カテゴリー別アーカイブ: 説明文

御知らせ、その他

 

私が詰めている土・日・祝の天然砥石館は、時間帯にも拠りますが物見遊山的な層の他に、ある程度の目的意識を持って来られる方々もいらっしゃいます。

例えば直近では、皮包丁の仕上げで天然砥石を使った場合にどうなるのか、期待する色調に成るのか期待を込めて試された御一人が。結果は、砥ぎ肌もまずまずだった様ですがそれ以上に、切れの鋭さと軽さに感心されていました。がっかりされずに良かったです。

 

そんな亀岡通いの合間を縫って、包丁のセットも砥ぎ上げました。最初に聞いた話では、引き出物などで良くある簡易な三本組み程度かと考えていましたが、包丁ケースに入った五本組み。それも、之まで見聞きして来た調理専門学校で支給されがちな廉価なセットで無く結構、確りした製品です。

 

1493717460876

入っていたケース。

 

1493717469235

各所の錆を落として人造の中砥石で砥いだ状態。それに付随して平と裏は通常以上に磨いたので、今後発生する錆は抑えられるでしょう。

 

1493717477267

裏も錆取り・磨きを。

 

1493717484688

切り刃を天然砥石で砥いで仕上がりです。

 

1493717491578

セットの牛刀とペティ。

 

洋包丁が顕著ですが、和包丁もほぼ刃先の摩耗が軽度でしたので、切り刃を完全に作り直す必要が有りませんでした(柳の先側刃線カーブは軽度修正)。つまり、作り変える所までは行かなかったので刃金部分にのみ、角度の変化などを施しています。

ですので、刃金部分は中山の黄色や水浅葱で仕上げましたが切り刃の地金部分の砥ぎ肌は、千枚までは進んでいません。八枚仕上げとしていますが、代わりに其の手間暇を錆取り・磨きに振り向けた格好です。

嫁入り道具として使われる前提の様子にて、ここは無理に減らさずに実用性重視とし、料金を抑制しました。御自身でも砥がれると思いますので、形状の追い込みは後々砥ぐ度にと。

 

 

 

あと、北海道のN様に中屋平治作三徳を御注文頂きましたので、残るは一本と成りました。今後は基本的に仕入れの予定は有りませんので、売り切れとなった場合は御了承頂きます様、お願い致します。

 

 

 

更に、H様には京都から御訪問の上、本焼き三本の研ぎを御依頼頂きましたが、ゴールデンウィーク中の砥石館での務めを終えましたら作業に掛かれますので、もう少々お待ち頂ければと思います。同時に御依頼の砥石二種ですが、此方は既に、狙い通りの質の物を選別出来ました事を御報告致します。

 

 

 

御三方におかれましては、御依頼・御注文を頂き有難う御座います。

 

 

 

今年の刃物祭りと業務連絡

 

今年も関の刃物祭り(10月11日)に行ってきました。と言っても、今回は特に購入予定の物も無く、砥石の出店も見当たらなかったので、何時もの鰻屋に寄って食事とお土産だけにしました。

アピセで日野浦さんと話し、今後の展開について報告したり、テレビで米国の少年との交流を見た事については、その後の予定を聞いたり。また鍛冶体験に来ても良いぞと言われた事は嬉しく、いつか再び切り出しを作りに行きたいと申し込んでおきました。

 

現地で、過去の勤務先の元同僚とも年に一度の再会を果たした訳ですが、相変わらず気を使って貰い、恒例のプレゼントを頂きました。仕事に関連するマスプロ製品としてのペティではなく、オリジナルです。アウトドアナイフショーでもチャレンジャー部門で展示している意欲的なグループの一人でもあり、下画像がその作品です。

 

IMG_1151

鋼材はVG10、焼き戻しは殆ど無しの堅焼きだそうで、ハンドルは上がアイアンウッド、下が黒檀だったと思います。そのハンドルにボルトを通す為、タングには戻しが掛かっているとの事。タング後端は軽くテーパーになっており、所謂テーパードフルタングです。

 

4~5本の中から選ばせてくれたので、身が厚い方から2本を採りました。その方が、刃付けによる差別化が顕著に現れるからです。因みに、ヘンケルのペティ(左)と比較すると、中央、右に行くに従って厚みが増しています(現物は峰の角が僅かに丸めてあるので、画像では控えめに写っていますが)。

IMG_1152

 

 

 

四~五年ほど前には、こんなナイフも頂きました。ひと目見て以来、母が気に入って放さないので、其方(親宅)に配備されたままになっている物です。

マイカルタハンドルにVG10の三層クラッドのブレードですが、主にパンやチーズを切る為、テーブル下の引き出し手前に位置を占めています。此方も、やや堅焼きですが中庸な研ぎ感(滑ったり返りの処理に悩む様な研ぎ難さは無い)と結構な長切れで、割り当ての仕事内容では滅多に研ぐ必要を感じません。上のペティは更に硬いのなら、一層の長切れが期待できます。

1444740053565

 

1444740081722

 

 

 

