むらかみ のすべての投稿

奈良のH様から筋引きの御依頼

 

今度の洋包丁は、筋引きと御見受けしました。到着時でも、或る程度は紙の束にも切り込める状態でしたが・・・引き切りして行くと、切っ先寄りの四割り程度に差し掛かった所から重く。

峰から見ると元から切っ先へ向けてテーパーに成って居るのですが、側面には(視覚的には見えにくい物の)鎬筋様の面構成の違いが有ります。そして、側面は刃幅が狭くなって行く⇒鎬筋が刃線に近付く⇒(側面が広い部分に比して)切られた対象が早い段階で段差を乗り越える為、抜けの際の抵抗になる。

そこで、小刃の幅の調整・角度の付け方(始まりと終わりで研ぎ分け)により、後に控える側面の幅・面の段差への切削対象のアプローチをスムーズに。例えて言うと滝の下で水流を受けるとして、大きな傘の上に小さな傘を載せる事で、(そのサイズや骨の開き角度次第では)大きな傘が濡れるのを相当なレベルで低減させる事も可能に成る訳です。

しかし、今回は良くある左右均等な刃付けの牛刀その他では無く、右側有意の研ぎ方である筋引きでしたので、使える手法は効果を上げられる範囲が限られました。止むを得ず、左の側面からも小さな小刃を維持しつつも(返りを取る程度以上の)、角度変化を付けました。

 

 

研ぎ前の画像(今回、全体画像を撮る前に研ぎ始めてしまいました)ですが、三段階程度の研ぎ角が見えます。一度でなのか、何回かで付いたのかは定かでは無いですが・・・最終刃先角度が余りに鈍角な気がしました。もしも此れが、更に狭隘な幅であれば抵抗が小さくなって、切れに対する不満も少なかったかも知れません(特に、切っ先寄り四割の範囲で鈍角)。とは言え角度は兎も角、小刃その物の幅が狭かったので、切る際の大まかな手応えは軽めでした。

Still_2021-08-15_225148_60.0X_N0003

 

 

行き成りですが、対比させるべきかと研ぎ後の刃先拡大画像。小刃の幅を広げて、始まりと終わりを研ぎ分けます。先ずは初期に付いていた小刃を研ぎ落とし、同時に鋭角化。小刃の幅の中で、最先端寄り三分の一は徐々に鈍角化に。此れで、やや柔らか目の鋼材(+焼き加)に対する永切れを期待出来ます。最後に、全ての角度を顎から切っ先に向け鋭角化で仕上げました。

Still_2021-08-16_211508_60.0X_N0007

 

 

 

人造の1000番、研磨力の有るタイプで小刃を研ぎ落します。

KIMG1190

 

同じく1000番ですが研ぎ目が細かく平面維持も適度に優れる物で、刃先角度の研ぎ出しと角度変化のベースを。

KIMG1192

 

人造の3000番で、全体の研ぎ目を細かく。

KIMG1194

 

 

 

天然に移行し、奥殿の天井巣板中硬と黒蓮華の硬口で。後者は硬さと弾力が両立している上、相性も良くて助かりました。

KIMG1196

 

最終仕上げは、中山の巣板硬口と戸前系で。後者の砥石は砥面に出ていた茶色部分が減って来て、大人しく無難な研ぎ心地でありながら、高性能仕上がりは変わらず。見込み通りの経過で何よりです(笑)。

KIMG1197

 

 

 

研ぎ上がりです。初期画像が有ったとしても、到着時より小刃の幅が広がった位にしか外観の変化は感じられないと思われます。

KIMG1198

 

研ぎ後、刃部のアップ。良く見れば光の反射で、研ぎ角を変えて居るのが観察できるでしょう。

KIMG1200

 

 

 

H様には、研ぎの御依頼と共に幾分の待ち時間を許容して頂きまして、有難う御座いました。より良い仕上がりをと心掛けて研いで見ましたので、到着後は実際の御使用で御確認を御願いしたいと思います。もしも何か問題が有りましたら、御連絡を宜しく御願い致します。

 

 

 

 

 

返ってきた砥石と再度送った砥石

 

一月ほど前に北海道に送った砥石が返って来ました。試し研ぎ会を行なって頂いて居たのですが、一部は御要望に適ったと見えて選んで頂けました。

其れ以外の砥石達は返って来たのですが・・・中には自分でも特に気に入っていた物も。勿論全て、御気に入りと言える物ばかりを選んでは居るのですが、性能(下り・切れ・仕上がり)とサイズや形状など、総合的に見て如何にも使い易そうだと感じさせる砥石は有る物です。特に、仕事で使うとなると作業効率も無視できませんので。

 

 

帰参組の一番は、同じ原石から切り分けて貰った中山の浅葱で、不定形の五角形。初期から私用に、と決めていた(切り込みの入った長方形に近い)砥石と兄弟分の一つでした。

KIMG0850

上画像の五角形。もう少し減ると浅葱色が、より鮮明に成りそうです。性能的には既に充分なレベルなので、減らさずに済むなら(色柄的にはビビッドで無くとも)厚みは残した方がメリットに成ります。

 

KIMG0844

此方が、自分用。砥面を付けたのが上の物とは反対側・削り取った厚みは何割か多かったので、外観・研ぎ感だけで無く性能にも若干の差が。此方の方が幾分、食い付きが強い傾向にあります。

 

 

 

帰参の二番手、実は此れも減らす程に見た目が整うのみならず、性能も向上する状態で送り出していた物でした。ナマズ(白い部分)が入って居ながらも、かなりの硬口。砥面の一部に、やや質のバラ付く箇所も有りましたが・・・減って行くに従い、本来の性能が出ると見込んで送り出しました。

KIMG1173

硬さの割りに刃金を良く下ろし、合わせ和包丁の地金部分も研ぎ易いタイプで、便利に使えると踏んだのですが、伝わり難かったのかも知れません。

 

