出汁パック作りと業務連絡

 

以前、ボンドで有名な小西様に頂いていた鰹節を削り、パックの上で冷凍保存しました。

 

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画像には上げていませんが、この場合は殆ど一本丸ごと削るので、削り器の刃は途中で研ぐ必要が無い様に段刃にしてあります。鋼材は青紙一号でかなり硬い仕上がりですがそれでも、使用後は本枯れ節の攻撃により欠けや摩耗が避けられず、次回そのままでは使えません。佐伯砥(但馬砥でした)から研ぎ直します。

 

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それに合わせて、自前の俎板と両親の家の俎板を削ったままにしていた鉋の刃も研ぎました。此方はHAP40が使用鋼材です。青紙の地金が錬鉄なのに対して極軟鋼地金ですが、研ぎ難くて困る程ではありません。仕立てが裏出し不要である点は有り難いです。同じく佐伯砥(但馬砥でしたね)から研ぎ直します。

 

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以降も同様に、巣板⇒戸前⇒千枚⇒若狭の戸前

 

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地金に研ぎ斑は有りますが、実用では問題無い範囲に収まったので良しとします。

 

 

 

それと以前から打診を受けていた話ですが、或る展示館の設営と運営に協力する事が決まりそうな運びとなりました。もし本決まりとなれば、秋にはオープンするその施設に週三日ほど通う事になります。研ぎの御依頼を頂いた場合でも、その日数分前後は御待ち頂かねば成らないかも知れません。その際は御理解の程、宜しくお願い致します。

そこでの展示や設えについて、最近では幾つか候補を挙げて電話や書面で関係者に伝えているのですが、既出の体験コーナー案の一つに鰹節削り器を使うと云うのが有りました。普段は余り鉋刃を研ぐ機会が有る訳では無いですが、今回記事に上げた内容も活きてくるかも知れません。

他にも私の展示案が通れば、結構な数の切り出しを研がねば成らないかも知れず、其方の方が大変そうですが。規模は小さくても、過去に類を見ないと言うか有りそうで無かった内容ですので、遣り甲斐を感じます。人員や予算も潤沢とはいきませんが、出来る限りのアイデアと工夫で来訪者に喜ばれる展示館を目指したいと思います。

 

 


	

追加でステンレスペティの調理雑感

 

前回は、小なりとは言え炭素鋼の和包丁でのテストでしたので、今回はステンレスペティでの人造1000番と8000番による更に微妙な「使い心地」程度の記述です。

シャプトンの1000で仕上げたVG10のペティで食材を切り、然る後にシャプトン2000からキングの8000で仕上げて同様の作業をこなし、使い勝手の感想だけ書いてみます。

 

 

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1000番仕上げ

 

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刃先

 

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刃先拡大画像

 

 

使用食材

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ベーコン切り落とし

 

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ベーコン切れ端

 

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生節

 

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研ぎ分けて食材画像の残り半分を切りました。

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8000番仕上げ

 

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刃先

 

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刃先拡大画像

 

 

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スライスして、生節と合わせてマリネみたいに。

 

 

脂の付着で切れが落ちる。特に仕上げ砥まで掛けた場合は中砥までよりも切れ止み易い等と聞く事が有ります。自分の経験では、変な例ですが左久作の大小刀(大きいのか小さいのか?兎も角切り出しですね)で性能を見る為に、てっちゃん(シマチョウでしたか)その他のホルモンの下処理として余分な脂身を切り落とし乍ら切り分けたりしましたが、特に邪魔になりませんでした。因みに大谷山のカミソリ砥仕上げでした。流石に、数ミリ四方の脂肪塊が複数付着したら拭き取りながらですが、それはどんな刃物でも避けられないでしょう。

今回は、少ないですがベーコンをVG10のペティで切り比べましたがやはり、影響が出る程では無かった様です。しかし、1000のザラザラ感は明確な違いとして分かりました。その割りに切られた食材の外見は、加工食品と言う事も有ってか肉眼的に大きな差異は無さそうです。只、切り進んで脂身から赤身に移行した感触や、食材を切り終えて刃先が俎板に接触した感覚が掴み易いのは8000でした。

