天然砥石館での最後のイベント参加?

 

M様のナイフ(最初の三本)を研ぎ上げた翌日、亀岡の天然砥石館のイベントに参加すべく出発しました。何でも、遠からず二代目館長の仕切りに移行する予定との事で、もしかすると今回が私に御呼びが掛かる、最後のイベントに成るかも知れませんね。

 

 

何時もの様に?前日から向かったのですが、今回は天候や気温に対する警戒以外の理由も有りました。少し前に当方で研ぎ講習を受けて頂いた、Y様と落ち合って砥石館に常設されている、天然砥石や人造砥石を試して貰おうかと。

ギリギリまでナイフ類と触れ合って居ましたので(笑)、お聞きしていた予定時間を目安に到着した際には、既に販売用のコーナーを御覧に成って居ました。かなり種類も増えて来て、充実しています。

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棚に並んでいる砥石類の説明をしてから、先ずは砥石館に備え付けの包丁(やや傷んで来ている)で試し研ぎ兼、簡易な研ぎ講習に。研ぐ度に、拡大鏡(パソコンに繋いだモバイル顕微鏡連動式)を用いて確認して貰いました。

試し切りと並行して、糸を切る荷重で切れ味が測定できる機材で確認。汎用性を考慮(鋼材と熱処理にも配慮)して研ぎ上げた砥石館の包丁と、数日前に講習で研がれた包丁との比較でも、違いが有りました。前者は300と数十グラム、後者は200gに迫る数値で。

当日試しに研いだ包丁より、数日間ですが使用済みの講習で研いだ御持参の包丁の方が、かなり切れが良かったのが興味深かったですね。440と、恐らくは8A辺りかと思われるので、鋼材の違いは大差とは考え難いです。従って研ぎ角度(つまりは刃先の耐久次第)と使用砥石の差かと・・・一応、同等レベルの硬さと細かさの砥石で仕上げてはいたのですが。

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イベント其の物は、先月に行った内容と同じで、亜鉛合金を溶かして砂型鋳造⇒ベルトサンダーで面付け⇒ダイヤモンド砥石⇒人造砥石⇒青砥⇒研磨剤(8段階程度)⇒ダイヤモンドペースト(3段階程度)に順で鏡に仕上げます。

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前回とは違い、8人ほどと多めに御参加頂けて、感謝致します。全ての方が万全の状態で鏡を持ち帰れたとは断言出来ないのが心苦しいですが、イベント自体は楽しんで頂けた様子でした。

今回、使用しダイヤモンドペーストは結構、良さそうでしたので、自分でも必要性が高そうな番手を幾つか、購入してみようと考えています。まあ、亜鉛合金と刃物用炭素鋼・ステンレス相手では、勝手が違う事も有るかも知れません。余り、磨きの方へ重心を移す事は自戒していたのですが元々、嫌いでは無い方でしたので若干、過去の自分に引き摺られて居る気がして危険ですね。

 

 

 

 

 

マニアックナイフ詰め合わせ(前半戦)

 

以前にも研ぎの御依頼を頂いた、兵庫県のM様から、6本のナイフを送って頂きました。カスタムナイフと言うか、手作りのマニアックな鋼材で出来た2本を含みますが、其れ以外も少し凝った造りであったり、入手面で希少性を感じそうな物。

 

 

先ずはガーバーのマスキーでしたか、一見するとフィレナイフ的なデザインですが、ブレードの厚みと刃幅のバランスから、案外と言っては何ですが・・・確り感が有り、使用時・研ぎ作業時の双方で撓り過ぎる事も無く扱い易いです。

M様の御希望としては、刺身包丁的な使用目的を想定されているそうで、7:3くらいの片刃風を提案されていました。しかし刃幅が狭い為、厚みを全体的に研ぎ落しつつも半諸(非対称両刃)にすると、汎用刃物の域を出ない(万能性が有るとも言える)恐れが有ります。其処で、左側面は8割5分~9割のベタ研ぎ(刃先側3分の1辺りから刃先まで微ハマグリ)とし、最先端は右側を研いでから仕上げ砥による返り取りレベルの糸引きで仕上げてみます。両刃の刃物を多く御持ちと御見受けしますので、違いを楽しんで頂けると良いのですが。

