七月十一日の砥石選び

 

今月は十一日の土曜に、亀岡に行って来ました。何時もの様に、注文されている層の偵察と自前の補充を兼ねて。そして以前から話が出ていた対外的な活動開始への進捗を聞く為でした。

 

まず顔を合わせると、これから採れたばかりの巣板を切ってしまいたいので待ってくれとの事。その間、手近な木箱や台上の砥石を選んでいました。結果、10本ばかりの尺長や厚めの真四角な上物が切り分けられましたが、自分の希望する硬さ・弾力をやや上回っており、一応サンプルとして小さいのを購入するに留めました。

因みに、白巣板層らしいですが、敷き内よりは黒蓮華気味だと思います。匂いもうっすらそんな感じ。

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帰宅後、砥面・底面共に電着ダイヤで面を出し、養生をしてから試し研ぎ。結果、砥粒の細かさ・目の立ち方は上々で、研磨力・傷の消えに不足はありません。丸尾山の巣板としては硬過ぎず弾力が有るタイプなので研ぎ減りは少なめ。其れに影響されてか、食いつき方もグイグイ来る感じで言ってみれば若狭(田村山)の砥石を彷彿とさせる印象でした。

 

 

 

待っている間に見ていた方ですが、戸前系でやや千枚風味を感じさせる物です。

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天井戸前や敷き戸前の色・柄に近い外観ながら、一部にグレーや緑褐色以外の色調を含んでいる。研いで見ると明らかに普通の戸前系と違った研ぎ感や仕上がりになる。そんな物が偶にありますが、これもそんな砥石です。勿論、戸前寄りと千枚寄り、どちらに近いかは個体差があり、一様ではありませんが、今回のは若干の千枚寄りでしょう。

 

 

 

更に千枚寄りだったのは以下の画像。以前、戸前系ばかり数十個纏めて切り出された時に選んで来た物です。側面から見るとグレーと緑褐色で綺麗に分かれており、半々といった所でしょう。

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そして最も千枚に近い物も同時に手に入れていました。手持ちの千枚際戸前?の中では一番大きい物。

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最後は、此れも変わった物です。共名倉兼、小さい刃物用として購入しましたが、カミソリ砥に合わせると予想以上の性能で、研磨力・潤滑力・仕上がりと三拍子揃った働きを見せてくれました。通常使用としてはやや硬い(丸尾山産合砥としては)かなと思いましたが、結果的に鏡面用の超仕上げ「三大共名倉」として重宝しています。(因みに他の二つは、特に砥粒が細かく適度に目の立った大上の硬軟それぞれです。)

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画像側面は、いき紫特有の赤っぽい色が出ているので、どう影響するか気になっていましたが、少なくともその部分が表面に出ない限り他の千枚寄りと異なる挙動は無さそうです。以前、天上戸前いき紫を持っていた時、赤色とその周辺でとても違いを感じたので、その時が楽しみなような心配なような複雑な気分です。

 

 

六月七日の砥石の選別

 

七日の日曜日に亀岡に行ってきました。千枚採掘までにまだ間が在るのは分かっていましたが、土橋さんから前の週に電話があり、久し振りに会う事に。

勿論、行けば砥石を見るのはお決まりですが、月山さんから「使い勝手の良い白巣板は常時募集」との依頼もあり、先ずはそれを探しました。3~4個ばかり選んだのですが、新潟からの来客用に20個ほど入用だとの事にて其れは断念、代わりに面付け機まで仕上がった段階の中から80型相当のコッパ2個と薄めのレーザー型1個を送って貰う事にしました。

他にも、打ち合わせのような会話で、日仏での匠村計画の内容を聞いたり、当日居合わせた二人の来客に丸尾山砥石の説明をしつつ、自分用の砥石も探しました。今回選んだのは以下の物です。

 

本戸前 色物のレーザー型

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試し研ぎ用にしている青紙一号に極軟鋼地金ですが、丸尾山の本戸前としては結構、光り気味に仕上がりました。単体で研ぎ感が似ていると感じたのは御廟山の戸前色物(黄色主体)です。

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少し前に手に入れた別の本戸前の色物ではもう少し曇りがちだったと思います。研ぎ感としては三色に近い此方が好みなんですが。

