大きな欠けも久々

 

年末に問い合わせ頂いていた府下のN様が、先日御持参下さいました。有次の三層利器材の三徳ですね。

 

1485862890161

大きな欠けが中央に一つ、中くらいの欠けも三つほど有ります。何れも芯材の炭素鋼部分中央寄りで、大きな欠けはステンレス地金との境に達しています。

 

1485862897767

先ずは電着ダイヤで欠けが無くなるまで。

 

 

1485862921375

次に研承の400で形状を整えつつ厚みを取りますが、あれだけの欠けを発生する事を鑑みて刃先の薄さは控えめに。

 

 

1485862931318

研承の1000で荒い傷を減らしつつ、小刃の上部を均して行きます。

 

 

1485862940938

研承の6000で刃先の調整(刃元から切っ先へ鋭角に)と更に傷消し。刃先側地金はペーパーと研磨剤でも軽く傷消し。

 

 

1485862965970

巣板で刃先角度の最終調整と、刃金部分の傷消し。

 

 

1485862973471

最後は、東物の赤い奴で最終仕上げ。狙い通りに細かく仕上がり、永切れも期待出来そうです。

 

 

1485862982746

仕上がり全体。

 

 

1485862989397

刃部のアップ。中央やや右が大きく欠けていた箇所の痕跡部分。

 

 

Still_2017-01-31_203740_60.0X_N0005

その周辺部の200倍拡大画像。

 

 

N様、以上の様に成りました。元の状態より厚めの刃先にしてありますが、問題であれば強度と引き換えになるものの、薄めの鋭利な研ぎに修正も致します。

明日にも御返送致しますので、試用の上、御判断頂きたいと思います。この度は研ぎの御依頼、有難う御座いました。

 

 

久々の砥石選別

 

以前から目を付けていた砥石と、新たに選別してきた砥石です。御二方に依頼を頂いていたので、其々の種類ごとに気に掛けていました。

 

1485718212666

先ずは、天然砥石館にも来場頂きましたタマキ様からの依頼品。大谷山戸前浅葱のカミソリ砥です。このレベルの質と形状は希少で、色調も普通は入る「黒・灰・中間」の三色で無くほぼ一色。

 

 

1485718222079

大きさ・形状の割りに、お買い得価格になっている理由は背面から前面(砥面の端部)に続く筋の為です。

 

 

1485718290307

色調から察するに相違なく、均一で細かい砥粒の御蔭で良い仕上がりです。大谷山の浅葱としては、硬さの評価で3以上4前後といった所で剃刀には少し控え目かも知れませんが、前述の項目では申し分ありませんので合格としました。

もしも、剃刀用には大きいし、もう少し硬めが良いという事でしたら、私の持っている大谷山のレーザー型(正方形ですが)は殆ど同質で、やや硬めですし値段も三分の二ほどになります。

 

 

1485718231028

ナイフの研ぎを御依頼頂いた流れから、岬めぐり様には中山の水浅葱を探す手筈になっておりました。今回選んだのは、レーザー型のサイズで大きくありませんが性能では抜きん出ています。

 

 

1485718253025

此方も、希少性と性能の割りに高過ぎない価格になっているのは、やや薄物で且つ裏面が砥面に対して平行・平滑でないからです。

 

 

1485718300990

水浅葱の範疇より白浅葱に近いのだと思いますが、硬さの割りに若干弾力を感じる砥ぎ易さと硬口らしい鋭利で光り系の仕上がりになります。

 

 

1485718346907

天然砥石は一つずつ別物ですから、一概に産地・銘柄・商標・巷間の噂などは確証になり得ませんが、この砥石は側面に押された印章に恥じない砥石だと思います。

 

 

 

残りは自分用に買ってしまった砥石です。

1485718270473

大谷山ですが、かなり薄い色合いから想像する通り、やや柔らかいですね。硬さ評価で3でしょうか。

此れはある意味、ハネてあった物で、幾つか難が有る為に格安で譲って貰いました。上記の大谷山と同様、砥取家の次男氏と相談の上で取り置き頂いた物です。

 

 

1485718336525

難があるとは言え、使い手が承知の上で対応すれば、それなりに使えるので仕上がりはまずまず。適した役割に振り向ける事で充分、役に立ってくれるでしょう。

 

 

1485718280147

元々、本戸前(特に三色混じり)が好きなので偶に欲しくなってしまいます。だいぶ前に手放した朱色が多めの本戸前が手に入るまで、それに近い物を集めてしまうのは止むを得ないみたいです。本当に気に入っているなら、手放さない様にしたいですね。

 

 

 

続いて常連様の切り出し等

 

と言う訳で、再びの切り出し。勿論、何時もの包丁も。

切り出しの方は、竹細工などをする為に一応切れれば良いとの事でしたが・・・。

 

 

1484840877118

切り出しの二本は普及品と上等品。後者は地金に錬鉄を使用の様子。

 

 

1484840889850

ダイヤで当ててみると、凸部分は無い物の、浅い陥凹は見られます。凸部分で構成されている切り刃であれば、刃先側の半分程で暫定的な切り刃を付け直す手も有ったのですが。

 

 

1484840900665

陥凹メインとなれば、刃線を整える上で平面狙いで行くしか無いですね。只、この場合は平面への道のりは険しくなくて助かりますが。

 

1484840909646

ダイヤの次は研承の400と1000です。砥石の平面を維持しつつ切り刃の面精度を上げて行きます。

 

 

1484840918146

シャプトンの1000です。今回の二本の切り出しは、刃・地共にこの砥石でも結構細かく仕上がったので、以降は天然です。

 

 

