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一般家庭向け御薦め包丁の研究

 

以前から時々、家庭用の包丁を購入するなら、どんな物を買うのが良いのか?との質問を、ネット上のやり取りよりも特に対面した方々から頂く事が有りました。

しかし実際の御家庭で、使用される肉や野菜・魚の比率が不明だったり、包丁の扱えるレベルや研ぎの選択(自宅で御自身・家人任せ・研ぎ屋利用)、研ぎ用具の選択(砥石・簡易研ぎ器)、俎板の素材等も関わって来る為、一概に此れと薦めるのも中々に困難でした。

其処で苦肉の策として、自宅周辺にある大き目のスーパーやホームセンターで、各種包丁類が揃っている事が多い関の孫六(貝印)から、使用用途と御好みで選んでみては?と答える事が多かったのですが・・・其れだと選択肢が多過ぎて、却って迷うとの御意見も。そう言われてしまっては、何らかの代案を考えざるを得ません。しかし無い知恵を絞って見ても、自らの経験を基に発展させる以外に思い付かず、条件に見合うのはヘンケルスかなと思い至りました。

子供時代、最初に「まともなステンレス包丁」に接したのがヘンケルス(ロストフライ)でした。恐らくは、頂き物と思われる箱入りの三徳・牛刀・ペティの三本セット。其れまでに使った事が有ったのは、合わせ(炭素鋼)の柳・出刃包丁以外、柔らかくて切れが甘いステンレス三徳のみ。何とか研げたのは人造の中砥と仕上げ砥だけで、何故か家に有った青砥・超硬口の合砥では双方、満足に研げず引け傷が入るばかりの物でした。

流石に当時は、天然砥石の個体差や品質・相性などにも考えが及ばず、天然は扱い辛いなあ・・・と感じるのみでしたが、その後に試す事に成ったヘンケルスは万全とは行かずとも、拙い研ぎにも関わらず何とか目的に適う仕上がりと成りました。切れに関しても、仕立ての薄さに因る物とばかりは思えない差を感じ、自分の中ではステンレス包丁の基準とも成る出会いでした。

硬さと粘り、研ぎ易さのバランスに優れる例としてですが、詳細に分類すれば硬さに対する粘りは、やや優って居る傾向であり其の硬さも中庸と言うには僅かに柔らか目では有りました。所有していたアメリカ製・日本製のナイフ類と比べて、体感でHRCの56前後かとの認識でした。少なくとも、58は下回るだろうと。

 

 

 

下画像は、断続的ながら30年前後、自宅(生家は食堂だったので其方に保管が長かった)で使用して来た物。錆・汚れ防止に全面を磨いて有りますが、厚み取りとしては殆ど変化を付けていません。その必要性が低い程に元々、薄目の仕立てであった為です。

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此れ迄の記事で触れていますが、通常は三徳に比べ、牛刀は厚みが薄い傾向に在ると思われますが、此の三本組みでは殆ど変化が無いですね。かなり三徳の方が刃幅は広いのですが。

製造段階で鋼材の種類を絞る狙いも有るかも知れませんが、家庭での一般的な使用者は、刃を前後に動かさず押し当てるだけの切り方が多いので、その際の切れ込みを(耐久には目を瞑って)重視している可能性も有りそうです。

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そして今回の御題ですが・・・過去に御試し用(私の研ぎ方を確認したい方へ向けて)として最廉価版と思われる、中国製のヘンケルスを研いで見た位しか近年のモデルに触れていなかった事を鑑み、現行モデルの国内生産と思われる物を主体として、幾つかテストしてみました。其の程度は把握していないと、初心者向けの包丁に対するアドバイスが無責任に成りますので。(一部、ヘンケルスの銘柄違いであるツヴィリングも比較対象に含む)

 

下画像は、当該の廉価版です。とは言え、より薄手な刃厚・柔らかい熱処理・ブレードとグリップの境界の強度は控え目、との気に成る点は有れど、切れ・研ぎ易さ(組織の細かさ+返りの取れ易さ)はマズマズの物。切れに限定すれば実用上は充分と言っても過言では無いレベルです。

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以上を踏まえて、改めて下の二本を購入。件のセーフグリップと、安定のロストフライですが、此方は食洗器にも対応の樹脂製グリップに成って居ます。昔のは、積層の木材でしたので長時間の水仕事、就中、漬け込み洗いの様な扱いをされると表面の傷みや膨張・反り、タング(中子)の錆の心配が出て来ました。

実際、私の手持ちは刃体のみならず、グリップ表面も(カシメより厚く成った部分)薄く削って有ります。因みにこの二本は、手伝い先の持ち場の方(主婦)の自宅で、耐久テストをして貰う事も兼ねて購入・研ぎを施しました。

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また、知人に頼まれてヘンケルスのHIスタイルの修理(ハンドルの分離・プレートの剥離の補修)を請け負った際、研ぎも行ないったのですが・・・研ぐ動作での操作感・試し切りの使い勝手に、やや驚いた経緯から当該系列のデザインにも興味を持ちまして、以下のモデルを購入。(其の際、同系列のデザインでの追加を考えるならツヴィリングのアークを推薦し、代理で購入も)

基本的に、オーソドックスなデザイン・シンプルなハンドル形状を好んで来ましたが、有機的な形状でも案外、使い勝手を強制・規定され過ぎる訳でも無いなと。ただ此れは、自分の手のサイズが小さ目の為スペースに余裕が出た事に因る可能性は有りますが(笑)。

ブランドとしてはツヴィリングの分類ですが、其の中ではエントリーモデルの立ち位置で、凝ったデザインのハンドルとサブゼロ処理(フリオデュア)済みのブレードながら、ロストフライに多少の上乗せの価格と成って居ます。因みに、名前はフィットですが旧型です。新型は、より牛刀(シェフナイフ?)に寄せたデザインで、シャープな感じです。

上位モデルより少し、低温度合いは譲るとは言え、サブゼロを施された刃体は確りした刃先を提供してくれます。しかし過去のロストフライとは明確な差を感じさせるものの、現行のロストフライは改善が続けられて来たからでしょうか其処まで大きな差では無いと感じる人も居そうです。

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下は、フィット・旧ロストフライ・セーフグリップ・現行ロストフライの、三徳です。同じ18cmの寸法ですが、切っ先の角度や刃幅まで殆ど同一。唯一、フィットに付いては若干、長いのですが此れは、ハンドルの先端から顎までの距離が少し、離れているからでしょうか。加えて、ハンドル自体も長目ですので、ホンの僅かに大柄に見えない事も有りません。

ロストフライ同士の比較では、ハンドルの素材が変更に成って居る所為か、樹脂製の現行品はハンドルの角が尖って居る印象です。まあ此れは、自分の手が小さいので食い込み易かったり、昔のロストフライのハンドルの角を幾分は、手入れの際に意図せず丸めている可能性も有りますが。現行品を入手した方で、同じ点が気になる様でしたら、サンドペーパーや簡易な鑢みたいな物で角を丸めても良いと思います。

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ブレードを峰から観察しても分かり難いですが、刃元から見ればセーフグリップの薄さが際立ちますね。

 

 

後は、ロストフライの中型の三徳と、其れに近かったツヴィリングのツインポルックスの小型。後者は、通常モデルに関してはハンドルが太めの設定で、確り把持したい人向けらしいですね。此の比較では、刃体形状とハンドルの太さが近いので、使い比べ安いかと。

結果は、刃の性能は近似であり、ハンドルの好みに成りそうです。ツインポルックスの方も角は立ち気味ながら、全体が緩やかなアーチで構成されて居るので、部分的に細すぎる・太すぎると感じない人には持ち易さに繋がると思われます。

私的には押し切り(ロッキングとかロコモーションとか言われる動作も含め)で入力し易いツインポルックスも良いですが・・・馴染んだ形状、かつ切っ先の向きを無意識で制御し易いロストフライとは甲乙付け難い所です。