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実は合砥の中で最も研ぎ感が好きなのは本戸前なので、以前はそれだけで複数持っていました。しかし仕上がりの差別化や切れの性格(料理用として)から、千枚系にシフトした経緯があります。

本戸前色物の中でも特に朱・紺・褐色の三色タイプ(朱が多目)が好みで、その他に八枚風、梨地混じり(少な目)と続きます。三色は適度に泥が出て研ぎ易く研磨力もあるタイプ(曇り気味)。八枚風は泥少な目で下ろすよりも磨くタイプ(やや光り気味)で、それ故に刃も石も減りが少ない。

上記二つに比べて個体差が大きいと思われる梨地は、其れが多いと精細な研ぎに邪魔をする場合も在る様です。また、ある程度硬くないと泥による張り付きや平面維持の低下になり、中々これはと思う物が少ない印象でしたが、以前偶々おまけで頂いた小さなコッパ(少し梨地入り)は、使いやすく良い仕上がりでした。尤も、初期は泥が出過ぎの柔らかいだけの印象だった物が鉄分を吸って硬くなってからでしたが。それに従い、刃物にも因りますが、仕上がりは過去手に入れた本戸前としては一、二を争うほど光り気味になりました。(それが以下の砥石です)

 

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今回手に入れた砥石は、初期から適度な硬さで面の崩れや研ぎ減りも少ない。そして粒子の細かさ仕上がりの綺麗さで、手持ちは勿論、これまで砥取家で試した分を含めて丸尾山産本戸前のトップレベルかと思われます。

初めは手持ちの予備、或いは普段使いやバラエティとして求めたのでこの結果には少し驚いていますが、ラッキーだったと思います。しかしこうなると、やはり本戸前は諦め切れず、レーザー型でも良いので好みのシリーズを再構築するべく、見て行きたいと云う誘惑に駆られつつあり危険な兆候ですね。

 

 

 

※  因みに 本文中に言及した御廟山の戸前色物は、以下の砥石です。厚みはあれどレーザー型としては、やや狭い砥面。只、元々取り回しや平面管理のし易さから80型やレーザー型は実用的だと捉え、重宝してきました。その基準で考えればメリットの方が勝るかも知れません。

御廟山としてはやや軟らかい為、刃金は完全には鏡面にならず、地金も同様です。しかしそれだけに、気難しさも控えめで、其処も気に入っています(手持ち御廟山の難易度別で三段階の初級)。

 

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五月五日の神戸にて

 

五月五日に削ろう会・神戸大会に行ってきました。勿論、参加する訳ではなく精々見学。より正確には知人(何時もの顔馴染み)に会う為ですね。前回の二個の砥石については、両方購入して頂けるとの事で当日お支払いも頂きました。有り難う御座いました。

以前の清水大会にも、近くを通ったので立ち寄りましたがその折、記念品代わりに水木原の卵色巣板みたいな砥石を購入した事がありました。だからと言う訳ではありませんが、今回は奥殿の巣板を買ってみました。元来、産地・有名銘柄には余り拘らない方ですが、巣板好きとしては古来より評判が良い巣板の代表格とされる奥殿は、一つくらい有っても良いかと考えていました。

しかし、急に思い立ったので予定外の出費となりましたが、前述の砥石代に気づいて何とかなりました。砥石の代金で砥石を買っていては収入が増えないので困ったものですが。

 

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白巣板に蓮華が結構混じっていますね。

 

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裏の中央部には、石英の白い部分(透明感のある乳白色)が見られます。裏をダイヤで下ろそうとしてもその辺りが特に硬い感触。

 

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試し研ぎでは泥よりも研ぎ汁が出易い様子。購入時確認した手触りよりは硬口な印象でしたが、場所によって少し感触の異なる研ぎ心地。しかし致命的な研ぎ傷・研ぎ斑・研ぎ難さも無く、まずまずの仕上がりでもあります。硬い割りに研磨力も有る方で、良い買い物だったと思います。

 

 

 

その上、もう一つ砥石が増えました。天然砥石尚さんから、天上巣板のカラスを頂戴しました。何でも以前、購入・物々交換した折に、気に入って頂けた石の御返しにとの事で、誠に恐縮です。