KIMG1171

現状では、もしも扱い難さを感じる様であれば電着ダイヤでの泥出しも有効です。ナマズが減る程に、其の儘でも扱いが容易かつ良い仕上がりに成るでしょう。

 

KIMG1170

硬過ぎない焼き加減の炭素鋼であれば、結構な刃毀れや捲れも、中砥を使わずとも取り切れます。地金を斑無く仕上げるには、やや硬さと研磨力が邪魔をしますが、刃金部分(刃先・裏押し)に関しては充分以上の仕上がりに。

 

KIMG1181

切り刃(地金部分)は小割りの砥石で、錆予防と摩擦低減を狙って磨いて置きました。

 

KIMG1176

自分用なので、少し雑に仕上がりましたが良しとしましょう(笑)。但し、切れと永切れは過去に最高の結果を出した幾つかの砥石と同等以上でした。例え硬さ・細かさでは上位で無くとも、相性次第で(それらに勝る砥石と)同列の仕上がりを見せてくれる砥石は、楽しいだけでなく有難い存在です。本当の意味で当該刃物(鋼材・熱処理)の性能を引き出したと思えるので。

 

KIMG1188

今回の研ぎで更に一層、ナマズが減って来ましたので、切り出しによる試し研ぎも以前に比べて向上したのは読み通り。愈々、今後の変化に期待が持てます。

 

 

 

そして、次の相手先に送り出した二つ。そもそもは、中山の巣板層のサンプルを送る際、念の為に意向を伺って見た事からです。硬口~超硬口の赤ピンが二つ有ると伝えると、両方を御希望で。

どうも以前から、此の系統の砥石には随分と御執心であった様子にて、何れかの時点で御紹介・・・が良いのかな?と悩んでいたのですが、御期待に沿えましたら幸甚です。

KIMG0835

 

KIMG0727

 

 

飽くまでも、砥石で刃物を研ぐのが仕事の本筋と自認しては居ますが、時には希望する方に、砥石自体を御届けする身でも有ります。其々の砥石が、在るべき所・求められる処に収まるのが望ましいので、少しでも其れに貢献できれば良いのですが・・・当たりの砥石は当然ながら、量も少なく形やサイズに自由も利き難いです。更に産地や層、色や質を指定するなら難易度は上乗せです。(当たりの確率は経験上、良くても数個に一つ。通常は十数個~数十個に一つの印象です)

その上、多く・早く・安くと来れば、現実的では有りません。探しに行く回数の増加・空振りに成る確率・其の費用と手間の増大から、通常以上のコストが掛かります。加えて天然の物は何でも、大抵が採れる量・サイズ・時期をコントロール仕切れない訳です。砥石も天然の物は同様に(採掘中の物なら余計に)、有る時・有る場所に出向いて、其の中から選別するだけで精一杯、と言うのが実情に成ります。今後は余程、条件が揃わない限りは基本的に、出掛けた際に運良く選べた砥石を持ち帰るスタイルに落ち着きそうです。

 

 

 

 

 

取り置きにしていた砥石

 

一度に多くは購入できませんので、田中さんには取り置きボックスを用意して貰って居ますが(笑)・・・其の内の幾つかを受け取りに行って来ました。

主目的は、前回に持ち帰ったコッパよりも大きい物を、と北海道のS様からの意を受けて。もう一つは、砥石館に届ける為の砥石を再度、選別に。

後者に関しては、館長に意向を問うて用意していた砥石が、思ったよりも難が消えて呉れず。止む無く、同系統の(さらに大きく難も少ない)石を選んでみました。

 

 

KIMG1142

 

KIMG1144

先ずはS様に向けた大き目レーザー型(大き目の一回りオーバーサイズ)巣板、中硬~やや硬口です。此れは質的には前々回に持ち帰った、私の大き目の真四角っぽい巣板と同系統の物。但し、硬さと細かさ・難の少なさから、砥石としてはワンランク上と言えます。

 

 

KIMG1140

KIMG1133

次に選んだのは、合いさっぽい外観と砥ぎ感の物。此方も同じく巣板層の産。中硬~やや軟口で、泥も出て研ぎ易く、本焼きに向いている印象。難点は、巣の痕跡が点在する事ですが前回選別の同系統よりもマシな物。

 

KIMG1152

上画像の左では、相応しく無かろうとの思いで右も購入して届けたのですが、どうやら此のレベル程の物は必要なかったみたいですね。両方、私が本焼きに使うとしましょう(笑)。

 

 

 

後は元々、私の分ですね。

KIMG1139

KIMG1164

やや硬口~硬口の巣板。

 

 

KIMG1135

KIMG1146

あと、田中さんの先代(又は先々代?)が畑中と取引していた頃の、小さ目砥石の集団を見せて貰えたので二つを選びました。北海道のS様には、現地での試し研ぎ会を手配して頂いたりして御手間を取らせてしまったので、左の方の側面が(四面とも)皮の砥石も御送りしましょう。右のは、側面に層割れの隙間・砥面に層の境界が出ていましたので。しかし、研いで見ると此れが絶品で・・・こう言う事が有るから楽しいですね。

 

 

 

他には、加工途中の物が置いてある辺りの物も幾つか、譲って貰いました。其の一はブロック状の石。層の境目を狙って鏨を入れると、綺麗に二つに。最初は、柔らかそうなので小割りに・・・と考えていたのですが、暫くは此の儘で使えそうですね。

場合によっては平面で無い刃物への対処として、意図的に変形させて使う事も想定できます。かなり贅沢な使い方ですが、此れなら勿体無い病の発症も抑え易いかと思われます。

KIMG1136

KIMG1137

KIMG1161

KIMG1163

二つに割って、其々に上側であった面で砥いで見ると、下部分の方が硬いのが分かりました。粒度は殆ど変わらないのですが、天然砥石あるあるで面白いなと。やはり、こんな確認作業を伴った行為は、勉強にも成るし実用道具としての幅も広がって為に成ります。

