群馬県のY様から、ヘレのナイフ(御友人作)を御送り頂きました。ヘレのファルクニーベンのブレードを使って、との事だったと思いますが、ブレード側面にはノルウェーと在った様な?確かファルクニーベンはスウェーデンでしたが、繫がりが有ったのでしたか・・・まあ、良い品であれば出自を問うのは野暮と言う物でしょう。
研ぎ前の状態。切り刃は殆ど初期状態の儘で、小刃を或る程度、研ぎ進めた様子です。やや厚く成って来た小刃の部分の強度を活かし、(サイズの割りにはハードな使い方である)バト二ングをするとか、ガシガシと木を削る作業には支障が少なそうでは有ります。
ただ、厚みの有る対象への最初の切れ込み・走り・抜けも考慮に入れるなら、そもそも鈍角目の切り刃・厚く成って来た刃先・一定角度の切り刃と小刃、の三点が気に成ります。
研ぎ方の御好みを窺った際、任せるとの事でしたので、私は強度(永切れ)と切れの両立を目指している点・研ぎ乍らの(砥石の番手其々で)試し切りを踏まえて、鋼材と熱処理の結果としての耐えられる刃先角度の選定をしている旨、御伝えした上で取り掛かりました。
峰には損耗が見られますね。
御要望としては、ファイヤースチール使用時に使える様、峰の面を平面に・側面との角を直角に。そして刃の研ぎ直しでした。完成品のブレードの背を精密に研削可能な設備は持ち合わせませんので、似通った自分のナイフを用いて、手作業による対応策を探りました。
モーラのコンパニオンシリーズは、峰の面も綺麗に出ているのに対して、ロバストの方はプレス加工時の儘の凹面に成って居ます。下画像では、左方向から型で抜かれた状態でしょう。
勿論、二本共です。
其処で、ダイヤモンド砥石を用いて削って見ます。その後、番手を上げて行き最後はペーパーで。
削った序でに、ストレート過ぎるブレードバックを、切っ先寄りの四割ほどの範囲で軽くドロップさせました。更にオマケとして、切っ先手前の峰の面取りも。加えて、其の部分の峰は(折角、平面にしましたが)改めて丸みを持たせました。鉛筆を削る様な使い方で、ウィークハンドでの後押しを想定しての事で、エッジが立って居ると皮膚への負担と成りますので。
上記を踏まえて、ヘレに取り掛かります。同じくダイヤの低番手から。
次に切り刃もですが、初めは小刃のみの研ぎで様子見しました。ところが、やはり切れに不満が出ましたので、元来の小刃の幅より少々、鎬を上げる程度に研ぐ事に。此の手のナイフに特有の傾向?が見られる、切っ先カーブから先が鈍角な切り刃と成って居る点も改善。
人造の320番で、研磨痕を浅くしつつ、僅かに切り刃に切っ先方向へのテーパーを付けます。鎬付近は、ややふっくらで強度を稼ぎつつバト二ングでの楔効果を狙い、切り刃中央はソコソコ厚みを抜き、刃先までフラット気味に研ぎます。
1000番と3000番で、更に傷を浅く。
天然に移行し、対馬で。切り刃の面の繋がりを滑らかにしつつ、切っ先方向へのテーパーの精度を向上。
丸尾山の蓮華入りの白巣板等で仕上げ研ぎ。
中山の硬口の巣板で最終仕上げです。
と思ったのですが、切れ加減が若干サッパリしていたので、粘っこい掛かりを求めて、合いさのカラスで刃先を2~3ストローク。
研ぎ上がりです。
今回は、御聞きした御要望に加え、ナイフ自体の現状から推し量った使い方に適した仕様にしたつもりでいます。Y様には御試し頂いて、問題が無いか確認を御願いしたいと思います。もしも不都合が有りましたら、刃先角の調整等の対応をさせて頂きますので、宜しく御願い致します。
此の度は研ぎの御依頼、有り難う御座いました。