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長さは22~23cm程あります。

 

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厚みは6cm程。

 

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研いで見た所、上記の砥石とは違い、適度に泥も出て圧倒的に研ぎ易いですね。刃金・地金の仕上がりも申し分ありません。筋にも言及されていましたが、通常使用では特に困る事も無さそうです。

 

 

参考までに、下は丸尾山の天上卵色巣板のカラスです。此方は、泥の質としてはもう少しサラッとしており、当たりも弾力が少なめです。見た目も全体的に黒色を基調(カラスが大量に出ている面ではほぼ真っ黒)としており、褐色は殆ど見られません。

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しかし似ている所もあります。

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上は確か二回目か三回目に丸尾山に登った時に拾った欠片で、土橋さんからは八枚だと聞きました。これが後に鏡面仕上げ用として大谷山に合わせる共名倉、第一弾となりました。

 

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次に之は、コッパと言うか共名倉用?として棚にあった物ですが、八枚に近い外観です。少なくとも、千枚近辺ではあるでしょう。

 

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そしてこれは、以前おまけに頂いた若狭の砥石です。上の二つと、色・柄・研ぎ心地が結構近いと思います。やはり天然ですから、同じ山・層でも其々違った砥石が採れるのと同時に、逆に山・層を越えて似た物が出てもおかしくないのかも知れません。

 

 

頂いた、あと二つのおまけは普段使い用のペティやナイフを研ぐ為に台所へ置いてあります。タッチアップに近い研ぎ用ですね。

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普段の積んだ状態

 

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左上は大谷山に登った折、貰って来た巣板っぽい物(軟口)。右上は昔から家にあったカミソリ砥(質が均一でなく、小さなクレーターが散在する硬口)。下二つは、硬さ・均一さ・泥の出方がかなり違う若狭砥石(硬口と中庸)。これらを手に持ってささっと研ぐ訳ですが、其々、どの組み合わせ・順番が最も早く研げるか。或いはどれを共名倉にするのが最適な仕上がりか、等と試行錯誤をしながら楽しんでおります。

尚さんには、若狭の砥石を触る機会を度々設けて頂き、感謝しております。何の御返しも出来ませんが、おまけ以外に取ってある若狭砥石たちに、仕事上で活躍して貰う事が御礼になるかもと考え、今後は仕上がりの相性を探って活用していければ良いなと思っています。有り難う御座いました。

 

 

四月二十九日 砥石の選別

 

祝日(昭和の日)、亀岡に砥石を探しに行ってきました。到着するなり、次男氏から「ホームページにアップしたので残っていないです」との事。

しかし大きさや形状で難があったり(お買い得品)、加工が間に合わなかった物は少しは残っている筈、と見て回りました。案の定、棚と加工場に其々、狙いの物が在りました。

今回のは少し前、メールにて依頼されたステンレス包丁用の黒蓮華です。(もう一つは、自分の補充用として)

 

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黒蓮華のコッパです。厚みは程々ですが、中々広い砥面と適度な硬さ、細かいが少し目の立った砥粒で申し分ありません。その上、黒蓮華でありながら蓮華の赤も混じっている自分好みの質です。この手の物は、同等の煙硝気を持つ砥石と比べて炭素鋼を研ぐ場合、錆や着色が少なく、刃物への当たりも優しい傾向の様です。

しかし側面の黒い部分が示すとおり、黒蓮華の成分は強めでもあるので、研ぐ事で鉄分を吸収して行く内、将来的には全体としてかなり黒色と硬さが増してくると思われます。その際、蓮華が混じっている事の有り難さが利いて来るでしょう。以上の内容はこれまでの数例の経験からです。

 

 

 

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此方は、次男氏曰く黒巣板に分類されるであろう砥石です。自分も通常の黒とは違って巣が少なく、表面に走っている事が多いひび割れ状の模様も無く(裏面には在り)、敷き内曇りに良く見られる紺色の点々が在る事から変り種だと思います。

側面の黒い部分は上の砥石と近い感じで、此方も使う内に(ステンレス専用なら殆ど変化は無いですが)黒色や硬さが増して来そうです。砥粒は細かく、目も立っていない方なので、硬さが増すと研磨力は余計に控え目になるでしょうが、鋼材との相性次第でどう転ぶか分からない為、手持ちの砥石達と比べても誤差の範囲内と判断しました。