 

 

以下も同様ですが、砥面を付けて見れば双方とも充分、実用に足る石でした。上の砥石は、ブログをやっている知人へのサンプルとして。下のは、若干ですが当たる筋・積層の向きが乱れている部分も有るので、砥石館で研ぎ体験用のサンプルとして預けて置こうかなと。来訪される方の、経験値が上がる可能性は少しでも確保するのが良いとの思いからです。現行(採掘仕立て)の加藤鉱山からの砥石に触れる機会は、中々に希少だと思われますので。

KIMG1143

 

 

因みに、大きい方に面を付けた所です。難の無い部分で研ぐ(又は、いなして研ぐ)と仕上がりに問題は無いですね。

KIMG1169

KIMG1168

 

 

 

 

 

神奈川のY様からの御依頼

 

始まりは、砥石に付いての問い合わせだったのですが・・・最終的に今回は包丁を二本、送って頂きました。勿論、研ぎの御依頼なのですが既に結構、御自身で研がれている様子で。

到着した時点で、牛刀と三徳なのかと思いましたが・・・メールの遣り取りで判明したのは、使って行く内に厚みを邪魔に感じて切り刃構造に研いだのだと。

KIMG1099

 

 

 

 

一本目、通常の小刃として研がれていた方。刃先の損耗は大きくは有りませんでしたが、紙の束などを切って見ると切っ先のカーブ手前で抜けが重く。カーブから切っ先に掛けては、自動研磨段階で厚みが減っていたであろう事も有って、マズマズ。

KIMG1100

KIMG1102

KIMG1103

 

 

人造の1000番、平面維持に優れつつ研磨力も有るタイプで。

KIMG1109

KIMG1110

 

 

人造の1000番、研ぎ目が細かい物で。

KIMG1116

KIMG1118

 

 

天然砥石、奥殿の天井巣板カラス中硬で。

KIMG1121

KIMG1122

 

 

中山の戸前系、硬口~超硬口で仕上げです。幸い相性が良く、下り・切れ共に充分な仕上がりに。

KIMG1130

KIMG1131

 

 

 

 

次に、切り刃が施された少し短い方です。どうやら、右の切り刃はベタ気味・左の切り刃はふっくらな研がれ方なのですが・・・刃元の薄さもさることながら、最も気に成るのは顎から切っ先に掛けて厚みが薄い⇒厚い⇒薄い⇒厚い⇒薄い、と交互に成って居る点です。

KIMG1104

KIMG1105

KIMG1106

 

 

先ずは人造の1000番、研磨力と滑走に優れた物で、余分に残存する厚みを減らしつつ、切っ先へ向かってテーパー状に。

KIMG1107

KIMG1108

 

 

人造の1000番、研ぎ目の細かい物で。厚みのバランスを取りつつ、刃先周辺から刃先最先端に掛けて鈍角化のハマグリに。その角度も、切っ先へ向かって漸次鋭角化。

右の切り刃は、厚みが少ないので幾分ですが刃先へ向かい鋭角化ハマグリに。左の切り刃は逆に、全体に厚みを減らしつつベタ気味に寄せます。しかし、右が薄い分だけ左の厚みは適度に残して置きます。そんな仕様ですが、厚みと角度の漸次低減により走りや抜けは研ぎ前時点よりも改善されます。

KIMG1111

KIMG1113

 

 

人造の3000番で、更に細かく。

KIMG1114

KIMG1115

 

 

天然砥石、奥殿の天井巣板の中硬・やや硬口カラスの二種で、更に形状を整えつつ研ぎ目を細かく。

KIMG1125

KIMG1126

 

 

奥殿の天井巣板、やや硬口・硬口で仕上げますが、相性を探って最終は超硬口の物(画像三つの内で最奥)で。

KIMG1127

 

 

 

研ぎ上がりです。

KIMG1153

 

 

 

KIMG1154

KIMG1156

Still_2021-08-08_010320_60.0X_N0001

KIMG1157

 

 

 

KIMG1158

KIMG1159

Still_2021-08-08_010344_60.0X_N0003

KIMG1160

 

 

 

Y様には此の度、研ぎの御依頼を頂きまして有難う御座いました。砥石に関して・また研ぎに関しましても、私で御役に立てる場合は今後も宜しく御願い致します。

あと、今回の二本の鋼材と熱処理のバランスから感じるのは、荒い砥石・強い加圧での研ぎ・一度に片側を多く研ぐ、の条件では返りが出易い傾向でした。一気に多く出した返りを強引に除去するリスクより、意図して小さな返りを出す意識で研ぐ気遣いの負担を取るのが良さそうです。

 

 

 

 

 

一連の砥石(後半)のテスト

 

之迄の中山産巣板ですが、大きく分けて後半の砥石達をテストしてみました。

 

 

先ず此れは、予定している行き先が(扱いが分かっていて下処理も可能な)自分仕様に出来る方なので、手を付けていません。そう成らなかった時は自分用にしようかな?等と思ったり(笑)。

KIMG1067

 

 

 

 

自分用の一つ目。店主からも、「此れは自分が使って呉れよ」と言われた物ですが・・・やや硬口で少々の泥も出る、使い易い範囲内の砥石です。刃金は半鏡面~鏡面で、地金も薄曇り~半鏡面に成りました。

KIMG1084

KIMG1091

 

 

自分用の二つ目の巣板ですが、少しシャリシャリした感触ながら案外、緻密な仕上がりに。ほぼ上画像の砥石に準じる仕上がりですが、僅かに曇りがちと云った所。

購入時は筋が目立つ砥面でしたが、平面を出しつつ厚み調整を進めるに従い、研ぎに影響も少なく成って来ました。此の先もう少しは消退して行きそうですし、普段使いに加え、仕事用としても活躍してくれそうです。

研ぎ上がりの切れとしては、奥殿の硬口天上巣板とは又少し違いながらも、滑らか且つ掛かりの良い傾向の永切れを狙える為に有り難いですね。研ぎ感・外観的には地味ですが・・・。

