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昔の原石

 

昨日は、嘗て長四郎の屋号で流通していた原石に触れて来ました。中岡さんと二人で半日、叩いては割って選別をさせて貰えました。東物らしい平行な割れ方をする物が多くて分かり易いのですが、使える所を探しながら鍛えて行くと全部が全部製品に、とは行かないのも共通です。

 

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現場着

 

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選別中

 

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加工場着

 

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面を付けました

 

 

自分用にサンプルとして選びました。

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元からこの状態です。加工途中で止められたんでしょうが、過去の職人の作業が偲ばれて風情が有るとも言えます。

其の所為でか、やや幅広のレーザー型な感じに仕上がっています。砥いで見た感じは、戸前よりは並砥に近いかなと。

 

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此方はレーザーより二回りほど小さく、逆に厚みは充分に有ります。砥いで見た感触は戸前の様です。かなりナマズが入っていますし、下の方は紫一色の層がはっきり分かれて見えます。

 

 

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右は、面付け途中で割れた物を接着しました。今回の原石から取れるサイズ的には、大から小まで此の範囲が多く成りそうです。

 

 

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試し研ぎでは、研磨力・仕上がり共に先ず先ず。泥の質と出方が適度な滑りを齎してくれます。

 

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ナマズが入っていると、大抵は柔らかい物ですが逆にゴリゴリとした硬さを感じます。砥いで見ても、地金に傷が入り易いです。

翌日に、何時もの炭素鋼ペティ・ビクトリノックススーベニアで試しましたが、十分な切れに。実用的な角度で砥いでも、短めに確り固定した髪を切ったり削ったりは可能でした。

 

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此方は質的に均一ですが、やはり少し地金に傷が入り易いですね。どうも、柔らか目な割に砥粒の目が立っているので、平面の刃物には辛い部分が。面が崩れると当たりが変わるので、目が立っている砥粒で構成された砥面に対して、均等に当て続けるのが難しく成ります。

 

 

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其れでは、平面以外ではどうかと皮剥き包丁の刃先を砥いで見ました。青紙と思われる鋼材ですが、純炭素鋼のペティと同様に柔らか目の戸前系統としては充分な切れ味です。巣板に因るさっくりとした切れで無く、ついっと切れます。

 

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どうやら、特殊鋼に向いている可能性が有るのかとステンレスでもテスト。柔らか目に仕上げられたVG10(ファルクニーベン)ですが、不必要に返りを出す事も無く、結構シャキッとした刃先を得られます。

 

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序でに、やや硬目の熱処理のVG10でも。此方も同様、良く切れて軽い手応えに仕上がります。特筆すべきは砥ぐ際の難易度の低さで、通常の巣板ではステンレス洋包丁を鋭利に研げない人でも(尚且つ硬い砥石は扱い切れなくても)、巣板同様の気楽な研ぎ方で更に上の切れを目指せそうです。案外、此の辺りの特性が現代に於いては活躍の場に成るかも知れません。

 

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常用している切り出しは、また田村山で砥いでリセットしておきます。定期的に硬い砥石で平面維持・技術のチェックです。

 

 

 

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おまけですが、この砥石を譲って頂きました。奥殿本巣板巣無し羽二重黒紅葉と書いてあります。私は羽二重は持っていませんでしたし、殆ど試しても来ませんでした。理由は、余りに希少で弾数が無いので、複数を触って傾向を測れないのと、手に入れる機会の少なさ・手に入った物のレベル判断が困難な点です。

ですので、この砥石が羽二重として如何かは評価し切れませんが、単体としては可成り硬口。そして、黒蓮華の性質を色濃く感じます。しかし特に炭素鋼に錆を誘発する訳でも無く、普通に硬く細かい仕上げ砥の性能を発揮します。其の上、黒蓮華的効果(ステンレスの研磨が早く、砥粒から予想される細かさ以上の仕上がり)は健在です。

 

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少し前に、私が希望する寸法の砥石に付いて話し合う機会が有りました。普通の砥石は(30型・40型など)大工道具などを想定していると思しいので、包丁用としては、もう少し幅広な方が使い易いです。具体的には8~9cm幅で、逆に長さは18cmも有れば十分ですし、最悪15cm~16cmでも何とか成ります。

そんな内容を形にしてくれたとも言えるのが此の砥石で、丁度扱い易かったです。和・洋問わず包丁向きだと思います。まあ、試し研ぎは何時も通り切り出しだったのですが。私の好み(提案サイズ)を反映して頂き、有難う御座いました。

 

 

 

 

 

研ぎ目に付いて(表面処理)

 

数日前の事ですが、砥石によって砥ぎ分けた状態(砥ぎ肌)は実際の所、どう違うのか?効果の差は?其処の所を見せて欲しい。との御話しを頂きました。

実は数年前に、奈良の中小企業センターで検査をして貰うべく、日野浦さんにサンプル用の刃金(白二だったかと)+地金(極軟鋼)を鍛接・焼き入れ・焼き戻し迄した物(角棒)を作って貰いました。其れを切断し、鋼鉄面・軟鉄面の其々に付いて各種砥石で研磨した後、純粋や食塩水が噴霧された雰囲気中での腐食テストをして貰う予定でした。

結局はサンプル四つ(キングの1000・8000・巣板・カミソリ砥でしたか)を渡して、目の細かさの比較までは終えましたが、錆に付いてのテストは有耶無耶に。惜しい事でした。今回は其の時の残りの試料を思い出したので、御手製の耐食性実験風を試みたいと思います。