 

 

 

研ぎ前の状態、全体画像。切っ先カーブ近辺の厚みが気に成りますね、研削作業では付き物なんでしょうか。

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刃先は、マズマズ損耗が見られました。最も大きな欠けの部分は、最後まで痕跡は残る事に。他の部分は全体が揃いましたので、目視でも注意を要する程度の箇所を追い込むのも、如何かと思われますし。

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人造砥石の粗砥320番で研ぎ始め。右側は、普通~やや広目の小刃程度の幅で研ぎます。角度は、刃元が25度強で切っ先は25度弱ですが、刃先最先端は30度で揃えます。此れは先々、使用者御自身による研ぎ直しの際の難易度を下げる為、加えて左側面を殆どベタ研ぎにする際に、厚みを切っ先方向へテーパー状に抜くので抜けの改善は充分に見込めるとの判断です。

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左側面は大幅に砥ぎ下ろすとは言え、完全に全体の厚みを弄ると辺に撓る構造に成りそうですので、峰側の1.5~2mmは残しました。刃先側の3㎜前後で、少し角度を変えて微ハマグリに。但し、厚みをテーパー状にしたので、刃先角は一定に。

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平面維持と研磨力に優れる1000番で、更に正確な面を出して行きます。

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次いで、研ぎ目の細かい1000番と3000番で。

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天然に入り、中硬の丸尾山の白巣板黒蓮華気味。

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中山の並砥から戸前に掛けての層でしょうか、中硬~やや硬口。

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中山の合いさ、やや硬口で仕上げ研ぎ。

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研ぎ上がり、全体です。

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同じく、刃部のアップ。

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刃先拡大画像

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左側も、糸引き的な返り取りは30度で。

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刃先の砥石が当たって居る部分は、かなり確り見れば判別可能です。

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次にオピネルの2本ですが、此方はハンドル材が変更されているタイプです。№9は黒の水牛ハンドルで、№はスタッグホーンの様ですね。通常はブナ材と思われる、軽く柔らか目のハンドルと成って居ます。そして今回は、何れもステンレスモデルです。

オピネルのブレードは、刻印の有る辺りと切り刃状にグラインドされた刃部とに分かれている印象です。まあそもそもフラットな状態に打ち抜いたブレードに刻印を入れ、その後に自動研磨で刃部を削り落とすのでしょうから、刻印部分が浅くなってしまう範囲まで、研削する訳には行かないでしょう。もしも腐食や印刷での銘入れならば、作業工程の更に後、刃先の研ぎ直前で可能ですから、制限される度合いが違います。

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ブレードの、切り刃状に研削された部分の厚みは、刃元~カーブ手前までは薄く、ネイルマークの長さと殆ど同一幅の範囲は相当に厚く成って居ます(ネイルマークの無い右側面も同様)。

ネイルマークが無い右側も同じなのは不思議ですが、厚みの残存による抵抗の増大で、走りや抜けの面では不利と成って居ます。只、ブレード形状(刃線のカーブ部)的に直線部よりも切り込み的には有利なので、切る対象が薄かったり柔らかい場合、悪影響が幾分は相殺されては居ます。硬い・粘っこい・繊維質な相手では、明らかに引き切りで(真っ直ぐ押し付け切りでも)抵抗に。

粗い番手から順に、布ペーパー?主体で厚みの調整です。とは言え、直線部は薄過ぎる位の厚さなので、カーブ部分も同等以上に薄くすると、耐久性に問題が出そうです。従って、刃線がアールである事・切り刃状の部分を微ハマグリにする事により、切り込みに有利な分を差し引いて、強度を落とさない程度かつ引き切りでの抵抗が増加しない程度に抑えました。

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厚みの調整と磨きを兼ねつつ1500番辺りまで細かくして行き、天然砥石(丸尾山敷き内曇り)に移行します。

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中山の巣板、やや硬口で。

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同じく、硬口の合いさで仕上げ研ぎ。

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研ぎ上がり、№9の方です。

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同じく、№8の方です。

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上画像を撮った後で、少し研削痕が残って居る部分が気に成り、最終的にブレード側面の仕上げは軽くですがダイヤモンドペーストも使って見たり。その甲斐あって、筋状の物は目立ち難く成る効果が見られました。しかし慣れない所為か、光の気減によっては却って全体的には均一な面に見え辛い事も(笑)。