KIMG1096

KIMG1097

 

 

予備・その他として持ち帰った物でしたが・・・切り出しの裏押しで判明した特性として、予想以上に刃金に対しての下り・仕上がりが優れていました。いざという時に備えて、手持ちに加えるべきかも知れませんね。

砥粒の荒さや斑、或いは多くの泥と共にガンガン下ろすタイプでは無い物の、刃金を良く下ろすつつも鏡面に、地金も半鏡面~鏡面にまで仕上がります。前半・後半を含めて、一連の中山産巣板の中では総合(研磨力・砥ぎ易さ・仕上がりの緻密さ)で1~2を争う性能を発揮してくれました。

KIMG1076

KIMG1074

 

 

予備・その他としての二つ目。之までの中で一番、適度な柔らかさと巣板らしいサラサラの泥を感じさせた鎌砥、其れに次ぐ砥ぎ易さと研磨力の砥石でした。筋も特に苦にならず、硬口・やや硬口の砥石の前に繋ぎで使ったりすれば便利な存在。とは言え、最終仕上げとしても通常は不満も出ないレベルです。此方も、研ぎの各段階に組み込む際、(色々な砥石で組んだ各種コースを跨ぎ)広範囲をカバーしてくれるでしょう。

KIMG1079

KIMG1082

 

 

 

 

それでは、新たな戦力も増強されましたし(休息・気分転換にも成ったので)、次の御依頼品の仕上げに掛かるとします(笑)。此処からは又、暫く洋式の刃物が続きそうです。

 

 

 

 

 

久々に本焼き柳の御依頼

 

北海道のS様から預かっていた、本焼きの柳を研ぎました。御自身で研ぎ進めてみた所、中々に手強いので・・・との事で御依頼に。初めは、何処に難しさが?と思いつつの作業でしたが、成る程と思わされる要因が幾つか。

切っ先からカーブまでは切り刃が、ほぼフラットに成って居ます。ただ、刃元も大まかにはベタに砥石に当たりますが、顎の辺りまで行くと厚みが減り気味に。次にカーブから刃元手前に掛けてのホローグラインドに成って居る点。であるにも関わらず、直線的な部分とカーブの境界には厚みが残存。

確かに、各要因を改善しつつも整合性が取れる形状まで整えるのは、容易では無いですね。作業の途中で一瞬、切り刃全体がベタで砥石に当たる迄、削り落とす事も考えましたが・・・裏切れ・刃線の変更を余儀無くされそうですし、何よりサイズが著しく変わってしまうので躊躇われます。

其の為に何時も通り、切れと永切れ・走りと抜けが実現できる性能を満たした所までで、減らす事を留める事に。ホローグラインドの凹面を減らしつつ、切っ先方向へ向けてテーパー状に厚み抜き。刃先周辺は、最先端へ向けて鈍角化ハマグリ。最終刃先角度は、顎から切っ先へ向けて漸減させます。

 

KIMG1005

KIMG1008

KIMG1011

 

 

 

人造の400番と研磨力の強い1000番。

KIMG1033

 

研ぎ目の細かい1000番と3000番。

KIMG1030

 

各種人造の小割りで余分な凸部を均します。

KIMG1045

 

更に、追従性の高い1000番で全体を。

KIMG1048

 

 

天然の、中硬の巣板各種で。

KIMG1049

 

赤ピンの中硬~やや軟口。

KIMG1055

 

中山の巣板っぽいので。

KIMG1056

 

中山の巣板、大人しい質の物で刃先と裏押し。下り・研ぎ易さは充分ですが、刃先の仕上がりが大人しい気が。

KIMG1057

 

次に中山の戸前系ですが、此方の方が相性的に優れていた様です。更なる切れが得られました。

KIMG1058

 

 

 

研ぎ上がりです。私は通常、実物以上に綺麗な見た目に成らない様に、粗が確認し易い画像を心掛けています。ですので、メールに添付した画像で確認してOKを下さったS様には、現物の外観の程度は幾分ですがマシですので(笑)、御安心を頂ければと思います。

刃先と裏押しの研ぎで、性能を維持し切れなくなったならば再度、御送り下さい。数回の研ぎを経れば、ホローグラインドも半減する事と思われます。勿論、カーブから先・刃元の両方を減らさない様、慎重に研ぎ進めて頂ければ充分に自力で形状を整えて行けるでしょう。

KIMG1059

 

KIMG1064

 

KIMG1062

 

Still_2021-07-28_190500_60.0X_N0002

 

 

 

 

あと、S様にも御要望を御聞きした所・・・必要だとの事で、私の取り置き箱から砥石を持ち帰りました。自分用・砥石館の上野さん用以外は予備の心算でしたが、小振りな二つの方を提案してみました。

KIMG1067

先ずは、上野さん用。合いさっぽい色柄で、中硬で扱い易いと思います。目は細かく、仕上がりも期待出来ますね。

 

KIMG1068

此方は自分用の、やや硬口です。上画像の砥石と同系統の物も、次の取り置きに入れて来たので、やや硬口の此れはバラエティーとして最適でした。

 

KIMG1071

此方も自分用ですが、かなり硬口です。砥面を整え、養生中ですが研いで見た感じでは結構、シャリシャリしています。砥粒の目は立っている方では無いので、此の感触は珍しい気も。切れの方は荒さを感じる事も無く、するりと切れます。

 

KIMG1069

上画像が、予備として取っていた物ですがS様に確認した所、もう少し大きい物(次の取り置き)が良いと。そう言う訳で、此の二つは保留ですね。予備のまま、或いは何方からか御要望が有れば又。

 

 

 

 

S様には、此の度も御依頼を頂きまして有難う御座いました。本日、御返送致しましたので、御使用の上で問題が無いか御確認を御願い致します。

砥石の方も、御依頼の物は加工途中ですが遠からず持ち帰りたいと思いますので、宜しく御願い致します。(下画像中央、取り置き箱の大き目)