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当時、タングステンカーバイトの弓鋸を使って数時間。手作業で十等分にしたのが無駄にならずに良かったです。

 

 

 

ただ、其れとは別に実際の刃物の状態、つまり水はけと云うか撥水性の違いも見たいとの事でしたので、手持ちの包丁で試してみます。丁度、近く砥石館での講習を御希望の方からの持参要望も頂いている司作三徳。これの研ぎ直しも兼ねて、先ずは其方からです。

 

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初期状態は、地金が千枚仕上げ・刃金は赤ピン仕上げです。

 

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水道の蛇口の下で流水を当てましたが、特に振り払わずとも大半が流れ去ります。

切っ先カーブの辺りから切っ先にかけて、蛇行した線上に細く残っているのは鍛接線に沿っています。恐らく刃・地共に抵抗が小さいので、水分が付着し易いのは其所しか無かったのでしょう。

 

 

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次に、軽く巣板(やや粗い~中庸)で仕上げを変えてみました。刃金は直ちに巣板仕上げとまでは戻りませんが、地金の変化は顕著です。

 

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平に付着している水滴に違いは有りませんが、切り刃の部分は殆ど撥水効果が有りません。時間経過と共に、部分的には水分が移動して行きますが、広範囲で水に塗(まみ)れています。

 

 

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で、順当に行けば次はキングデラックス辺りに成る筈ですが、生憎と小割りが無い物で黒幕の1000番で。流石に研削力が有りますね。しかし、研削力と其れに相応しい?深さの傷が入るのに、可成り光り気味に成っても居ます。此れは研磨剤が削る方と光る方、双方に役割が振り分けられているのでしょう。

 

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そして光っていない1000番クラスよりも水はけが良いのかと言えば、余り変わらない様子。厳密に言えば、多少は差が有るかも知れませんが。少なくとも、上の巣板仕上げよりも水分の付着が強い印象です。(巣板よりも全面に均等に溜まり易い)

 

 

 

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工程を逆に戻って仕上げ研ぎ完了。今回は、刃金部分は先まで硬口の八枚仕上げです。

 

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錆の痕跡も益々軽減され、講習での披露に向けて更に整って来た様です。此れを含めた手持ち包丁達の外観や切れ味が、参考に成りましたら幸いです。

 

 

 

講習後は、最初の画像に有りました耐蝕テスト用試料の再研磨と御手製試験を予定しています。

 

 

 

 

 

講習に向けて準備

 

明けまして、御目出とう御座います。本年も宜しく御願い致します・・・との台詞に相応しい画像も特に無いのですが、少し研究と準備をしていました。 思い返せば去年の年末年始は、高雄に泊まり込みで色々と勉強させて貰っていました。今年はゆっくりしようと思いつつも、ついつい今月上旬・中旬の講習に向けての準備と、序でに研究をしていました。

 

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余分な所をハツって落とした、鍛え落ちとでも言うべき部分ですがサンプルには成ります。右は奥殿天井巣板で、左は中山緑色の戸前です。これ等は薄いので、神戸の方へ贈った様に砥石館で台を付ける予定です。砥石館での講習の際に丁度良いでしょう。

 

 

 

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本巣板の茶色も、余分な箇所を落としましたので其れを小割りに。面を付けました。

 

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筋が邪魔な場合は、避けて割ったり削ったりします。

 

 

 

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上画像の包丁で試します。簡略にですが千枚仕上げの状態から。

 

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作ったばかりの茶色で。明るめの曇りに仕上がります。

 

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共栄で購入の硬口の白。更に明るく成ります。もう少しで光り系と言えそうです。

 

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天井巣板の内曇りです。今回の中では一番曇りましたが、或る意味当然ですね。

 

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同じ天井巣板ですが、超硬口です。千枚系統に近い仕上がりで、殆ど半鏡面です。

 

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最後に、刃金部分(特に刃先)を中硬の中山赤ピンで仕上げて置きます。砥ぎ易い上に、硬口の浅葱に近い切れと永切れを齎してくれて便利です。

 

 

 

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結構、長い直方体の状態で採掘される事が多いそうですが、此れも御多分に漏れず。切り分けて貰って持ち帰りましたが、砥石の性質と層の成り立ち(硬さと粒度の分布)を調べる為に表裏から試用しつつ、ガンガン減らしています。

因みに現在は面積の広い、便宜上裏(底面)としている方が硬さ・細かさで上回っています。逆に表は筋や亀裂、入り肌などの雑味が多く硬さも劣ります。その割には、上手く研げば裏で仕上げたのに近い性能を見せてくれるので面白いものです。最初は表側は、もっと柔らかくて雑味も多かったので、性能も其れに準じていたのですが追い付いて来た感じですね。

 

 

 

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此方も層の研究に使っている、巣板を半分にした片割れ。巣と牙目が問題でしたが、画面右側を意図的に減らしつつ巣を落として来ましたので、双方の問題点が解消されて来ました。このまま手順を重ねると、何処まで向上してくれるのか今少し試します。

 

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半分の片割れ、もう一方です。此方は既に、雑味も軽減されて普通に使える状態に近付いています。場合によっては、日本に滞在中に研ぎ講習をと御希望の受講者の方へ、サンプルとして渡して置いても良いかも知れません。折角ですので、記念品にも良いかと。

 

 

 

 

 

最近の事柄

 