あと、半月ほど前、ある大使館を通して研ぎ文化振興協会宛に研ぎの出来る人材の派遣をと連絡があったそうです。一応、私が対応する事になるだろうと聞いてはいましたが、本日振興協会からの転送ではありますが依頼のメールを自ら確認する事が出来ました。今後は相手方と直接情報の遣り取りをして現地でのイベントに備えます。

もし、研ぎの依頼をと御考えの方は、来月前半の海外出張期間と其れまでの準備期間中は、納期の面で御迷惑を御掛けする事になるかと思いますが何卒御理解の程、宜しくお願い致します。

 

(場合によっては、「六月七日の砥石の選別」の導入部分で軽く触れていた計画が本決まりとなり、其方も担当するとなれば春以降、更に長期の御迷惑を・・・となるかもですが、それは又いずれ。)

 

二種類のハマグリ刃(前回の記事に関連して) 

 

前回の記事に記載させて頂いた本焼き柳について、後日、使用感を連絡下さいました。「刺身包丁でのハマグリは初めてながら、非常に切れ・離れが良い」との事で、安心しました。しかし其れにも増して、「今後の使用が益々の楽しみ」とのコメントを有り難く思いました。

持ち主の役に立ち、使用時の負担が軽減される事が研ぎの第一義ですがその上、使うのを楽しみに感じて貰えるなら、ほぼ間違い無く今後長きに亘りこの包丁が大事にされると考えるからです(これは、頻繁に道具を使う人、特に使うのが好きな人には通じる気持ちでは無いでしょうか)。

私は、包丁と其れを作った人、そして使う人の三者(?)に対して、どうしても均等に意識してしまいます。作り手の感性による形状や意図した構造。使い手の好みや使用状況に要請される形状や構造。その間で、どちらに寄り添う事も可能ではあるが、一朝、姿を変えるには身を削られるしか方法の無い包丁。それ故、作り手・使い手の意思や個性を温存・反映させつつ、生まれた時点の基本構造は変えない研ぎが望ましいのではないか(必要欠くべからざる大改造や、傷んでの再生は止むを得ず)。少なくとも、変更を加えるならば微調整の範囲に留めるべきではないかと思います。そして、その変更は使い手によって綿密に計算されたもので、且つ研ぎ手(使い手でも専門家でも)によって確実に性能向上がなされるのが理想でしょう。減った部分は帰って来ないからです。

自分の研ぎは、余り極端に調整幅を取りませんが、それは上記の様な理由からです。基本的には、切り刃をほぼベタに近い極緩いハマグリ刃。刃先近辺はアールをきつくして行きます(鈍角)。そして糸引きや段刃は無し。なぜなら、「きついアール」の開始位置やきつさを変更する事で事足りるからです。これが今回の題名の二種類の内の一つ、「耐久力重視」の方です。そして、刃物としての刃の通りは一定以下の切り刃の厚み(鋭角)で出している物です。

対して、「切れ味重視」のもう一方は、先ず最も鋭角な部分は刃先になります。そこから、切り刃を鎬筋方向にアールに研ぎ落として行きます。極端に言えば、頂点は鋭角ながら少しふっくらした涙滴型です。鋭い頂点で切り込んだ後は明確な、なで肩の切り刃構造により抵抗少なく切り進む・切り抜ける事が出来ます。但しこのままでは薄すぎる刃先のダメージが予想されるので糸引きが必要となるでしょう(ここで抵抗になる新たな段差(段刃)を増やしては本末転倒)。

しかし切れ味重視で、何なら鎬筋の角まで丸めた刃体は、確かに切り抜けや離れは最高かも知れませんが、包丁を操作する上で、直線に切り込んだり食材の切断面を平面に仕上げることが困難・或いは経験・技術が要求されます。それ故、特に薄刃包丁などはベタ研ぎ(+糸引き位?)以外は敬遠され易いのではないでしょうか。以上を鑑み、包丁初期の状態次第でもありますが、自分の研ぎでは通常、限界までの鋭利さ重視の刃先+極限の抵抗軽減の涙滴型ハマグリは採用していません。何と言っても、食材を切った先には俎板が待っています。余程、経験・技術が無いと包丁の刃先を傷めず軽い接触で切り続けるのは難しいでしょう。木工用刃物と同等の刃先強度が有って欲しい位です。

そう云う訳で、対応範囲の広さや切れと長切れの両立・維持管理のし易さ等の点から現在、標準としている仕様を設定しています。長切れも考慮してはおりますが、切れに不足はまず感じられないと思われます。勿論、お好みに合わない・目的に特化した研ぎを御希望の場合などは、(包丁の資質的に可能であれば)それに副うように調整したいと思います。

 

 

前回に関連して

 

前回の記述に関連する内容です。下画像は、私が初めて自分用に買った和包丁で、確か高校生時分に天王寺辺りの店で手に入れました。

作業目的を聞かれたので、主にイカを捌いたり、柵を買って来て刺身にしたりすると答えて出てきたのがこの六寸イカ裂き(箱には正夫と)でしたが、肝心のイカを造る時に錆が出やすく困りました。鋼材と云うよりは寧ろ焼入れの問題(適正温度よりも低かったか?随分柔らかいし)に感じましたが、表面処理の粗さも相当影響していた様です(画像の平と裏梳きに、斜めに深く残存している研磨痕で明らか)。兎に角、作業中に出た錆がイカの断面に茶色く色を付けるほどで、マグロを切った時は色は分からない物の、匂いは気になりました。