KIMG1065

 

 

 

 

 

最近の事

 

北海道のS様から送られていた、本焼きに取り掛かる所で他の事柄も少々・・・同時進行にて進めていました。

KIMG1005

(お待たせして居りましたが、今週末に完了の予定です)

 

 

 

前回の中山の巣板の続きを求めて、再訪して来ました。好みに合う幾つかの砥石を選別し、資金が出来るまで取り置きにして貰いました。当日に持ち帰れたのは、下画像の小振りな二つのみ。

右の方は中硬の砥ぎ易い物で、色柄と砥ぎ感から何となく合いさっぽい印象も。対して左側は、可成りな硬口で平面維持が確りしています。仕上がりも明るく、研ぎ方如何では半鏡面程度まで持ち込めます。

KIMG1013

 

KIMG1042

 

 

 

 

他には、久々の天然砥石館イベント。割合に人気が有ったんでしょうか、アルミ丸棒を鍛造してのペーパーナイフ作り再びです。今後も三回くらいは行われるそうですし、合間には亜鉛合金を鋳造しての鏡作りも有るとの事。しかし必要充分な迄に磨き上げるのは、相当に大変そうですが(笑)。

KIMG1014

KIMG1015

KIMG1025

 

 

見本の形状を参考に、好みを聞いて私がベルトサンダーで整形。

KIMG1016

 

 

アルマイト仕上げを御希望の方には、好みの色を選んで貰います。

KIMG1017

 

KIMG1027

 

 

好みの木製の柄を付け、いよいよ研ぎです。先ずは電着ダイヤで、仕上げは青砥。

KIMG1018

 

KIMG1019

 

KIMG1020

 

 

希望する方には、刃の付け根への紐巻き。

KIMG1021

KIMG1022

 

 

完成すると、以下の様に。

KIMG1023

KIMG1024

 

 

キッズには、紙切りがハマると辞められない様ですね(笑)。此れは何時も見られる現象で。

KIMG1026

KIMG1029

 

 

 

 

今回も、イベントに御参加下さった皆さんには有難う御座いました。御家庭でも、実際にペーパーナイフ・レターオープナーとして活用し、偶には研いで上げて頂ければと思います。

あと、少し先に取り置きの中山の巣板(小振りな原石程度)を引き取りに行きますが・・・其の中の一つと今回、試し研ぎの画像で使用したコッパ位は、砥石館に置いて貰えるかも知れません。原石の方は、試し研ぎ可能なコーナーに入れば訪問者にも感触を確認して貰えるでしょう。

 

 

 

 

 

砥石の御誘いで

 

以前の続きで採掘していた、中山の巣板が出来て来たとの連絡を田中さんから頂きましたので、見せて貰って来ました。既に切り分けられた砥石以外にも様々なサイズの原石が有ったので、小さ目の物を選ぶ傍ら、やや大き目の原石を切り揃えて貰ったり。

質的な印象ですが、巣板にしては目立った巣も無く、粒度もマズマズ細かいです。砥面の状態は、巣板と言われればそうかなと思われる程度には微細な気泡。研ぎ感からも、並砥との境界なのかなと感じさせます。

 

KIMG0987

小さ目のレーザー型相当(薄っすらカラス模様入り)

 

 

KIMG0990

約16cm×14cmの大き目の四角っぽい物(少しハッキリ目のカラス入り)

 

 

KIMG0986

序でに分けて頂いた、鎌砥レベルの物。普段、御世話に成っている近所の方々へと。ただ両側の石は結局、判子の無い裏の方が使い易そうだったり。何方の面を選ぶかは、使う人に委ねるとしましょう。

 

 

KIMG0993

試し研ぎ、レーザー型の方。刃金に対しては充分な仕上がりで、地金もマズマズの細かさと明るさ。中庸~やや硬口の巣板としては充分な性能です。

 

 

KIMG0994

試し研ぎ、大きい方。上の砥石に比べると、少なくとも地金の仕上がりは一歩、譲る印象。其の分?研磨力は此方に軍配が。硬さも僅かに柔らかいので、泥の出方も其れに準じます。

 

 

 

 

早速、実際の作業に。下画像の包丁は、切れと切り方のデモンストレーションに多用して来ました。相出刃ですから、相応の厚みが有りつつも切り刃は余り広くありません(鋭角では無い)。その状態でも、切り刃の構造変化と刃先の精度で充分な切れ・永切れ・抜けを実現できるとの意図です。

勿論、当日も店主の方にお見せしたのですが・・・もう一方、予想外の方との邂逅も有りました。過去に、私の研ぎ講習を受けて頂いた経験が有るとの事でしたが、言われるまで中々、思い出せず申し訳無かったです(顔や名前を覚えるのは得意な方では無いとの自覚は有ります)。

其の上、この包丁の製造にも近い立場で有ったそうで、てっきり白紙三号使用と思って居た認識を、実は白二だと指摘しても頂きました。道理で、柔らかい割に良く切れるなと思ってはいたのですが。今後は、近しい方々と包丁方面で野心的な挑戦をされるとの事でしたが、是非とも頑張って成功して欲しいですね。まあ、誰かの心配をしている場合かとの突っ込みは、自分で入れて置きましたが(笑)。

KIMG1000

食い付き過ぎず、滑り過ぎずで扱い易さに問題は無し。若干、素っ気無い反応かと思いきや、研磨力と仕上がりも上々。

 

 

KIMG1004

刃金部分と裏押しのみの研ぎでしたが、期待通りの砥石でした。硬過ぎず柔らか過ぎず、泥も邪魔する程では無いので、刃先に角度変化を付ける際も意のまま。画像でも、刃先最先端まで段階的に研ぎ分けて有るのが確認出来ると思います(等高線が幅広⇒幅狭に)。

 

 