 

 

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因みに、切り出し(刃金は青紙1号)で試した所、特に硬くは無いものの、細かい砥粒(目は立っていない)が詰まっている印象そのままに刃金・地金共に傷無く、艶も明るめに仕上がりました。

 

 

 

おまけは、土橋さんから御裾分けに貰った筍です。

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帰宅後、早速皮ごと湯がいて鰹と昆布の出汁で煮てみました。途中で、冷蔵庫の中に伊勢の答志島で購入した塩蔵ワカメが在るのを思い出し、若竹煮としました。

 

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毎年春頃になると、若牛蒡・蕗(出来れば蕗の薹も)・山独活・そして筍を食べたくなるのですが、今年はこの筍で目出度くコンプリートです。新物ではありませんでしたが、この若布も戻した状態が大変良いとの触れ込みに違わず良い仕上がりになりました。あくが少なく瑞々しい筍と相俟って、之までで一番の出来だったと思います。感謝致します。

 

 

古いシリーズの番外編

 

古い牛刀(洋包丁系)などの記事が続きましたが、又一段と年季の入った洋包丁と言うかキッチンナイフの依頼を頂きました。

ガーバー社製、フランボージュと言うモデルだそうです。所謂、ハイスピードツールスチールにクローム鍍金のブレードを、アルミのハンドルに鋳込んだハンティングナイフ。或いはそれをベースとしたキッチンナイフのシリーズで、後年アルミの地肌にアーモハイドコーティングを追加した為、通称アーモハイドシリーズが代名詞的に知られる・・・だったと思います。(自分もミニマグナム・ショーティは各三本、二十年前に購入し持っています。)

 

 

研ぎ前 全体

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刃部

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刃先拡大

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元の状態としては、刃先の毀れと研ぎ減りした厚み、それに長さ26センチ近い刃線のS字カーブが問題でした。持ち主としては、刃先までほぼベタ研ぎを御希望でしたが、料金も掛かる上、製品のコンセプトからの逸脱が著しいので取り敢えず、妥当と思われる研ぎを施すので試用してから改めて判断して頂く事にしました。

 

 

 

研ぎ後 全体

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刃部

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刃先拡大

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GC240番の荒砥で刃線を整え、シャプトン1000番・2000番で研ぎ目を消した後、相性の良い巣板を選んで仕上げました。

これを研ぐ前の準備として、手持ちのショーティを使って巣板・合砥の中から適合し易い物を探しておいたのですが、どちらかと言うと、軟鉄には厳しい鋼向きの白巣板(最近の製品)と硬くて細かめの合いさ(これも最近の製品)が運よく適していました。それ以前に持っていた砥石の殆どはそこまで合わなかったので助かりました。ただ、より仕上がりが良かったのは白巣板の方でした。

私の方は合いさがより適しており、切れ・研ぎ肌ともに上回ったのですが、同メーカーの同種のナイフで同じハイス鋼でも一律には研げないですね。もしかすると年代による鋼材の成分違いや焼入れでのサイズ毎の仕様違いかも知れません。何れにしても、この年代のハイスは現在の特に粉末ハイスに比べて、目の細かい仕上がりを求めるのは困難な印象でしたし、それは今も変わりません。

普段なら見たり研いだりする機会がかなり少ないモデルを扱うことが出来て良い経験になりました。M様、この度は有難う御座いました。この研ぎで問題がありましたら、違う仕様への研ぎ直しも可能ですのでお知らせ頂ければと思います。

 

 

 

後日、メールにて感想を下さいました。「感謝・感激」「恐ろしい切れ味」「取り敢えず煮豚を切ってみたが驚嘆」と、過分な評価を頂きましたが、何よりも元のコンセプトを踏襲した研ぎで気に入って頂けた事が嬉しいです。

ガーバーのピートさんが発案(デザインも?)されたであろうナイフを職人が丁寧に形にした物です。他所とは違う製法や仕上がったブレードの精度の高さから、無理なコストダウンやヤッツケ仕事と縁が無い事は明らかです。

