作業場に置いている包丁の手入れ

 

久々に、手伝い先の作業場に置いている包丁の二本を持ち帰り、手入れをする事にしました。一本は16cm×3.5mmの骨スキ改(手持ちには4.5mmバージョンも有り)、もう一本は24cmの牛刀ですが、前者(初期から相当にベタに仕上げて有りました)は切り刃の形状を抜け・走りを意識した仕様への研ぎ直し。後者は、刃先周辺の厚みが若干ながら増して来ていたので、少し広範囲に厚みを抜く事にしました。

 

 

先ずは、作業内容的に大掛かりと成る、牛刀の方からです。

現在の状態は、刃先だけの軽い研ぎを何度か繰り返す事により、主変部を含めて幾分、厚みが出て来ています。切る対象に因っては別段、不自由を感じる程では全く無いのですが、私の好みの状態に戻すだけで無く、より切り込み・カット仕事の仕上がり向上を目指す為です。

つまりは切れの回復に留まらず、徐々に完成度を高めるつもりで先延ばしして来た形状の不適切さの完全な解消を狙って、刃体の厚さ・角度変化の仕上げもしようかと。

因みに今回は、洋式の両刃構造を維持した厚み抜きを選択しましたが、刃体側面の全体と言わずとも大部分を削る作業は中々に大変ですので、もっと狭い範囲を切り刃的に削って和式に近い両刃にしたり、(芯材が中央に存在する三層利器材の類では不可能ですが)聞き手側の側面にのみ切り刃的な刃を付ける等の方が効率が良いと思われます。ただ片側のみの切り刃だと、切り進む時に逆側へ刃先が流れる傾向は付いて回りますが。

 

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峰側の四分の一を残して、残りの部分を刃先方向へ向けて荒目(120~180番)の耐水ペーパーを用いて厚みを抜いて行きます。中央部分は緩斜面、刃先へ向けては急斜面とのイメージです。勿論、切っ先方向へも厚みを抜きますが、此れ迄に残存していた切っ先手前の頑固な部分を念入りに減らしました。

逆に、刃先最先端に近い部分は不必要に薄く成るのを避ける為、1.5mmから2mm程の幅で、削らない様に留意しました。

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次いで、中目(240~400番)の耐水ペーパーで傷を浅くしつつ、全体を均して行きます。

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1000~1500番と順次、細かい耐水ペーパーで進めて行った後は、砥石で。此処までで刃先以外はフラット気味の薄い状態に成って居る上に元々、刃先の損耗は皆無に近く、またペーパー掛けでも不用意に接触しなかったので対馬砥石からです。精々が、狭めの小刃と言った範囲ですので研ぐ面積は小さいのですが、逆に数段階に及ぶ角度の研ぎ分けは其の分、より明確かつ精緻に行なう必要性が有ります。

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梅ケ畑の並砥~戸前と思しき中硬で、研ぎ目を細かくしつつ刃先最先端へ向けて漸次、鈍角化と刃先方向への鋭角化を進めます。

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やや硬口の中山の巣板・並砥で最終仕上げです。鋼材と熱処理の加減次第では有りますが、組織が細かくて硬さ・粘りのバランスに問題が無ければ、細かい砥粒・硬い砥面の砥石で仕上げる方が切れ・刃持ちに有利です。

刃先の条痕(研磨痕)が大きな場合は、刃線に並ぶ頂点を形成する山の数が少ない、つまり接地圧が高く摩耗が速い。逆に研磨痕が微細な程、山は小さいながら数が多く成るので接地圧が低く、摩耗が遅く成ります。当然ですが、切り込む対象が(意図的に固定された場合を除き)柔弱で不安定である程、緻密な刃先が求められます。大きな条痕を残したままでは接触する面・点の切れ込みで、より長いストロークを要したり、大きな山の頂点を食い込ませる必要から、より強く対象に押し付ける必要が有る為です。

まあ、硬い対象に付いても、荒い刃先では刃先の摩耗が速いのは変わりませんが、(周辺に引っかかる摩擦が強い為)刃筋を通す際の乱れが許容されたり、(細かな欠けに等しいレベルで荒いならば)切断面の状態を問わない限り相応に永く切れると言えなくも無いかも知れません。

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研ぎ上がりです。

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次は骨スキ改を320番からです。ほぼ完全にフラットな切り刃なので、使い手の好み次第で如何様にもアレンジが容易です。私の標準的な研ぎ方として鎬筋付近は、なだらかな角度変化。中央部分は急激に厚みを抜いて行き、刃先手前は更にフラットに。其の上で全ての範囲を切っ先に向けて鋭角化としました。