KIMG1001

此れで、またデモンストレーションは勿論、魚を下ろす際にも活躍してくれるでしょう。田中さんには今回も、良い砥石を有難う御座いました。

 

 

 

 

 

T様からの御依頼、五本目の27cm牛刀

 

此方も、北海道のT様から送って頂いた同シリーズの洋包丁で、厚口の27cm牛刀です。仕立ても同様ですが、幾分は変化も見られました。

刃体側面は、他の物に比べて右側への切り刃構造が軽減(刃元側の数cmのみ)されており、峰から見えるテーパーのみならず、グリップもテーパーのフルタングと成って居ます。フルテーパードタングと言う奴ですね。その御蔭も有るでしょう、重量バランスはグリップ偏重に成らず、ブレード付け根近辺の良い所に。

 

 

研ぎ前の状態

KIMG0941

 

 

KIMG0944

 

KIMG0942

 

刃体付け根の厚みが少ない・マチの辺りの面が不均一・鍔や峰の深い傷・タングとグリップ材の段差(+タングの端面の不均一)と言った項目は大体、変わらずです。

しかし、傷の深さが此れ迄で一番深い気がしますね。特に鍔のみならず、刃体側面にも均一・全体的に多く入っていました。

 

KIMG0943

KIMG0946

 

KIMG0947

KIMG0949

 

 

 

峰から刃先・刃元から切っ先へ向かって、刃体の厚みを減らしつつ全体の傷消しです。布ペーパーの150番・180番・240番辺りを多用。

KIMG0951

 

KIMG0952

 

耐水ペーパーの400番前後で。

KIMG0954

 

KIMG0955

 

同じく800番から1000番程度で。

KIMG0956

 

KIMG0957

 

1500番から2000番で。

KIMG0958

 

KIMG0959

 

KIMG0960

 

KIMG0962

 

KIMG0964

 

KIMG0965

 

 

 

刃先の調整に入りますが、人造の1000番・3000番で。

KIMG0966

 

此処で、刃先の欠けと言うよりは潰れを発見。少し油断していたので、もう少し研磨力の有る1000番から削り直し。刃先手前の厚みが増した為、ペーパーによる側面の削りも再度、行ないます。

(削りシロが多く取れる)厚口の仕様であった事が幸いし?予定以上に全体の傷が消えました。

KIMG0969

 

KIMG0972

 

天然に移行し、やや軟口赤ピン⇒奥殿の中硬天井巣板。

KIMG0974

 

中山の戸前系、ややジャジャ馬の砥石で。しかし、相性的に落ち着かず。

KIMG0975

 

奥殿の硬口~超硬口の黒蓮華では、マズマズの相性。

KIMG0976

 

もう一声で、奥殿の硬口天井巣板。此れで仕上がりました。やはり此の鋼材は、しっとり整える系統の砥石との相性が良さそうですね。

KIMG0977

 

 

 

研ぎ上がりです。

KIMG0979

 

KIMG0980

 

KIMG0981

 

KIMG0982

 

KIMG0983

 

KIMG0985

 

Still_2021-07-01_175537_60.0X_N0004

 

通常、刃体形状が整った時点の近辺で、傷消しも程々に留めるのですが・・・今回は側面の傷が殆ど目立たなくなった為、鍔の部分も通常より削って磨いてを念入りに行ないました。削りシロが取れるのは便利と言えば便利ですね(笑)。他の物だと、右側には多い厚みが左側には少なかったので、左の状態に揃える方向が主体でしたので。

 

 

 

T様には纏めて御依頼を頂いていましたが、漸く今回の全てを御返送出来ました。いつも私のペースで進めさせて頂いて居り、長く御待たせしてしまい申し訳無いのですが、何とか御要望に近い仕上がりに成って居ましたら幸いです。もしも不都合な点が有りましたら、御申し出頂きたいと思います。此の度も、有難う御座いました。

 

 

 

 

 

問答集みたいな遣り取り ➁

 

続いて、御送りした奥殿の本巣板天井と敷巣板、二種類の砥石の具体的な内容です。自分の予備の中から御要望に近いと思われる物を選びました。手持ちは結構な数が有りますが、其々に役割が有るので余り手放せる余裕は有りません(笑)。

私は此の先、暫くは研ぎに専念しなくては行けなさそうですので・・・問答の中で役立つ部分が有りましたら、御自身で砥石を選別される際の参考にして頂けましたら幸いです。

 

あと、今回の内容に限った事では有りませんが、私の分かる範囲で良ければ御返答をと考えていますので、コメント欄への御質問を頂ければと思います。

 

村上様

本日、試し研ぎの第一弾として、高村刃物の牛刀(SG2)を、研いでみました。
砥泥の色(本巣板の方が黒目)や研ぎごこち(天井の方がしっとり目?)等違いはありますが、どちらも繊細な刃が付きました。
正直研いでいる感じではどちらが刃物と相性が良いのかはよく分からなかったのですが、トマトなどで試し切りをしてみると、敷巣板天井の方がより鋭く切れ込んでいくように感じます。

ただ、不思議なのがその後中山の戸前で仕上げると、より緻密で繊細な刃は付いたのですが、若干トマトを切ったときに滑る感じになりました(笑)。
とはいえ、以前に比べても総合的にはかなり良い仕上がりになっている気がしています!
ステン系の場合、細かすぎても刃先が滑る感じになる、というような話も聞いたことがありますが、それなのでしょうかね。
白1の方でも試してみたいと思います。

砥石の使い方としては、ダイヤで軽く泥を出して使っているのですが、そのような使い方で大丈夫でしょうか。
また、砥石と刃物の相性について、判断のポイント等があれば教えていただけると幸いです。
T様