刃厚に関してはツインポルックスの方が全体的に薄い仕立てであり、初期刃付けの違い(個体差の可能性)も相俟って、箱出しの段階から切れが良いのもアドバンテージでしょう。

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因みに、同じ三徳でもサイズの異なるフィットとツインポルックスでは切っ先の直ぐ後ろから刃幅も異なり、牛刀との違いが出て居ますね。

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最後に、ツインセルマックスも買っておきました。此方は未だ、研ぎも使用もしていませんが、鋼材はZDP189と目され、一般の市販品の包丁としては最も硬いHRC(ロックウエル硬度)と思われます。サブゼロも、フリオデュアより低温での処理となるクリオデュアと言う事です。口金(鍔)とバットキャップが金属製の為、ハンドルが他の如何なるモデルよりも重厚ですので、やや手元重心なのは勿論、全体の重量も結構な物に。硬さ故の欠けさせない扱いと、相応の砥石・研ぐ技術に加え、或る程度の体力を要求される可能性が高いです。

下は三徳モデル。

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此方は牛刀ですが、確か21cmでは無く20cmだったかと。アメリカ向けとかヨーロッパ向けでは、cmやインチでキリの良い数字に成っている事が有るので、其の所為でしょうか。出来れば日本人からすると、牛刀は21cmが欲しい所ですね(笑)。

古い18cm牛刀との比較では、長さ以外に峰の形状(ライン)も異なりますが此れは、エルゴノミクスデザインと言うかアークやフィットの流れに則った物でしょう。上の三徳でも見られましたが、より顕著に表れて居ますね。

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此処までの比較を経て、一般の方からの御質問「家庭で使うには、どの包丁が御薦めか」に対する回答を強いて挙げるなら、「キッチンの広さ・俎板の広さに合うサイズのロストフライが良いでしょう」に成ります。使用者の体格や筋力にも因りますが、普通サイズの三徳か牛刀で切る対象が野菜主体なら前者、肉・魚主体なら後者。どうしても小振りな物が良ければペティでと(中型の、小三徳も候補に上がります)

先ずは薄目のステンレスですので、無理な切り方をしなければ良く切れて錆び難い・ハンドルも含めて(私は余り推奨しませんが)食洗器にも対応している・(私は余り推奨しませんが)簡易研ぎ器シャープナーでも切れを保てる期間が長い、以上の点から御薦め出来ます。勿論、入手の利便性や品質の安定性もポイントですね。

ただ一点、牛刀は折角、刃幅が狭くて引き切りの際の側面抵抗が小さいのに、刃渡りが(刃幅の広い)三徳と同じなのが勿体ない気もします。菜切り的な、ある程度の刃元での刻み仕事を割り切って居るからには、刃渡りの長さで柔らかい対象・寸法の大きな対象に対応できればなあと欲が出てしまいます。

まあ、切っ先付近の刃幅の狭さを活かし、細々した作業を熟せるのは牛刀のメリットですが。考えように因っては、三徳とペティの二本分の仕事をしてくれるとも言えますので、包丁の扱いに成れる程に御得かも知れません。

次点で、フィットです。ハンドル形状が気に入り、その造形料とフリオデュアの手数料(性能少し向上)の分の価格を支払っても良いと言う方には、御薦めです。(ツインポルックスの小も)

もっと確りした刃体(フィットより高硬度)と、金属の鍔が付いたハンドル等、上級モデルが御望みであれば、アークと言う選択肢も有りますし、其の上にはツインセルマックスも有りますが、此処まで来ると、もう自己満足とか言われかねないレベルに成って来ますので(笑)。あと、硬い鋼材を活かした熱処理が為されて居れば、相応に研ぐ機材や道具・技術も要する訳ですので、(一度の研ぎで性能が長く続くとは言え)メンテナンスもネックに成る方が多いでしょう。(価格面も無視は出来ませんし)

 

 

 

 

個人的には、予想以上にフィットが気に入ってしまったので、色んな料理に使って見ました。先ずはミネストローネから。

カットトマトの缶詰めと、パプリカ・人参・玉葱・セロリ・ズッキーニの他、ローリエの葉・クミン・タイム・オレガノ・マジョラム・タラゴン等のホールが入って居ます。

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何度かに分けて食べた残りに、手羽元をバラした物を加え、

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骨の方は焼いてからスープを煮出し、

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シナモン・ナツメグ・クローブ・セージの粉末と各種カレー粉を混ぜ、

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チキンカレーに。

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特段、強度重視の研ぎを施していないにも関わらず、軟骨ごと鶏肉を切ったり、骨に切っ先を喰い込ませたりも交えながら大きな刃先の損耗も無く、無事に調理を終えられました。硬過ぎず柔らか過ぎず(欠け難い割には捲れも小さい性質)切れも良いフィットなら、毎回の使用後には研がずに居られない私でも、大らかに構えて普段使いが出来そうな気がしました。常に、万全の体制を維持しなくても良い、そんな良い意味で神経質に成らずに済む感覚でいられる対象は、自分にとって少数派なので有り難いです。

ブレードとハンドルの間に、赤いスペーサーが入って居たり、ハンドルエンドにツヴィリングのマークが入って居たりするのも自分の柄では無いと思いつつ、御洒落では有ります。元来は質実剛健・実用的な物を好むタイプですが、此れは此れで悪く無いと感じるのは年を取って丸くなったとか、好みのブレと言うよりも、受け入れる幅が広く成ったと思いたい所です(笑)。

 

 

 

現在、ホームページ不調の為、御面倒を御掛けして居ります。研ぎの御依頼・御問い合わせの方は、下記のアドレスから御願い致します。

togiyamurakami@gmail.com

 

 

 

 

 

最近の事(牛刀くらべ?)

 

最近の事、と言っても本当は昨年の後半、或る程度の期間に亘って少しずつ興味の有った事柄を、確認したりして居ました。(7月22日の記事より随分と後)

期間が掛かったのは、なけなしの資金を少しずつ使い、サイズの違う同種の包丁を買い足していたからです。これで昔から、ぼんやりと疑問に思って居た内容を確認出来ました。

それは包丁の種類によって、サイズの違いが(シルエットは其の儘に)単なる拡大・縮小に留まらないのでは?と言う物です。和包丁(三徳・薄刃・柳・出刃など)のサイズ違いは大抵が、刃渡りが延びるに従い、切っ先付近の刃幅から刃元付近の刃幅まで、順当に広く成って居ます。

しかし例えば牛刀に関しては余り、刃長が変わっても切っ先からカーブ付近の形状に殆ど変化が見られない事が見受けられます。

 

 

下画像は、藤寅作の牛刀で18cm・21cm・24cmの三本です。元々、ダマスカス(積層地金バージョン)24cmは購入済みでしたし、その後に使い古しの三層バージョン24cmも追加していたのですが、更なる追加に踏み切りました。まあ一応、手伝い先の作業に因っては投入するかも・・・と無理に自分を納得させての蛮勇ですね(笑)。

一目瞭然で、刃渡りと刃元の幅は大きく異なるのですが。

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三本を重ねて見ると、殆どズレ無く揃います。他のメーカーも同様とは限らないでしょうが、その傾向は有りそうですね。此の辺りは、次回の記事でも触れてみる予定では有ります。

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序でに念の為、厚みの違いも確認すると、やはり長い方が厚く成って居ます。

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其れとは違い、同型の(トージローと藤寅では有りますが)24cm牛刀同士で比べると、

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マズマズ古い研ぎ減った物を、厚み抜きして使用中なので現行の新品との単純比較は無理ですが、意外と厚みの違いが有る気もします。予め、年式も違えば構造も異なるダマスカス24cmとの比較では納得できそうな物ですが、年式の違いのみで差が出る事も有るかも知れませんね。

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今回の内容は次の記事に関連する、包丁のデザインの比較の一環としての意味を持つ為、シンプル過ぎるキライは有ると思いますが、私としては積年の思い込みを払拭する良い機会に成りました。

過去から最近までの期間を掛けて購入した、寸法違いの牛刀が手元に有るだけで無く、其れなりに使い込む経験を経た故の気付きが、間違って居なかった事が確認出来たからです。