昨日は、以前から問い合わせ頂いて居た堺のN様が研ぎ講習に来られました。本に載っていた私の包丁の様な鏡面に研ぐ方法を、との御希望で。

現在、私の包丁の研ぎは(特に地金部分)本当の鏡面とまでは行かない仕様ですが、或る程度までは参考に成るかと説明を交えつつダイジェストで実技を御覧頂きました。

 

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サンプルに使ったのは、以前に砥石館でのイベント時に幾分、錆びさせてしまった包丁。一度は砥いで置いたのですが今回もう一度、手入れも兼ねて巣板⇒千枚⇒御廟山⇒千枚三種の小割りの順に作業してみました。その結果、錆の痕跡は半減した様です。

 

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其れとは別に、御持参の本焼きを使って練習です。元々、結構形状が揃っていましたが、厚みと角度の減らし方が不均一な点や刃先角度の不適切などを試し切りで体験して貰いました。

 

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実感した問題点をクリアして行き、整って来た状態で終えました。此の度は、少し遠くまで御足労頂きまして有難う御座いました。しかし、楽しんで頂けた様子にて安心致しました。

 

 

 

 

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上画像は前回、キリン刃物への遠征後に高雄 から帰る際、手渡された物です。何れも伊予砥から作られた砥石で、成分は限りなく天然のみ。

右のマーブルは一部、成分を調整した物と通常の混合だそうで、共名倉効果と云うか目詰まりし難い性格に成っているとの事。現在は完成度を上げるべく、試作を繰り返している様です。

 

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研磨力と滑りが適度で、其の上に砥ぎ感としては吸い付く様な印象。砥ぎ易く、傷も余り深く無いですね。

 

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検証の為に、刃金が硬い切り出しでもテスト。印象は変わらずで、下りも十分。

 

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赤い方は、現状(此の個体では)研磨力に不満との事でしたが、余り気には成りませんでした。どちらかと言えば、研磨痕の浅さと均一さの方が目立っていて気に入った位です。

 

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其の傾向は此方の方が、より分かり易いでしょうか。

 

 

 

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あと、伊予砥はダイヤの錆取りにも良いそうですが。上画像は数年前に小鮎さんから頂いた物で、伊予の中でも硬くて細かい物。此れは砥面の直しや泥出しには向いていますが錆取りには硬過ぎる様です。

 

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そう言うと、向いているのが有ると作業場の近くに在った石を分けて頂きました。

 

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数回は錆落としをして、全面にうっすら付いていたのが改善して来ました。確かに効果が有りますね。

 

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こんな感じで行なうのですが。

 

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硬い砥石の面直しに使うと、コロイド状と云うか正に共名倉として働いてもくれます。傷が入って困る事も有りません。

 

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人造伊予の後で、超硬い?奥殿の巣板を当ててみます。先ずは裏でチェックすると刃金が下りています。硬い割に研磨力は充分。

 

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結構荒い人造伊予の後ですが、刃・地共にまずまず傷が減っています。

 

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此方は、刃・地共に少し柔らかいので、更に良いですね。

 

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しかし、流石に飛ばし過ぎなので一度、上画像の白よりやや柔らかい茶色で。

 

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同じく茶色の結果。

 

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どうせなので、もう一段柔らかい巣板も使って。

 

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再度、硬い白。

 

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同じく。

 

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最後は奥殿の浅葱。

 

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同じく。

 

 

 

 

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講習で使った後、もう少しだけ仕上げて置きます。

 

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最低限、次の錆を呼ばない程度には軽減されたと思います。此れ以上は、使いながらの原則で進める事に。

 

 

 

 

 

 

高雄産砥石の傾向の確認

 

昨日も又、砥石の追加などで出掛けて来ました。到着時刻の加減により少し待ち時間が出来たので、手近な所の原石を選び鍛えたり面付けさせて貰っていました。

少しして中岡さんが帰着、購入希望の可能性が有る御二方用の赤ピンの選別もしました。以前に赤ピンの問い合わせをした所、在庫が無いとの返答でしたが加工して頂いていた事に感謝です。

 

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此方は、某理髪店の方からFBでコメントを頂いたので、念の為に持って帰って来ました。砥面の一部に荒れ?は見えますが、硬過ぎず柔らか過ぎず。砥粒は均質で目の立ち方も適度です。

 

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此方は現在、ガーバーのアーモハイド四本の研ぎ依頼を頂いている西宮のM様(過去にもオールドガーバーを研がせて頂きました)に試して頂こうかと念の為に持ち帰りました。メールにて、使用するべき砥石に付いての問い合わせも有りましたので。

御依頼品を研ぐ前、自分の手持ちのショーティーを題材に、仕上げに使う砥石の相性を調べて居ましたが、研磨力と仕上がりの良さで硬口の中山赤ピンに候補を絞りました(奥殿産硬口巣板・白のシャリシャリも遜色無しですが、僅かに研ぎ目が大きい。次点では中山並砥かなと)。以下画像は、本件砥石の砥面を整える作業に平行して試した結果の拡大画像です。

 

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そして、自分で面付け他をして来た石達です。

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左下は、少し硬いですが基本的に全部柔らか目です。

 

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此方も左が少し硬い位です。

 

 

 

ゴロっとした原石が三つあったので、比較対象として使用。其々、表裏に皮が付いた状態で表の皮側から削って行きました。すると狙い通り?難の有る状態が見られました(しかも程度の違う)。

