るタイプと研ぎ目の細かいタイプ、共に平面維持にも優れる1000番で。

KIMG4293

KIMG4294

 

 

3000番で最終的な小刃の幅と形状を決めます。今回は此処まで、小刃その物は殆どベタ研ぎで来ていますが、刃線中央から切っ先にかけては幾分、鋭角目に研いで居ます。

KIMG4296

KIMG4297

 

 

天然に入り、硬目・細か目の対馬で。基本的には3000番までの研ぎ方と同様です。

KIMG4299

KIMG4300

 

 

八木の島の蓮華巣板(中硬)で傷消し。

KIMG4301

KIMG4302

 

 

馬路の戸前(やや軟口)で更に仕上げつつ、小刃の幅の半分程で、刃先に向かって極僅かに鈍角化。

KIMG4303

KIMG4305

 

 

最終仕上げとして、中山の硬口~超硬口の戸前系。刃先最先端を漸次鈍角化+切っ先方向に鋭角化し、小刃の形状を整えます。

KIMG4306

KIMG4308

 

 

 

研ぎ上がり、左側面です。

KIMG4313

 

同じく、右側面。

KIMG4310

 

刃部のアップ。

KIMG4311

 

刃先拡大画像です。

Still_2023-06-21_225336_60.0X_N0005

 

 

 

B様には、此の度は研ぎの御依頼を頂きまして、有り難う御座います。御任せとの御意向でしたので、通常(切れ・永切れ両立)よりは切れ優先で研いでみましたが、もしも御手元に届いた際、御不満が有りましたら、更に鋭利に微調整も致しますので、御気軽に御連絡を御願い致します。

 

 

 

 

 

前回の100均包丁と交代で(その他)

 

前回に渡した百均包丁は、高評価を得られた様で安心しましたが、交代で受け取った主力の包丁(他に手持ちは無いとか)は、所謂有名料理人とのコラボ製品(穴開き構造)と云った系統の物でした。

御使用者は、依頼者(私の知人)の御母堂との事でしたが、結構な頻度で研がれている印象を受けました。それは、此の手の包丁に使用されている鋼材と熱処理の結果から、刃持ちに不利であるにも関わらず、相当に鋭角で研がれた刃先の損耗が比較的、軽微である事から伺われました。

つまり、鋭角でのベタ研ぎに因る刃先の切れ止み⇒頻繁な研ぎ直しのサイクルであるのでしょう。にも拘らず、切れが悪いとのコメントが出るのは偏に、研ぎ方が使用法に合致していない可能性が高いです。

一般に、鋭角なベタ研ぎでは、切る際に対象物が研磨面(切り刃・小刃の研がれた側面)に接触しつつ移動する間、摩擦が増大するのみです。ですので、摩擦の軽減を企図しつつ、刃先の強度を向上させる為に、刃先最先端を鈍角に。但し引き切りの際の抜けの向上も狙い、小刃本体・刃先最先端共に、顎から切っ先方向へ漸次鋭角化します。。

 

 

研ぎ前の状態、全体画像。恐らくは初期刃付けの3~4割り増しと思しき角度で研がれています。製品のコンセプトとしては、刃先の強度が不足するレベルと予想出来ますが、使い手の気持ちとしては理解できます(笑)。

KIMG4210

 

研ぎ前、刃部のアップ。通常よりは鋭角ながら、大きな欠けは無く中くらいが数個。ただ左側面の幅広小刃の角度が不安定では有りました。

KIMG4211

 

 

 

研ぎ始めは、平面維持に優れ研磨力も有る1000番から。初めに付いていた小刃を活かす様、しかし切っ先方向へのテーパー化を盛り込みつつ研いで行きます。此処で、左側の小刃の幅の不均一(カーブ付近の研ぎ角度のブレ)が発覚しましたが、無理に見た目を整えるより正確さを選択。

KIMG4213

KIMG4214

 

 

同じく1000番ですが、滑走と追従性を特徴とするタイプで形状の纏まりを狙います。

KIMG4215

KIMG4216

 

 

平面維持と研ぎ目の細かさを特徴とする1000番と3000番で。3000番の方では、小刃の幅の半分弱で、刃先方向へ二次曲線的な漸次鈍角化。そして切っ先方向へも鋭角化。此れに因って、刃先まで極端に鋭角研ぎする刃先の持ちは良くなり、その割に切れの軽さは寧ろ改善します。

KIMG4217

 

 

 

天然に移行し、丸尾山の黒蓮華(硬さと細かさの異なる二種)で仕上げ研ぎです。研ぎ目は細かく、形状も正確性を向上。何れも下り・刃先形成ともに相性はマズマズ。

KIMG4222

KIMG4223

 