お陰で、この包丁は塊のハムや牛肉のタタキを牛刀よりも更に薄く切る用途専門で、他には殆ど出番が無く仕舞っていましたが、近年になって(経年での酷い歪みを木槌で修正後)裏と平を耐水ペーパーと研磨剤で磨き、切り刃を天然砥石で仕上げることで使用に耐える状態になりました。歪みが酷かった名残で、鎬が真っ直ぐで無かったり裏押しが外周のみで無かったりしていますが、本来の目的には適うようになりました。

 

IMG_0843

 

IMG_0845

 

IMG_0847

IMG_0849

 

 

画像の二枚目は、中央部の平から切り刃、そして刃先の部分です。平は製造段階の粗い研ぎ目をかなり減らしてから磨いた状態。切り刃は巣板で研いだ後、小割りした千枚で均し研ぎ。刃先は鋼部分を敷内曇りで緩いハマグリにしてあります。ハマグリは見て分かり易いように数段階の面構成を完全には繋げずに表現しておりますが、本来は連続した緩い曲面とします(これも均し研ぎ)。

通常の砥石であろうが、小割りした欠片であろうが、均し研ぎは文字通り、段差や凹凸を平滑・又は平滑に近づける為に行っています(微妙な厚みの調整にも)。例えば製造段階の粗い研ぎ目や、切っ先~カーブ・刃元周辺に付けられた削り過ぎの陥没などに代表される問題への対処です。対して、化粧研ぎは僅かな研ぎ斑を均一にしたり、研ぎ目自体をもう一段、細かく仕上げる為に行っており、基本的に形状の不備への対処ではありません(尤も、均しを進めて行けば自然と化粧に近づいて行くし、そもそも「化粧の下地」としても不可欠な工程では在りますが)。

 

 

此処で今回のサンプル、イカ裂きの表面拡大画像です。

下画像は前述した通り、刃先の光り方が黒光り部分の三本線で、不完全ハマグリが見て取れます(間に挟まれて、白っぽい範囲の帯が二本)

Still_2014-12-29_203651_60.0X_N0003

 

次は鍛接線(中央やや下の波線)を挟んだ切り刃             (ここはハマグリでなくほぼベタ研ぎになっています)

Still_2014-12-29_203716_60.0X_N0004

 

平の銘周辺のまだ粗さの残る磨き痕

Still_2014-12-29_203814_60.0X_N0005

 

それよりやや細かくなっている平の部分の磨き痕

Still_2014-12-29_203947_60.0X_N0006

 

言うまでも無く、天然仕上げ砥石で研がれた切り刃は(未だ完全では無い)平の研ぎ目よりも細かく、錆には強いです。又、平の中でも研磨痕が粗い部分ほど錆が出やすい傾向です。勿論、平も研磨痕を残さぬ完全鏡面まで磨けば、人工仕上げであってもかなり錆び難いですが、もし同程度の番手(相当)であれば、やはり天然が勝る印象です。

面の連続性を向上させる目的での研ぎ・均し研ぎを行った結果は、余分な段差や粗い傷が減少する為、対象物からの摩擦・切り込み抵抗は軽減し、切断面もより綺麗な傾向です。化粧研ぎは鉄粉やガラス粉末を当てて一見、粗い乍らも均一な表面に処理するブラスト等と違い、見た目の満足度を上げる為ばかりでなく、研ぎ斑を消したり目を細かくする効果が本当に伴っていれば、錆の要因を低減する効果を併せ持っています。均し研ぎも同様の効果は言わずもがな。その上、切る際の抵抗や切られる対象物が受ける損傷も軽減し、結果として作業がより楽になり、食材の味の劣化防止に繋がります。

もしも、化粧研ぎのみならず、均し研ぎの意味まで理解していながら双方・或いはどちらかが不必要であるかのような言説が在ったとするなら、それがどのような立場であれ、例え研ぐ立場の者であったとしても、調理の実情を理解していないとしか考えられません。実際にある程度以上の料理をそれなりの年数、或いは回数をこなしていないのなら、そのような意見も出るかも知れず、又、使う砥石が人造と天然で長切れ・耐食性が違うことを確認できなかったとしても、無理からぬ事なのかも知れません(其処まで細かく比較検討している方が珍しいのでしょう)。

私は先述の様なメリットを、そういう層にも理解されるように社団法人や研究機関などを通じて、客観的なデータ収集や意見の集約が出来ればと考えております。個人的な好みや思い込みで物事を断言し、大した検証も考察も無く、他の意見を否定するような愚を恐れての事ですが、仮に自分達のしてきた作業や説明の内容が優れて正しかったとしても、他の遣り方や好みまで否定する事はしないでしょう。包丁という刃物は特に、鋼材・製法・形状・目的・切断対象が千差万別で、好み(思想?)や使われ方も人によっては想像出来ない程にかけ離れている場合も有ると認識しているからです。只、目的や目指す地点が同じ・或いは近いならば、自ずと集約されて来る条件もあると思います。