特に切っ先付近での作業時に付いてですが、柳はメーカや鍛冶による厚み・刃幅にバラツキが大きいので、良くも悪くも其れ程には使用上の違和感が有りませんでした。しかし、薄刃や出刃では寸法の違いに因り、切っ先付近の刃幅が大きく異なります。それ故、細かい作業に成るとサイズの小さい物の利点が活きるので、同一モデルでも各種のサイズを揃える価値が大きいと感じて来ました。(勿論、厚さも異なるので余計に)

しかし牛刀だけは、打ち物をするには刃幅が広い方が良いので、長めの寸法の物を選んでも、切っ先カーブから先での作業に(細かい作業に対して)支障は無く、先寄り・元寄りで使い分けられるなと。つまり自分の作業上、「引き切りに必要な長さの刃渡り」や「打ち物に必要な刃幅」のモデルを購入すれば、切っ先付近の使い勝手は不変に近い。

上記が逆にデメリットに成る可能性も有りますが(先寄りで厚みの有る対象を千切りにしたい等)、他の包丁には無い位に、適切な長さの牛刀を購入すれば扱い方を変えずに済む・使用感が大きく違わない点が特性だと改めて理解出来ました。切っ先カーブから先の、厚さ・角度・刃幅が殆ど一定であり、後ろが長く成れば其れに比例して厚く成って行くという構造が、そんな性格を形成していた訳ですね。

 

 

 

現在、ホームページ不調の為、御面倒を御掛けして居ります。研ぎの御依頼・御問い合わせの方は、下記のアドレスから御願い致します。

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刃物祭りと、最近の事

 

少し前から手伝い先の御一人と、ステンレス包丁に関連する遣り取りをしていました。

偶々、数年前に「鍛造したステンレスの可能性を探って居るので試してくれ」と渡された銀三の小包丁(鎬付きの両刃、小刃有り)を持っていた為、試用して貰いました。多分ですが、ベタ研ぎ気味で無い研ぎ方には余り、期待していなかったと思われる其の方にも大変、満足頂けた様子でした。

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更に、服部刃物に居た頃の先輩から貰った幅広のペティ(VG無垢材ほぼフラットグラインド+小刃)、此方も試して貰った所、感心しきりで。

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話を聞いてみると、仕込みの仕事を含め万能性の高い包丁・筋引きの系統で決定版と言える包丁、の二本を考えて居るそうで。勿論、追加で他に1~2本の可能性は否定しないとの事でしたが(笑)。

曰く、裏方の仕事の殆どは、骨スキ系のデザインが適しているそうで、しかし其れには改良点も有るとの事でした。先ずは万能性を持たせる為、刃厚は4mm前後よりも薄い方が良く(厚いと割れたり切り込む際の抵抗に成る)、刃渡りは6寸前後以上は有った方が良いと。

そして肉関係の切り分け・筋を引く作業には、やはり専用の性能を高めた所謂、筋引きの発展形と言うか、より高性能な逸品を求める方向で考えて居るそうでした。

或る意味、発注の依頼を受けた形に近い話し合いの結果、日野浦さんに筋引きの相談、服部の先輩に骨スキの相談、の方向に。

 

 

電話で連絡を取ると、日野浦さんは内容を理解した途端、其れに近い物が既にあるとの返事。渡りに船では無いですが、話が早い(殊に「マテが長いので定評の有る」日野浦さんですから)と乗り気に成りました(笑)。何でも、某所に納品した残りの、特殊な作り方のでっかいペティ(7寸以上のシリーズ)。最早ペティの意味が不明に成りそうなサイズですが、今回に於いては持って来いでしたね。

鍛造は勿論ですが、熱処理も御自身で加熱後、空冷・油冷の何方でも無い焼き方との事で、私も思わず自分用を含めて二つ返事で発注しました。丁度、十月で良い機会ですので、柄を入れる前の身と、柄に使える選択肢の幾つかの種類を持参頂ける流れを受け、刃物祭りにて落ち合う約束をし、電話を切りました。

 

 

 

刃物祭り当日は、珍しく初日に出掛けました。昨年の二日目と大違いで、雲一つない晴天で暑い一日でした。

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刃物関連の露店は相変わらず大量でしたが、其れにも増して食品関連が充実していました。

下画像は其れ等の露店の一つですが、各種サイズのオピネルのナイフ・同デザインの鋸などが豊富に出ていて目を惹かれました。

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他には、フジタケの売り場で気に成って居たVG1の包丁を購入しました。8A・VG1・VG10の牛刀やペティが並んでおり、8Aは幾分ですが安く、残り二つが同価格でした。

自分では、VG10を多く使った経験は有る物の、VG1は其処まででも無い為、今回は敢えて後者を選んでみました。

 

 

他には、何時もの刃物会館(移転後の新しい洒落た建物)を覗きました。

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刃物研ぎの申し込みをすれば、研ぎのサービスを受けられますが、刃物祭りでは1本300円で一人3本までを受け付けるらしいですね。通りで数千本?にも上る事も納得です。

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内部の展示ブースでは、所々に目新しい商品も。

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更に奥のスペースでは、刃物と直接には関係しない一般的な御土産(特産品)で占められている一角も。

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カフェみたいに成って居る其の近くで、先輩とサイダーを購入して打ち合わせです。

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前述のペティ以外にも、彼は上掲の様にアウトドアナイフも作って居ますので、そのデザインも加えたオリジナル骨スキ?を煮詰めました。

依頼の方向性は、ペティのハンドルの形状(末端に掛けて引っ掛かりの有る形状)が良い、しかしハンドル材はペティの紫檀よりもアウトドアナイフ的な色調の物が希望と。画像のハンドル材はココボロや海外産と思い込んでいましたが、黒柿だったそうで意外に感じました。全体に黒っぽいので気が付かなかったですね。

 

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そして、ペティのカシメ(同質)よりもアウトドアナイフのカシメ(ステンレスとニッケルシルバー)の方が気に入った様です。そもそも後者は、シュナイダーボルトだと思って居たのですが此方もカシメでした。強度的には、遜色ないそうですので問題無いと考えました。

 

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あと、鋼材とハンドル材の間にスペーサーが入って居るのも良かった様です。私の方は、何となくですがペティの兄弟モデルとして相応しい感じのする、紫檀ハンドルを直付けの同質カシメで頼みました。但し、依頼人の寸法は6寸強の刃渡りに3.5mmの刃厚に対して、16cmの刃渡りに4mmで注文しました。自分では、其処まで汎用性を高くする狙いは無く、強度重視かつ取り回しの良いタイプが一つ、欲しかった物ですから。

序でに此の際、サブゼロの効果も確認したいと思って居ましたので、熱処理の行程に加えて貰う事にしました。手持ちのVG10の無垢材との違いが楽しみです。

 

 

 

 

日野浦さんは此の日、随分と遅くに到着しました。私も一宮方面の名神へ合流する直前、5~6km進むのに1時間掛かりましたが、それ処では無かった様です。ブース自体は御子息に任せ、御本人は単独で御忍び?にて訪問でしたが、色んな知人・関係者に捉まって大変そうでした(笑)。

其れが一段落するのを待って、日野浦さんの車まで同行して現物を確認させて貰いました。事前の画像では八寸の方に気持ちが傾いていたのですが、実物のバランス的に七寸が良さそうに感じました。

柄の方は個人的には、両口輪の必要性は低いのですが、エンジュの柄は初めてな気がしますので、右端の物かなと。

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最後は、チェックインするホテルで少し話そうとの御誘いで、コーヒーを頂きながら四方山話に興じてから別れました。日野浦さんと先輩には、色々と対応して頂き有り難う御座いました。これ迄も、何くれと無く御世話に成って居ましたが、改めて今後も宜しく御願い致します。

 

 

 

 

因みに、フジタケの牛刀・ペティは早速、刃先だけですが研いでみました。

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刃先の拡大画像、鋼材はVG1です。

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先輩のペティ(VG10)拡大画像

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日野浦さんの小包丁(銀三)、拡大画像。Still_2024-10-14_151044_60.0X_N0002