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次は1000番と3000番で、傷を浅く。

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天然に移行し、対馬ですが・・・想像以上に相性に優れ、切り刃全体の仕上げは対馬で丁寧に進める事で、完了としても良さそうです。

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最終仕上げは、梅ケ畑や中山の水浅葱の系統が良さそうで、逆説的に先輩が製作するVG10の組織が細かい(かつ硬さと粘りのバランスも良好)事の証明にも成りますね。荒い組織の刃物では、却って一段階・二段階ですが落とした粒度の砥石の適正が高い印象ですので。

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研ぎ上がりです。

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これで又、当分は軽いメンテナンスのみで維持が可能に成り、更に基本性能は、此れ迄以上の物を見せてくれるでしょう。

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骨スキ改を実戦投入しての感想は、正に期待通りでした。従来と同様、プラスチック真名板による刃先の損耗は問題に成らない事を確認。

上ミノの切り込み・カットは正直、初期段階の切り刃に小刃研ぎ(角度の研ぎ分け済み)だけでも充分に快適でしたが今回の研ぎによって向上、そしてアカセン・テッチャンの切り込み・カットは別物に成りました。

特にテッチャン(盲腸を含む)の、性状の異なる、しかも双方共に難易度の高い両面の表層のみに、浅く均一に切り込みを入れるのには貢献度が大でした。コリコリ(大動脈)の繊維質の薄膜も切り残しが出難く、柔らかく成りつつあるマルチョウの切り込みも、苦労が無くなり効果覿面でした。

 

 

 

 

現在、ホームページ不調の為、御面倒を御掛けして居ります。研ぎの御依頼・御問い合わせの方は、下記のアドレスから御願い致します。

togiyamurakami@gmail.com

 

 

 

 

 

直近で到着した包丁の研ぎ、後半

 

次の研ぎですが、実際に触るのは私も二回目、研いで見るのは今回が初めてになると思われる、司作の菜切りです。

類似の経験としては、数年前に一泊二日で日野浦さんの所で御世話に成り、鍛冶体験として菜切りを作らせて貰った際の物だけです。

其れが下掲の参考画像です。

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今回に送られて来た菜切り、研ぎ前の状態、右側面。

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同じく、刃部のアップ。画像手前の左寄りに、小さな捲れが数ヶ所、確認できます。

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左側面

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研ぎ始めは、成の中砥の粒度別の二種類です。司作の切り刃は相当にフラットかつ薄目ですので、特に初期からは出来るだけ厚みを減らしたくない点、そして研ぎ目は細かく仕上がって居るので何段階も(荒い方に)戻って研ぎ直す必要を感じない為です。

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下画像は、少し前に田中砥石で薦めて貰った試作品的な砥石です。天然砥石の粉末を豊富に含んだ砥石ですので、当たりがソフトで仕上がりも相応に細かい印象です。

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其れを用いて更に、不必要に減らす事なく、研ぎ目を消しつつ切り刃の構造を調整して行きます。鎬筋から刃先周辺までは、殆どベタに近い形状を活かしつつ、切っ先方向へテーパー化(初期の切っ先側の数cmは、やや厚みが残存)。

刃先数ミリの範囲では、最先端に向けて漸次、鈍角化かつ切っ先方向に向かって鋭角化します。

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天然に移行し、対馬です。切り刃構造全体の精度向上、加えて研ぎ目を小さく。

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丸尾山の蓮華巣板で仕上げ研ぎ。

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中山の戸前・巣板の中硬で最終仕上げ・・・と思いましたが、もう一段の切れ向上を見込めると判断。

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やや硬口の中山の巣板、戸前っぽい物で仕上げました。

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研ぎ上がり、右側面です。

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同じく刃部のアップ。

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左側面です。

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T様には、此の度も包丁の発注・研ぎの御依頼を頂きまして、有り難う御座いました。私の手持ちから同時に御送りしました、六寸の三徳は今回の菜切りとは地金・刃金ともに異なりますので、切れ・永切れ以外にも研ぎ肌の違いとして現れると思われます。其の辺りも楽しんで頂ける方だと感じていますので、何方の包丁も可愛がって頂けましたら幸いです。

 

 

 

現在、ホームページ不調の為、御面倒を御掛けして居ります。研ぎの御依頼・御問い合わせの方は、下記のアドレスから御願い致します。

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直近で到着した包丁の研ぎ、前半

 