 

 

研ぎ目について

 

大まかに言って、和・洋問わず包丁の切り刃や刃先の研ぎ目については、より細かい方が錆に強く、滑らかで綺麗な切り口になり、何より切られた(剥かれた)食材の味を損なわない事は明らかな様です(更に言えば、人造砥石よりも天然砥石にその傾向が顕著です)。

上記に関連しそうな経験では、洋包丁で言う所のエッジ以外の裏・表を、人工の研磨剤使用ですがほぼ鏡面に仕上げたペティは、仕上げる前と比べて切った野菜の味がやや違いました。風味の割り引かれる度合いが減少した印象です。切断に直接、最初から関わる刃先のみならず、接触する面の全体が味に影響する可能性を考えさせられました。

和包丁で研ぎ目と云うと、もう少し複雑です。先ず、表の平と切り刃、裏梳きで其々違いますし、切り刃の中でも合わせ(鉄と鋼製)では鋼の部分がより細かい場合もあります。更に製品の値段設定により、廉価な部類はどの部分もが、高価な部類よりも荒い仕上げとなっている事が殆どです。平や裏の仕上げの多くは、木と研磨剤で研がれる仕上げ・膠などで固めた研磨剤付き羽布での仕上げ・柔らかい羽布と細かい研磨剤での仕上げがランク分けで選択される様です。

それ以外では、センや砥石などでかなり細かく、加えてここが重要ですが刃元から切っ先方向(縦)に研磨されている物があります(中屋平治さんの磨き仕上げの包丁など)。何故重要かと言いますと、普通、使用者が手入れする場合には普段の洗浄でも錆落としの磨きであっても、縦方向の動きが主となるからです。峰から刃先(横)への短い距離の往復を数十回~数百回、繰り返すのは現実的では無いからです。所が、前述の一般的な三種の仕上げでは縦方向の研ぎ目となるものは例外的で、縦方向に対して直交、或いは斜めで研ぎ目が入ります。畳の掃除では目に逆らわない事が当然な様に、研ぎ目と動作の方向は一致しているに越したことはありません。そうでなければ汚れ・変色・錆を落とす効率が下がるからです。

そういった訳で、研ぎ目は縦で、且つ目が細かい程に、購入後の手入れが簡単になります。反対に、粗い研ぎ目が斜めや直交に付いていると、それが(多くの場合イコールとなる)低価格品で有る場合は鋼材的にも(鋼なら不純物の割合が多く成りがち・ステンレスなら耐食性に必要な添加物が不十分に成りがちによって)錆が出やすい傾向が加わります。結果としては、高品質な鋼材を高級な仕上げで作った包丁の方が維持・管理の手間が掛からず、やはり値段なりのメリットがあると思います。

普段、特別に「研ぎ目を消そう・細かくしよう」などと思わなくても、汚れが取れ難い時にクレンザー(余り粗いのは避けるべき)やクリームクレンザーで洗っているだけでも、徐々に錆び難くなって行く事も多いです。ところが研ぎに出されると、特に製造元や、そうでなくても機械での磨き(製造段階と同等・若しくはそれ以上の粗さの羽布など使用で)を加える店では一見、汚れや錆が落ちるのみならず製品出荷時(或いはそう見える)の研ぎ目が付いて戻って来るので、それを称して新品に戻ったと喜ぶのは良くあると思われます。確かに手作業よりも均一な揃った研ぎ目が強く光りを反射しますが、それは(作業上、困難であるので)縦では無く横か斜めに結構、深い傷を入れ直された事を意味しています。

特殊な物を除けば、之までの経験では吊るし(箱出し)の段階の方が、軽く磨きを掛けた後よりも錆に強かった物は皆無なので、自分の包丁は程度の差こそあれ大抵、様々な磨きを掛けています。研ぎを依頼された包丁も(特別な仕上げを除いて)、錆や汚れをに耐水ペーパーや研磨剤で、ざっと縦に落としていく磨きは同様です。しかし、完全に研ぎ目を消したりそれに近い状態まで一気に仕上げるのと比べれば、徐々に綺麗に成って行くとは云え、初期段階では新品時の研ぎ目と混合の痕跡となるので見た目は今一かも知れません。研ぎ目その物は間違い無く浅くなっており、錆や汚れは付き難く、切った素材の食味も改善されていると思うのですが、要は新品時の外観と、実際の実用性能のどちらを採るかになるのでしょう。

自分としては、御自身の包丁を育てるつもりで、洗い(洗浄・清拭・乾燥)や軽い磨きといった日常での手入れを励行して頂きたいです(スポンジは峰側から挟んで洗う・若しくは板に載せて刃を浮かさず側面を洗うと余計な所を切り難いです)。そうする事で錆び難さ・汚れ難さなど包丁の使い勝手を向上させるだけでなく、衛生的な包丁による調理によって(食中毒など)健康への被害も防げると思います。

 

 

洋包丁(ナイフ類)の研ぎ減り

 