 

 

厳密には刃厚・刃角度・使用砥石の相性・熱処理の加減(硬さと粘りのバランス)・切る対象との相性で印象は変わりますが、銀三がザックリした掛かり方。VG1がスルスル切れる感触で、VG10は其の中間的な印象を受けました。

砥石に当てても(これは熱処理の味付けかも)VG1がシットリ研げる気がしましたので、滑らかに研いで滑らかな切れ加減を求める向きには、適しているかも知れませんね。何れにしても、今後も折に触れて使用しつつ比較し、鋼材の性格やメーカー毎の刃体のデザインを感じ取れればと思って居ます。

 

 

 

 

 

御知らせ(御願い)など

 

後述の方が、当ブログを閲覧下さっている事を祈りつつ。

本日、二度に渡って留守電にメッセージを入れて頂いたO様、出られずに申し訳有りませんでした。しかし、折角の研ぎの御依頼の内容でしたが当方の留守電、余りに古く先方の電話番号の表示機能などが有りません。

番号を吹き込んで頂けていれば、折り返しの電話をさせて頂けるのですが之までには殆ど、そう言ったメッセージが無いのが現状です。先々週にも鋏に関する問い合わせが有りましたが、同じく折り返し出来ませず。

ホームページには当方の電話番号を掲載していますが、此れは架空の住所や設定では無い証明がてら載せている意味合いが強く、基本的にはメールでの対応と送付(返送)での遣り取りを行なって居ます。出来ましたら、以下のメールアドレスから御連絡を頂きたく思いますし、万が一、電話で御連絡を頂く場合は御当人の番号を入れて頂けますでしょうか。宜しく御願い致します。

 

togiyamurakami@gmail.com

 

 

 

 

手伝い先では仕事の一部として、偶に豚肉の塊(10㎏程度)を切り分ける作業も有ります。モモ肉と呼んでいますが恐らくは、ランプ周辺と言うべきと思われる其れは、ちょっとした枕位は有りますので、通常の家庭料理では試せない包丁の性能を確認出来ます。

先ずは下掲の二本。24cm牛刀と21cm筋引き(パンスライサー改)です。刃渡りと厚み、何より刃幅の狭さの差が大きいので、完全両刃(左右均等)と片刃寄りの両刃(右側に大き目切り刃風)による違いは出るのか興味が有りました。

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画像上の左右側面が対称な牛刀に比べ、画像下はパンスライサーとしての適正からなのか、裏は梳いてあるかと思われる程にフラットです。小刃の幅を1~2cm程度に広げれば、ほぼ完全な片刃に成りそうな勢いで。

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予想としては、両刃と片刃の違いは有れど、刃先最先端の角度は若干の差(やや筋引き鋭角)のみですので、やや刃厚が薄く刃幅も狭い筋引きが有利と考えて居ました。所が、出自がパンスライサーな事も有るのか、切っ先カーブから先に相当の厚みが残されており、引き切りの最後の抜けで抵抗を感じました。

其れ以外の部分は結構、良い勝負でしたが此れは、牛刀の方が手作業で切っ先方向へのテーパー化・ほぼ峰から刃先まで浅いハマグリにしていた事が奏功したものと思われます。通常は側面の仕様が同等でしょうから、長さと広さに比例した摩擦抵抗を受ける筈なので、逆の結果に成るのでは無いでしょうか。

結果として此の比較では、「抵抗の少ない仕様の長い刃」を持つ牛刀の方がストローク数が少なくて済むので、筋引き(パンスライサー改)よりも優れていると感じました。逆に、肉の塊を端から薄切りにして行く場合は、反対の結果に成る可能性も有りそうですね。

 

 

 

次は、側面片方に平・鎬的な角度分けを設けた方式では無い、牛刀を薄く狭くした方式の筋引きです。全くの別物感は薄いながら、此れは此れで柳に対する河豚引き的な利便性を好まれるタイプです。

刃体全体が切っ先に向けてテーパー化されていると迄は行かないものの、刃厚自体が元来、24cmの刃渡り全域で薄手に仕立てられていますので抜けや走りが期待出来ました。

新品時よりも、やや右側の小刃を広げ気味・鋭角化すると同時に、左側の小刃を鈍角化(小刃の広さを半分程度に)。実際に使用してみると、切れは充分乍ら存外、抜けが重く感じました。其処で、右側の小刃のみ切っ先方向へ鋭角化してみると改善。更に左側の小刃も切っ先方向へ鋭角化すると更なる改善が見られました。

小刃のアレンジ以前から、切っ先カーブ周辺の抜けに関しては(刃厚・刃先角度から見て)妥当で、前述の筋引き(パンスライサー改)に比べて優位でしたが、切っ先方向へ鋭角化アレンジ済みの其れと比べれば直線的な刃線の部分の抜けは大差がない状態で。しかし小刃のアレンジを経てからは同等以上に。ただ、刃先最先端の切れに依存する傾向が強いのが気にはなりました。刃体形状的に、余り切り開く性格では無いからでしょうか。そして、端から薄切りする場合の優劣は此方も未知です。

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最後は、一番の新入りです。かなり広い小刃を付けられていますので、鋭角過ぎるキライも有り、刃先角度を2~3割り程ですが鈍角化しつつ切っ先方向へ鋭角化しておきました。此の仕様での試し切りでは、筋引き(パンスライサー改)に近い切れ感で、まさか21cmの刃渡りが同一故にか?とも思い難く、考えられるとすれば次の二点。刃幅が広く抵抗を受けるデザインの牛刀ながら、両側面に広目の小刃を持つ為に刃先周辺の抵抗は少ない。対してパンスライサー改では、右側面の切り刃的な幅広小刃はアレンジの範囲が広く抵抗をいなすのに有利ながら、左側面の小刃は極端に狭いのでアレンジ幅が狭く抵抗を受けやすい状態。極端に言えば、左右の小刃の広さを合計して二で割ると恐らく、同程度に成ると思われますので、合計の抵抗も近いのではと。

まあ、あらゆる厚さと刃幅・刃先角度・刃線のカーブの度合いをグラデーション的に取り揃えて詳しく比較検討する訳にも行かないので、飽くまでも実用の結果からの推測でしか有りませんが、事前の予想より少し意外な結果・狙い通りの効果など、入り混じって楽しい実験と成りました。

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総評としては、刃体の形状の最適化(此の場合は抵抗の少なさ)が、どれだけ全般に及んでいるか次第に依ると言えそうです。例え、刃厚が薄い・刃幅が狭い・刃先角度が鋭角であったとしても、側面がフラット過ぎたり小刃が単純な一定であったりすれば、切れ込む際の抵抗(摩擦含む)は軽減するにも限界が有るので、刃厚たっぷり・刃幅広い・刃渡り長い鈍重なデザインの包丁(刃体・刃先アレンジ済み)に敵わない結果と成りました。

 

 

 

 

 

香川のK様からの御要望で

 

前回の投稿にコメントを頂いた、香川のK様からの御要望(神経質な地金の切り出しの研ぎ肌の拡大画像)に向けた記事と成ります。一般的な方々にとっては、マニアック(枝葉末節に拘り過ぎて判別が困難)に過ぎると捉えられる恐れは有ります(笑)。

しかし私は基本的に、各種鋼材の様々な仕様(金属組織のサイズ・硬さと粘りのバランス)に向けた相性探しの手段として、天然砥石を使っており、其の為に普段は中々「特定の外観的仕上がり」を求めて砥石を取っ替え引っ替えする事は少ないのが現状です。

天然砥石に限りませんが、研ぎ肌(研がれた表面の傷の痕跡・揃い方・光り方や曇り方)の判別には現物を自然光(日光・陰り気味)で観察するのが最適かと思われます。次いで、電灯⇒蛍光灯⇒優れた画像を画面で⇒下手な画像を画面で、と成りそうですが私のブログは最後に分類されますので、聊か以上に力不足で在るのは否めません。その点、御含み置きを頂きたく思います。

