数年前にも御依頼を頂いた事が有る、兵庫県のH様から刳り小刀の研ぎ依頼を頂きました。過去に研いだ事は少ないのですが、切り刃の狭い切り出しでも刃線が歪んだり、表裏共に切っ先まで均等に研ぐのは難しかった経験から、手強そうなのは予想出来ました(笑)。
研ぎ上がった暁には観賞用に・・・との御意向でしたので、私の所期の想定では、表は普通に仕上げた後に地金と鋼のコントラストを付ける。裏は錆を落としつつも、残っている裏梳きを極力、減らさず平面+光り気味の傷少ない仕上がり。
研ぎ前の状態。御依頼内容としては、錆を落とす事と並び、地金の表情を出して欲しいと。
確かに錆は有りますが、何方かと言えば裏の方が目立ちますね。和式(片刃の合わせ)の刃物としては、辛い状況です。
御依頼時の画像で、錆よりも寧ろ懸念だったのは、(光線の加減で無ければ)切り刃の捻じれと裏も少々の歪みが見受けられた事。実際に手元で見てみると、殆ど誤差に近い物でしたが・・・後々にまで響いて手強さの要素にも。
研ぎ始めは、人造の粗砥320番からです。平面の刃物に対しては、研磨力は控え目ながら平面の維持と傷の浅さが利点です。
人造の1000番、硬くて平面維持と研磨力に優れる方と辺りがソフトで滑走と傷消しに優れる方の二種。
人造の1000番と3000番、共に平面維持と傷の浅さを特徴とする物。
丸尾山の巣板各種、中硬~やや軟口で傷消し。
後は表裏とも最終仕上げだけと考えている時、H様から進捗状況の確認メールが。其処で、以下の画像を添付しメールを送信しましたが、裏の錆の痕跡を出来る限り減らせないかと。(内緒ですが此処まで8時間かかって居ます。不器用な人間に慣れない事をさせると大変です。)
今度は、研磨力に全振りの400番で大幅に削り、再度の320番で平面度向上と傷を浅く。
人造の1000番を経て、バランスを取る為に表裏共、対馬砥で念入りに。
丸尾山の中硬の巣板の後、中山の各種巣板やや硬口~硬口。最終仕上げは表裏ともに戸前っぽいのと合いさっぽいので。(研ぎ直し後は12時間要しました。)
研ぎ上がりです。裏梳きの中央が浅く成って来ましたので、此の儘では完全に錆が消えるか裏梳きが二分割に成るかの瀬戸際に。其処で、完全には痕跡が消えていない段階ですが留めました。
研ぎ前の状態でも見られましたが、切っ先まで漏れなく研ぎを届かせると、刃元側半分との整合性が僅かに乱れがちに成ります。其れなりに均等を目指して研ぎ進めては居たのですが、完全平面で一律に仕上げるのは中々に難しい物ですね。
錆が出ない時間内で、切れを損なう事無く平面且つ研ぎ肌を表現する、と云う条件では現状の私では此の程度かなと感じましたので、H様には此処までで我慢して頂こうかと(笑)。
あと、途中で気付いたのですが・・・中子の刻印は誰もが知って居る(大袈裟)、あの方の作なんでしょうか。貴重な物と触れる機会で有りましたら、その点にも感謝です。
H様には、此の度も研ぎの御依頼を頂きまして、有り難う御座いました。本日中には御返送の予定ですので、宜しく御願い致します。