試し研ぎが進んでいる様子にて、何よりです。 
 
敷巣板同士でも、砥粒の形・凝集性・積層の向き等で研ぎ上がりも変わって来るようです。試し切りでの結果も、其れに基づいて変わって来るのも自然なのでしょう。 
 
あと・・・切る時に滑ると言うのは、結構な厄介さを含んだ問題です。先ず第一に、「刃先の角度が鈍角過ぎ・刃先の角度がブレている・刃先まで研ぎが届いていない」の条件は無い物とします。其の上で滑るのは、代表的な高難易度素材として①乾いた海苔などの重層的な繊維質(摩擦が少ない繊維+何層もの抵抗)。②(桃太郎などの皮の硬い)トマトの皮(摩擦が少なく、中身の弾力によるクッション+刃筋を狂わせる)のが代表的だと考えています。 
 
では、その対処法としては(天然は人造程には炭化物を強引に削る事が出来ませんので、逆に其れを活かす方向で永切れ狙いでは有りますが)角度の正確さ向上・刃元から切っ先への角度変化(切断緑・切開力の向上)・相性の良い砥石の選択と成ります。最後のを詳しく言えば、「最上級に硬くて細かい砥石」が全ての刃物(鋼材・熱処理)に最適とは言えません。何故なら鋼材の組織の緻密さ・細かさなどが違うので、兎に角細かい砥面で撫で付けた研ぎ肌(つまりは刃先最先端)が「対象に食い付く・長く切れる」かどうかは、鋼材と熱処理の組み合わせで適不適が出ると思われます。最上に緻密で組織の粒子も細かければ、最上の硬く細かい砥石で問題は無いでしょうが、一段落ちる・二段落ちる緻密さの鋼材や、添加物の種類で耐摩耗性の変化した鋼材・・・となると、最上の硬さ・細かさよりも僅かに手前の砥石の方が食い付き・永切れする刃に仕上がる事が多いです。 
 
ですので、もしも最終仕上げ砥石で滑るならば、その手前の方が相性に優れている可能性は有ります。万が一、刃物の方が最上の細かさの鋼材なのであれば、研ぎの精度が不十分なのか?・鋼材の炭化物が砥石の研磨力を上回っている為に刃先の薄さが出せていないのか?という点を見直してみる必要が有るかも知れません。しかし、戸前の前の巣板で充分な切れが出ているとするならば、巣板との相性が(少なくとも当該の研ぎ手+刃物+砥石では)最適だったと考えるべきとの考え方にも蓋然性が有りそうです。 
 
あと、細かい所を言えば、無理で無い限りは泥を出して研ぐ事はお勧めしません。性能が発揮出来なかったり、そうで無くとも個性が隠れやすくなるからです。そもそも私が選ぶ砥石は基本的に、名倉やダイヤに依る泥出しを必須とする砥石は弾いていますので。 
 
 
                                 村上浩一 
追伸です

相性の良い砥石と刃物の組み合わせに当たると、絶対では無い物の、砥石の上で刃物が反発・上滑りする感覚が少なく、気の所為レベル以上に下りも速い場合が多いです。其の上で、切れと永切れが優れている場合には相性が良いと判断するのが正しいと考えています。極限の切れを目指す場合、その次の砥石(より硬くて細かい砥石である確率が高いですが)を用意して、最終仕上げとか超仕上げとか呼ばれる工程に入る訳ですが、其のバトンタッチの際に他の砥石からのバトンタッチ以上の効果が有れば尚良し・・・と成ります。

但し、最後の項目が必要かどうかは、冷静で正確な判断が求められます。其の前段階で、既に最高レベルの性能を引き出しているかも知れないからです。そうであるにも関わらず、思い込みや世間の常識に惑わされて蛇足にしか成り得ない砥石で仕上げようとしても、結果が伴わない事は充分に有り得ます。飽くまでも冷静に、過度な期待や妄想に引きずられる事なく、テスト結果からのみ判断すべきです。ただ難しい点としては・・・其の砥石の性能を引き出した上でのテストに成って居るかどうかが、当事者の能力に依存する点でしょうか。


村上浩一
村上様

詳細な御解説ありがとうございます。

泥は出さないで研いだ方がいいのですね。
となると少し水をかけるだけで研ぎ始める、面直しした際も泥は洗い流して研ぐ、という理解で大丈夫でしょうか。
さっそく挑戦してみたのですが、なかなかテクニックが必要そうですね。
泥を出してから研ぐより、研ぎがシビアになるというか、コントロールの難易度が上がる気がします。
単純に水をかけて研ぐだけだと、あまり砥泥が出ないからかもしれません。

砥石の相性判断は難しいですね。
私だと、なにより研ぎ手の要素が不確定過ぎて…(笑)。
トマトは普通の方からしたらものすごく切れるレベルですが、厳密に比較するとほんの僅かに皮の上で滑るかなという感じです。
戸前で仕上げても今までより仕上がりはいいので、敷巣板天井が高村の包丁と相性がいいのかもしれません。
アドバイスを踏まえ、先入観にとらわれずにもう少し試してみたいと思います。

今日はそんなに研ぐ時間が取れなかったのですが、白1は戸前まで上げた方が切れそうな印象です。
巣板の段階でも高村ほど、お借りしている2つで差は感じません。
難しくも面白いですね…(笑)。
T様

そうですね、泥を少な目にして研ぐのは難易度が高いかも知れません。しかし、其れだけに砥石の本質や相性、自らの技術が如実に反映されます。私の考えでは、名倉や共名倉の使用・ダイヤでの泥出しは、止むを得ず使うしか無い砥石への対処。或いは、刃物への一定の効果を狙う場合の物です。対処しなければ使えない砥石は、当たりの砥石とは言えないと判断しています。当たりの砥石でも、使いこなすのに難易度が高い物も有りますが(笑)。あと泥の出方も、研ぎ手によって激変する事もあります。