其れを踏まえた上でも、識別能に優れた方には各種砥石における刃物表面の性状を違える結果に、気付いて頂ける事と思われますが、(画像での外見上)小なりとは言え差異を認めるという事は即ち、刃先最先端の状態が異なってる事に成ります。同角度で研がれた金属の表面の光り方や、組織の凹凸の様子に変化が生じた訳ですから。

上記内容に最も影響しそうな要因は、天然砥石の砥粒が人造と違って柔らかく、砥粒の目も立って居ない事と考えて居ます。加えて、泥の出方にも因りますが金属の表面の、言わば軟部組織から研磨が進み、硬い部分を浮き彫りにする(柔らかい人造にも言えますが砥粒の硬さと目の立ち過ぎで一歩劣るので)。研磨力に優れ、金属表面を一律に研磨するが、深い傷が残って錆び易さに繋がる人造砥石との差も、此処から来ると思われます。

従来の殆どを、切れの調整最重要視で用いて来たのが天然砥石であり、綺麗な外観は付随的に現れればラッキー程度の心境が大半を占めていた私ですが、今回の様に改めて研ぎ肌の確認をするのは面白く、また砥石の個性(刃物に対する振る舞い・相性から来る研ぎ易さ・下りの速さ・傷の消し易さと残り易さ)を違った観点から把握でき、認識の整理が進みましたので、香川のK様には感謝致します。

 

 

 

先ずは前回、神経質な地金を持つ切り出しを仕上げた、やや硬口~硬口の巣板(サラサラ+スベスベタイプ)。

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上掲の砥石で仕上げた画像。

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同じく、拡大画像です。拡大してしまえば、(機材が更に本格的であれば別かも知れませんが)余り肉眼による「風情の違い」は現れ難く、味も素っ気も無くなる気はしますね。

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次に、天井巣板と思しき硬口のカラス巣板(スベスベタイプ)。

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拡大画像です。立ち位置的には内曇り相当だからでしょうか、少し曇りがち(表面の凹凸・炭素を吸った地金の境界部分の明瞭さに違い)に成って居ます。その割には明るさが同程度なのは、此方の方が硬さで上回るからかと。

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同じカラス巣板(サラサラ+スベスベタイプ)では有りますが此方は敷巣板でしょう、硬さは更に上の超硬口です。

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砥粒の凝集性に、やや密粗の不均等が見られる物の、砥面の硬さ故か上掲の二つの砥石の中間的な結果に見えます。

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ほぼ超硬口の戸前(スベスベ+ツルツルタイプ)です。砥面の硬さは有りますが、滑走が良く(泥が出ない割りに突っ張らず、傷も入り難い)研ぎ易い上に仕上がりも上々です。

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地金に見える黒・灰色の凹凸のコントラストは最も明瞭で、鋼の光り方も相当に上です。

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手持ちの中では浅葱系統以上とも言える、超硬口の合いさ(ツルツル+スベスベタイプ)。泥は全く出ませんが、今回の切り出しとの相性的には優れていた様子で、やや突っ張り気味ながら刃・地共に良い仕上がりでした。

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刃金の仕上がりでは相当に上、しかし地金としてはマズマズの結果に。恐らく、此の地金にとっては砥石の硬さと目の立ち方の刺激が幾分、強めだったからかと。

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最後は、硬口~超硬口の水浅葱(サラサラ+スベスベタイプ)です。田中さんが惑星と呼称している系統で、少ないながらも同系統を触った経験から、水浅葱の中では研ぎ易さで最右翼ではとの印章です。硬さが控え目の物であれば、浅葱系統でも難易度は下がりますが今度は、泥の種類と出方で又、研ぎ肌が均一に揃うかどうかの分かれ目に成って来ますね。

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拡大画像です。刃金の光り方は、一番の様です。地金のクッキリ加減は、上掲の超硬口の合いさと同様、マズマズレベル。此処から推察できるのは、此の地金にとっては余り、超硬い砥面かつ研磨力が控え目(スベスベ系統)の組み合わせの個性を持つ砥石だと、メリハリのある結果に結び付かない。寧ろ、硬さは一段下の砥石との相性が望ましい傾向に在ると言えそうです。

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実験結果が少し気に成ったので、追加で水浅葱のバージョン違いを。殆ど、誤差でしか無いレベルの硬さの違い(僅かに柔い)で分類はツルツル+スベスベタイプです。

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仕上がりですが、刃金の光り方は同等もしくは其れ(上掲の惑星)以上、地金の模様のコントラストも更にクッキリです。全ての画像を細かく比較すると、地金だけで無く刃金の表面にも少なからず凹凸が有りますが、此処では微妙過ぎるので触れずに置きます(笑)。

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以上の様な結果と成りました。傾向としては、サラサラタイプだと滑走は良好ながら擦過傷が入り易く、(相性はさて置き物理的な)研磨力に優れる。ツルツルタイプだと急な食い付きでつんのめる傾向に在るが(相性はさて置き強引にでも)微細な仕上がりに。スベスベタイプだと滑走・食い付きへの警戒は低いが若干の相性の幅の狭さ(誤差レベルでの切れの差異)を感じる。と成ります。

純然たる研ぎ肌との相性の傾向は、光り方の強さの順にツルツル⇒スベスベ⇒サラサラとなり易いですが、石の硬さ・泥の種類(粘性・均一性・目の立ち方)や出方(多寡・刃物との反応の前後の違いの有無)で異なるので、刃物と研ぎ手との相性との組み合わせで激変の可能性も有ります。実際、使用した切り出しと砥石達を貸し出して試して貰っても、全く同一の仕上がりに成る保証は有りません。

乏しい技術と限られた機材による比較検討ですので、K様の御期待に沿える内容には達していない可能性は高いですが、幾らかでも今後の研ぎの参考にして頂けましたら幸いです。

 

 

 

 

序でに、炭素鋼ペティの次に自炊で良く使っている、三徳包丁の手入れもしました。昔から自宅に有った、三層利器材(ステンレス地金で炭素鋼の芯をサンドしたクラッド鋼)の物です。

鶏の胸肉使用の鳥牛蒡と、ラタトゥイユもどきの野菜スープを仕込むと下画像の状態に。切れ自体は、銀杏の俎板使用で丁寧に切って居ますので、左程の低下は見られませんが、まあ気分的には手入れをしたくなります。

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芯に入って居るのは炭素鋼ですので、外見的には其の部分の錆のみ目立ちます。当然ですが、峰や刃元(マチ)も錆びる時は錆びます。後は、食材から出た水分のこびり付きが顕著。

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前回も登場の、此方で仕上げ研ぎです。相性も良く、下り・切れ・研ぎ肌に問題は出ませんでした。

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中硬の巣板その他も併用し、仕上げ研ぎ。

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錆び・汚れを除去し、刃先も念の為に研ぎ直しました。

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刃先拡大画像ですが、上の二つの画像でも確認できる通り、刃金に鬆(ス)と云うか斑点状の陥凹が無数に出ます。以前から、研いでも次々に出てくる為に金属の仕立てに由来するのでしょう。

そんな性格の鋼材(熱処理も関係?)が鋼に使われて居るので、切れは良くても精細な感触には成り得ず、対象との接触でも今一つ、強度の低下が伝わる印象です。更に、其処を起点として錆も誘発されるので、通常の鋼材を研ぎ上げた後の状態と比較して、手入れの頻度は増大します。

ですので、普段から使用して頻繁に手入れをすれば良かろうとの扱いに成って居ます。ステンレス地金は、半鏡面で維持するには大変ですが、曇らせて置く分には苦労が少ないですし。

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研ぎ上がり、全体画像です。サイズ感・全体のシェイプは相当に良く纏って居るし、適度な重さにも好感が持てるので嫌いでは無いですね。

