前々回に引き続き

 

前々回の記事で記載しました古い正広牛刀の持ち主、K様のお知り合いであるY様より、「それに匹敵する位に古い包丁ですが。」と研ぎの御依頼を頂きました。

下の画像がそれですが、購入は二十年ほど前になるとの事でした。状態としては、あまり研ぎ直し等されていない様子でしたが、刃先の歪みや無数のごく小さな欠けがそれなりの年月を感じさせるものの、磨耗自体は案外少なく感じました。

これは、包丁自体の鋼材の仕上がりとして、硬さ・粘りのバランスが割り合い優れて居た事と、これを含めて複数本で運用して来た為、負担が分散したのだと思われます。

 

 

 

研ぎ前 刃体の画像

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研ぎ前 刃先の画像

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研ぎ前 刃先拡大画像

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何時もの様に、汚れ・研磨痕を耐水ペーパーと研磨剤で軽く落とし、GC240番の荒砥からシャプトンの1000番、2000番に繋ぎ、前回購入の白巣板で大まかに傷消しと角度調整をします。あとはステンレスの定番コースの黒蓮華(今回は軟らかめ)、大谷山で仕上げました。

荒砥の段階では、やや「粘りが強すぎ・粗めの返り」を感じ、せいぜい6Aレベルの鋼材かな(其の割にはやや硬め?)と思いましたが、2000番以降は組織の細かさがはっきりしてきて、8Aと同等以上の切れが得られました。これは、荒砥・中砥・仕上げ砥の各段階で、徐々に厚みや角度の変化を付けつつ研ぎ進めている効果を、工程が進む度に新聞紙の束を切り分けてテストする事で確認できます。

 

 

 

研ぎ後 刃体画像

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研ぎ後 刃先画像

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研ぎ後 刃先拡大画像

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今回のY様は、ほぼ同ジャンルながら他にも仕様の違う包丁をお持ちなので、それぞれ刃の硬さや厚み等に応じて、作業内容を割り振りすべきというアドバイスに御納得頂けました。例えば今回の包丁は、軟らかい物を綺麗に切り分ける専用にする。そして硬い物・半冷凍の物・野菜の根(場合によっては土付きかも)のように刃の負担になる対象には、刃が厚め(頑丈)・焼きが甘め(欠けず捲れて研ぎ直し易い)な包丁を用いるといった具合です。

今後は、上記の内容を念頭に御使用頂ければ研ぎ直しのサイクルも長く設定でき、快適な環境で調理作業に取り組めると思います。Y様、この度は有り難う御座いました。

 

 

 

 

新しい道具

 

22日の日曜に、亀岡に行って来ました。大方の目的はやはり砥石探しだったのですが、お待たせしている方には申し訳ない結果で、ご希望に副う物は採掘に時間が掛かりそうです。

代わりに、自分用の物として変形の原石ですが、まずまず厚みのある蓮華混じりの巣板を見つけました。長さで16センチ、厚さ6センチのサイズがあり、面直しの際に自分は電着ダイヤを下に敷いて砥石を動かす為、やや負担になってくる重さです。勿論、刃物研ぎの最中に上下の向き変えでも少し気を使います(泥が付いていると良く滑ります)。

しかし、かなりの砥粒の細かさ・その割りに目の立った感触・中庸な硬さの砥面を評価して購入しました。硬さと目の立ち方から、圧力とスピードを加減しなければ傷が入りやすい可能性も考えましたが、其の分研磨力が有れば中継ぎとして良いし、鉄分を吸って硬さが増せば改善されるのは経験上分かっていたので問題にはしませんでした。

 

砥面

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尖った方の側面  巣が平行に

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広い方の側面   巣が見え難く

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砥面の蓮華が多い部分

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裏側

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裏の蓮華の多い部分

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この砥石も、加工場に在った物をそのまま持って来たので上下の面は平面ではありません。特に底面は、面付け機で巣の層を粗方落とした上部と違って切り出したままです。そこで上は巣の名残を落とす為・底は座りを良くする為、何時もの様に電着ダイヤで削り落としました(直線では無い部分の面取りは、ダイヤシャープナーを使用です)。

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右半分の巣が無くなった辺りで試し研ぎをした所、まだ巣の影響があるのか砥粒の目が立っている所為か、刃金・地金ともに傷が消しきれない印象。しかし其の分、前段階の傷は速く消えるとも言えそう。

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次の日、更に砥面を均しつつ包丁でも試してみると、硬めの刃金では結構光り気味に仕上がる物もあり。前日の切り出しで再び試せば、確かに地金では変化が薄いものの刃金は最終仕上げでも良いかと思える仕上がりでした。巣の影響の多寡だけなら地金の変化(研ぎ目の細かさの向上)ももっと大きい筈で、これは初期の予想通りの展開だと思われます。

