カスタム包丁シリーズ?の到着

 

関の先輩から、注文していた包丁達が届きました。私が服部刃物に居た時からの仲で、当時から丁寧な仕事だと感じては居ましたが後年、僭越ながら更に技術の向上が見て取れます。

今回は合計で六本を依頼したのですが、其の内の二本は自分用です。前回の分の内、骨スキ改の長い方(18cm×3.5mmの刃体+ミラーフィニッシュ)も欲しく成り、追加してしまいました。ハンドル材は紫檀・黒檀も良かったのですが、偶々に提案された中で興味を引かれたパープルハートです。カシメはステンレス+ニッケルシルバーとしました。

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もう一本は前回同様、刃渡り16cmながら厚さは3.5mmとしました。手伝い先で使う想定ですので、出刃要素は必要最低限かつ長時間の使用が見込まれた事、更には市販品のプラスチック製の鞘に合致する様にです(4mm厚では無理だったので)。

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下画像は、左が16cm×3.5mm+ブラックマイカルタハンドルで、右が以前の16cm×4mm+紫檀ハンドルです。

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双方、自宅でも作業場でも、特に肉類の切り分けで活躍してくれています。最近は両親用のハラミ、自分用のココロを大人買い?して居るので助かります(手伝い先に感謝ですね)。

余分な脂肪を切り落としたり、柵取りするだけなら筋引き・牛刀で良いのですが、特に余り身離れが良くないメンブレン等を剥がす際に便利です。他にも自宅では対象にしませんが、上ミノ・アカセンの筋繊維への切り込み、てっちゃん・こてっちゃん・アカセンの軟質面に皮一枚への切れ目、コリコリ(大動脈)のガーゼ風の繊維膜を剥がすのにも。

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因みに先輩によると、焼き入れ~焼き戻し(サブゼロ含む)迄の熱処理を外注し、包丁達が返却された時点で服部刃物での焼き入れ作業が有った為、タングの焼き戻しが出来たとの事です。

熱処理工場では通常、タング部分の焼き戻しは行われないので、其の儘の出荷が大半ですが、適切な戻し(軽くで無く、数値的に最も硬度が落ちる温度で処理)を行なう意味は大きいと。

叩いて使う刃物は勿論ですが、薄い刃体に顕著だと思われる「ボルト類の穴からヒビ」への対処も見落とせない点で、カシメピンやファスナーボルトなどが錆びると、直径が僅かに広がり、それが穴を押し広げてタングの破断に繋がるリスクに成るそうです。

だからでしょうか、骨スキ改を除いた全てのタングに戻しを掛けてくれたそうですが・・・序でに骨スキ改にも施したって良かったのではと言う気がしないでも無いですね(笑)。まあ、其れ程に必要性が低かったという事なのでしょう。

 

 

 

 

さて本題の依頼品ですが、北海道のT様からは中華包丁とペティの注文を頂きましたが、既存の作とは違いニッケルシルバーのヒルト(鍔)が付いた仕様でした。

T様からはメールでの遣り取りを通じて、マトリックスアイダから出されている金属用の接着剤の情報も頂いたので、先輩に伝えた所、作ってみようと意欲を見せてくれました(笑)。溶接や銀蝋付けに関しては、フラックスに因る錆・熱の影響に因る折損が心配と乗り気では無かったので丁度、打開策として妥当だったのかも知れません。

刃渡り22cmで少々、長目ゆえか中華包丁に慣れている訳では無い私ですが重めなのかなと。その長さと刃幅の広さで歪の出方も複雑だった様で、修正が大変だったと。加えて、磨きの工程で手作業の段階になった際、其れまで見えて居なかったイモが複数、出現したのも困ったらしいですが・・・此れを削り落としても次の面で出現しないとも限らず、厚み・重さのバランスが変わるのは必至の為、無理に削り直しをしなかったのは妥当と思われます。

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研ぎ始めは、ビトリファイドでは無い人造600番と1000番から。初期状態の刃先の薄さと角度から、其れ程には減らさず仕上がると考えての事です。