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一度は面を付けたのですが、特に層の走行が暴れていた為に余計に巣や筋の影響が出ていました。筋・巣に対して斜めに面が付いていると表面に出る面積は増大・其の上、巣が減って来ても次の巣が頭を擡(もた)げる確率が高く成ります。余りに層の繋ぎ目が明確に出ると牙目に成りますし。

 

 

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ですので、一部側面に剥離が見られた事もあり鏨を使って割って見ました。画像の砥面は、表の皮が付いていた側を向けてあります。

下側に位置していた(裏側に近かった)半分の方は、層の走行に合わせつつ面を付けたので、上半分よりも砥面に出る層の繋ぎ目が減少しています。元から少なかった巣の影響が、其の所為も在って尚更に薄く。

 

 

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見て分かる様に此の個体は、裏に近付く程に白寄りに成っています。裏の一部は、奥殿の特徴なのか紫が出ています。巣板の茶色と白の境付近は蓮華も出易い様です。

上側単体でも、上面に対して裏の方が巣・巣の成りかけが少ないので、この点でも中央・裏寄りに難が少なかったと言えますね。

 

 

 

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上の巣板に比べると、表の皮の直下から巣以外の難は二本の筋程度しか見られませんでした。但し、巣の範囲は広い。電着ダイヤに掛けても、硬くて滑り易いので整った砥面が出て来るまでは大変です。

持ち帰って、2~3度は面付けし直したので此のレベルに成っていますが、初期は白い部分が目立たない程。ですので、その段階で下画像の茶色原石と研ぎ比べれば当然、切れが劣りました。下画像の方は既に、研ぎに際して殆ど悪影響が出ない程には質的に恵まれた作業工程でした。

 

 

 

 

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少し、白い部分が広がって来ました。

 

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その状態で試し研ぎ。何とか使える感じです。

 

 

 

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今回の原石の三個中で一番、難の少なかった茶色。層の荒れも巣の影響も砥面(砥粒の凝集・均質さ)の問題も極僅かです。そう云った雑味レベルでさえ、厚みを減らしていく程に改善されて来ました。

 

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もう此の段階で一線級ですね。早速、本調子で使えそうです。

 

 

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白い方は、あと1.5mmも(斜行を軽減する方向で)減らせば立派な白に成るでしょう。但し、まだまだ表の皮から少し進んだだけですので、次に如何なる難点が潜んでいるかは分かりません。此のまま著変無し、で経過を辿ってくれる事を期待します。

事ほど左様に、石の質によっては皮を剥がせば即、使い物になり全層に亘って最高性能を発揮してくれるとばかりは限りません。石の成り立ちにも因りますし、層に平行に面付けしなければ難の出現を誘発もします。余程、幸運に恵まれれば大きいまま最後まで問題無く性能を発揮してくれる石も存在するでしょうけれど。

以上は、特に巣板に限った話では有りません。合砥もそうで、更に言えば浅葱に顕著に見られる傾向だそうです。実際、地を引くとか針気が有るなどと評価された砥石であっても、性能を出せる層の部分を見付けてやれば、改善するどころか本来の一番美味しい部分を期待出来得ると。随分、難儀ですが面白いと感じます。

 

 

 

最後は、自分用に購入した二つです。

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奥殿産の巣板、茶色に紫混じりです(と言うか下の大半は紫)。硬さは中くらいで砥粒の目の立ち方も中くらい、扱い易いです。

 

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幾つか赤ピンを作ってくれていたので、その中ではやや柔らか目を。目は細かく、滑走感も適度で余り粘る泥では有りません。

 

 

 

 

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オマケは、サンプルで購入した包丁。見た目は普通のステンレスっぽいですが、セミステンレスでSKD12相当との事。切れ・永切れは充分で、食材を切って見ても味や香りの低下はステンレス程では無かったです。それでも、天然砥石で仕上げた方が良い結果に繋がりました。

 

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早速、茶色を使っていますが・・・3~4割、切れが落ちた状態からでも此の砥石で充分に戻せます。寧ろ、返りが出易くて分かり易い性質の鋼材・焼き加減ですね。

 

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その状態の刃先拡大画像です。十分な仕上がりになっています。

 

 

この包丁の製造元へ、研いだサンプル持参で見学に行く事に成るかも知れません。色んな仕様で製造されている筈ですので、思う様な製品が有れば少量、販売用にとも考えています。包丁購入の相談などを受けた際に炭素鋼・手打ち鍛造を薦めてはいますが、どうしても錆の心配や重量・価格の点で二の足を踏む方への回答に成るかなと。

標準仕様の刃付けは鋭利過ぎる嫌いも在りますので、販売時には幾らか耐久性に振った角度で天然仕上げ砥による刃先調整を経てに成るでしょう。

 

 

 

 

 

高雄産砥石の傾向

 

此の所、一年くらいの間(頻度は疎ら)で高雄に通った結果、東物の砥石に付いて幾分は判って来た内容を簡単に纏めてみます。

全体的に硬い石が多いからか、(圧縮された故の)薄い層のみの石や断面の平行四辺形通りにしか採れない傾向が有ります。地下に在った際の重力や、プレートの動きによる荷重の所為か良く締まっているのとトレードオフなのでしょう。従って、厚物や大判が作り難い様です。

勿論、採掘場所や採り方によっては大きな原石として採れますが、後述の理由で其の儘で砥石として仕立てる事が出来ない場合が多いです。(物が良ければ大半使用可)逆に言えば、その理由を無視・或いは重要視しなければ大判や厚物に仕立てられる訳ですね。

 