可能な限り、その刃物が持つ性能を引き出したい。それも個性を生かす方向で。という自分の基本姿勢のまま仕事を終えられて良かったです。そして、そうするに相応しい製品だったと思います。

 

 

研ぎの重要性を御理解頂き 2

 

前回の依頼主は魚を捌く仕事をしている御身内がいらっしゃるとかで、多少、包丁には素養がある方でしたが、もうお一方はこれまで余り頓着せず、新品がベストの状態であると信じて買い足し(実は買い換え)て来たそうです。つまり、「研ぎ?何処でやってるの?自力では厄介だし、やっぱり買い替えでしょ。新品が一番」と、まあ一般的に広まっている認識だった様です。

所が、私と知り合い、切れる条件とそれが備わっている新品が如何に希少か、実物を見て説明を聞き、試しにと一本研ぎを依頼されてからは実地に使って御納得頂けました(キャベツがレタスみたいに切れたとの事)。元々、興味が出ると追求するタイプらしく、手持ちの包丁銘を検索したり刃物について情報を集め出す程。しかも刺身を自分で柵から切り分ける事も多いとかで、遂には中屋平治作イカ裂きの御購入に至りました。かなり上級の食いしん坊だと拝察されます。

 

今回お預かりしたのは、その時入れ違いに受け取った牛刀の類です。過去に買ったものの、現在休眠中となっていた三本です。

研ぎ前

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何やら研削部分以外がコーティングされている、これまた余り見かけない包丁です。

 

 

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此方は割合出回っていそうなヘンケルの1バージョンですね。

 

 

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左側面に有名フレンチシェフの名前がありましたので、コラボモデルというか

 

 

研ぎ後

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表裏ではっきりと研ぎ分けてあったので、それを更に強調する方向で仕上げました。通常の牛刀は沢山お持ちなので、特徴を出すべく見た目から菜切りっぽくするつもりでした。しかし案外硬度が低く、ベタ研ぎでは今一。そこで右はベタに近いハマグリ刃(巣板仕上げ)に大谷山で刃先を撫でて置き、左は素直に角度を変えずに巣板仕上げ。

 

 

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ヘンケルは通常の仕様でお決まりのコース。黒蓮華からの大谷山です。

 

 

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こちらもほぼ同様ですが、刃体の厚みの割りに刃幅が狭いので、切れの軽さを出す目的で通常以上に幅広のハマグリに仕上げました。割合、組織が細かく硬めな鋼材だったので、小さなストロークでも確実に切り込んでくれ、細かい作業では上々の使い勝手を見せてくれるでしょう。

 

今回、二度に亘って依頼頂いた包丁達、それに購入頂いたイカ裂きがあれば、今までとは比べ物にならない料理の仕上がり・作業負担の軽減が期待できると思います。休眠中だった包丁も含めて、存分に活躍させて頂ければと思います。

 

 

 

研ぎの重要性を御理解頂き

 

少し前に大同特殊鋼仕様と思われる正広牛刀を依頼された方から、今度は和包丁をと御持ち頂きました。もう一方の古い牛刀の持ち主からも牛刀×2、ペティ×1を続いて頼むとの事でした。では順に和包丁から。

これは私の母も五寸五分サイズで(ほぼ同寸の東型薄刃と出刃の三本セット)所持している物の少し大きいサイズ、関孫六の柳六寸五分(自分は刃渡りの実寸で料金計算していますが、マチから切っ先で計れば七寸と云う事になるのでしょう)です。伊吹と銘がありますが、人名を入れたのでなければこれがモデル名なのでしょうか。だとしたら、余り聞かないような気がするので古い物なのかも知れません。

 

研ぎ前 全体

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研ぎ前 刃部

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研ぎ前 刃先拡大画像

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元の状態は、酷くは無いものの全体がまずまず錆びており、それでも手入れしようとしたのか擦り傷も同じくらい全体に付いています。そして小さな欠けが数箇所と大きな欠けがありました。裏梳きが余り無いのは研ぎ減りというよりは元々の仕様の可能性も。

 

 

 