生節は、前回も少し気になった8000のキュキュッとへばりつく影響からか、薄切りでは身が割れる傾向が見られました。此には時間経過で温度が上昇したり、頭寄りと尻尾寄りの身質も関係している可能性も有りますが。まあ、実験の為の実験では無く調理のついでの試し切りレベルですので、飽くまで参考例ですね。

 

 

 

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前回の重ね煮を水で伸ばして炒めたベーコンを投入。スープにしました。

 

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冷凍保存していた餃子のタネを解凍、ジャガイモと上のスープも加えてカレーに。

 

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近所の豆腐の旨い店から田舎豆腐を購入して一旦茹でてありました。それを切り分けてグリルで焼いて醤油の実で食べます。醤油の実は小鮎様からの頂き物ですが、これはかなり合うと思っています。

切り分けた切り落としベーコンは、軽く茹でて翌日のあっさり目のベーコンエッグにします。

 

 

過去・今回の総評としては、対象や条件次第では不確定要素が多く、仕上げ砥を使った方が全てに於いて勝るとは断定出来ない物の、場合に依っては中砥仕上げが有利かも知れない相当限定的な当該作業の可能性に配慮して、其方を選択すると言うのは、合理的な疑問が残るのでは無いでしょうか。

更に、味や香りについても同様に多くの場合で仕上げ砥石の使用による優位が認められます。 少なくとも、食材を綺麗に・小さく・薄く切る必要が有る場合、例えば今回の玉葱のスライスなどは仕上げ砥を使わない条件では、使用者に余分な負担が掛かったり時間を要したりしそうです。実際自分ではそうでした。

あと、二回のテストを通じて一つ考えたのは、天然に比べて人造は角度に依って滑りがちな理由として研ぎ目がハッキリ付きすぎではないかと言う事です。それに対して天然は砥粒が深い傷を付け難い上に、泥が間に入って複雑な動きをし、傷を薄める働きも有るので研ぎ目が一方向の明確な状態と違って多方向に浅く付いているのでは無いか。それで切り進める際も押し・引き含め、多様な方向に対応してくれると考えればある程度納得が行きます。

従って、料理で使う刃物としては基本的には仕上げ砥、出来れば天然の相性の良い物を使い、限られた特殊な場合は仕様を変更する。若しくは其れ用に別の刃物を用意するのが望ましい気がします。つまり生節を崩したくなければ、刃が薄くて幅も狭い包丁の方が圧倒的に有利な訳ですし。そこまで包丁を増やせないけれど対応したいならば研ぎで刃物の性格を変える事になるのでしょう。

 

 

砥石の違いによる調理への影響

 

時折、話題に上るネタの一つに、どんな砥石で仕上げた包丁が調理に向くのか。というのが有ります。自分としては、過去から半ば意識せずに仕上げ砥を用いてきたので、そんな事で何故意見が分かれるのか不思議に思っていた程です。しかし、厳然として中砥派が存在する様です。曰く、切れが長く持つし食材に対して滑らないので作業が速いとか。

そこで、改めて代表的な中砥であるキングデラックス1000と、天然仕上げ砥で研ぎ分けた包丁を俎上に上げ、比較してみる事にしました。まあ、半分は以前から気になっていた、無くした柳の鞘の黒檀ピンを買いに行ったついでに購入した皮むきの、本刃付け方々試してみよう。程度の思いつきです。

先ずは新品の状態から

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GC240番で切り刃を均します。

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お待ちかねのキングデラックス1000番です。刃先は普通の糸引(大きめ)。

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一応の仕上がり

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刃先の拡大画像。

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使用食材その1

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ストウブのオーバルで、重ね煮みたいな。この後、研ぎを変えて刻み、半分追加。

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使用食材その2

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ダッチオーブンで餃子を。

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使用後の状態

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刃先拡大画像

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研ぎ上がりから存在していたギザギザ(大きな研ぎ目)が残存していると言うよりは、拡大再生産されている様にも見えます。

 

 

巣板で刃先を整え、中山の黄色いので仕上げます。刃先は普通の糸引(大きめ)。

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刃先拡大画像

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同一の食材を、ほぼ同量刻んだ使用後の状態です。掛かりが鋭く、切り抜けは軽い。しかし、一定量使用後は徐々に刃先の摩耗を感じ出す。