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因みに、刃金と成る鋼材にピンホール状の陥凹が無い通常の物の例です。此方は刃金と地金が手作業で鍛接されており、地金自体の積層も極軟鋼と錬鉄を複数枚、同じく手作業で重ねた鍛接で作られて居ます。

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拡大画像です。

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最近の砥石の確認へ

 

先週の後半、少し間が空きましたが田中砥石へ出掛けて来ました。途中まで、田中さんが所用で不在の中、採掘・加工を手伝っている方に御相手を願いました。

直近までは天候不順なども有り、採掘が断続的だった話を伺いつつ、加工途中の砥石を見せて貰ったり、御薦めの砥石を手に取ったり。そうこうしていると、田中さんも帰宅したので三人で近況報告に移行。幾つかの取り置きを選別した後、当日に持ち帰る事に成った二つの小振りな砥石を決めました。

 

 

其れが以下の砥石です。加藤鉱山にて田中さんが、之までに主として採掘された巣板層(近縁の層も含む)にも含まれては居たのですが、割合的に少なかった個性の砥石が増えて来たかも知れません。

私は産地や層の違いを超えて、砥石の個性としては大きく三つに分けられると感じています。石自体の硬さの影響も大きく受ける物の、其れだけでは語れない質や砥面の性状として、サラサラ・ツルツル・スベスベに。極論すれば其々の特徴として、研磨力はサラサラ、切れはツルツル、研ぎ易さはスベスベが優れます。

勿論、鋼材(炭素量・添加物の種類と多寡)と熱処理(組織の細大・硬軟、特に粘り)に由来する相性にも関わるので、組み合わせ次第で上記内容も入れ替わる可能性が有ります。加えて特に最近は、刃物の地金にも同様の傾向が有ると、強く認識する様に成りました。

砥石のスベスベには、他のサラサラ・ツルツルに対して、より弾力に優れる傾向も持ち合わせている印象ですが、地金に関しても近い印象を受けます。触って来た中では明確にツルツルの地金と云うのは少数派でしたが、サラサラな物とスベスベの物はステンレス地金を含めて案外、はっきり分かれました。

特筆すべきは砥石・刃物の相性として、切れ・下りの速さは一端置いておくならば、最も研ぎ易さに直結する組み合わせは双方がスベスベである場合です。そう言った特性への御理解の一助と成ればと、御希望者には私の選別砥石へオリジナルの押印をしていた事も有ります。

 

 

つまり、少数派であったスベスベタイプが二つ、同時に手元に来た訳です。此れを嚆矢として、地金の特性が異なる切り出し二本で試し研ぎを通し、相性の検証をしてみます。

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二本の切り出しですが先ずは、下地を揃える目的で丸尾山の千枚(中硬)による下研ぎを行ないます。

鋼は青紙2号で極軟鋼地金。この段階の研ぎ目の細かさで、既に艶が出て居り刃・地共に、かなり光り易い傾向が伺えます。

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鋼は青紙1号で地金は極軟鋼かと思われますが・・・鍛造の加減と熱処理に因るものか、サクサクと下りが速い。もしかすると、極軟鋼では有っても製造年代や製造方法、成分に違いが有る可能性も。上の切り出しの地金に比べると、硬さ的に削れ易いのと粘りが少ない(此れも下りの速さに貢献)ので、曇り易さに繋がります。恐らくは硬さが上がれば、下りの遅さに繋がるでしょうが、光り易い方向に近付くでしょう。

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持ち帰った内の、やや硬さで優る薄い方から試します。

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青2の方は千枚の後に、順当に光り方が向上しました。刃・地共に砥粒の目の細かさを素直に反映しています。

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一方の青1の方は、刃金の仕上がりに比べて幾分、地金は控え目な仕上がりに。砥粒の形状や均一性、力加減への依存が強めで、かすれ気味な研ぎ肌に成りがちです。

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もう一つの、やや弾力に勝る方の厚い砥石。

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研ぎ易さは、更に優位では有りますが・・・硬さが少し控え目だけあり、光り方も其れに倣っています。弾力に加えて、泥も出るタイプですので研ぎ手には親切な性格では有ります。

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控え目な硬さと泥に因り、光り方が若干ながら弱く成って居ますが、或る意味で神経質な地金を相手にしても、相当に気が楽ですね。従って地金の仕上がりも、僅かに光り方の低減と引き換えに、相応の均一さを得やすいです。

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比較用に、もう少し硬くて砥粒の目が立って居る手持ちの砥石(以前、手伝っている方からサンプルに頂いた物)でも研いでみます。殆ど原石に近い状態でしたので、表裏に渡って削り出しました。

砥石の質としては、多少の難を抱える物です。砥面の層は斜めに合流して来ている部分も有りますし、其れ以外にも流れの向きが不均等だったり、酷くは当たらないものの数本の筋が入って居たりします。

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青1の光り方は、今回の持ち帰った二つを超える仕上がりです。前述の通り、難点も有りますが其れ等を避けたり、より状態の良い部分を選んだりすれば充分に満足すべき結果を得られます。

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青2の方も、光り方は向上しました。但し、砥石の研ぐ部分選びや研ぐ際の力加減・水加減・速度加減に留意を要します。

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やはり、此の地金を真に光らせるには超硬口の浅葱クラスによる研ぎが必要な様です。当然ですが、浅葱にも三つの個性の分布が有りますので、研ぎ目(擦過痕)の付き方・消し方は様々です。

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もう一つ、私の手持ちの切り出しでは神経質な地金を持つ物を挙げて見ます。

青紙の2号だったと思われる刃金に極軟鋼地金ですが、此方は組織が細かそうな割りに、地を引き易い印象です。硬さはヤワ目だと感じますが、やや粘りが強い様です。ですので、上掲の貰い物の砥石(最も良い部分使用)では鏡面まで今一歩、しかし目の立って居る砥粒の浅葱では地を引く厄介さです。

そこで下掲の、やや硬口~硬口の巣板で試すと、妥当な仕上がりと成ります。巣板ならではの滑走に加え、或る程度の泥も助けてくれて有り難いです。

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画像では判別不可能ですが、軟鉄部分は金属組織の模様が現れて居ます。砥面の硬さ・砥粒の細かさ・泥の出方・研磨力(摩擦力の働き方の種類にも因る、消しゴム的・鑢的・クレンザー的な違い)の影響で変化が。

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砥石本体のまま研ぐ場合は言うに及ばず、小割りにしても付き纏う相性問題ですので、今後も新たな砥石との出会い・その相性探しは永遠に終わる事が無さそうです。従来の鋼材でも、作り手と作り方で千差万別な上に、今後も様々な鋼材が出て来るでしょうから。

 

 

 

 

 

久々に砥石館へ(その他)

 

週の後半は、今後の予定を相談する為に天然砥石館へ出掛けたり、届いた司作包丁の調整に勤しんでいました。

砥石館イベントとして、直近で予定されて居るのは七月・八月の下旬のペーパーナイフ作り体験だったと思われますので、御興味のある方には、砥石館ホームページ等で情報を当たって頂けましたら幸いです。

 

 

奥の最大スペースの展示は、相変わらず壮観ですね。其の上、じわじわと内容の充実度も上がっている様子。マイナーな産地の砥石を追加して行く、不断の姿勢には感心します。

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購入可能な物品には、ミニチュア砥石も有るのですが・・・その台は館長の自作です。此れは以前から在った物とは言え、実際に使われている機械は初めて目にしました。

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其れが、この3Dプリンターです。機械の大きさなりのサイズに制限されるでしょうけど、かなり多様な形状も作れそうですね。

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研ぎ体験で使用可能な、人造・天然の各種砥石群が収納されているラックも健在です。

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引き継ぎ中の田中次期館長は、現館長の監修の下でラックの砥石を産地や層、硬さや細かさ等によるジャンル分けに余念が有りません。

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最近の追加で、珍しい砥石も。手引きの跡が側面に付いているので相当、古い物と御見受けします。

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帰る際には、但馬砥の切り落としも頂きました。過去に手に入れた但馬砥は、もう少し不均一な砥粒で柔らかく、色合いもグレーでした。対して、今回の物は本但馬と言われるそうですが、硬さと細かさが上回って居たり、色的には会津砥に近いです。