自分の使いこなせる砥石の範疇で、手持ちの刃物に適した物を探すのが基本なのですが・・・使いこなせる砥石は、研ぎ手のレベルアップに従って変わっても来ますから難しいです。一般的に、硬くて細かい泥の少ない砥石が難しいと言われるのは、砥石が変形して刃物に合わせてくれる事が無い。摩擦(砥面の抵抗)が少ないので角度維持や荷重の掛け方に繊細さを要する。泥が少ないので、適当な角度では泥による研磨が期待出来なかったり、滑走のコントロールを自律的に行う必要が有る、等の理由によると思われます。

恐らくは、今回の二本の内で本巣板天井よりも敷巣板の砥面が、愛想の悪い(余り向こうから寄り添ってくれない)タイプなので、僅かな研ぎ難さから結果に差が出ている可能性も有りそうです。しかし其れは、イコール平面の刃物を研ぐのに適している砥石であるとも言えるのですが。


村上浩一
村上様

たしかに通常の敷巣板の方が少しそっけない感じかもしれませんね。
泥を出さないと少し突っ張る感じというか。
結局は今の自分のレベルの中で最良と思えるものを選択していくしかないのでしょうね(笑)。

ブログでも書かれていたように思いますが、泥をあえて出す場合というのは、地を引くことの防止や傷消し等の効果を狙う場合でしょうか。
私のように洋包丁メインで、基本的に天然砥石は刃先中心に当たる場合は、泥出しの必要性は低いのかもしれませんね。
T様

泥出しの目的は、書かれている通りで間違い無いです。補足するなら、研磨力を超えて研削力に近いほどに速く下ろしたい場合でしょうか。この場合、傷には目を瞑って荷重も大きくしますが、(仕上げ砥としては)少し目の粗い砥石で共擦り・共名倉を利用するのも一手では有りますね。逆に、使用砥石よりも細かい砥粒の共名倉を用いれば、より緻密な仕上がりも狙えます。

慣れてくると、余り纏わり付いて来る様な柔らかい砥面・多めの泥は、面倒に感じたりするものです。サラッと軽く接触させて、返りも出さないレベルで(角度と圧力は一定の儘)少ない回数を丁寧に研ぐ。精彩かつ正確な角度の刃先が出来上がります。

其れには、各砥石に適した水分量・圧力・ストロークスピードの三要素を割り出さねば成りません。つまり、同じ刃物を同じ研ぎ方で研いで居ては、砥石との相性を測れないという事です。対応策は、前記の要素を其々、可変としながら組み合わせてテストするしか有りません。慣れてくると、殆ど瞬時に割り出せる様に成ります。

砥石との対話は終わりが無いほど、奥深いですが・・・以上の内容を参考にして頂ければと思います。


村上浩一
村上様

泥を少し出して研ぐ、というのが当たり前のように思っていたので考え方を改めないといけなそうですね。
単純に泥があった方が滑らかに研げるし、刃も付きやすいだろうと考えていました(笑)。
これは人造の荒砥や中砥でも同様でしょうか。
例えば、#1000で形を作ったり傷を消す段階では泥を出して、同じ番手でも刃先を研ぐ(作る)際は泥を流す、というようなことも考えられるのでしょう

かえりを出しすぎるとやはり緻密な刃はつきづらいのですね。
かえりの扱いというのもよく分からないポイントで(笑)、かえりは出し過ぎない方がいい、というような記述は見かけるのですが、出し過ぎないようにこまめにかえりをとるというよりは、少しかえりが出たら次の番手に上げた方がいいのでしょうか。

あやふやなままにしていた疑問が沢山あって、質問ばかりですみません。
T様

何も考えず、ひたすらに研ぎ易く・失敗し難く・・・との構えであれば、(共名倉やダイヤを問わず)泥を出してから研ぐのが良いと思います。ただ、そうなると折角の天然の良さが損なわれ易いのではと。砥粒の細かさ・凝集性・形状・堆積の仕方・層としての組織の流れや分布。そう言った諸々の質の違いに因る、刃物形状・鋼材・熱処理への対応やバラツキを利用できずに勿体無いと感じます。

人造でも、必ずしも同様の発想と結果に縛られる必要な無い物の、研磨力が上がる・傷が消える条件は、水分量や泥の量に影響はされます。従って、手持ちの人造の振る舞いを観察し、自らの目的に応じて特性を把握し活用するのが重要でしょう。砥石の製造方法や、研磨剤の種類で結構な違いが有ると思いますが、シャプトンなどの砥石は余り泥が多く出て来ると滑走が良すぎて削れる量が減る感じですね。平面が崩れやすいビトリファイド等は、水も泥も多目で無いと性能が発揮されない印象ですし。

返りの処理は、もう口で言っても分からん(笑)。レベルの話しに成りますので・・・講習でも、研ぎ・返り取りの実演して真似して貰い、実際に切りながら試して確認して貰わないと伝わり難くてですね。基本的には、荷重を減らしつつ刃先を丁寧に整え、次の番手の砥石へ・・・で正解なのですが。


いつも、的確な御質問を頂くので先々、(かなり以前にやったっきりの)ブログ上で問答集みたいに文面を記載させて頂きたい位の内容に成って居ますね。通信講座を求めている人も居ましたので、需要は有りそうですし御一考を御願い出来ましたら幸いです。
村上様

いつも御丁寧に教えて下さりありがとうございます。
もし、私の拙い質問がなんらかのお役に立てることがありましたら、ぜひ御使用頂ければ幸いです。

研ぎについては、初心者向けのHPの記載や書籍等はありますが、そこから先に進もうとするとぶつかる問題について、詳細に解説されているものはあまり見かけたことがないように思います。
例えば、HPの一項目として「中上級者向け研ぎ講座」のようなページで、項目ごとに体系化された質疑応答集ができたら、そのような方達にとってこの上ない道標になるように思います。
「実践編は研ぎ講習で」となっていたら、私はすぐにでも申し込みたい気持ちです(笑)。

研ぎを始めてしばらくした頃に、研いでも研いでも思うように切れるようにならなくて、相談できる人もいなく苦しんだ時を思い出します(笑)。
そんな方々もきっと喜ばれるのではないかと思います。