洋包丁(所謂キッチンナイフ。また、多くの一般的なナイフ類も)の刃付けには、フラットグラインド(平らな研削)・ホローグラインド(刃先近くまで凹面の研削)・コンベックスグラインド(刃先まで放物線的に続く凸面構成)等があり、料理用途に特化して行く程、殊に刃先以外はフラットグラインドが多くなります。しかし、殆ど全てに共通する点としては、刃先から2~3ミリ幅で実際に切れる刃である所のエッジ(小刃)が付けられている事です。

最初の内は、切れが落ちても大抵、エッジを上書きする様に研いで居れば問題は無いのですが、困るのは経年の研ぎ減りや、欠けを取る為に大きく研ぎ下ろす場合です。殆どのブレード(刃体)が程度の差はあれ、峰から刃先まで厚みが減っていく刃付けに成っている為、最初の角度のまま研いで行くと徐々に厚さが増して行き、エッジの幅は広がります(接触面の増加による摩擦)。加えて、断面から見るとエッジの始まりに当たるブレードとエッジの境界の角が食材に切り込む際の抵抗となります(切り込む初期に幅広になった刃先が割って入る際の抵抗)。

上記の問題に対処する方法として、多く用いられるのが刃体自体の厚みを減らす事です。これは刃先の厚みを初期に近づけるのを目的とする物ですが、元来コンベックスでなくフラットな刃物でも実際の研削に於いては緩いコンベックスに近い仕上がりになると思われます。何故なら製造段階と違って、峰から刃先まで均一の面で研削し直す事がほぼ不可能だからです。しかし、元来コンベックスの刃体であれば元々の形状に則って(設計・コンセプトに従って)維持・管理している事になりますが、そうでないなら厳密にはコンセプトから外れている事になります。

一つの例として、(ハンティングナイフの範疇ですが)ガーバーのアーモハイドシリーズでは、高速度工具鋼のフラットなブレードの錆を防ぐ為に、エッジ以外を厚めのクローム鍍金で覆っていました。この場合、研ぎ減ったからといって刃幅の半分や3分の2辺りまで厚みを削り落とす設計思想とは考えられません。そんな事をすれば、余分にコストを掛けたオーバークォリティな鍍金が台無しです。これは極端な例かもしれませんが、自分は製造された状態を大幅に変更する事には抵抗があります。もし、刃先の角度を変えずに研ぎ・使い続けたいならば和包丁の構造を取り入れ、平と切り刃を形成するべきでしょう。

とは言え、肉や魚を適当に分断するだけなら未だしも、傷めずに切り分けたり野菜を綺麗に切るには分厚くなった刃先では上手く行きません。ですので、ある程度は厚み抜きをしなければなりませんが、精精、初期のエッジの2~3倍までの幅で構成可能な鋭角+ブレードとの段差角を丸める程度としています。勿論、それ以上の研ぎ下ろしを行い、広範囲の面の再構築も可能ですが、手間隙に比例した金額となり、何より元々の包丁の成り立ちやコンセプトから外れます。其処まで行けばもうメンテナンスでは無く、リフォームの域と言えるでしょう。作業内容としては工場送り返しが相応しいですが、メーカー刻印(印刷・腐食含む)等が消えるので受けて貰えない場合が多いかも知れません。

使用者が求める様に変更を加えるのが道具、との考え方もありますが、目的に合っていない使い方をしないのも又、本当でしょう。一本で何でも賄って、研ぎ減って分厚くなった牛刀を薄く薄く削りながらペティの様になるまで使い切るよりも、刃幅が半分に近く減って厚みが目立ってきたら、荒い仕事用に振り分ける。そして以前の用途には新しい牛刀を用意し、特に細かな用途や繊細な切れが必要な場面の為にはペティも準備しておいて分担させる。此方の方が効率も良く、道具を活かして長持ちさせる事に繋がると思います。

そもそも、鋼・ステンレス問わず、程度の良い牛刀(に限らず)を手入れしながら(適切な研ぎ・洗浄・乾燥)上手に使えば、一生の内にそう何本も買い換える必要は無い筈ではあります。良い物を大事にしながら適切に使えば、最終的には余分なコストは低く、使用時の負担は軽減(むしろ楽しい)、所有感も満たされ、満足度は間違いなく上がるでしょう。いま一度、振り返って見られるのも良いかと思います。

 

知人への御礼に

 

研ぎの重要性の説明や紹介を、客人等にして頂き御世話になっている和菓子屋の旦那へ、以前も研ぎサンプルとして平面を出して鏡面に仕上げた切り出しをプレゼントしました。そして先日は、「包丁と砥石大全」をやっと渡す事が出来ましたが、実際に研ぎ(又は鋼材や砥石)によって味の違いがある事を明確に実感して欲しいので、一般的なステンレスペティを研いで持って行き、比べて貰う事にしました。

ホームセンター等で1500円前後で買える廉価なペティとしては、幾つかある内で結構定評の物で、貝印の関孫六シリーズ・ST2000です。3000や4000はグリップの仕様違いで、ブレードは同一の様に見えます。下画像は、箱出しの新品で、刃付け(ブレードの研削)は先端4分の1以外は厚みは大体一定・小刃はやや粗い研ぎの後、研磨剤付きの羽布に近い仕上げでしょう。

