五月二十九日の砥石選別

 

常連さんからの依頼で、特注の鉈を日野浦さんに相談した折り、此方から手配できる砥石の種類が増えた事を話しました。何でも、過去に興味を持って当たった時期が在ったものの、巡り合えなかった石があるとの事。今回、それに叶うかどうか分かりませんが、送ってくれる様に頼んで来ますと返事をしたので、昨日の日曜に選別に出掛けました。

幸い、元々協力関係であった事もあり、趣旨に賛同を得られて十本の立派な砥石(中山戸前・浅葱・巣板、菖蒲巣板)を発送して貰う手筈が整いました。後で考えると、かなり自分好みの色が強く出ているので、お気に召して頂けると良いのですが。

 

 

それとは別に、仕事用の石も見て来ました。この前、北海道へ御送りした三毛みたいな中山の巣板ですが、同系統が手持ちに二つでは最低限な感じですので後一つは追加したいなと。

これが案外、多くは無かったみたいで二、三の中から一つを選びました。少し前までは結構な数が揃っている印象だったのですが・・・大事に使わねばならないのかも知れません。

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之までの三毛とは違い、縞模様というか八枚柄が見えますね。砥ぎ感と仕上がりは大体同じですが、ややガッチリしている様な。

 

 

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地金はやや明るめ、刃金は薄曇り。研磨力強し。

 

 

 

 

白巣板よりはナマズ入りの敷内曇りでしょう。当たりは中庸な硬さですが、砥ぎ始めると泥も出てかなり変形も出易い傾向。しかし刃金は、曇り系の易変形性の巣板としては明るく仕上がります。

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地金の砥ぎ目は少し荒いですが、それと対照的に刃金は細かく仕上がっています。これはこれで、本焼きに向いているとも言えそうです。巣が殆ど無いのも扱い易く手間要らず。

 

 

 

 

たまに砥石の御依頼を頂くと、千枚・八枚系統の御要望が割合多い印象です。それを受けて、選別に出向きますが必ずしも「一定期間・一定量に幾つ」と決まって並んでいる訳では有りません。

ですので、直近では千枚の質に近い(千枚と隣り合った層の境目)と思われる砥石で御納得頂いたりしました。しかし今回は運良く、それと思われる石を探し出せました。

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砥面・側面の色柄・模様は正に千枚で、砥ぎ感や仕上がりも頷けるもの。

 

 

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若干気になるのは、刃金・地金ともに仕上がりが、少しばかり浅葱に寄り過ぎやしないかと感じる点です。

 

 

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そう言えば、裏の模様が東物に似ていなくも無い様な・・・やはり此れは東の浅葱ですね。まあ私は、使って性能に問題なければ良いタイプの人間ですので、良しとしましょう。次に千枚(系統)をと御依頼の際に、手頃なのが無ければ此れを御送りしても御不満は出ないのではと思われます。

 

 

 

 

下画像は、完全に水浅葱です。先の石よりも更に細かな砥粒を感じさせます。

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小さ目ですが均一で、刃金・地金ともに明るく仕上げてくれます。やや硬口ですが、地も引き難い上、軽く砥げます。

 

 

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文句なしの仕上がり。刃金は鏡面に近く、地金もそれに迫ります。

 

 

 

 

此方はおまけで。

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手の平サイズですが、切り出しなどには充分ですね。中庸(やや軟)な硬さで砥ぎ易く、仕上がりも良いです。

 

 

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仕上がりは、上の水浅葱に近いレベルです。小さくても侮れない性能を見せてくれて嬉しい限り。

 

今回の選別で、東物の範疇を含め、当面自分用の石は足りたかなと考えています。個人で保管可能な量もこの辺りかと・・・。勿論、御依頼に応じたり、自身の勉強の為にも砥石詣では続きます。

 

 

売り切れの御知らせです

 

販売用に在庫していた包丁ですが、立て続けに品切れになった種類が出ましたので御注意を御願い致します。ホームページをリアルタイムで弄れませんので、此方のブログ側で失礼して御知らせとさせて頂きます。

香港に御送りした司作の三徳に続いて、東北のS様(最近S様が重なっておりますが)に御送りする事になった中屋平治作イカ割きも売り切れになりました。

平治作は今の所、追加の仕入れの予定は有りませんが、司作は時間を頂ければ又、注文して追加が可能です。

 

 

最後のイカ割きは、研ぎ見本として巣板である程度形状を整え、カミソリ砥で刃金を仕上げてあった物です。今回、注文を頂き改めて巣板で均し、千枚で地金を、浅葱で刃金を研ぎました。最後の裏押しは鏡面青砥です。

 

先ずは巣板で全体を

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浅葱で刃金を。共名倉は一本松の戸前浅葱

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裏押しで鏡面青砥。共名倉は八枚

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研ぎ上がり

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東北のS様、週明けにも発送できると思いますので、少々お待ち頂きますよう御願い致します。

 

 

 

香港からの御依頼

 

香港のS様から包丁購入の御依頼が有りました。その際、お任せでの研ぎを併せて申し込まれておりました。

新品への最初の研ぎでもあり、半分サービスの意味合いもある研ぎでしたが、鋭利過ぎる刃先は通常でもお好みで糸引きを入れて来ました。ですので、もう少し完成形に近付く様に仕上げて行きました。

 

新品状態。人造砥石ながら、かなり追い込んだ研ぎが施されています。

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刃部のアップ

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天然砥石にて研ぎを開始。先ずは巣板から。白巣板・敷き内曇り系統。