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念の為にマイクロスコープで確認しても問題ない様でした

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もう一つ、以前から興味のあった道具を試す事が出来ました。パールクレンザーがそれで、月山さんから使っていて性能が良いと何度か話に出ていましたが、大容量且つ結構な値段と言うことで、其の内に買う事もあるだろうと保留にしていました(そう勧める本人はユニークな入手方法で調達できているそうで良いなと思いつつ)。

それが帰宅したらポストに入っていたレターパックから出てきました。かずかずけん様から御裾分けのようで、早速有り難く使わせて頂きました。鋼のペティに付いた変色レベルの錆に対して試しましたが、かなり確り落とす割りに傷が付いたり無闇に光らせる訳でもなく、扱い易いものでした。

ペティは巣板・千枚(やや粗い)・大谷山(軟らかい)の其々、小割りした砥石で側面も磨いている仕様なので、これまでの通常のクレンザーは言うまでも無く傷が入るし、クリームクレンザー(各種研磨剤含む)でも表面の質感・光り方が変わります。其れが出ないのは、パールクレンザーの成分が珪酸系鉱物(天然)、あとは活性剤(陰イオン系)との表示があるのでその組成(研磨剤としては天然素材のみ)に因る物でしょう。ある意味、これも一つの天然仕上げの範疇に入るのかも?と思うと楽しい気分になりますが、実際にこれで処理した刃物で食材の味に変化があるのか試してみるのも興味があります。

かずかずけん様、この度は有り難う御座いました。ただ、余り気に入ってしまうと、自分もゆくゆくは大容量を大人買いする事になるのかと不安も残ります・・・。

 

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正広の古い牛刀

 

知人の主婦から、家に在った古い包丁が出てきたので研いで欲しいと依頼を頂きました。

渡された包丁は、やや旧型と思われる正広の牛刀で、刃の磨耗や欠け・ある程度の錆等は想定内でしたが、過去の研ぎによって顎の削りすぎ・切っ先の研ぎ残し・中央部のタナゴッ腹+切っ先側三分の一が直線気味となっていました。

 

左側面

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刃部のアップ

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右側面

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刃部のアップ

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刃先拡大画像

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先ずは、GC240番で欠け取り・刃線の修正。次に何故かキングの1000番。普段ならステンレスはシャプトンで行くのですが、現物がかなり片刃仕様だったのでつい無意識に。

この段階で刃の通り(対象に直圧で切り込む)と抜け(スライドさせての抵抗)をテスト。OKだったので側面の傷・研ぎ目・汚れ・錆を軽く耐水ペーパーと研磨剤で落とします。

ここからは天然です。「白巣板・黒蓮華」の柔らかめと硬め

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敷き内曇り

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合いさ八枚風(最新型)

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田村山・戸前

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大谷山

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最後の二種には、田村山の切れ端の柔らかく細かい方を共名倉に

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研ぎ上がり

左側面

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刃部のアップ

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右側面

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刃部のアップ

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刃先拡大画像

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正広は、数年前に自分でも身内用に道具屋筋でオール金属モデルを買った事があります。それにはモリブデンバナジウムと表示があったと思いますが、今回のはダイドーステンレスとの刻印があるので、大同特殊鋼製の鋼材なのでしょう。研いだり切ったりした感覚から、ナイフ用(一部包丁にも使用)鋼材で例えれば、前者はやや柔らかい440Cで後者はそれより少しだけ硬い8Aといった所です。僅かな差ですが、「滑らかな細かさ」と「カリッとした掛かり」で性格が違う様です。

研ぎ上げた牛刀は特に使う予定や目的が在る訳では無く、使うとしても専ら母上だそうです。しかし、これは仕舞っておくには勿体無い性能(最近のスーパー・ホームセンターの中級品には遅れを取らない)。且つ肉・魚用に向く片刃仕様というキャラが立った包丁なので、ハムや塊肉のスライス(牛腿肉のタタキとかローストビーフ的な物)・柵から刺身を引くといった活躍の場を設けて頂けたらと思います。現在、普段使いの包丁が、左右均等の刃付けによる三徳や牛刀で、特に切れ味が良い訳では無い場合、上記の使い道でこの包丁は別物の働きをしてくれるでしょう。更にステンレス同士の比較であれば、軽く磨いた側面と天然砥石で仕上げた刃先による、味の向上にも貢献が見込める為、包丁・使い手の双方が今回、出てきて良かったと感じて貰えるのではと思います。是非家庭内で、特徴を活かしたジャンルで活躍する専用包丁としての道を歩んで欲しいです。