 

奥殿の黒蓮華、硬口~超硬口です。相性は抜群で、下り・刃先形成は期待以上の精度と鋭利さに。通常、柔らかく粘り勝ちな刃物は(もしも組織が粗ければ更に覿面に)引け傷を誘発する事も多いですが、滑らず引っ掛からず研ぎ易くて助かりました。

KIMG4224

 

KIMG4225~2

 

 

上掲の砥石でも充分だったのですが念の為、より硬口である水浅葱を試しました。結果的には砥ぎ難さも無く、切れは幾分の向上を得られました。

KIMG4227

KIMG4230

 

 

 

研ぎ後、全体画像。汚れを適度に落とし、側面の傷も或る程度は目立たなくしました。返却後はトマトなどで試し切りをされたとの事ですが、御満足頂けた様子で良かったです。

KIMG4232

 

KIMG4233

 

KIMG4236

 

 

 

 

 

あと、他にも知人の包丁を預かって来ていましたので、軽く研いで返却する事に。研ぎの不安定さによる変形なら兎も角も通常、結構な錆が発生して居たり、裏梳きが極端に減って居たりする和包丁は、完全な修正を望む場合、メーカーへの送付・刃付け職人への依頼を推奨するのですが・・・「もしも普通に使える程度に研ぎ直しが可能なら頼む」との御依頼でしたので、その方向で試みました。

新しい方の出刃は伯母上からの形見?で、古い二本の和包丁は昔の近隣住民(料理人)が置いて行った物をもらい受けたとかで。使わずに新聞で包んで居る内に、錆が回って来たのを見付けて御依頼に至った流れです。私が通っている稽古会の関西の纏め役であり、御世話に成って居る方からの御申し出の為、御受けした部分も有ります。

 

 

三本の内で、最も新しいと思しき出刃です。使われた形跡は余り無く、刃先の傷みも最小限。錆はソコソコですが。

KIMG4134

 

KIMG4135

 

KIMG4136

 

 

 

一番古そうな出刃です。下掲の柳もそうなのですが、切り刃の地金部分に縞模様が。鍛流線かと思いきや、層状の様子も観察できますし、錬鉄を想起させる巣が見える事から、極軟鋼とは異なる様です。(その意味から柳の方は、純粋に鍛流線でしょう)

何れにしても古そうな外見ですが、柳の刃金の柔らか目に対し、此方は硬めの焼き入れが為された様子。経年変化(時候効果)で鋼が締まったとするなら、片方のみなのは解せません。

赤錆も厄介ですが、刃線の歪みが出て居ますね。緩いS字と云うか、兎に角、刃元を研がずに中央から先を主に研いで居た事が伺えます。

KIMG4138

 

KIMG4139

 

KIMG4140

 

 

 

此方も、刃線の歪みと赤錆が気に成ります。安定している状態と異なり、浸食を続ける錆は落として置くのが重要で。全ての錆を削り落とすと成ると、大幅にサイズダウンを余儀無くされますし、そもそも裏梳きが減る程に刃金を減らしてあると、梳き直しをする削りシロが有るかどうかも問題に成ります。仕立て直して貰うにしても、限界はある訳ですね。

KIMG4142

 

KIMG4143

 

KIMG4144

 

 

 

人造の粗砥(150番と320番)から研いで行きます。新しい出刃は、新品時の形状を損なう事無く保っています。従って(所有者曰く「一番、早くて簡単だろう」とのコメントも)、刃先のみの研ぎで用は足りそうに見えるかも知れませんね。しかし新品時が完璧とは限らない、寧ろ改善を要する場合が多いです。

刃体の厚みが一定(テーパーで無い)だったり、刃角が均一だったりすると引き切りで抜けが悪い・押し切りで滑ったりする可能性が高まります。ですので本来は、前述の問題点に対応する研ぎ方が望ましいのですが、今回は丁度?変形気味の研ぎ減りが目立つ出刃との対比が面白い気がしましたので、敢えて刃先のみの研ぎとしました。

勿論、変形した出刃の方は切っ先方向へ向かって切り刃・刃先(刃金部分)のテーパー化・鋭角化を施し、切り比べて貰おうとの趣向です(笑)。

とは言え、小割りの砥石などを用いて切り刃の錆を落とす工程では、切っ先カーブから切っ先までを若干では有りますが、厚み抜き・鋭角化を心掛けて置きました。其れをする前の試し切りで、抜けに関して余りに不足を感じたので。

KIMG4147

KIMG4148

 

 

 