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傷が浅いので次は、天然の対馬砥石です。

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やや軟口~中硬の赤ピンに続き、奥殿の巣板?中硬~やや硬口で研ぎ目を更に浅く。

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仕上げとして中山の水浅葱二種、超硬口で。の筈でしたが、未だ一皮、剥かないと本来の性能が発揮し切れて居ない感触でしたので。(先輩の手に成るVG10では通常、新品時から殆ど慣らしを必要とせず、微細な組織で滑らかさと掛かりの良さが両立する)

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現状の刃先の特性である、掛かりの強さを活かしつつも滑らかさを付加する方向で、奥殿の巣板(黄色+紫の超硬口)で最終仕上げとしました。

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ペティの方も、ヒルト付きとミラーフィニッシュで仕様は同じながら、ハンドル材は御希望通りにブラックマイカルタです。

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ほぼ研ぎの流れも同様で、人造600番からの1000番へ。

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天然に移行し、対馬砥石。

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やや軟口~中硬の赤ピンから、奥殿の中硬~やや硬口で仕上げ研ぎです。

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中山の超硬口の水浅葱と、超硬口の奥殿の巣板で適切な方を選んで最終仕上げとしました。

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次に、北海道のS様から御依頼の洋出刃です。刃渡りも24cmと長目ですが、厚みも相当に有るので重量感が凄いです。此方は研ぎを施さない儘での発送です。

半諸とも言うべき、左右の側面の肉の取り方を違えたハマグリ風の刃体形状として有ります。

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そして、ベスパのディ―ラーの方からの御依頼、21cm牛刀です。黒檀柄(縞黒檀)にステンレス+ニッケルシルバーのカシメ。

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明確な小刃と言う程の刃先では有りませんでしたので、研ぎ始めは対馬砥石からとしました。

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梅ケ畑の赤ピン、中硬で仕上げ研ぎです。

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最終仕上げは奥殿の天井巣板、中硬(カラス・薄紫)で・・・と考えたのですが、もう少し硬目の奥殿の巣板を選択しました。

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此の度は各種、包丁の御依頼を頂きまして、有り難う御座いました。御希望の仕様を伝えての受注生産でしたので、相当に御好みに近い仕上がりに成って居ると思われますが、問題など有りましたら御知らせ頂きたいと思いますので、宜しく御願い致します。

 

 

 

 

現在、ホームページ不調の為、御面倒を御掛けして居ります。研ぎの御依頼・御問い合わせの方は、下記のアドレスから御願い致します。

togiyamurakami@gmail.com

 

 

 

 

 

東京のN様からBUCK110の研ぎの御依頼

 

東京のN様から、110を送って頂きました。長く製造されているモデルですので、ブレードに使用されている鋼材も440c・425モディファイト・420と変遷を重ねている様です。但し、単なるコストダウン的な意味合いかと心配したりしがちですが、最後の420に関しても「ボス焼き」と言われる専門家監修の熱処理に因る為か、結構な性能を持っているとの認識です。少々、粘りとか組織の細かさの面からは結構、性格の違いも感じますが。

N様からは、メールによる遣り取りの中で、81年まで・91年まで・以降現在まで、の年式で鋼材が変更されているとか、94年からはハンドル材が合板に成った等の情報を頂きました。合板の件は存じませんでしたので、予想外で驚きました。前述の様々な条件からは、今回の110を81年製と予想されているとの事でした。

そして御依頼の動機としては、私のホームページ(連絡を取るツールとしては絶賛不調中)の中で司作の三徳を研ぎ上げ、髪の毛を切っている動画を御覧になった事・御自身のメンテナンスとして皮砥+研磨剤でしょうか、ストロッピングを行なって見るも思う様な切れに成らなかった事からだそうです。

 

 

 

研ぎ前の状態

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初期刃付けの儘と思しき小刃の状態

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鈍角な一定角度かつ荒い研削痕が残存したままで、御希望の切れには届かなそうです。