研ぎ後 全体

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研ぎ後 刃部

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研ぎ後 刃先拡大画像

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先ずは平と裏の錆を耐水ぺーパーで落としますが、平の平面が崩れ、鎬がかなり丸くなっていたので通常よりやや粗い番手から2000番前後まで。後はラッピングフィルムを一つ二つ上まで掛けて、研磨剤を三段階で終えました。このレベル(顔がぼんやり映る程度)になれば水を弾き、通常使用で速く深く錆が進行する事は稀です。

研ぎは表にGC240番(通常・小割り)、キングハイパー、白巣板(通常・小割り)。裏にはキングハイパー、白巣板、鏡面青砥です。但し、切り刃(地金部分に数箇所、鋼の後ろ部分にも二箇所、製造段階での削り過ぎがあったので、最低限満足できる形状まで研ぎ落としました。

この際、地金の質に応じて小割りした巣板系が活躍するのですが、今回は普通・蓮華・黒蓮華でも今一でしたので、一番適応範囲の広いナマズで何とか仕上げました。刃金・地金の硬さや粘りで相性が変わりますが、形状の不均等ではナマズに軍配が上がりますね。これは小割りだけでなく通常品でもそうだと思います。

後は、一番大きな欠けを取りながら刃線・角度を揃えていき、全体が纏まった所で終了としました。欠けは三割ほど残りますが、刃先を減らすと少ない裏梳きが問題になり、全体も余分に小さくなります。そもそも柳ですから、欠けが呼び水となって新たな欠けが発生する事も考え難いです。研ぎでは、やや強めにハマグリにしましたし、俎板も木製使用を視野に入れて頂いている様子にて、より長持ちしてくれる事でしょう。

 

 

復帰の和包丁

 

久し振りに和包丁を複数、まとめての御依頼を頂きました。

三年間、飲食業から離れていたけれど、この度、再開されるとの事です。内装などが工事中なれば研ぐスペースの確保もままならず、これまで御自身で面倒を見てきた包丁達を任せて頂けた様です。

到着したのは五本でしたが今回は相談の上、柳(尺)、出刃・大(六寸五分)と出刃・小(四寸五分)の三本を研ぐことに。(寸法は刃渡りに対する私の実測)

 

研ぎ前 柳

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柳 刃部

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刃先拡大

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研ぎ前 出刃(大)

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出刃(大) 刃部

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刃先拡大

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研ぎ前 出刃(小)

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出刃(小) 刃部

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刃先拡大

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柳は、ほぼベタに近い研ぎが成されており、厚みが邪魔になる物ではありませんでした。しかし、刃元に近づく程に切り刃が広くなる傾向。そしてベタ気味ゆえに、刃先の負担が大きく見受けられ、それは相対的に切り刃の幅が狭い切っ先側でも同様でした。

そこで、刃渡り中央より手前の出過ぎている刃先を欠け取りを兼ねて研ぎ落とし、逆に切っ先に向かってはテーパー状に厚みを取りながら鎬をやや上げました。刃先は鋼部分、最先端までの半分はハマグリに。勿論、その角度も刃元から切っ先にかけて徐々に鋭角に。

 

研ぎ後 柳

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柳 刃部

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刃先拡大

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出刃は、大小どちらも似た傾向(多分初期からでしょう)が伺えます。切っ先側は厚みがかなり残る上に、刃元も角度を変えながら「R」の右半分みたいな書道でいう「はらい」的なラインで鎬筋から刃線まで形成されています。これは、以前から自分が使い手としても研ぎ手としても苦手な仕様でした。ですので、お任せで研ぎ依頼されていた事もあって、双方軽減していく方向で仕上げました。

又、柳より相当以上にタナゴッ腹でしたので、これも欠け取り兼用の研ぎ落としで刃線の丸みをやや減らしました。其の上で、刃先のハマグリ度合いは2~3倍ほど強めに仕上げました。

 

研ぎ後 出刃(大)

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出刃(大) 刃部

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刃先拡大

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研ぎ後 出刃(小)

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出刃(小) 刃部

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刃先拡大

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以上の研ぎに使用した砥石は、表はGC240番(通常品+小割り)・キングハイパー・白巣板(コッパ+小割り)。裏はキングハイパー・白巣板・敷き内曇り・合いさ・鏡面青砥です。