古い方の出刃では刃線を整えた後、上述通り切り刃・刃先に関して刃持ち・抜けの改善を目的に研ぎ直しました。

KIMG4157

KIMG4161

 

 

 

出刃の二本もそうなのですが、柳は特に刃金が薄かったので強引に裏の錆を落としにかかれませんでした。従って、錆の痕跡が刃先に出た場合は表が如何に整って居ても、刃先に欠けとして現れてしまいます。

KIMG4145

 

KIMG4146

 

 

 

天然では、中硬~やや硬口の各種巣板で形状の追い込みと研ぎ目の微細化(防錆効果も期待出来ます)。その後は中山の巣板各種で仕上げ研ぎ。

KIMG4183

 

 

 

何の為、水浅葱を試すと相性も良く仕上がったので、最終仕上げとしました。

KIMG4175

KIMG4176

 

 

 

柳も同じ工程で仕上げました。

KIMG4162

KIMG4164

 

 

KIMG4168

KIMG4173

 

 

 

研ぎ上がりです。

KIMG4205

KIMG4206

 

 

 

KIMG4194

KIMG4196

KIMG4197

 

 

 

KIMG4199

KIMG4200

KIMG4203

 

 

 

週の前半は、こんな感じで知人の包丁を引き取りに行ったり、研ぎ直したりで過ごして居たのですが、直ぐ後で亀岡の天然砥石館に出向く必要が有った為、和包丁三本は一日で仕上げて仮眠をし、そのまま出かけて来ました。次回は、其の辺りの内容に成ります。

 

 

 

 

 

アウトドアナイフの御依頼

 

先行していた御依頼が途切れるタイミングで、キャンプ用のナイフの研ぎ依頼をO様から頂きました。その御蔭で、珍しく到着後の二日間で仕上がった作業となりました。

 

 

研ぎ前の状態、右側面全体画像。刃先の一部に割り合い、大きな二つの刃毀れと、小さな幾つかの欠けが。

KIMG3914

 

刃部のアップ。刃体の厚みと幅から見て、切り刃が狭く鈍角目に感じますが、頑丈さを重視しての設計かと思われます。

初期刃付けの段階で、切っ先カーブから切っ先までは、殊の他、切り刃が狭く成って居り、カーブ部分の厚みの残存も多目です。

KIMG3915

 

同じく、左側面画像です。

KIMG3916

 

此方側からもハッキリ欠けが見えますね。

KIMG3917

 

 

 

人造の320番から研いで行きます。欠けを研ぎ落す為に、或る程度の刃幅が減りますので、(切り刃が狭い事も有り)鎬筋をその分だけ上げます。

加えて、僅かながらも鋭角目にしつつ、切っ先へ向かって鋭角化も狙って研ぎます。カーブから切っ先に掛けの切り刃の幅も、他の部分に遜色なく広げました。

KIMG3919

KIMG3920

 

人造の1000番で切り刃の中の厚みを、切っ先に向かって漸次、抜いて行きます。

KIMG3921

KIMG3922

 

 

人造の3000番で、更に研ぎ目を細かくしつつ形状を整えます。

KIMG3923

KIMG3924

 

 

 

天然に移行し、対馬で研ぎ目を細かくしつつ、最終刃先角度を切り刃角よりも僅かに鈍角化。此れを想定して、前段階で切り刃角事態を鋭角化して置いた訳です。

KIMG3925

KIMG3926

 

丸尾山の巣板各種で仕上げて行きます。

KIMG3927

KIMG3928

 

八木の島の巣板・馬路の戸前で更に。

KIMG3929

KIMG3930

 

最終仕上げは、中山の合いさ硬口で。

KIMG3931

KIMG3932

 

 

 

研ぎ上がり、全体画像です。

KIMG3934

 

刃部のアップ。

KIMG3936

 

刃先拡大画像。

Still_2023-04-20_181250_60.0X_N0002

 

最大の欠けの部分は、研ぎ進めると奥の部分が崩れる傾向が。強硬に研ぎ減らしても良かったのですが、他の部分は整っているのに無駄に減らすのは憚られ、研ぎ期間も料金も変わって来ますので、此の段階で留めました。

Still_2023-04-20_181316_60.0X_N0003

 

同じく、左側面です。

KIMG3940

 

此方側から見る方が、欠けの痕跡は目立たないですね。

KIMG3939

 

 

 

此の度は、O様には研ぎの御依頼を頂きまして、有り難う御座いました。

初期刃付けの状態よりは、切れ・抜け共に向上している筈ですが、物理的に鈍角だった状態よりは「欠け・潰れ」に繋がる条件には御留意の上、御使用を御願い致します。