① 東物の原石に現れる特徴は、皮と皮に挟まれた砥石の層の中央部あたりで、最も硬さ・細かさ・雑味の無さが発揮される部分が見られると云う事です。つまり、皮の付いた両端面は柔らか過ぎたり荒目だったり針気が有ったりで、難が有ります。其処から使い始めて最良の部分に達するのを待てるなら、端から使える事に成りますね。此れは砥石になった時の質の問題。以下は参考画像です。

 

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此方を例に挙げますが(実際には既に使える砥面が出して有ります)

 

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断面を見ると中央に紫の層が在ります

 

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其処を狙って裁断すると、こんな感じで(石は違います)一面、紫の砥面に成ります。必ずしも紫であれば良い訳でも無く、それ以外の部分で裁断するべき石もあるとは思います。

 

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此れも紫が勝っていますが、裏はもっと白が強くて柔らかいです。砥面としては裏の方が広く安定しているのですが、柔らか目なのと気泡の様な点々が気に成って紫側を使っています。

 

 

 

② 圧縮が強くて、層の一つ一つが大きく肥え難い・重なって行っても層同士で何処までも結合が強固な訳では無い(ハンマーで鍛えると分離する箇所が出る)ので剥離する所を落として行けば、其の分は薄く成ります。筋の入っていない砥石が難しい理由にも成りますね。此れは整形段階の問題。以下は参考画像です。

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大分、砥面が安定して来た小さな天井巣板(硬口)

 

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側面中央には、層の境界が。鏨を当てて叩けば此処から容易に分断出来ます。此れが何層にも亘って連なっていれば、厚い原石として採れる訳ですが層の何処かでは浮き易い接合面も出て来ます。

しかしながら、層の並びが此の面に平行に走っている確率が高いのも、高雄産の砥石の特徴ではあります。ですので、割れるにしても整然と平行に割れて行きます。小割りにする際もメリットになります。産地によっては平行で無かったり、其々複雑に入り組んだ走行を見せる石も在ります。(酷い場合は牙目)

逆に、層の平行を意識した砥面作りをしなければ(斜行)、研ぐ際に安定して本来の性能を発揮させられなかったりします。柔らかければ誤魔化し得るかも知れませんが、硬口の石故に其の影響も強く出ます。砥石層からの剥離・切断・面付けを通して適当に仕上げる訳には行かない理由が此処に在ります。

 

 

 

 

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前回、常連であるベスパのディーラーの方へフォールディングナイフを届けた際に、入れ替わりで渡されたナイフです。

 

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新品の状態では、刃付けの角度が鈍角だったり砥ぎ目が粗かったりで切れに不満が出易いです。

 

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人造1000番の後、黒蓮華と上画像の奥殿産天井巣板(硬口)で仕上げました。初めの研ぎから大幅に研ぎ減らすのは避けたいので、初期刃付けでの減らし過ぎ部分は程々にしてあります。

浅葱系統とは違った、ややザックリした切れ方(強いて比べればですが)に仕上がるので、短い刃長のポケットナイフ等には向いているかも知れません。使い方が繊細で無くても、掛かりや切れ込みが感じ取り易い気はしますので。少なくとも、硬度が低かったり組織が粗かったりする刃物には、欠点をカバーしてくれるでしょう。そういった刃物に、鋭利且つ永切れに満足いく刃を付けるのは簡単では無いので。

 

 

 

 

最後に、高雄産の砥石達の展示施設が出来ましたので、その画像を。試し研ぎや、購入も可能です。事前に打ち合わせ程度は必要でしょうが、場合によっては場所の前身である鮮魚店の関係で、試し切り(魚の調理)も出来るとか。

上から二つ目の画像、中段下部には私が購入した本巣板の茶色梨地も見えます。最後から三つ目には白の蓮華混じりもかな?

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内曇りの採掘場所へ

 

内曇りの採掘場所を自分の目で確認したく、再度高雄へ行って来ました。事前に聞いていた場所に到着した所、採掘者の方と古来より採掘に従事されて来た一族の末裔の方が作業をしていましたので、自分もその横で少し採らせて貰いました。

 

台風で倒れた木の辺りから見つかったとの事で。

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私は此の辺りで探してみました。

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紫がかった、カラス混じりの墨流しの内曇りの塊が出たので、砕いた所です。あと、通常の天井巣板その他も見えます。

 

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カラス+墨流しと、通常の天井巣板・内曇りの境界みたいな物。

 

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白の硬いのも混じっていました。研磨剤を感じさせる程の目が立った砥粒、シャリシャリした砥ぎ感の割りに滑らか。泥を出せば一気に研磨力アップと、個性的です。右端は内曇りですがカラスが少々。

 

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左はおまけの中山赤ピン層の硬口。右は天井では無い奥殿の巣板。

 

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内曇りですね。適度な抵抗と滑らかさ、刃金の傷を消してくれます。

 

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上画像よりも粒度が細かく、当たりは柔らかいです。

 

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内曇りよりも滑らかで地金も揃って来ます。

 

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やや硬さを感じますが、奥行きのある手応え。通常の天井巣板が硬質ゴムの感触とすれば、硬い木の様な感触でしょうか。刃金も地金も明るめ。

 

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傷が入りそうな感触ながら綺麗な仕上がり。シャリシャリの砥粒でもトロトロとサラサラの間の泥で砥ぎ易い。

 

 