これは、大きなギザギザが残存する段階で特にその先端付近をツルツルに近く磨く事により、上滑りし難く、尚且つある程度は滑らかな切れを実現する手法として、工場出荷時のステンレス系統の仕上げでは昔から多用される物です。確かに硬くて滑る素材や薄くて撚れる相手にも、効果的に切り込み易いと思います。その上、刃先周辺が接触する面積としては少し減少するので、抵抗が少なくなり易いメリットも有ります。

しかし、作業効率と「切断(切削)された対象の状態がどうなのか」は別問題です。木工でも、切ったり削ったりの表面の状態で、水分に対する耐久力等が違って来る様ですが、食材も又、空気や水に触れる間の変化に違いが有ります。乾燥し易さやスライスの吸水具合、香りの出方ですが、直接舌に乗せた時の味にも違いが出ます。ここでは、食材の切片を作って拡大できる顕微鏡が在りませんので、繊維質の素材としてやや薄いダンボールを切って、断面を拡大してみました。

 

ペティの全体画像

IMG_0813

 

刃部のアップ

IMG_0814

 

刃先の拡大

Still_2014-11-15_193956_60.0X_N0004

 

切断したボール紙の断面の拡大

Still_2014-11-15_195932_60.0X_N0007

 

 

 

次にキングハイパーの後でシャプトン2000番を掛け、黒蓮華のコッパで仕上げました。因みに、よく出来たステンレスなら、此処までで十分な切れが得られます(組織が荒かったり、粘りが在り過ぎ、硬度が低過ぎ等が有ると剃刀砥クラスが必要になります)。

 

IMG_0816

 

刃部のアップ(少し曇ってますね)

IMG_0817

 

刃先の拡大

Still_2014-11-16_182021_60.0X_N0008

 

切断面の拡大

Still_2014-11-16_182229_60.0X_N0009

 

 

 

黒蓮華で研いだ状態でもかなり満足な状態でしたが、比較対象として、又更なる長切れを求めて大谷山(コッパ)で仕上げてみました。

刃部のアップ(光ってますね)

IMG_0818

 

刃先の拡大

Still_2014-11-16_190202_60.0X_N0016

 

切断面の拡大

Still_2014-11-16_182953_60.0X_N0013

 

 

此処までの三つの切断面の違いは、まあザックリとしたテストなので分かり難いかも知れませんが、傾向として刃先を細かく仕上げる程、毛羽立ちが少なくなっている様に見えます。繊維を引き千切らずに滑らかに切断している度合いに拠る物と思われますが、同じ事が食材断面で起こっていると考えれば当然、どういった刃物で切るかは無視できない問題でしょう。

之はよく言われる、単に舌触り・口当たりのみに留まらず、食品が舌に乗った時の味覚物質の広がり具合い・切断面の空気との接触面積拡大による酸化度合い・細胞内容物の流失(味の低下)や溶出(自己消化の開始や加速)といった風味(味・香り)の劣化や栄養素の損失(特に水溶性のビタミンが惜しい)まで関連して来るからです。

包丁は単なる切断を主とした道具である訳では無く、切った食材の外観・風味まで左右する物です。調理する人の考え方ひとつで、包丁・砥石の種類や研ぎ方・切り方を作業効率のみ追求する方向から、食材の劣化を防いで、より味わいを引き出す方向まで180度違ってくると思います。その上での加熱・調味があって料理が(特に和食は)成り立つのでは無いでしょうか。味・外観と作業効率の、何処でバランスを取るかによって、その人の主義・思想や信念が問われる事にも成りそうです。

 

 

料金関連のお知らせ

 

之まで、依頼を頂いた刃物の研ぎは特別な場合を除いて、作業期間は一日~二日、つまり私の手元に届いてから返送期間を含めても、三日前後でお届け可能でした。

しかし今回の常連さんの研ぎは、引取りからお届けまで丁度、一週間お待ち頂く事となりました。今後はこの様に、一週間前後が精一杯となる場合もありそうです。ですから研ぎの御依頼をと御考えの方には、その辺りを御理解の上、お願い出来ればと思います。

それに付随して、常連さんとの会話で勧められた内容もありました。以前に知人から、「料金の具体例が挙げられていたり、料金の増減の基準が示されていた方が分かり易い」との指摘に対して、今回の包丁三種を例示として良いか伺った所、寧ろそうすべきとの返答でした。そこで以下に、今回の研ぎ料金の金額と内容を記します。

 

 

IMG_0790

まず、ステンレスの包丁(刃渡り13.7cm、小数点以下切り捨て)ですが、「洋包丁は1cm当たり100円」との基準通り、1300円+税でした。

この理由は、14cmに満たない刃渡りなので13cm扱いとなる事。又、刃の状態として欠けや捲くれが異常に大きくなかった事によるものです。

 

 

 