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裏の状態。

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但馬砥で研ぐ前に一端、柔らか目の伊予砥で研いで置きます。傷が浅く、均一な仕上がりです。但し刃金は、事前の鏡面仕上げの名残りで実際より光り気味と成って居ます。

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次いで、今回の但馬による仕上がり。より光り気味に寄って居ますね。面直しには、同じダイヤを用いていますので、結果の違いは砥石自体の硬さと細かさの違いでしょう。

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試し研ぎに用いた切り出しを再度、研ぎ直して置きます。先ずは対馬砥(硬くて細かめ)で。

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中山の巣板(カラスと薄っすらカラス)と戸前系のコッパで、傷消しを。巣板系では、やはりダイヤで泥を出す事で研磨力は向上させやすいですね。泥を流せば、光らせ易いので両方の使い方に対応可能で便利だと思います。

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最終は、水浅葱です。未だ、極表層の本調子でない砥面が続いて居ませんが、切れ・明るく細かい仕上がり共に充分です。

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やっと届いた司作です。三徳(鏡面仕様)と筋引きでしたが、刃先の調整が必要と判断しました。

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三徳・筋引きに共通した点として、刃元(顎から2㎝前後)が薄く鋭角過ぎ・切っ先が直線的(若干リカーブ気味)が挙げられました。

ですので、中硬の巣板スタートを予定していましたが対馬からとしました。ほぼ切り刃の角度のままで仕立ててあった刃先は、新聞の束の試し切りで不足が出た為、研ぎ角は左右から刃元・35度強、中央・30度弱、切っ先周辺・20度強を選択。合計で刃先角度は二倍と成ります。

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最終仕上げは、硬口~超硬口の中山の合いさで。

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筋引きも同じく対馬から。ただ此方は刃幅の狭さ故、刃先の強度としては若干の余裕が見られましたので、幾分は鈍角化を控えて置きました。

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同じく、中山の合いさで最終仕上げです。薄っすらとカラス混じりの砥石ですが最近、端っこに紫も出て来て面白いです。

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研ぎ上がりですが、糸引きレベルの調整ですので判別は不可能ですね。あ、双方共に、地金部分の研削痕・研磨痕が気に成ったので八枚の小割りで軽く撫でて置きました。故に、到着時の防錆油を塗られた状態よりも多少、均一には見えるかも知れません。

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刃先の調整を終え、近日中には御手元に届けたいと考えて居ますので御依頼を頂いた御二方には、もう暫くの御待ちを御長い致します。

直近で、通常仕様の三徳の御注文を頂きましたS様は、次回の到着時にはと期待しています。ただ、私が司作としては前代未聞の発注として河豚引きを頼んでいるのと、柳系統・副え鉈系統も有りますので、何れから来るのか不確定なのが申し訳ない所です。

数年前に此方(大阪)で購入し、ゲージとして送ったサンプルの河豚引きの里帰りと共に、様々な製品の早期の到着(困難)が待たれますね。

 

 

 

 

 

手持ちの本焼き包丁に合いそうな砥石のテスト

 

珍しく暫くの間、研ぎの御依頼が続いていたのが落ち着いて来た事も有り、手持ちの包丁と砥石の相性を確かめる機会だと考えました。手持ちの包丁と言っても、たかが知れているのですが年間を通して、余り使用する機会が無い包丁類は、結構な数に上ります。いや寧ろ、主として使っている包丁は殆ど決まっているのが現状です。

その使っていない代表が本焼きの二本なのですが、少し前、相性的に好適と思われる砥石を入手しましたので、試してみる事にしました。しかし、幾ら全体が鋼で出来ている(熱処理的にマルテンサイト未満のパーライト部分も有りますが)とは言え、無駄に刃金を減らすのは気が引ける部分も有りました。

そこで、料理(鳥牛蒡)の途中に試し切りを兼ねて使用してみる事に。御蔭で、目的には少々そぐわない形状にしてしまった部分も有りますが、まあ食べるのは自分なので問題無しです(笑)。

 

 

 

尺の柳と五寸五分の鎌型薄刃の二本、共に白紙の本焼きが今回、俎上に上げる包丁です。因みに過去の研ぎで仕上げに使った砥石は、神戸の削ろう会を見学した際に購入の奥殿産巣板、硬口~超硬口です。

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薄刃の方、研ぎ前の状態、全体画像です。

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同じく刃部のアップ。

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裏です。

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牛蒡の端切れを輪切りで薄く。

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千切りも少し。

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柳の方、研ぎ前の状態、全体画像です。

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同じく、刃部のアップ。

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裏です。

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人参での千切り。

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今年の山椒も出回り出したので?冷凍していた去年の分の山椒の実を解凍し、スライスに。

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途中で空腹を覚えたので、フランスパンとチーズを食べる序でにトマトも用意しました。折角なので、試しに此方は賽の目に。

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切るテストの最後は、氷を削って見ました。季節的には少々、早いですが・・・過去最大量を試すと驚く位、かき氷でした。

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硬さと意外な弾力に加え、金属にとっては低温脆性も関わって来ますので、対象としては結構、ハードな氷ですが刃先に損耗は無し。私の通常仕様である、切れと永切れの両立を目指した研ぎ方ですので、狙い通りの結果が確認出来ました。

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今回、最終仕上げに使って見た砥石。中山の合いさと見られる物、硬口です。

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薄刃の方から、丸尾山の本焼きの中継ぎに向く巣板各種の後、上画像の砥石で。

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研ぎ上がりです。

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同じく柳も。

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研ぎ上がりです。

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今回の砥石は、以前からの「本焼き用の最終仕上げ砥石」に比べ、やや硬口でしたので、複雑な面構成の研ぎ方をするには、薄い研ぎ斑が出易かったり、傷を消すのに時間が掛かったりしました。

ただ、時間を掛ければ傷が消えるに留まらず、より輝く研ぎ肌と鋭利な刃先が得られるのが分かりましたので、従前の砥石の代替よりも、使い分けで活躍して貰う事にしました。

 

 

 

形状の最終仕上げ・傷消し・研ぎ肌の均し・切れの各要素を兼ね備え、最も重宝して来たのは下画像の中山です。これ等の後継と言うか代替に成る砥石も、おいおいに追加したいと思っては居るのですが・・・殆ど同じ性格の物を見付けるのは、中々に難しい様ですね。

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他にも既に期待出来そうな物は、有るには有るんですが何となく、使い易そうなのは「もっと難儀な局面で使おうかな」との思いが拭い切れず(笑)。ついつい取って置きたくなったりで。

従って現在、本焼き用の主力として居る砥石達が、大幅に擦り減る迄に相応の砥石を追加できることを目指し、引き続き選別に出掛けねばとの思いは持ち越しですね。

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先週末の砥石館

 

先週末は、砥石館でイベントでした。アルミの丸棒を鍛造してのペーパーナイフ作り、親子で参加型の例のやつです。

 

到着してみると、すっかり冬らしい外観に。

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イベント前の時間に、少し近況を伺ったり。

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直前のタイミングで、館長は伊予砥の採掘元へ出掛けていたそうで原石も仕入れられていました。

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切断する機材も充実して来ていただけに、切り分けも問題が無さそうです。

 

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早速、一つ研いで見て欲しいとの事で、ダイソーの包丁で。硬過ぎず柔らか過ぎず、適度な粒度でも有り研ぎ易い質です。

過去の少ない経験では、伊予砥の白い硬口は備水の超硬口並みにシャリシャリで滑り勝ち・茶色多目は但馬砥並みにザリザリと荒い感触だとの印象でしたが、丁度その中間に感じます。

 

 

そうこうして居る内に開始と成り、所々で補助しつつの鍛造。

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薄く叩き伸ばした時点で、ベルトサンダーによる削り出し。

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着色前のアルマイト処理。

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着色⇒封孔

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ダイヤ砥石から青砥での研ぎ。

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同じく、鍛造から研ぎ迄ですが、此方は形状から拘りが強く、切れにも妥協は無し。

