錆び繋がりで

 

以前から各地域で水道水に含まれる成分が違うなと感じていました。例えば、二十年程前の岐阜県関市では、風呂桶に水を張ったら数回で水色っぽい粉末状の物が標準的な位置の水面近辺に付着しました。夏場などはシャワーのみだったので、風呂桶に入らず掛け湯の為に溜めるだけでも同様でした。

他にも三重県名張市でも十年程前までは上記に近い感じでしたが、数年前からはやや改善しているようです。その影響は例えば紅茶を淹れる時に味・水色・香り共に抽出が悪いなど、調理関連で気になっていました(出汁や調味料が一緒でも、大阪と同じ味になりにくいし)。只、それが水道水中に含まれる天然のミネラルだろうとは思いますが、投入される消毒薬や処理施設の種類も関連するのかは不明なままです。

これらが研ぎに影響を与えているとは、特別意識していませんでした。しかし、長時間の研ぎではやはり錆が出易いので、ある程度の目の細かさまで平や裏を磨いてしまう事は普通で、更に一度は濃すぎる炭酸水素ナトリウム水溶液も用いて皮膚が痛んだ事も有り、こちらは中止していました。もう一つ以前から、月山さんの包丁の扱い方を見るに付け、余り錆に神経質になっていないなと思っていました。改めて聞いてみると、明らかに自分の経験上、常識と考えられるレベルより錆びに対して警戒する必要が低い様です。使用砥石や研ぎに於ける操作などを勘案しても、水道水の影響が最も大きいのではと考えました。

以下は極端な例だと思いますが、六甲縦走路の端に位置する自分の通っていた大学周辺でも、利用されていた水にフッ素が極端に多く、その影響が歯の表面に現れ、歯くさりと呼ばれる地域が在ったと聞きました。かなり古い話で、現在では当然対処されている筈ですが、やはり各地の水質はばらついているのでしょう。

現在、ある企画に則した包丁を仕上げる為に、新品の包丁を纏めて研ぐ必要があり掛かりきりになっていました。新品と言う事は在りますが、予想以上に錆びやすいので面食らうと同時に、打ち合わせ時点でそんな話は聞いていなかったので、条件の違いを検討していました。そして一つの結論に達しました。それは塩素です。大阪では国内有数の高度浄水処理施設が導入され、水質は万全の筈ですが、妙に塩素がきついのかも知れません。何故なら、システムキッチンにシャワー水栓を付けるに当たって、当初必要性をあまり感じていなかった浄水機能付きにした所、明らかに味が変わったからです。そこで、浄水器を通した水に前回より濃度を抑えた炭酸水素ナトリウムを加えた水溶液をスプレー(現在は霧吹き)で吹きながら研ぐと、かなり錆の発生を抑える事が出来ました。錆の発生が抑制されれば、除去の手間も省けますが、そもそも刃物に悪影響が出る可能性を未然に防げるに超した事はありません。炭素鋼包丁に対しては、この方法が定番となりそうです。

 

補足です。研ぎ作業中は上記のような炭素鋼が対象でなくても(中断すると仕上がりに影響します)、電話や来客に瞬時には対応出来ませんので、御理解の程、宜しくお願い致します(店舗を構えている訳で無く、又、御依頼は基本的にメールにて承っており、電話でお受けしておりませんので)。あと、これまで数ヶ月、仕事開始からのサービス料金にて研ぎ依頼をお受けして来ましたが、近々改訂となりますので合わせてお願い致します。

 

包丁への塗布用油脂

 

これまで、自分の手持ちの刃物や依頼を受けて研いだ刃物には、ほぼ100%、油の類いは付けていませんでした。ステンレスでは通常環境で保管・運搬で錆が出る事は考え難く、また炭素鋼刃物も、一日から二日移動に掛かったとしても問題無いと考えてきました(更に天然砥石仕上げは安心感上乗せでしたので)。

しかし、そもそも出来るだけ油脂を付けたく無かったのは、それ自体の酸化で却って腐食したり汚れや匂いとしてこびり付くのを避けたかったからです。包丁や、食品を切る可能性があるナイフ類にはもう一つ、体内に入った場合の毒性も気がかりでした。関で働いていた頃は、ナイフ類の出荷前準備でフォールディングナイフなどの摺動部には流動パラフィン、ブレードにはシリコンオイル、炭素鋼にはフッ素系(テフロン配合)の褐色のオイルを使っていました。包丁程、食品を対象としないし、一応使用前にはユーザーも洗うであろうけれど、特別毒性の強い物を大量に摂取する訳では無いとは言え、大丈夫かなあと思っていました。

月山さんと話していると、例えば海外発送分などになると錆の心配が高くなるのでは無いかとの意見で、確かに気候の変動も大きく結露の可能性も高まる場合も予想され、そういう場合のみは考えてみる事にしました。事前のイメージではシリコンオイルなどは精製が良ければ体内に入っても少量なら行けるかな程度でしたが、調べてみると材料にも色々ある物です。フードオイルやフードグリスは各社から潤滑材・溶剤・噴霧剤として様々な物質を使用した物が発売されており、悩みました。

その中で各目的の物質中、問題の少なそうな組み合わせで目星を付けて買いに行きましたが、結果的に只一種類、売っていたものが想定していた物よりも適していた印象で素直に即決しました。TAIHOKOHZAIの食品機械用潤滑材というスプレーで、通常(安全性の基準で国内外の規格クリアが謳われている物が多いですが)NSF H1  や3Hの表示があっても「偶発的な接触」程度への対応の様です。しかし之は食品機械の「刃物部分」にもOKとあり、より安心な気がしました。そもそも潤滑剤自体が中鎖脂肪酸トリグリセリド(栄養学で習ったような?中性脂肪に近い?原料は高純度植物性脂肪酸との事)でほぼ食品扱いの様です。噴霧用ガスとしてはLPGとありますので、残留や毒性の心配もほぼ必要無いでしょう。

当面この製品で試しながら使用して、期待する働きを見せてくれると良いなあと考えています。(試用してみた範囲では、油膜が特に強めでは無いものの、塗布のし易さや水分の弾き・気化も程々な感じです)