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研ぎ始めは、人造の320番です。初期の小刃は相当に鈍角でしたので、充分な切れが出せる角度で研ぎ直し。加えて、刃線が僅かにS字状な点・左右のホローグラインドの肉の取り方の違いから、左右の小刃の幅が異なる点も含めて、バランスを取ります。

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次いで、研磨力と平面維持に優れる1000番です。やや広げた小刃の先端に、必要な(耐久も期待出来る)角度調整を。

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研ぎ目が浅い1000番と3000番で刃線の修正・研磨痕の軽減。

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天然に移行し、丸尾山の黒蓮華の中硬です。化学的な反応ゆえか、山の名前に限らずステンレスに対して研磨力と切れに優れる傾向が見られます。

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同系統の、より硬く煙硝っ気の強い物。

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馬路の戸前系統。

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八木の島の蓮華巣板の後、大平の蓮華巣板です。

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中山の戸前っぽい硬口で最終仕上げとしたのですが、髪の毛も切れる位・・・と成ると(各個体の状態から私が実用的と判断した刃先角度を下回らない範囲では)、もう一段の向上が狙えないかなと。

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此処からは、もう必要以上な試行錯誤か、砥石との相性判断を絡めた紹介に近いかも知れませんね。或いは、手持ちの仕事用砥石の点検とか(笑)。

数年前に砥取家経由で購入の、畑中からの硬口の細かい砥石(水浅葱ですが薄い緑がかった物・均一な色調の物)で。一方は例の判子付きだったり。

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やはり、細かい程に効果が出る鋼材・熱処理ばかりでは無いので、田中砥石の超硬口の合いさ系統で。

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同じく超硬口の戸前系統で。

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田中砥石で入手の水浅葱、黒っぽいのと白っぽいので。

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畑中からのレーザー型。

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同じくレーザー型の層違い。一方は例の判子付きだったり。

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かなり昔に水野鍛錬所で買い求めた菖蒲。余り硬くも無いのに、光り系の仕上がりに成りますが、砥面に吸水する薄い筋が見えるので、使用を控えていますが扱い易く切れ・外観の仕上がりも良いタイプです。

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奥殿の黒蓮華(蓮華控え目と言うより紅葉か?)の硬口です。

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奥殿の天井巣板の硬口です。

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奥殿の天井巣板、超硬口(無地)です。

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奥殿の黒蓮華、超硬口です。此処まで、何れの砥石でも充分な切れを出せたにも関わらず粘って来たのは、必ずしも髪の毛を切るに適している鋼材+熱処理では無いナイフの潜在能力を探る為でした。

単に切れれば良いなら、刃先角度を鋭角にすれば良いし、何なら研磨力に優れる人造の仕上げ砥での鋭角研ぎならば労力も掛けず可能でしょう。其れをしないのは、髪を切る道具としたく無いからで飽くまでも、実用性を損なわない範囲で仕上げたかったからです。

基本的に、此の手のナイフであれば片側30度より鋭角にすると刃持ちに不安が出るので(丁寧に使う人が無理の無い対象を選ぶなら大丈夫)、精々が片側25程で纏めたかった訳ですが・・・何とか成功するまでに此処まで掛かってしまいました。と言っても、最後の三種は僅かに25度を切る角度で妥協してしまいましたが。

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研ぎ上がりです。まあ、洋包丁・ナイフは近影でも研ぎ前後の変化の判別が困難だったりしますが。

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N様には此の度、研ぎの御依頼を頂きまして有り難う御座います。昨日に発送しましたので、予定では明日に成る到着まで、今暫しの御待ちを御願い致します。

御希望に沿う様、切れと永切れのバランス的には切れ優先気味の研ぎとしましたが、御手元に到着後の御使用で、御不満が有りましたら研ぎ直しをと考えて居ります。其の場合、汎用性を旨とするアウトドアスポーツナイフの本分からは些か、逸脱するものの切れ最優先に研ぐ事も可能では有りますので、御送付ください。

 

 

 

 

現在、ホームページ不調の為、御面倒を御掛けして居ります。研ぎの御依頼・御問い合わせの方は、下記のアドレスから御願い致します。 togiyamurakami@gmail.com