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次回イベントである、砂型鋳造による鏡作りにも参加される程、熱心に取り組まれています。同様に熱意に溢れる方の中には、ペーパーナイフを作り終えるや否や、御持参の包丁研ぎに勤しむ方も。参加人数は幾分、少なかったですが今回も、御参加頂いた皆様には感謝です。

 

 

 

 

帰宅後、上野館長から分けて貰った伊予砥を何時もの切り出しで試し研ぎです。

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硬目の青紙一号の刃金、鏡面状態からの研ぎでしたが、滑り過ぎずに研げますし、地金は更に良く下ろしています。人造の中砥と違って傷も浅く、其れを消す労力は少なくて済みます。

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此処からの研ぎ直しは、切り落としや手の平サイズで。大平の蓮華入り巣板やや硬口から。

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中山の天井巣板、硬口ですが当たる筋を避け損ない、地金に跡が残って居ます。

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中山の巣板、やや硬口と硬口で刃金の研磨痕と地金の跡を薄く。

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水浅葱で仕上げです。若干の粗は有りますが、自分用の普段使い・試し研ぎの用途ですから良しとします。精度を高く求めるならば、流石に二回りは大きなサイズ(出来れば相性にも優れる)の石を用いる事に成ります。

砥石、それ自体が良質で有れば、相性的に特に好適と迄は行かずとも、個性の邪魔をせずに研ぐ事で相応以上には仕上がります。ただ、当たる筋や不純物などが有る場合は、避けたりいなしたり除去する等の対応も必要に成りますが。

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千葉県から西洋剃刀の御依頼

 

千葉のH様から、かなり珍しいと思われる西洋剃刀を送って頂きました。珍しいと言うのは其の素材で、刃体全てがダマスカスで出来ていました。私が流行りに疎いだけな可能性は有りますが。

近年のダマスカスと言えば、包丁・ナイフ類を連想しますが其れ等は、ラミネート的に芯材を挟み込むだけの物が殆どで、例外的なのはコアレス(V金の10と1でしたかの積層)だけの印象で。

あと、届いた時点でも結構な切れが出ていましたが・・・御希望としては、刃線を直線的に・刃先(小刃と言って良いのか?)の幅を均一にとの内容で。ビニールテープを同梱して頂きましたので、其れを使いつつ研ぐ事に。ただ、一度でも使い出せば、角度が変わるので使わずに研ぐ選択は無しに成りますね。荒研ぎから遣り直すなら別ですが。とは言え、テープの厚さ・粘着剤の精度は如何ほどかと若干、気には成りつつ。

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上画像、研ぎ前の状態。特に悪いとも見えない様な(笑)。剃刀のベテラン方やマニアレベルの方々から見て、何処まで改善できるか定かでは有りませんが、幾らかでも御希望に近付けばと。

 

 

 

先ずは人造の1000番、研磨力と平面維持を兼ね備えた物。刃線を直線に近付けつつ、研がれた部分の幅の様子を観察。

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次に、同じく1000番ですが傷が浅く細かい物。此処で大まかな形状や角度が決まります。研がれた部分の幅は、一定以上には揃わない事が判明。特に、左側面ですね。研ぐ前に触察した時点で、薄々は感じていましたが、ホローグラインドの精度的な問題に起因しています。厚みの残存箇所は、他の部分よりも同角度で研がれても幅広に成ります。

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人造の3000番、研ぎ目を細かく本格的に切れを出します。

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天然に移行して、赤ピンの中硬と奥殿の天井巣板の中硬。

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中山の巣板を二つ三つ。

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中山の白浅葱からの水浅葱。

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研ぎ上がりです。刃線が或る程度、直線に近付いた時点で切れが出ました。そして刃先の幅を均一にするには、通常の研ぎのみでは限界が有る事が分かった為、研ぎ減らすのは最低限にする事を優先しました。

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拡大しても、刃先にダマスカス模様が見えます。やはり不思議な感じがしますね。

 

此の度、H様には貴重な剃刀を研ぐ機会を頂き有難う御座います。本日、御返送しましたので、到着後に御使用の上で問題が無いか御確認を御願い致します。何か有りましたら、御気軽に御連絡下さい。

(メールにての御感想に加え、鋼材のデータも送って頂きました。XC100とXC130で、其々が炭素量1と1.3も入っている様です。HRC64も狙えるみたいですが、研いだり切ったりした限りでは、少しソフトな印象で、研ぎ直し易さを考慮かなと。錆に強かったのでセミステンレスかとも思われましたが、純炭素鋼で。)

 

 

 

 

剃刀を砥ぎ上げた次の日は、砥石館のイベントに向かったのですが・・・途中で田中砥石に寄って見ました。以前から砥石の御相談を頂いたり、推薦砥石を御送りしていた東京のH様との会話により、先々には水浅葱も幾つか用意しておこうかと。

其の時には随分と良さそうな原石を出して貰え、田中さんの兄弟子に当たるんでしたか?の方が、其処から大きな砥石を切り分けて欲しいとの流れで。私は其れではと、残りの分から大き目のレーザー型を希望して置きました。出来れば、自分用も含めて二つは欲しいですね(笑)。

当日は又別に、少し変わった性格の水浅葱も手に入りました。白っぽい色調ながら、モヤモヤした模様の有る物ですが可成りの硬口です。

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先ず試したのは何時もの切り出しの一つで、地金の性質が気難しく無く、仕上がりに難が少ない物。この時点では、普通に研ぎ易くて良い仕上がりの砥石だなと(若干、食い付きが強過ぎる気も。そんな時に奥殿の水浅葱は、粉末っぽいパサッとした研ぎ感の物が共名倉に好適です)

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只でも下画像の様に、少し当たる筋・凄く当たる筋の二つを物ともせずに仕上がる様な切り出しでしたので、余計に美点が引き立ちましたが・・・切れ加減が今一つ。まあ、普通に近い性能なのですが、「青紙二号・此の製品の製造工程」との相性かな?と。

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続いて、青紙一号と若干の気難しさを見せる地金の切り出し。此方も刃・地共、相当に上手く仕上がります。切れは幾分、向上しました。

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最後に、一番の新入り且つ、最も砥石を選り好みする地金の切り出し。未だ面が出揃って居ませんが、中硬の巣板でしか地を引かずに研ぐのが難しい性格です。浅葱・水浅葱は言うに及ばず、硬口~やや硬口の巣板・合砥程度でも(筋や砥面の不均一が有れば更に)十字傷の様な状態に。

しかし此の浅葱では症状が出難く、研磨に時間は掛かるものの上手く仕上がります。(ダイヤでの泥出し・奥殿の水浅葱による共名倉を併用で効果大)因みに此の切り出しも青紙二号と思われますが、今回の三本中では一番、切れが出ました。

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他にも、炭素鋼・ステンレスの洋式刃物で試すと抜群の切れが。総合的に見ると、切れに関しては平面の刃物よりも立体的な刃先を研ぐのに向いている印象ですが、平面の刃物を綺麗に仕上げる性能にも特化している様です。仕事の上では、そう言う砥石も必要だなと考えて来た訳ですから、良い出会いでは有りました。

しかし、自分としては珍しく尖った性格の砥石を選んだ物です。従来から、天然砥石は其々が唯一の物で相性次第で結果も変わると説明して来ましたが、半分は保険みたいな感じでの補足でした。基本的に私が選ぶ砥石は、意図しなければ守備範囲の広いマルチパーパスながらも高性能との認識でしたし、実際もそうでした。従って平面の刃物を磨くのを得意とする此の浅葱は、手持ちの中では少数派な、専門的な役割を持つ石でした。

 

 

オマケに、細身の巣板も質が良さそうでしたので(笑)。

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浅葱と遜色の無い仕上がりで、硬口の高性能な巣板で在る事が分かりました。そろそろ、周辺にも試掘が進みそうですが巣板の良い物も、ついつい気に成りますね。

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