知人への御礼に

 

研ぎの重要性の説明や紹介を、客人等にして頂き御世話になっている和菓子屋の旦那へ、以前も研ぎサンプルとして平面を出して鏡面に仕上げた切り出しをプレゼントしました。そして先日は、「包丁と砥石大全」をやっと渡す事が出来ましたが、実際に研ぎ(又は鋼材や砥石)によって味の違いがある事を明確に実感して欲しいので、一般的なステンレスペティを研いで持って行き、比べて貰う事にしました。

ホームセンター等で1500円前後で買える廉価なペティとしては、幾つかある内で結構定評の物で、貝印の関孫六シリーズ・ST2000です。3000や4000はグリップの仕様違いで、ブレードは同一の様に見えます。下画像は、箱出しの新品で、刃付け(ブレードの研削)は先端4分の1以外は厚みは大体一定・小刃はやや粗い研ぎの後、研磨剤付きの羽布に近い仕上げでしょう。

これは、大きなギザギザが残存する段階で特にその先端付近をツルツルに近く磨く事により、上滑りし難く、尚且つある程度は滑らかな切れを実現する手法として、工場出荷時のステンレス系統の仕上げでは昔から多用される物です。確かに硬くて滑る素材や薄くて撚れる相手にも、効果的に切り込み易いと思います。その上、刃先周辺が接触する面積としては少し減少するので、抵抗が少なくなり易いメリットも有ります。

しかし、作業効率と「切断(切削)された対象の状態がどうなのか」は別問題です。木工でも、切ったり削ったりの表面の状態で、水分に対する耐久力等が違って来る様ですが、食材も又、空気や水に触れる間の変化に違いが有ります。乾燥し易さやスライスの吸水具合、香りの出方ですが、直接舌に乗せた時の味にも違いが出ます。ここでは、食材の切片を作って拡大できる顕微鏡が在りませんので、繊維質の素材としてやや薄いダンボールを切って、断面を拡大してみました。

 

ペティの全体画像

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刃部のアップ

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刃先の拡大

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切断したボール紙の断面の拡大

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次にキングハイパーの後でシャプトン2000番を掛け、黒蓮華のコッパで仕上げました。因みに、よく出来たステンレスなら、此処までで十分な切れが得られます(組織が荒かったり、粘りが在り過ぎ、硬度が低過ぎ等が有ると剃刀砥クラスが必要になります)。

 

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刃部のアップ(少し曇ってますね)

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刃先の拡大

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切断面の拡大

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黒蓮華で研いだ状態でもかなり満足な状態でしたが、比較対象として、又更なる長切れを求めて大谷山(コッパ)で仕上げてみました。

刃部のアップ(光ってますね)

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刃先の拡大

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切断面の拡大

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此処までの三つの切断面の違いは、まあザックリとしたテストなので分かり難いかも知れませんが、傾向として刃先を細かく仕上げる程、毛羽立ちが少なくなっている様に見えます。繊維を引き千切らずに滑らかに切断している度合いに拠る物と思われますが、同じ事が食材断面で起こっていると考えれば当然、どういった刃物で切るかは無視できない問題でしょう。

之はよく言われる、単に舌触り・口当たりのみに留まらず、食品が舌に乗った時の味覚物質の広がり具合い・切断面の空気との接触面積拡大による酸化度合い・細胞内容物の流失(味の低下)や溶出(自己消化の開始や加速)といった風味(味・香り)の劣化や栄養素の損失(特に水溶性のビタミンが惜しい)まで関連して来るからです。

包丁は単なる切断を主とした道具である訳では無く、切った食材の外観・風味まで左右する物です。調理する人の考え方ひとつで、包丁・砥石の種類や研ぎ方・切り方を作業効率のみ追求する方向から、食材の劣化を防いで、より味わいを引き出す方向まで180度違ってくると思います。その上での加熱・調味があって料理が(特に和食は)成り立つのでは無いでしょうか。味・外観と作業効率の、何処でバランスを取るかによって、その人の主義・思想や信念が問われる事にも成りそうです。

 

 

「知人への御礼に」への2件のフィードバック

  1. 村上さん、こんばんは。

    今回の天然砥石サミットin砥取家では大変お世話になりました。
    頂いた羊羹も昨日鴨川を眺めながら美味しく頂きました。

    拝見した村上さんが研ぎあげた司作の和包丁等はもはや作品と云って良い仕事がされていて、感動しました。いつまでも眺めていたい感じでした。

    余計な気遣いなく色々なお話が出来てとっても楽しかったです!

    今回は皆さんに良くして頂いてばかりで大変恐縮でしたが、またお会い出来るのを楽しみにしております。

    誠にありがとうございます。

    1. sixpence様 

      この度は有難う御座いました。楽しくお話し出来て良かったです。又、砥石や猪など、名産品の多い丹波までお越し頂いた甲斐が有ったと感じて頂けましたら幸いです。

      まさかの羊羹がビールのアテになるとはブログを拝見して一番の驚きでした。あれは大阪で云う「栗蒸し羊羹」、神戸周辺での「丁稚羊羹」みたいな食感でしたね。三重辺りでは丁稚羊羹=水羊羹みたいですが。

      自分の研ぎなどはある程度、真面目にこつこつやれば超絶技巧も特殊な才能も必要無い程度の物なので、又お持ちの包丁等でもお試し下さい。今後も、こういった機会が持てる事を期待したいですね。

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