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巣板での研ぎあがり。曇り仕上げ。

 

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千枚での研ぎ

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刃金は半鏡面レベルと言うべきか、かなり明るく仕上がっています。地金も小割りした巣板から千枚で。

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浅葱での研ぎ

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更に明るく仕上がり、刃金は準鏡面に。地金も再度、千枚(小割り)で仕上げ研ぎ。

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刃部のアップ

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研ぎ上がり

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新品から余り研ぎ減らすのも気が引けるので、人造の研ぎ目は大まかに消す事に留め、刃金部分を刃先へ行くほど鈍角の極緩いハマグリで、強い刃先と軽い切れ味に仕上げました。

これで、切れを保ったまま頑丈さと長切れを両立し、錆びや変色にも人造砥石仕上げに比して耐性が付きました。食材を切っても食味が損なわれにくいでしょう。

 

 

S様には、前回画像を上げた砥石にも興味を持って頂いた様子にて、包丁と砥石の値段は勿論、この司作三徳包丁の仕上がりを見て御判断を頂きたいと思います。

この度は包丁・研ぎ・砥石の御依頼、有難う御座いました。

 

 

四月二十九日の砥石選別

 

今年は桜のシーズンに遅れ、藤のシーズンになりました。指示のタイミング不安定なナビに惑わされ、想定外の経路(茨木回り)でしたが景色は良かったです。しかし余裕が無く写真も撮れず。

北海道用と松阪用、それに香港用の砥石を探してきました。結果的には、一勝一敗一分けでしょうか。

 

先ずは、北海道へと考えて選んだ東物の巣板

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旗星の判子の痕跡が見えます。やや硬口で巣無しの蓮華・墨流し入り

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ほぼ本焼き用として選んだので、地金には余り優しくは無いかも。

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しかし、主目的に対しては良い仕上がり。

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以前購入した自分用の此れ(下画像)と比べると、硬さが僅かに増した分、扱い易さは若干低下。その代わり、使いこなせれば砥面の変形減少・仕上がりの光り方向上に繋がるでしょう。何より形状の確かさと、底面周辺の焼け気味の難が無い為に、砥石としてのランクが違って来ますね。

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どちらを選ばれても、又どちらも選ばれなくても問題は有りませんので御心配なく。この品質と性能であれば手元に置いておくのに何の痛痒も・・・と言うより傍に居てくれると有り難いレベルです。

 

 

 

此方は、仕事用の予備として追加した物です。

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以前の此れ(下画像)が強い研磨力の割に期待以上の細かい仕上がりを見せてくれたのでもう一つ有ればと。この手は、巣が巣として邪魔になり難いタイプの様です。見かけと研ぎ感は荒々しいのに不思議な事です。

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松阪に送った三つの内、一つは同じタイプです。それ以外は黄色の軟口のカラス入り、水浅葱(これも私の持ち物と同タイプですが、ややまったり気味)。扱い易い千枚も頼まれていましたが、其処は希少種ゆえ簡単には出会えませんでした。まあ、其れを承知でなければ銘柄・品質を指定しての選別など叶いませんが、軟口カラス入りが代替出来る筈と踏んで選んでおきました。

 

 

 

最後は、現在香港から司作の包丁について問い合わせを頂いている方が、千枚・八枚の砥石についても興味があるとの事。ついては、其方にも相応しい砥石をと見てきましたが、前述の通り。

止む無く、もしも御急ぎで千枚に準じる石でも良ければと、以前購入の此の砥石を参考に上げさせて貰いました。

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戸前と敷き戸前の中間という可能性も有りますが、色調・使用感から天上戸前と千枚ではと思われます。

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実際に研いで見れば、仕上がりは充分。標準的な千枚と比較して、地金の細かさ・明るさ共に順当、刃金はやや明る目かなと。少なくとも性能面から見て、千枚系統に伍するのは間違いありません。

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包丁は兎も角、ペイパルやEMSなど、改めて聞いたり調べたりで手間取っており、恐縮ですので御要望に及ばない迄も、せめて近しい石をと紹介してみました。

 

 

 

因みに上記の砥石達は、個々に研ぎ上げた状態そのままでも充分な性能を発揮しますが(或いは夫々が何れかの分野で最適な可能性も)、そこから鏡面仕上げに持っていく繋ぎとしても有用です。

下画像は、小物を対象としている手持ち最小の大谷山と、鏡面仕上げ用共名倉の大上。

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掛かる手間隙は直前に使用する繋ぎの性能にも因りますが、概ね今回画像に上げた砥石達ならば何れも数分以内で、此の仕上がりに達します。

刃金だけなら大抵1分前後ですが、特に癖の有る地金を速く仕上げるならば間にもう一段階、挟んだ方が良いかも知れません。

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やはり鋼材や刃物に応じて相性を探り、設定した最終段階まで持っていけるルートを構成する砥石群は、大抵の要望を満たしてくれるので心強いです。そして可能な限り一段階を小さく、多くの石で繋いであるなら、より滑らかに上がって行ける訳です。

更にそのルートの用意が複数ならば、組み合わせ次第で或る程度は不測の事態にも対応できる為、仕上げ砥石枠を幾つか御持ちであれば、コンビネーションを探っておかれるのが良いと思います。共名倉の使い分けに限っても、効率や仕上がりに差が出ますので。