兵庫県のT様から、ガーバーの初期モデルの御依頼

 

兵庫県のT様から希少な、最初期モデルに近いと思われるガーバーのナイフを御送り頂きました。

1946と刻印が有りますので、(本格的に生産され始めたのが1945年位だったとか?)資料によると、エンジンのピストンを溶かしてハンドルを作って居た頃の製品なのかなと。其処にハイス(ハイスピードツールスチール)のブレードを鋳込んだ、次ぎ目や方の出ない構造とした先駆けなのでしょう。

あと、形状的な特徴としては、フラットグラインドに小刃付けされて居る後年のモデルとは違い、疑似的な平・切り刃・小刃と成って居ます。とは言え、販売された時に小刃が付いていたのかは判然としない部分も有りますね・・・。兎も角、ステーキナイフやカービングナイフ主体で販売を始めた頃の製品と思われ、御依頼主からのコメントによると、1747年以前のモデルの特徴ではと。

 

 

到着時の全体画像。部分的な錆と、かなり広範囲に錆の痕跡。刃体その物は、切っ先以外の部分で均一な刃厚(長軸方向)。短軸方向では峰よりも、ほんの僅かですが鎬筋の辺りの方が厚い印象でした。

切り刃部分ではカーブの辺りから切っ先に掛けて、厚みが増していました。引き切りに於いて、其の抵抗を活かす様にS字の出っ張り(+αとしての厚み)に引っかけて切る方法も無くは無いかなと思ったり。しかし、小刃のみ研いだ状態では、新聞の束相手には不利でした。

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刃部のアップ。側面には初期の研削痕と思われます。小刃には欠けと云うよりも、角度の不安定さが見えますが、此れには刃元~切っ先カーブまで緩いS字の刃線と成って居る仕様も影響して居そうですね。

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左側面です。

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切り刃は、右側面より厚みが少ない様子ですが、カーブの辺りからは鈍角な切り刃に。

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人造の1000番で、小刃を研いでみます。

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傷を浅くする為に、天然砥石配合の物で。この時点で、S字状の為に平面の砥石では普通には当たらない箇所が明確に。そして試し切りの際、カーブ部分の厚みが抵抗に成りストップしました。切っ先部分に来ると、其れなりに抵抗は低減されるのですが。

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人造の400番で、切り刃自体の幅を広げつつ、厚みも切っ先へ向かってテーパー化。

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人造の研ぎ目の細かい1000番。

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更に当たりがソフトな1000番。

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天然に移行し、丸尾山の巣板各種。此処で、平を磨いて置きますが其の際、切っ先方向へ幾らかテーパー状に成る意図を持って作業。

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切り刃の半分程も、平と研ぎ目を揃える為に磨いた後、刃先を仕上げに掛かります。先ずは、中硬~やや軟口の赤ピン。刃先の掛かりはマズマズ。

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奥殿の天井巣板、超硬口。切れと掛かりは良いのですが、もう少し滑らかさが有っても良いかなと。

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中山の巣板、各種で。試し切りと刃先拡大画像で、もう少し追い込みたいなと(笑)。もう充分と言えば充分なんですが・・・。

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最後は、超硬口の中山の巣板層、殆ど戸前で。研ぎ上がり画像です。

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刃部のアップ。刃元にのみ、S字の名残り残存。

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左側面。

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カーブの辺りの造形も、左右差が減少。

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刃先拡大画像です。問題の無い箇所は、押しなべてこの状態に仕上がりました。

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御依頼時から指摘を頂いて居た、ヒビの箇所。

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しかし、把握されていたのは一か所だったそうですが、近傍にもう一本のヒビが。まあ、何方も致命的では無さそうですし、無理しなければ折れる事は勿論、切れへの影響も軽微かと。

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其れよりも厄介だったのは、カーブ辺りに出て来る欠けと言うか捲れ。研ぎ進めて行っても、返りが出る事無く画像の様な状態に。此れは他でも案外、見受けられた現象で、恐らくは初期刃付けの際に高温に晒された影響ではと考えています。

物によっては、粘っこく成って当該箇所のみ返りが取れなかったり、逆に捲れと成って剥離したりする様です。ただ此れは、やや硬口~硬口の中山での仕上げですので、この後に超硬口の赤ピンと超硬口の殆ど戸前で試し、より良い相性を見せた後者で仕上げる事により更に改善はしました。

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T様には今回、此れ迄で最も初期型のガーバーに触れる機会を頂きまして、感謝致します。此の当時のハイスは、硬さは控え目ながら切れは相当なレベルで有った事が分かりました。