IMG_0792

次に和ペティ(刃渡り14cm)です。これは和包丁ですが、現状、洋包丁扱いの研ぎ料金として「1cm当たり100円」基準として1400円+税でした。

この理由は、現物が新品であり切り刃から研ぎ下ろさずとも、刃先周辺の研ぎで問題無い為です。もし鎬から切り刃全体を研ぐ必要が出てくれば、和包丁の「1寸当たり1500円」基準に則り、14cm、つまり4.7寸(4.5寸で計算)なので1500×4.5寸=6750円+税となります。勿論、刃の状態で増減します。この包丁の場合、出荷時の切り刃の状態がかなり整っているので、整っていない場合と比べれば2分の一程度になると思われます。(刃先の損耗などが同程度の場合)

追加情報として、これは「私から直接お買い上げ頂いた包丁」なので、本来は錆び・汚れを落とす所で留めますが、洋包丁扱いにも関わらず、更に切り刃を小割りした天然砥石で均し研ぎしています。自分の好みの仕上がりと、使用時の錆び難さを求めての無料サービスです。

 

 

 

IMG_0795

最後の和式の三徳包丁(17cm)です。和包丁基準で17cmつまり(5.7寸ですが)5.5寸×1500円の-25%で今回は6200円+税です。

この理由ですが、本来、両刃(刃の表裏から研がれている)の三徳なので、研ぐ箇所が二倍で料金も二倍になる所、切り刃の幅が狭い構造なのを鑑み、片刃和包丁扱いとしています。更に以前の研ぎで切り刃の余分な厚みを抜き、刃元から刃先までテーパー状に均されつつあり、更に刃先の損耗が少なめであった為、25%引きとなっています。

 

 

以上の内容からお分かりの様に、傷んだ包丁が修復に時間や手間が掛かるのみならず、新品でも適切な形状で出荷されていなければ、かなりの修正が必要になります。しかし、それは取りも直さず状態が適切になって行く程(研ぎ回数の増加に従い)、損耗が少なく使える程(使用者の知識・技量の向上に従い)、料金が二分の一や三分の一まで在り得ると言う事です。

因みに、研ぎ料金が安くなる条件として代表的な三つを挙げますと、以下のようになります。

①新品時から形状が整っている包丁を選んで頂く。

②使用に際して、欠け・捲れ・錆びに注意してなるべく傷めない。

③普段は御自身で、形状を悪化させる事無く寧ろ適切な状態に近づける様に研ぎ、手に負えない時や更に上を求める場合に研ぎ依頼をする(之は可能ならばですね)。

 

 

 

お終いになりましたが、もう一つお知らせです。

和包丁の 研ぎ料金が来年より、一寸当たり3000円となります。これは新品やそれに近い状態から、まずまず使用に耐える研ぎを行うに当たってかなりの手間隙が掛かる為です。大まかに言えば、六寸前後の和包丁でも、人造の荒砥・中砥・天然中砥・天然仕上砥と進むのに、少なくとも5~6時間。場合によっては7~8時間も珍しくありません。

但し、初期からかなり整っている物や、数回の研ぎを経て整ってきた物は、一寸当たり2000円くらいで済むと思います。更にその後、酷い錆や欠けが無く維持されている物に至っては一寸当たり1000円という場合も。

之まで最高は、「尺(尺越えだったかも)の剣鉈を鏡面に」との依頼で研ぎ時間32時間でした。因みに仮眠と簡易な食事以外は継続して二日で仕上げました(当時の料金設定では時給としてはワンコイン未満)。一日8時間の勤務とすれば四日分の労働時間ですが、例えば月給を頂いている皆さんなら、計算すると日当、或いは時給換算幾ら位になるのでしょうか。

とは言え、上記、料金の説明を読んで頂いた方はお分かりかと思いますが、基準料金が上がっても状態次第という点は同じなので、余程、物が悪くなければ実質は大差ありません。では何故改定するのかと言えば、自分が現物を見てこれは・・・と思っても中々、適正な値段を提示し難かった為です。つまり不必要に遠慮してしまう傾向がありますので、やや高め(本来これでも砥石代・技術料・手間賃から考えると・・・ですが)の料金設定から、「良い状態なので~割り引きになります」なら言い易いかなと思っての判断です。

洋包丁は、引き続き変更なしですが、これは一般の方が普段使いされているであろう包丁への応援とサービスと御考え頂ければと思います。宜しくお願い致します。

 

 

錆び繋がりで

 

以前から各地域で水道水に含まれる成分が違うなと感じていました。例えば、二十年程前の岐阜県関市では、風呂桶に水を張ったら数回で水色っぽい粉末状の物が標準的な位置の水面近辺に付着しました。夏場などはシャワーのみだったので、風呂桶に入らず掛け湯の為に溜めるだけでも同様でした。

他にも三重県名張市でも十年程前までは上記に近い感じでしたが、数年前からはやや改善しているようです。その影響は例えば紅茶を淹れる時に味・水色・香り共に抽出が悪いなど、調理関連で気になっていました(出汁や調味料が一緒でも、大阪と同じ味になりにくいし)。只、それが水道水中に含まれる天然のミネラルだろうとは思いますが、投入される消毒薬や処理施設の種類も関連するのかは不明なままです。