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内曇りよりも、ややネットリした感触。当たりは柔らかく、傷も少ない。カラスは裏面には少なく色も水色なので、表側から使って行くと途中で印象が変わるかも知れません。

 

 

 

 

此方は当日に選んだ中の石ですが、購入の際に参考にしたいので寸法などが知りたいと御問い合わせが有った物です。

 

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左から、12.5×9×2.2:609g  中 14×7.5×1.7:394g  右 13×7.3×1.2:254g  です。

 

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天井巣板のグイグイでも無く、シャリシャリでも無い少し反応させにくいタイプ。硬い割に当たりは柔らかいのですが。泥を出してやれば滑らかさ・研磨力共に向上します。其のままでは繊細な研ぎ方を必要とされる印章。

 

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此方は中央の石ですが、右も同様で。グイグイ食い付くよりは、シャリシャリに寄っている感じですね。或る意味、分かり易くて研ぎに迷わずに済みます。研磨力も十分です。

 

 

 

 

オマケの赤ピン層の硬目。赤と緑が薄っすら混じって居り、硬過ぎず柔らか過ぎずの良いバランス。泥を出さなければ明るめの仕上がり。出せば滑らかな砥ぎ感と曇り仕上げに成ります。

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紫がかったカラス+墨流しの小割りに面を付けてみました。或る程度、天井巣板に共通の紫が強く出た泥が印象的ですね。自分では此の色が入っている石が好みに成って来ました。今後も勉強がてら、時々は探しに行かせて貰えればと思います。

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奥殿内曇りの試し研ぎ

 

この前、持ち帰った内曇りを本焼きで試してみました。

 

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現在は余り使っていない、五寸五分の薄刃です。大まかには面が揃っているものの、一部は研削痕・初期の面ダレが残存しています。

 

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以前の研ぎ済みの表

 

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同じく、裏

 

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今回の砥石で砥いだ状態

 

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部分的に残っている研削痕を狙って、小割りも当ててみました。周囲への余計な傷も入らず、残存箇所を減らしてくれます。

また、同じ水野鍛錬所の本焼き柳よりも刃紋が出難い此の包丁ですが、過去の何れの砥石よりも少しハッキリした様です。完全に面が揃っていれば更に見え易く成った筈ですが、無駄に減らさず使う度に整えて行く方針に変わりは有りません。

 

 

研ぎ上がりです

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本焼き用として、やや軟・中硬・硬と使っていますが、今回の内曇りで軟も揃った事に成ります。今後は相性探しや、工程の適正で活躍の場面が期待されます。

もう少し詳しく知る為に、採掘場所や出て来た様子などを実際に見に行きたい気持ちになって来ますね。前回の天井巣板の採掘場所と合わせて、印象深い場所に成ると思います。

 

 

 

 

 

奥殿の追加

 

昨日は久し振りに、高雄へ行って来ました。数日前に包丁向きと思われる、新しい砥石が出たとの知らせが入ったからです。前回、採掘で御一緒させて貰った山肌とは違った場所らしいのですが、少し前の台風で崩れた際に現れたとか。

層としては天井巣板層で、種類的には内曇りに当たるとの事。通常の奥殿とは格段に硬さが違うので、使用目的や効果の違う砥石に成りそうです。

 

 

 

幾つか原石のまま、袋に入っていた中から選んでみました。

 

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此れは形状的に其のまま使えそうでしたので、自分で面付けをさせて貰いました。

 

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此方は、大きな三角形でしたのでカットを御願いしました。もう自分で切れよと言われますが、まだまだ失敗が気に成りますので。

 

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最後のは、薄くて広い物。厚みもバラバラ、従って角度もマチマチに成りますが全体的に面を付けました。持ち帰って小割りにするので、其の状態で問題無いです。

 

 

 

試し研ぎ

 

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最初の筋が目立つ石ですが、あからさまな筋は乗っかる感じがしますね。ただ、刃金にダメージが出る程では無く案外、普通に研げます。地金に傷を入れずに仕上げるには工夫を要するものの、刃・地共に深い傷を浅くする能力や刃金を曇らせる働きには有効です。

 

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裏の状態、刃金のみの部分ですね。刃物と砥石、双方の面を安定させて砥げば結構、均一な砥ぎ目に成って来ます。

 

 

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炭素鋼のペティ、刃先を研ぎました。切れは、巣板仕上げとして妥当な物。掛かりの良さと手応えの軽さが印象的。後述の小割りした砥石で軽く側面も撫でて有ります。

 

 

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此れは筋の数や質が幾分、控え目なので更に使い勝手や仕上がりが良いですね。

 

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裏の状態も同上。

 

 

 

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小割りした分です

 

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未だ大き目のも有ります。広い面積用に、残して置いても良さそうです。

 

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参考画像です。小割りした中には、三段階くらい硬さや層成りの違いが有った様です。基本的に、層が素直に出ている部分は当たりの滑らかさ・砥ぎ目の均一さに優れ、やや(練り物との表現も有るらしいですが、其れに近いのか)複雑な成り立ちと思われる部分では当たりがキツク、砥ぎ目もバラツク感じですね。まあ、役割分担で中継ぎと仕上げに振り分ければ良いと思います。

画像は、余り素直でない部分の小割りを地金部分に当ててみました。割った方も、そうでない方も適度な弾力が有り、奥殿の天井巣板の特徴を示しています。此の層に産する石は、どんなに硬くても一定の弾力を伴って扱い易さに繋がっています。

 

 

 

おまけです

 