1484840939829

白巣板と敷内曇りです。その後で本戸前・八枚。

 

 

1484840977853

中山の黄色いの。

 

 

1484840950143

水浅葱系統。

 

 

1484840997602

相性的に大谷山で仕上げてみました。裏押しは水浅葱です。

 

 

1484841038635

 

やはり上等品は所謂鍛冶屋研ぎでも、初期から完成形に持って行き易い状態に仕立ててありますね。もう一方の廉価版だと此処までの工程は、倍する手間暇が係るでしょう。

しかしその分、取り敢えず刃先を研ぎ出して刃線を揃え、直ぐ使いの状態で工作に使えるでしょう。形状は追々、砥ぎながら整える方向です。実用的とも言えますが、目的の形状と懸け離れている場合は使用上の苦労は付いて回ります。

 

 

1484841057807

 

包丁に関しては、黒打ちの方は和式の両刃なので本来、和包丁基準でしかも裏表の研ぎという事に成り代金は洋包丁の数倍です。

しかし、切り刃形状が整って来ており改善の要を認めず、また使い方も上達されているので刃先の損耗も最低限です。この段階に達すれば、並んでいるステンレス洋包丁と同等の料金にて作業可能です。

つまり此の黒打ちにとって、今が最も経済的に研ぎに出しつつ良い状態を維持し使用できる環境となった訳です。上記の切り出しの場合も、廉価品の方を上等品に匹敵する形状にまで研磨しようとすれば上乗せの料金が必要ですが、数回掛かりで追いつくならば一回当たりは標準価格です。

高級品は適切な形状に仕立てて販売されているので、初期の修正分の費用が少なくて済むけれど、安価な商品は材料と熱処理以外でコストを下げるには研削工程しか有りません。従って、形状修正の費用は廉価版の方が嵩みます。本来は購入者が対応する手間賃分、安い設定になっているので止むを得ないですね。

 

 

 

 

切り出し10本を纏めて仕上げ

 

予定通り展示用の切り出しを進めていたのですが、請求書に記載する順序の関係で一気に仕上げる事になりました。本来は、少しづつ春までに・・・と考えていたのですが。ですので少々、前の作業内容です。

用意した切り出しは、超廉価版よりは切り刃の不均一さはマシですが、今回は展示される各種砥石による砥ぎ肌を表現する素材としての意味合いが有りますので、それなり以上の平面精度が必要です。

そして表面ですが、恐らくは天然仕上げ砥のみならず天然中砥も俎上に上がるでしょう。その意味では、仕上がりは其処まで細かい必要は無いかも知れません。

しかし一旦最終仕上げレベルにまで持って行かねば、製造段階の傷や面の崩れが確実に修正されているかの判断をしかねる事。そして、その状態から改めて中砥で砥ぐ事で、砥粒による本来の面粗度を引き出し当該砥石の性状を観察できるからです。

 

 

1484652062227

先ずは電着ダイヤと研承の400番・1000番から、シャプトンの1000番です。此れに備えて鎌砥サイズを二本用意しておきました。相対的に、ある程度は面積が小さ目の方が砥石も平面精度が出し易いと感じます。

 

 

1484652072609

その後は3000番以降(傷が消えにくい物はキングハイパー併用)、天然です。但馬砥・青砥・三河のボタンと目白・白巣板数種・敷内曇り数種・千枚・八枚・中山の巣板など。砥石の硬さや砥粒の精粗、泥の出方で傷消しや平面向上のどちらに合うかを見定めます。

 

 

1484652080276

相性も有り、硬い方が良く下りたり。同じ作者の切り出しでも地金の反応も一様で無く。各種取り混ぜ精度上げをしつつ、傷消しも進めて行きます。

 

 

1484652033447

平面研ぎ用に用意している卵色巣板で更に平らに。その後はひたすら、白巣板と敷内曇りで再度の傷消し。

 

 

1484652009822

最後は東物の巣板と中山の黄色いの等で最終仕上げ。今回は切れ味でなく砥ぎ肌の表出が目的ですので、新品から一気に形状修正した事による細かい刃毀れは糸引きで落としてあります。それでも取り切れなかったり、完全平面で無い物も一部残っていますが、再度相方の砥石が決まった折りに修正しつつ砥げば切り刃の問題は解消されるでしょう。

 

 

1484651999375

久しぶりに(10本とは言え)数日間掛かり切りの研ぎとなりました。これで切り出しは一段落と思いつつ、完了前日に届いていた常連様からの宅配箱を開けると何時もの包丁に加え、切り出しが二本入っていたのでした。と言う訳で、切り出しとの格闘は第二ラウンドに突入です。

 

 

他にも、場所は砥取家の研ぎ場を御借りしてになりましたが、九州からの希望者様を迎えて研ぎ指導を行う事が出来ました。

先方には予定変更からの流れとなった形でしたが、結果的には満足頂けた様です。私としても、文書作成を終えたばかりでしたが其れを実地に試用しての講習は、交流開館での予行演習ともなり良い勉強でした。

長崎のS様、遠路かつお土産持参で恐縮しました。経験を今後に活かしたく思います。有り難う御座いました。

 

 

あと、以前知り合った方から久々に連絡を頂きました。フランスに帰国後、あちらでも包丁研ぎを仕事にされようとしている様です。日本国内とは環境が違い、御苦労も有ると思いますが頑張って頂きたいです。

私に手伝える事があれば微力ながら御協力致しますし、先々日本に御立ち寄りの際は、天然砥石館も御覧頂ければと思います。お互いに研ぎの重要性や難しさ、楽しさ迄も含めて伝えて行ければ良いですね。