 

 

 

 

さて、今回お送り頂いた包丁達ですが、漏れた包丁が気になりました。同じチームで働いて来た他の三本は研ぎ直されたのに、研ぎ屋に来ていながら、この二本をそのまま帰らせるのは気が引けると言いますか。他にも、持ち主が御自身で研ぎ直すにしても手間が省ける方が楽であろうし、ましてや買い換えられてお蔵入りになっては可哀想と・・・。

ですので、取り敢えず使用に差し支えない程度に整えておこうかと思いました。六寸鎌型薄刃は鎬筋と刃線の蛇行・刃毀れ少々が問題でしたので、欠けを取りつつ蛇行を鎬筋は三分の一、刃線は二分の一に、それぞれ修正しました。まあその分、刃先までベタでツライチとは行きませんが、飽くまで対症療法です。しかし効果としては、フラットな俎板によりフィットし易く、切れも、刃先が引っ掛かる事無く使えると思います。

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もう一方の八寸柳は、切り刃も安定しており、欠けも微細なレベルでしたので、刃先を裏表ともに白巣板で整え、切り刃も小割りした巣板で均しておくに留めました。唯一、切っ先側の2cm程が鶴首っぽくなって居た為、他の刃先部分よりもコンマ何ミリですが多目に研ぎ落としました。

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最後の二本は、自分が標榜する仕様に仕上がっている訳では無いので、この作業に対しては値段を付けられません。~円相当のサービス・・・的な表現は不可ですね。若干余計な御世話かとも思いましたが、再び店を構えられる依頼主へのお祝いと、これから先、向き合って行かれる仕事への応援と捉えて頂ければ一向に差し支えありません。

K様、この度は御依頼有り難う御座いました。出来れば包丁達は今後も欠ける事無く一緒に活躍させてやって頂けましたら有り難く存じます。心より、お店の成功をお祈りしております。

 

 

前々回に引き続き

 

前々回の記事で記載しました古い正広牛刀の持ち主、K様のお知り合いであるY様より、「それに匹敵する位に古い包丁ですが。」と研ぎの御依頼を頂きました。

下の画像がそれですが、購入は二十年ほど前になるとの事でした。状態としては、あまり研ぎ直し等されていない様子でしたが、刃先の歪みや無数のごく小さな欠けがそれなりの年月を感じさせるものの、磨耗自体は案外少なく感じました。

これは、包丁自体の鋼材の仕上がりとして、硬さ・粘りのバランスが割り合い優れて居た事と、これを含めて複数本で運用して来た為、負担が分散したのだと思われます。

 

 

 

研ぎ前 刃体の画像

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研ぎ前 刃先の画像

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研ぎ前 刃先拡大画像

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何時もの様に、汚れ・研磨痕を耐水ペーパーと研磨剤で軽く落とし、GC240番の荒砥からシャプトンの1000番、2000番に繋ぎ、前回購入の白巣板で大まかに傷消しと角度調整をします。あとはステンレスの定番コースの黒蓮華(今回は軟らかめ)、大谷山で仕上げました。

荒砥の段階では、やや「粘りが強すぎ・粗めの返り」を感じ、せいぜい6Aレベルの鋼材かな(其の割にはやや硬め?)と思いましたが、2000番以降は組織の細かさがはっきりしてきて、8Aと同等以上の切れが得られました。これは、荒砥・中砥・仕上げ砥の各段階で、徐々に厚みや角度の変化を付けつつ研ぎ進めている効果を、工程が進む度に新聞紙の束を切り分けてテストする事で確認できます。

 

 

 

研ぎ後 刃体画像

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研ぎ後 刃先画像

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研ぎ後 刃先拡大画像

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今回のY様は、ほぼ同ジャンルながら他にも仕様の違う包丁をお持ちなので、それぞれ刃の硬さや厚み等に応じて、作業内容を割り振りすべきというアドバイスに御納得頂けました。例えば今回の包丁は、軟らかい物を綺麗に切り分ける専用にする。そして硬い物・半冷凍の物・野菜の根(場合によっては土付きかも)のように刃の負担になる対象には、刃が厚め(頑丈)・焼きが甘め(欠けず捲れて研ぎ直し易い)な包丁を用いるといった具合です。