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北海道のT様から、メールの遣り取りを通して剃刀関係の文面を頂いて居ました。其れに適するかどうかは現物と合わせてみないと分かりませんが、必要とあれば用意しておこうかなと考えていました。期せずして、今回の作業中に目に付いた物を(本当は探して居たり)無理を言って持って帰って来ました。

奥殿産の浅葱、泡立ちとも称される砥ぎ易いタイプ。しかし彼方に通っていた時期を通して、此処まで硬さ・細かさ・均一性で匹敵するのは在ったかと思わされるレベルですので、砥ぎ易さは少し難易度アップかと。

もしも試して頂いて、扱い難いとの結果であれば自分用にする気満々で選びました。彼方でも、御目が高いとの言葉を頂戴しましたので間違い無い物なのは確かですね。

 

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おまけのおまけ

 

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序でに、辺りに転がっていたのも持ち帰りました。超硬の緑板が採れたとの会話中に、此の辺も・・・との説明が有りましたので同等品かなと思われます。(あやふやな書き方でしたね。此方は、正確には中山です。其の坑道付近での会話中)

 

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薄い部分のコバはハンマーで丸めたり、大きな凸部はハツったりして面を付けました。左の上、原石の面が残る部分と右側面下方の二か所に油膜の様なホログラムの様な異質な反射をする部分が有ります。

特有の成り立ちに由来するのでしょうか、奥殿の山で薄暗くなって来ると原石の状態でも若干の蛍光色を思わせる色の違いが有るのを思い出させます。でも中山の方はもっと局所的で、代わりに強い反射を見せます。生まれか育ち故か、外観にも特徴が現れます。

 

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砥ぎ感は、(超?)硬口の砥石と中硬の砥石の間位で、仕上がりも其れに準じます。

 

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今回の砥石達は、新たな役割を果たしてくれそうなので有難いですね。特に、私は基本的に本焼きに付いては小割りの砥石を使わずに研いで来ましたので、其処に使える様であれば助かります。

軟鉄の地金にも難しさは在るのですが、本焼きの全面鋼(硬度差は有りますが)で面の連続性を保って一律の砥ぎ肌に仕上げるには、角砥石のみで勝負するしか無かったからです。

そうで無くとも、軟鉄部分の均し研ぎに使えるのは確認済みですので、今後活躍してくれる事は間違い無いでしょう。此の度は有難う御座いました。

 

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追加で本日、もう一つの方も仕上げました。

 

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元から薄かったので、流石に此の儘では使い難いですね。鉋や切り出しと違って、包丁では致命的です。17日には砥石館でのイベントに呼ばれているので、現地で板に張り付けて来ようかなと考えています。

その後には神戸のS様が、当方にて砥石や包丁の動画を撮られるとか。共に研ぎや天然砥石に付いて情報発信をと誘われていますので、研ぎや切り・食材の味の違いに付いても表現出来ればと思います。上記の薄い砥石は、板に貼った後にデモンストレーション用に持っておいて貰おうかなと考えています。前々回には私の予備の巣板を御買い上げ頂いたので、薄くて筋も有るとは言え戸前系の砥石のイメージを掴んで頂くには良いサンプルでしょうし、初めて見る方や未体験の方には原石の雰囲気も伝わるかと。

 

 

 

 

 

手持無沙汰で(最近の考察)

 

本日、日野浦さんからの包丁到着が凡そ確定しましたので受講生のK様(長らく御待たせ)、もう一人のK様(運良く短め)、砥石館常連様(三本中の一本、残り二本は次)には三徳包丁納品の目処が立ちました事を御報告いたします。

磨き・黒打ち(二本)が週明けには当方に到着予定です。柳を御待ちの方々には、もう少々我慢の程を御願い致します。これ等を待っている間、手が空いていたので最近気になった事柄を試していました。(柳の大半は私が研ぎを施してからの発送なので)

砥石館に置いてある、商品としての包丁や研ぎサンプルとしての包丁の直しをしている際に、現地の様々な砥石を使う訳ですが、大抵は御決まりの数種に成ります。其れは研ぎ体験希望者への最終仕上げ砥石としても使われ易い物で、中山産水浅葱・若狭産戸前・菖蒲産浅葱です。

個体として最も硬いのは菖蒲で以下、若狭・中山と並びますが右二つは大差有りません。しかし、明らかに研がれた刃物の切れが違います。(硬さは勿論、砥粒の目の立ち方・泥の出方の何れも各産地・各層に固有の特徴では無いので、此処では余り重視せずに願います)特に違いが顕著となるのは組織が粗い刃物と熱処理が不正確と思われる刃物(焼き入れ温度が低いか戻し損ない・加工時の焼き戻り?で硬度が低い・保持時間が長いか鍛造不足?で炭化物が大きい)

一般に、正しいとされている考え方に「硬くて細かい砥石を、返りが出ない範囲で刃先の左右(表裏)撫でてやれば、最先端の整列と細かい仕上がりになり、大抵は切れる刃先に成る」というのが有ります。私も基本的には同意ですが、それだけでは解決困難な事例もあります。砥石館では各人各様の刃物を持ち込まれますので、自分の手持ち以外の色んな状態やレベルの物に触れられました。それに比べれば上記の研ぎ直した二種は標準の範疇では有りますが、性能をフルに引き出すのが難しい部類だと感じました。普通~普通以下で良ければ簡単なのですが。