自分では、余り刃体構造や表面の初期の風合いを激変させたくない方ですので、この様な仕上げ方と成って居ます。(性能的には幾つかの項目で改善されている筈ですが)もしも、薄さで切る方向・永切れの要求が低い場合は、使用の変更も出来ますので、御知らせ頂ければと思います。

本日、発送致しましたので実際に御試し頂き、御確認下さい。また今後も、私で御役に立てる場合には宜しく御願い致します。ブログへの御協力と合わせて、研ぎの御依頼、有り難う御座いました。

 

 

 

 

 

先週の砥石の選別

 

一週間ほど前に、田中砥石で砥石を選別して来ました。と言っても、御目当ての砥石は既に事前に下見・取り置き依頼済みの物が大半でした。

御二方からの御依頼品と、自分用の小振りな物でしたが、其れ以外にも満足すべき結果と成って一安心です。特に、大きな物は文字通りに肩の荷が下りたと感じたのですが・・・。

 

 

下画像が其れで、品質と難の無さでは文句無し・サイズ的には想定以上のレベルと成りました。大きな一塊から切り分けて貰い、更に一回り大きな方は、(先代・先々代の頃の見本と並べる為に)田中さんの所で最近の良品を代表する見本として、置いて置かれるとの事。

ただ、御依頼の文面では中山の戸前とは言え、毛色の違う方だった事を、返信のメールを送信する時点に成って気付きました。過去には無い様な勘違いでしたが、御依頼主には次回、御希望品を期待と云う事で御了承を頂き恐縮です。先々には、日野浦さん用と並んで鋭意、努力したいと思います。

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下画像は、加工途中も含む参考画像として、もう一方の御依頼主に確認して頂く為に。此方も、豪華なサイズで品質も良さそうですので、御満足頂けるかなと。少なくとも、茶色の方は確実に取り置いて貰える筈の物です(笑)。白いのは、交渉・取り合い?に成るかもですが、今後も同等品の採掘を期待出来るとの事ですし、焦る必要は無さそうです。

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下画像は、小振り乍ら超硬口で粒度も細かい、中山の巣板です。

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研いで見れば、硬口以上の砥石で見られる仕上がりで期待通り。

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数年前、砥取家経由で畑中砥石の砥石を入手しましたが、其の中にはレーザー型の中山巣板も幾つか。下画像もその一つですが、一部模様や研ぎ感が今回の砥石と似ていると感じました。硬さや研ぎ感は酷似して居り、これは往時、採掘されていた層に近い部分へ掘り進んで来た為かなと想像したり。

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次の砥石も中山の巣板ですが、此方は幾分、弾力も有る硬口。

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仕上がり的には一つ目の超硬口に近いですね。研ぎ易さを併せ持つ分、研ぎ手に優しいですが恐らくは神経質なタイプの刃物にも優しいかと(笑)。

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此の砥石に関しては、カシューで養生したので判然とし難いのですが、側面に赤紫っぽい層が見えました。

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下画像は、ある畑中砥石の側面ですが・・・かなり派手に同様の色の層が確認出来ます。以前は、こんな色の層を挟んだ巣板は有るのか?中山の層の、どの辺りかと訝しんでいたのですが今回の砥石で、図らずも答え合わせが出来た感じですね。

色柄・質とも奥殿は巣板のバラエティーが豊かですが、振り幅では及ばないかも知れませんが、良く見れば中山の巣板も結構な個性が有りますね。グラデーションで揃えて行ければと思います。

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下画像は、今回で最も小振りでしたが質と形状で魅かれた物。

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中硬でしたが、此方も仕上がりは他の石に遜色の無い仕上がり。

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下画像は、加工前に選んでいた物ですが、想像以上に変わった色彩と相当な軟口でした。此処まで来ると、色柄的にはカラスと言うより乳牛でしょうか。

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更に驚いたのは、軟口にも関わらず相当に細かく光り気味の仕上がり。このタイプは、手持ちにも殆ど有りません。特殊な使い道に備えて、待機していて貰いましょう。

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最後も、加工前から取り置きにしていた物。予想していた通り、筋は多く入って居ましたので、部分研ぎ・小割りを想定しての選別でした。

研磨力が強く、硬過ぎない中硬と、やや軟口の物が一つづつでしたので相応しい内容の作業の際には、活躍して貰う予定です。

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あと、加工途中の大き目砥石の切り落としも取り置きして来ましたので、次回訪問の際は其方もと。中山の巣板としては、明確な巣の層が入っているタイプですが、性能に特色があるタイプの可能性が。