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M様には、更に残りの三本を御待ち願う事と成ってしまい、申し訳無く思って居た所ですが・・・追加でキッチンナイフらしさ溢れる、二本のガーバーをも送って頂き、有り難う御座います。

通常、洋式の包丁やナイフは和式に比べて研ぐ面積などが少ないのですが、御希望内容が幾分、和式に拠って居たりする分、手間暇が掛かりますので宜しく御願い致します。先ずは、前回に引き続き研ぎの御依頼に感謝致します。引き続き極力、御要望を満たせる内容で作業を進めて行きたいと考えて居ります。

 

 

 

 

 

週末の研ぎ講習

 

一昨日は、以前にも遣り取りが有ったY様が研ぎ講習に御出で下さいました。関東に御住まいの折りには、中々に難しかったと思われますが、関西に移られるとの事で実現しました。

新たな人造砥石を含め、天然仕上げ砥石にも興味を持たれている現状、先ずは研ぎを見つめ直そうとの御様子でしたので、基本的な洋包丁の研ぎの実演と説明をさせて頂きました。(ブログ記事としては残念ながら、講習に成ると画像や拡大画像が少なく成ったり、失敗して使える物が少なく成りがちですが)

 

 

 

下画像は、特定のタイミングに限らず、研ぎの各段階(荒砥による大まかな修正段階・中砥による正確な刃付け段階・仕上げ砥による刃先の整形段階)毎に効果を体感して頂く為にテストして頂いている様子です。

勿論、私が実演した結果の刃先・御自身による研ぎの結果も双方、モバイル顕微鏡を用いての確認も併用しています。

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先ずは現状を拝見し、特に右側は切り刃状の研がれ方をしているものの、角度の変化が不安定な点、そして切っ先カーブ手前(其れ以外にも中央部点前にも)の厚みの残存が気に成りました。

実用の場面でも、例えばカボチャの切断時の引っ掛かりとして現れているとの事で、私の動きを参考にして頂くべく、上記両方の改善を目指しつつ研いでみました。刃元から切っ先へ向けて、鋭角化した小刃を付ける研ぎです。

中央部の厚み・カーブ手前の厚みを取るのは、やや広目の切り刃状に成って居る幅の、鎬寄り(峰側)半分程の範囲で修正し、刃先側半分で上記に如く、角度変化を実現します。

最も鋭角に(薄く広い切り刃に)成って居る刃元に合わせて研ぎ落すと、全体の肉厚が強度不足に成るだけでなく、刃先角度との兼ね合い次第で欠けが頻発するからです。万が一、刺身包丁的な使用に限るならば其れでも良かったのですが。

とは言え、御本人には一番重要な「角度一定で正確に研いだ小刃」を付けて貰う練習に専念して貰いました。私の(少々拘った)研ぎ方のベースが出来ていれば、刃先に一定の小刃を付けるだけでも走り・抜けの効果は持続しますので、御本人の練習と修正や高性能化を同時並行で可能な訳です。

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人造の320番、平面維持に優れつつ研ぎ傷が浅い物。

 

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人造の1000番、滑走良く研磨力もマズマズな物。

 

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人造の3000・6000番を経て、敷き内曇りです。

 

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最終は、中山の水浅葱(偶々ですが440との相性にも優れていました)で仕上げました。

 

 

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上画像も、各段階でテストして来た内容ですが、ラップに対しての切れ込み方・切り続ける際の容易さ共に、仕上げ砥に近付く程に向上する経験をして頂きました。当然ながら、新聞の束を捩った物に対する効果も同様です。

新聞の一枚⇒束⇒束を捩った物、の順に効果の違いが大きく成りますので、楽しんで頂けた様子でした。

 

 

Y様には先々、田中砥石店や天然砥石館で御一緒出来ればと話し合えたり、司作の包丁に付いても問い合わせを希望されたりしましたので、今後とも御役に立てましたら幸いです。此の度は雨の中、当方まで御足労を頂きまして有り難う御座いました。