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刃先拡大画像

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刃先最先端が少し摩耗して見えます。

 

此だけでは、天然と人造の違いも加味されるのでキングの8000番で研いだ刃先も少し比較します。(他にも、切り刃が整って来ている為に抵抗が減少している可能性も有るので。)下画像は、上画像の状態から糸引きのみ研ぎました。刃先は普通の糸引(大きめ)。

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刃先拡大画像

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使用後の刃先拡大画像

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天然仕上げに比べ、使用量は数分の1にも関わらず、捲れが目立ちます。

 

画像は有りませんが、同じく切り刃が最も整っているこの状態で、再度キングの1000番でも試しました。結果はやはり、整って来た切り刃の効果で走りの抵抗は減っている物の、掛かりの荒さと食材の切断時の摩擦は気になりました。しかし、この状態では切られた食材の表面の荒れは比較的穏やかで、切り刃自体の貢献度は予想以上とも言える物でした。

 

 

 

此方は、以前天王寺の一心寺向かいの刃物店で購入した同様の物。かなり切り刃の形状を含めて研ぎ進めて有ります。本来は野菜の皮を剥いたりが担当ですが、切れ良く小回りが利き、少量の食材なら此だけで調理を済ませる事もしばしば。

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下は、今回のサンプルになった包丁の最新の姿ですが、今後数回の研ぎを経て、上に近づいて行くでしょう。

 

 

 

ミニマムな包丁によるミニマムな実験でしたが、幾つか再確認出来た項目がありました。
① 仕上げ砥(天然・人造共に)は中砥に対して、初めに切れ込む際(掛かり)の鋭利さで優位。引き切り(走り)の間の抵抗が少なく、手応えが軽い。よって寧ろ作業は速くなる。

② 人造仕上げ砥は天然仕上げ砥に対して(少なくとも刃を当てる角度に依っては)滑る傾向があり、刃先の摩滅よりも捲れが出易い。

(後になって考えるに、基本的に人造砥石ではツルツルまで仕上げると滑り易い所を、研ぎ目が残っている場合は、其れが対象に掛かる角度で有る限りにおいては滑り難いだけかも知れません)

 

③ 刃先の仕上げが人造・天然の違いと同等以上に、特に走りに対しては切り刃の面構成(面の滑らかな繋がりと角度或いは厚みの効果的な変化)が重要。

(④ 人造中砥の長切れする感触は、大きなギザの先端が毀れても元々の(食材・俎板に)引っかかるザラ付きに変化を感じ難い、或いはギザが剥離する際に新たなギザを発生させるので以下同文と考えられるのではないか。)

 

こんな感想を得た実験でした。俎板にも依るのでしょうか、キンデラで良く切れる・刃持ちが良いとの意見を持つ方は、どんな研ぎ方・切り方をされているのか・・・分からないので如何ともし難いですが、余程上手く砥石や包丁を使い熟しているとか?逆に仕上げ砥が活かせていないとか?

ですが間違いなく、今後の人生で人造中砥仕上げを選んで調理に使う事は無さそうです。私の技術では天然仕上げ砥石でないと、自らが望む性能が出せない様です。

 

 

 

最後は余談になりますが、今回の包丁を買う際に刃物店で出た話題の一つに、ある共通の知人が研いだ包丁を、信用出来る親しい寿司店に試して貰いに行ったと言うのが有りました。それなら今度行く時には自分の包丁もと思い、たまに通っているその寿司店に、本日持参した柳を僅かですがテストして貰って来ました。

 

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結果は、使える。此だけ切れれば御の字だと言う事でした。自分のより切れるかも、とも。私が魚やそれ以外も含めて、テストをしつつ気付いた問題点には対策を施した現在の仕様は、余程ピーキーな要求でも無い限り問題が出ないのは分かっていました。

しかし敢えて頼んだのは此の柳が、手持ちの中では最も刃先までの厚さが残るきつめのハマグリだったからです。とても欠けやすいので、そんな仕立てになっては居ますが使用に於いて問題無しと判断した結論を、追認して貰うのが目的でした。

 