今後は、上記の内容を念頭に御使用頂ければ研ぎ直しのサイクルも長く設定でき、快適な環境で調理作業に取り組めると思います。Y様、この度は有り難う御座いました。

 

 

 

 

新しい道具

 

22日の日曜に、亀岡に行って来ました。大方の目的はやはり砥石探しだったのですが、お待たせしている方には申し訳ない結果で、ご希望に副う物は採掘に時間が掛かりそうです。

代わりに、自分用の物として変形の原石ですが、まずまず厚みのある蓮華混じりの巣板を見つけました。長さで16センチ、厚さ6センチのサイズがあり、面直しの際に自分は電着ダイヤを下に敷いて砥石を動かす為、やや負担になってくる重さです。勿論、刃物研ぎの最中に上下の向き変えでも少し気を使います(泥が付いていると良く滑ります)。

しかし、かなりの砥粒の細かさ・その割りに目の立った感触・中庸な硬さの砥面を評価して購入しました。硬さと目の立ち方から、圧力とスピードを加減しなければ傷が入りやすい可能性も考えましたが、其の分研磨力が有れば中継ぎとして良いし、鉄分を吸って硬さが増せば改善されるのは経験上分かっていたので問題にはしませんでした。

 

砥面

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尖った方の側面  巣が平行に

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広い方の側面   巣が見え難く

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砥面の蓮華が多い部分

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裏側

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裏の蓮華の多い部分

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この砥石も、加工場に在った物をそのまま持って来たので上下の面は平面ではありません。特に底面は、面付け機で巣の層を粗方落とした上部と違って切り出したままです。そこで上は巣の名残を落とす為・底は座りを良くする為、何時もの様に電着ダイヤで削り落としました(直線では無い部分の面取りは、ダイヤシャープナーを使用です)。

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右半分の巣が無くなった辺りで試し研ぎをした所、まだ巣の影響があるのか砥粒の目が立っている所為か、刃金・地金ともに傷が消しきれない印象。しかし其の分、前段階の傷は速く消えるとも言えそう。

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次の日、更に砥面を均しつつ包丁でも試してみると、硬めの刃金では結構光り気味に仕上がる物もあり。前日の切り出しで再び試せば、確かに地金では変化が薄いものの刃金は最終仕上げでも良いかと思える仕上がりでした。巣の影響の多寡だけなら地金の変化(研ぎ目の細かさの向上)ももっと大きい筈で、これは初期の予想通りの展開だと思われます。

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念の為にマイクロスコープで確認しても問題ない様でした

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もう一つ、以前から興味のあった道具を試す事が出来ました。パールクレンザーがそれで、月山さんから使っていて性能が良いと何度か話に出ていましたが、大容量且つ結構な値段と言うことで、其の内に買う事もあるだろうと保留にしていました(そう勧める本人はユニークな入手方法で調達できているそうで良いなと思いつつ)。

それが帰宅したらポストに入っていたレターパックから出てきました。かずかずけん様から御裾分けのようで、早速有り難く使わせて頂きました。鋼のペティに付いた変色レベルの錆に対して試しましたが、かなり確り落とす割りに傷が付いたり無闇に光らせる訳でもなく、扱い易いものでした。

ペティは巣板・千枚(やや粗い)・大谷山(軟らかい)の其々、小割りした砥石で側面も磨いている仕様なので、これまでの通常のクレンザーは言うまでも無く傷が入るし、クリームクレンザー(各種研磨剤含む)でも表面の質感・光り方が変わります。其れが出ないのは、パールクレンザーの成分が珪酸系鉱物(天然)、あとは活性剤(陰イオン系)との表示があるのでその組成(研磨剤としては天然素材のみ)に因る物でしょう。ある意味、これも一つの天然仕上げの範疇に入るのかも?と思うと楽しい気分になりますが、実際にこれで処理した刃物で食材の味に変化があるのか試してみるのも興味があります。

かずかずけん様、この度は有り難う御座いました。ただ、余り気に入ってしまうと、自分もゆくゆくは大容量を大人買いする事になるのかと不安も残ります・・・。

 

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研いだ包丁のビフォーアフターなどを載せていきます。