数年前に、司作三徳五寸五分の注文を頂いた東京のS様の分と、北海道のT様の分の五寸五分の菜切り(此方は案内が来たので御紹介)が到着。ほぼ時を同じくして、関の先輩から名古屋のM様の骨スキ改と、自分用の骨スキ(世話に成って居る人へのプレゼント用)が届きました。

 

 

司作三徳

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司作菜切り

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骨スキ改(刃渡り21cm・ココボロハンドル+黒スペーサー・ステンレス+ニッケルシルバーのカシメの表裏ミラーフィニッシュモデル)

此れのバランス(刃厚を含めて確りして居るのでアウトドア風味を感じる程)と、使用されているココボロの質の良さを目の当たりにして、次の注文で自分用に21cmの筋引きを少し薄目の同じ仕様でと、頼んでしまいました(笑)。

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骨スキ(ブラックマイカルタ+赤スペーサー・ステンレスカシメ・表裏ミラーフィニッシュモデル)

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送られて来た二本の司作ですが、何方も研ぎを御希望で。とは言っても、何れも両刃の和式ながら、三徳は刃先調整のみ・菜切りは切り刃の全体の研ぎです。

T様の方は何時も通りですが、S様の分は(標準的な司作は汎用を考慮すると鋭角に過ぎるキライが有る為)研ぎ依頼を頂いて良かったなと。何故なら今回の刃先は二本共、小さいながら捲れが数か所に点在。恐らくは柄入れ・保管・輸送の段階の何処かで何らかの接触が有ったものと思われます。

あと、三徳に限っては刃先の一部に、鍛え傷と思しき箇所も見受けられ、研ぎにより切れには殆ど影響が無くなる迄、持って行けたので良しとしました。(S様には報告して承認済み)

 

 

 

三徳の研ぎ始めは、対馬からです。薄目設定である初期刃付けの切り刃に対し、より実用的な刃先角度(刃元片側40度強~切っ先側片側30度弱)で、糸引きレベルの研ぎですが、捲れが消えてからも一か所、手強い欠けに見える部分を発見。

周辺の状態を含め、其れが鍛え傷と見受けられる物でしたので、刃先最先端に影響が無くなる迄、通常よりも研ぎ進めました。

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愛宕付近と思われる砥石で仕上げ研ぎ。

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中山の合いさっぽい物で、最終仕上げです。

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研ぎ上がり、右側面です。刃先の糸引き程度では、違いの判別は困難ですね。

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刃部のアップ

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下掲の画像の左寄り、刃線上の側面に見える錆や欠けに酷似した部分の横、右方向の範囲にも痕跡が確認出来ます。まあ、この後は研ぎ進めて行けば消退するだけで在り、現状でも過度な衝撃などを与えなければ強度的にも不安は無いと考えます。

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左側面です。

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次は骨スキ改では無く、正真正銘の骨スキです(笑)。骨スキ改は、基本的にガラスキ程には幅広で無く、やや筋引きに寄せたデザインと成って居ます。その意味では此のモデルは本家本元の骨スキ(手伝い先で使用中の正広製と同クラスの最小サイズ)と言えます。

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研ぎ始めは、ダイヤからです。別に、研がずとも当分の間、其の儘で使える程度には刃が付いていましたが、念の為にと。敢えて理由を挙げるなら此のシリーズ、始めの0.5mm程が研ぎ減ってからの切れを知った後では、早く本領を発揮して欲しくなります。

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人造の1000番と3000番で。小刃に近い幅ですが、切っ先方向へ鋭角化しつつも刃先へ向けて三段階の鈍角化のハマグリに。

刃元付近の切り刃には、完全なベタ研ぎよりも僅かに厚みが(他の部分に比べ)残って居る様子にて、浅い擦過痕が。目の細かいペーパーとダイヤモンドペーストで粗方は見掛けを整えて置きました。

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対馬で大まかに傷を消します。

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馬路で更に細かく傷消しと、精度の高い刃先の形成です。

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中山の巣板、やや硬口で仕上げ研ぎです。

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同じく中山の巣板層の産ですが、戸前に近い質の物で最終仕上げとしました。

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研ぎ上がりです。

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東京のS様と名古屋のM様には、此の度の包丁の御注文を有り難う御座いました。(M様には、此のモデルで問題が無いか確認中ですが)もしも御手元に届いた際、気に成る点など有りましたら、御知らせ頂きます様、御願い致します。

北海道のT様の分の菜切りは、後半として次の記事にての記載に成ります。

 

 

 

 

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