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つまり、此で問題無ければ他の包丁には心配が無くなります。そしてテストをしてくれる料理人は、現在は其れだけでは無いものの、元来は本焼きのベタ研ぎを好む、切れに拘る店主です。その人に、切れに不満は無いとの言葉を頂けた事は大きいです。しっかりと正確に角度が出ていれば、刃先まで極端に薄く厚みを抜く必要性は低い。

勿論、仕事の内容や好みに依っては一概に言えませんが角度の変化と切り刃の面構成により、上記の店主にも認められる切れは出せた訳です。事実、出刃なら此の刃付けで丁度なんだが。とも付け加えられましたので、刃持ちと切れの両立と言う意味から、「頑丈さと長切れを伴いながらも良い切れ味」との私の理想を図らずも体現してくれた、少々駄々っ子の柳には感謝でした。あと、今日も旨いネタで寿司を握って頂き、有難う御座いました。

 

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お隣の市から御依頼

 

隣接の市にお住まいのO様より、研ぎの御依頼を頂きました。たまたまですが、此方もダマスカス模様ですね。

余り研がれた形跡が無い状態ですが、かなり多数の刃毀れが見られます。

 

大小、二本の先ずは大きい方

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小さい方です

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研ぎ方は、最終仕上げの砥石以外は共通です。GC240番で欠けを取り、シャプトン1000番・2000番で大まかに刃の形を作ります。

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黒蓮華系の白巣板で更に形状を整えます。

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若狭の戸前で傷を消し、刃先を細かく均一に。

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中山の並砥で最終仕上げ。

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中山産の並砥・水浅葱でも試したのですが、小さい方は相性的により良かった若狭の戸前で仕上げました。

 

 

 

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それぞれ、研ぎ後の拡大画像では最も大きな欠けの痕跡の部分を写していますが、使用時に障る物では無いので此に留めました。

 

 

和包丁(平もですがどちらかと言えば切り刃)・洋包丁を問わず、製造時の刃付けの段階で刃元や切っ先周辺よりも中央部の厚みが目立つ仕上がりの物が散見されます。仮に刃付け前の金属板の状態で、テーパーになって居るならまだしも、そうで無ければ二重に問題になるでしょう。切り抜け(引き切り・所謂走り)で抵抗が余分に増えるからです。

今回の小さい方は、切っ先周辺にも肉取りが不十分で厚みが残っていました。ですので、いつもより峰側まで研ぎましたが通常、私は洋包丁の研ぎでは刃先の2.5ミリから3.5ミリの範囲程度を研ぎます。それは、以前にも記載した事がありますが極端な刃付けの変更に及ぶ広範な研ぎ下ろしは製品コンセプトから外れるだけで無く、研ぎ料金の高額化に繋がる為です。

もしも4ミリを超えて、5㎜・6㎜以上の範囲で研ぐなら和包丁の基準になって来ますので、刃物の設計上バランスがおかしかったり修理や研ぎ減りで刃幅が狭くなり、余りにも鈍角過ぎて用をなさない場合以外はお薦めしていません。

ではどのように対処しているのかと言えば、その2.5ミリ~3.5ミリの研ぎ幅の内、刃先側半分と峰側半分で目的別に研ぎ分けています。一般に洋包丁で小刃と呼ばれる刃先の段刃は、顎から切っ先まで一定の角度・幅で研がれるか、或いは切っ先に向かって徐々に鋭角に研がれるかの二択です。

しかし、私は前述の中央付近に厚みを残した製品への対処として小刃の峰側半分で、研ぐ量を変えています。つまり抵抗が増える程に厚い箇所は、その部分に対して元寄りに位置する箇所よりも厚みを抜きます。その上で刃先側半分は、刃先へ向かってより鈍角で且つ切っ先へ向かって徐々に鋭角にしています。二段階に分ける事で、刃先の効果的な角度変化の足を引っ張る、側面の厚み残りに対して緩衝帯の働きをさせる訳です。

以上で対象への切り込みと切り抜けが改善されますが、この対処で間に合わない様になれば、初めて広範な研ぎ下ろしを検討します。

 

 

O様、以上の様な研ぎを施して有りますが、お使いになって問題などありましたら御知らせ下さい。仕様を変更しての研ぎ直しにも対応させて頂きます。土曜の昼頃にはクロネコより御返送致します。この度は研ぎの御依頼、有難う御座いました。