畑中砥石の一つに、同様の巣の入り方の砥石が有り、切り出し等の平面の刃物に好適だった、其の手持ちの小振りな物に準じる性能を期待しています。

 

 

 

 

 

和式のナイフを和式の研ぎで

 

同じく大阪府下では有りますが、南寄りの市からY様が和式ナイフを御送り下さいました。白紙一号で、作者の方からは強めに焼きを入れ、切れに拘ったとの説明だったそうです。

御依頼の内容としては、狩猟に御使用だそうですが・・・切っ先の鋭すぎ問題(皮剥ぎの際に突き破るとか)・欠けが出易い問題への対処と共に一度、初期刃付け以上の確りした研ぎをとの御要望でした。

 

 

研ぎ前の状態。予想とは違い、結構なホローグラインド風味の切り刃と成って居ました。ぱっと見では、刃先のみの調整でも行けるのでは?と考えましたし、逆にフラット気味に仕立て直してテーパー状にすると、相当に削り落とす範囲が広く成るのを懸念しました。

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先ずは、刃先から研いで様子を見る事に。人造の1000番、研磨力の有るタイプで滑走にも優れる物から。

下画像は同一角度での小刃研ぎでしたが、小刃の幅に結構な違いが。つまりは(ホローグラインドとは言え?)切り刃の厚みの抜き方が中央に多く残っている傾向に在る訳です。

この時点で、切り刃全体から整える方向の研ぎに修正。

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続いて人造の1000番、傷の浅い物。小刃の方から研ぐ面積を広げて行き、ホローの傾向を小さく。其の上で、刃先・切っ先へ向かって鋭角化のハマグリ形状に。

あと、切り刃のベース角度と言うよりは、厚みの残し方が左右で違う事も判明(左ふっくら・右ベタ寄り)。人造の小割り・天然の小割りを駆使して、厚みの残存箇所を集中的に減らして切っ先方向へテーパー状に。加えて、残すべき厚みの箇所を除き、初期刃付けの研削痕を消して行きます。

上記内容を施した事により、小刃の幅が均一に成って来て居るのが分かりますね。(寧ろ幾分、切っ先へ向けて鋭角化も進めたので小刃が広がる傾向の筈です。しかし、そう成らないのは切り刃自体の厚みのテーパー化が奏功している為です)

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天然に移行し、丸尾山の白巣板・敷き内曇りの中硬・やや軟口で傷消し・形状の仕上げ。

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中山の巣板、やや硬口と中硬で更に仕上げて行きます。刃元から切っ先に掛けて、刃先最先端は片側35度・30度・25度で。欠けを警戒して、繊細な使用を強いられるとの事で、幾分は用心を。

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最終は、同じく中山の巣板の硬口でと思ったのですが、刃先の拡大画像と切れのテストで未だ追い込めていないなと。

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熱処理の加減か、かなり鈍角であっても研ぎのストロークが僅かに揺れるだけで、ミクロの欠けを誘発する粘りが少ないタイプの様子。

従って、砥面の崩れが少ない硬さを持ち、尚且つ引けを生じさせる相性では無い相性の砥石を要しました。中山の巣板層の近辺で取れた戸前相当の物で何とか。

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研ぎ上がりです。切っ先カーブから切っ先は、殆どホローの痕跡も消退。残りの部分でも、刃元以外は鎬側に3~4割り、浅く残存するのみと成って居ます。

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刃先拡大画像

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切っ先に関して、一番の安全策はポイントを2mm程、落として丸める事では有るでしょうが・・・簡単に出来るが簡単に戻せない方法は最終手段だとの認識です。ですので切っ先寄り1cm位の範囲は、最終刃先角度を片側70度で研いで見ました。此れでも、頑張れば鉛筆を削れるレベルです。柔らかい物に、そっと押し付けた程度では切り込めませんが。

逆に、他の部分は刃線の全てに渡って、髪やナイロン相手でも「対象に押し付け過ぎずにブレずにスライドさせれば」切り込める、何時もの仕様です。

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Y様には、時間的にも料金的にも制約が少ない条件での御依頼を頂きまして、有り難う御座います。切っ先の処理で問題が無いかが一番の懸念事項ですが、他の部分に関してもお気づきの点が有りましたら、御知らせを頂ければと思います。

現状で御満足頂けましたら別状、不都合が有る様でしたら、どの部分でも仕様の変更・微調整は可能ですので、宜しく御願い致します。