これらが研ぎに影響を与えているとは、特別意識していませんでした。しかし、長時間の研ぎではやはり錆が出易いので、ある程度の目の細かさまで平や裏を磨いてしまう事は普通で、更に一度は濃すぎる炭酸水素ナトリウム水溶液も用いて皮膚が痛んだ事も有り、こちらは中止していました。もう一つ以前から、月山さんの包丁の扱い方を見るに付け、余り錆に神経質になっていないなと思っていました。改めて聞いてみると、明らかに自分の経験上、常識と考えられるレベルより錆びに対して警戒する必要が低い様です。使用砥石や研ぎに於ける操作などを勘案しても、水道水の影響が最も大きいのではと考えました。

以下は極端な例だと思いますが、六甲縦走路の端に位置する自分の通っていた大学周辺でも、利用されていた水にフッ素が極端に多く、その影響が歯の表面に現れ、歯くさりと呼ばれる地域が在ったと聞きました。かなり古い話で、現在では当然対処されている筈ですが、やはり各地の水質はばらついているのでしょう。

現在、ある企画に則した包丁を仕上げる為に、新品の包丁を纏めて研ぐ必要があり掛かりきりになっていました。新品と言う事は在りますが、予想以上に錆びやすいので面食らうと同時に、打ち合わせ時点でそんな話は聞いていなかったので、条件の違いを検討していました。そして一つの結論に達しました。それは塩素です。大阪では国内有数の高度浄水処理施設が導入され、水質は万全の筈ですが、妙に塩素がきついのかも知れません。何故なら、システムキッチンにシャワー水栓を付けるに当たって、当初必要性をあまり感じていなかった浄水機能付きにした所、明らかに味が変わったからです。そこで、浄水器を通した水に前回より濃度を抑えた炭酸水素ナトリウムを加えた水溶液をスプレー(現在は霧吹き)で吹きながら研ぐと、かなり錆の発生を抑える事が出来ました。錆の発生が抑制されれば、除去の手間も省けますが、そもそも刃物に悪影響が出る可能性を未然に防げるに超した事はありません。炭素鋼包丁に対しては、この方法が定番となりそうです。

 

補足です。研ぎ作業中は上記のような炭素鋼が対象でなくても(中断すると仕上がりに影響します)、電話や来客に瞬時には対応出来ませんので、御理解の程、宜しくお願い致します(店舗を構えている訳で無く、又、御依頼は基本的にメールにて承っており、電話でお受けしておりませんので)。あと、これまで数ヶ月、仕事開始からのサービス料金にて研ぎ依頼をお受けして来ましたが、近々改訂となりますので合わせてお願い致します。

 

包丁への塗布用油脂

 

これまで、自分の手持ちの刃物や依頼を受けて研いだ刃物には、ほぼ100%、油の類いは付けていませんでした。ステンレスでは通常環境で保管・運搬で錆が出る事は考え難く、また炭素鋼刃物も、一日から二日移動に掛かったとしても問題無いと考えてきました(更に天然砥石仕上げは安心感上乗せでしたので)。

しかし、そもそも出来るだけ油脂を付けたく無かったのは、それ自体の酸化で却って腐食したり汚れや匂いとしてこびり付くのを避けたかったからです。包丁や、食品を切る可能性があるナイフ類にはもう一つ、体内に入った場合の毒性も気がかりでした。関で働いていた頃は、ナイフ類の出荷前準備でフォールディングナイフなどの摺動部には流動パラフィン、ブレードにはシリコンオイル、炭素鋼にはフッ素系(テフロン配合)の褐色のオイルを使っていました。包丁程、食品を対象としないし、一応使用前にはユーザーも洗うであろうけれど、特別毒性の強い物を大量に摂取する訳では無いとは言え、大丈夫かなあと思っていました。

月山さんと話していると、例えば海外発送分などになると錆の心配が高くなるのでは無いかとの意見で、確かに気候の変動も大きく結露の可能性も高まる場合も予想され、そういう場合のみは考えてみる事にしました。事前のイメージではシリコンオイルなどは精製が良ければ体内に入っても少量なら行けるかな程度でしたが、調べてみると材料にも色々ある物です。フードオイルやフードグリスは各社から潤滑材・溶剤・噴霧剤として様々な物質を使用した物が発売されており、悩みました。

その中で各目的の物質中、問題の少なそうな組み合わせで目星を付けて買いに行きましたが、結果的に只一種類、売っていたものが想定していた物よりも適していた印象で素直に即決しました。TAIHOKOHZAIの食品機械用潤滑材というスプレーで、通常(安全性の基準で国内外の規格クリアが謳われている物が多いですが)NSF H1  や3Hの表示があっても「偶発的な接触」程度への対応の様です。しかし之は食品機械の「刃物部分」にもOKとあり、より安心な気がしました。そもそも潤滑剤自体が中鎖脂肪酸トリグリセリド(栄養学で習ったような?中性脂肪に近い?原料は高純度植物性脂肪酸との事)でほぼ食品扱いの様です。噴霧用ガスとしてはLPGとありますので、残留や毒性の心配もほぼ必要無いでしょう。

当面この製品で試しながら使用して、期待する働きを見せてくれると良いなあと考えています。(試用してみた範囲では、油膜が特に強めでは無いものの、塗布のし易さや水分の弾き・気化も程々な感じです)