最初は炭素鋼とステンレスの違いも有るのに、揃ってAの砥石で切れず、Bの砥石では切れるのが不思議でした。しかし更に試すと、切れる砥石Bと他の切れる砥石Cの結果が同一では無い事にも気づきました。切れのレベルと其の持続の違いですが、砥石館に複数備えてある顕微鏡で逐一確認しつつ、試し切りをして傾向が見えて来たと考えます。

やはり、人造と天然の大きな違いである砥ぎ目の多寡と深浅は、天然砥石同士の比較に於いても厳然と影響する様です。殆どの場合、研磨が速い(つまり研磨力が大)砥石は刃物表面に研ぎ傷が付き易いです。しかし、研ぎ傷が(実用上・或いは理論上悪影響を与えない程に)小さい場合は、寧ろ対象物への掛かりが良い刃先として機能します。此れに対して、更に研ぎ傷が小さい・或いは殆ど無いと表現可能な刃先には、刃物の(鋼材由来の但し製造段階で千差万別の)組織その物の荒さが現れた状態に成っています。

上記、二つの状態は、初期切れには前者・永切れには後者が優れる可能性が高いです。何故なら、(高品質な砥石前提ですが)明確で均一な刃先の研ぎ傷の方が、金属組織由来のランダムなセレーション(波刃)よりも、安定して対象に接触し続ける事が出来ると考えられ、逆に(強引に研磨剤で消すのでなく)砥ぎ目が付かないレベルの控え目な研磨力で砥がれた刃先は、強度が高い構成物(炭化物など)の残存が耐摩耗性に有利だと考えるからです。余り砥ぎ目が明確だと、それが摩耗した時との差が大きいのも有りますね。

此処までは、以前から記載していた内容に準じる部分が多いです。しかし鋼材によって最適な粒度が違う等と言われて来たレベル以上の、相性の本質は、「組織の荒さ(山と谷の頂上)の先端に明確な砥ぎ目を付ける・或いは砥ぎ目を消す」のか、「砥ぎ目の先端に更に細かい砥ぎ目を付ける・或いは砥ぎ目を消す」も含まれるのでは無いか。前者は天然同士でも良いし、後者は人造から天然が適するでしょう。少なくとも、一筋縄では行かない難儀な刃物には効果的でした。飽くまでも、粒度の差が少ない仕上げ砥石同士が前提です。荒砥・中砥ベースでは永切れしませんので。あ、引き千切るのは出来るでしょう。(出来の良い刃物であれば、此処までの工夫は必要ない場合が大半です)

以上の事を踏まえると、砥石館に有った(個体差は有ります)最終仕上げに適した砥石三種は、①研磨が速くて形状を整えて掛かり良い砥ぎ目を付ける若狭戸前。②優しい当たりで傷を入れず寧ろ傷消しに働く中山水浅葱。③硬く滑らかな砥面で刃先の細かい整列を促す菖蒲浅葱。と言う、図らずも各々の特徴的な働きで仕上がりの差別化を齎(もたら)してくれていた訳です。しかし、ハマグリ刃なら刃先への異なる砥石でのアプローチも可能ですが、両面が平面の場合は困難ですね。精々、砥石の効果の上書きで二種のミックス狙いと言う所でしょうか。

結果的に、研ぎ直しは巣板仕上げからの最終、若狭(田村山戸前浅葱)で仕上げましたが、組織が粗く硬度も低い二丁の包丁をキッチリ切れる様にしてくれました。今回は、研磨力の強さと其れに伴う適度な砥ぎ目を利用して砥ぎましたが、平面の刃物ならば砥ぎ目は付き難いですし、泥を出してから・共名倉の使用など、幾つも仕上がりを変更可能(そもそも石毎に個性も有り)ですので、此れしか無い・こう使うしか無いとは受け取らないで欲しいです。寧ろ様々な知識を駆使して最大限、砥石の性能を発揮させ、然る後に刃物を活かす方向に繋げて行かれる事を願います。

 

 

以下は、例として手持ちの観察をした画像です。モバイル顕微鏡では、砥石館の光学の明るい奴には描写力で及びませんが、参考までに。

 

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青紙の切り出し

 

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炭素鋼のペティ

 

 

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田村山の戸前

 

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Still_2018-03-20_220113_60.0X_N0001.jpg若戸

 

 

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Still_2018-03-20_220237_60.0X_N0002.jpg若戸

 

 

 

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中山の並砥

 

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Still_2018-03-20_220903_60.0X_N0003.jpg若浅葱

 

 

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Still_2018-03-20_221023_60.0X_N0004.jpg若浅葱

 

 

 

 

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中山の水浅葱

 

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Still_2018-03-20_222041_60.0X_N0005.jpg中並砥

 

 

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Still_2018-03-20_222144_60.0X_N0006.jpg中並

 

 

 

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奥殿の天井巣板

 

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Still_2018-03-20_222952_60.0X_N0008.jpg中水

 

 

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Still_2018-03-20_224103_60.0X_N0009.jpg中水

 

 

普段、仕上げに使う事の多い砥石達で普段使いの刃物に試してみました。研ぎ目の大きさや付き方、光り方(仕上がりの細かさ)が其々に異なっています。従って、刃先の性状も其々です。

此の違いこそが刃物の個性を引き出す武器であり、好みの切れに調整する際も役に立ちます。鋭く掛かる刃先・滑らかに切れる刃先・耐摩耗性に優れる刃先等、使い方や組み合わせ方で、かなりの幅を持たせられます。全ての刃物に、自在に随意の刃を付けられれば良いのですが、簡単では無いですね。