北海道のS様の御知り合いの、料理人の方から研ぎの御依頼を頂きました。本焼きの柳ですが、平に装飾の彫刻が入って居ます。
裏も表も鏡面で、平の装飾・凝った柄と合わせて非常に綺麗ですね。ただ形状としては若干、奔放さも有りまして(笑)。裏を平面上に当てると、中央部分が接地しても切っ先側の6~8cmと刃元の3~4cmが浮き気味でした。加えて、軽くプロペラ状の捻じれも。
其の所為で、特に刃元の裏押しが進まず(裏押しの先端が又、角度を付けた糸引き状でも有りましたので余計に)考えた末に、刃元以外の裏押し部分を削り落とし(切り刃幅を狭め)、刃元の裏押しを基準に他の部分を作り直しました。
途中、矯め木なども用いて刃体の浮き上がりを軽減しつつ上記内容を進めましたが、他にも切り刃自体の不均等にも対処が必要でした。長軸方向で先側半分が凸面、元側半分が凹面傾向で、その接続部分が最も厚みが残存している状態でした。
つまり切っ先側に厚みを抜くには、薄目に成って居る元側の厚みよりも、中央の最も厚い部分を薄くしなければ成りません。しかし、盲目的に其れを行なうと切っ先付近に近付く程にペラペラに成ってしまいます。
常識的な範囲で、先側に必要とされる厚みから逆算し、中央部の厚みを減らしました(元側の薄さとの兼ね合いも勘案しつつ)。
研ぎ前の状態
研ぎ始めは320番からです。元側の厚みが薄い上に、ホロー気味なのが分かりますね。(元側の切り刃幅の中央部分に溝状に)
1000番と3000番で精度を上げつつ傷を浅く。
あたりのソフトな1000番で、更に傷を浅く。
天然に移行し、対馬です。
余りに裏が揃わないので、珍しく焼結ダイヤの二種で追い込んで見ようかと(笑)。
其れでも不十分でしたので、遣り取りを通じて大胆に削ってくれても構わない、との御意向を受けて(そうは言っても貧乏性なので最低限に済ませる意識は持ちつつ)刃元以外の裏押し部分を研ぎ落とす事に。
改めて320番の後、研磨力の強い1000番の二種で切り刃幅を狭めると共に凸部を減らし、出来るだけ凹面も均しつつ、境界部分の破綻も起こらない様にバランスを取りました。
再度、対馬を経て丸尾山の巣板、中硬の各種形状の物で仕上げ研ぎ。この後、敷き内曇りと白巣板蓮華も用いて追い巣板。
中山の巣板層、何故か並砥や戸前っぽい各種、硬口の物で最終仕上げです
研ぎ上がりです。
刃部のアップ
凹面だった箇所は、削りシロが少ない為、研磨痕の残存も多目です。
刃先拡大画像
此の度は、M様には研ぎの御依頼を頂きまして有り難う御座います。御仕事場では、各所から研がせた包丁を複数、集まって居るそうですので羨ましい限りです。私以外(大阪二か所・三重・埼玉・神奈川・動画勢その他)は名の通った諸兄の手に成る物だそうですので、末席に加わるのでさえ野良の雑種としては、身に余る事で恐縮です。
まあ以前にも、似た状況での比較の際(S様へ御返送した柳)、私の研ぎで余り問題が無かったと側聞していますので、今回の個体の調整が首尾よく仕上がってさえ居れば、また大きな御不満を抱かせずに済むのではと願って居ります。