今度の洋包丁は、筋引きと御見受けしました。到着時でも、或る程度は紙の束にも切り込める状態でしたが・・・引き切りして行くと、切っ先寄りの四割り程度に差し掛かった所から重く。
峰から見ると元から切っ先へ向けてテーパーに成って居るのですが、側面には(視覚的には見えにくい物の)鎬筋様の面構成の違いが有ります。そして、側面は刃幅が狭くなって行く⇒鎬筋が刃線に近付く⇒(側面が広い部分に比して)切られた対象が早い段階で段差を乗り越える為、抜けの際の抵抗になる。
そこで、小刃の幅の調整・角度の付け方(始まりと終わりで研ぎ分け)により、後に控える側面の幅・面の段差への切削対象のアプローチをスムーズに。例えて言うと滝の下で水流を受けるとして、大きな傘の上に小さな傘を載せる事で、(そのサイズや骨の開き角度次第では)大きな傘が濡れるのを相当なレベルで低減させる事も可能に成る訳です。
しかし、今回は良くある左右均等な刃付けの牛刀その他では無く、右側有意の研ぎ方である筋引きでしたので、使える手法は効果を上げられる範囲が限られました。止むを得ず、左の側面からも小さな小刃を維持しつつも(返りを取る程度以上の)、角度変化を付けました。
研ぎ前の画像(今回、全体画像を撮る前に研ぎ始めてしまいました)ですが、三段階程度の研ぎ角が見えます。一度でなのか、何回かで付いたのかは定かでは無いですが・・・最終刃先角度が余りに鈍角な気がしました。もしも此れが、更に狭隘な幅であれば抵抗が小さくなって、切れに対する不満も少なかったかも知れません(特に、切っ先寄り四割の範囲で鈍角)。とは言え角度は兎も角、小刃その物の幅が狭かったので、切る際の大まかな手応えは軽めでした。
行き成りですが、対比させるべきかと研ぎ後の刃先拡大画像。小刃の幅を広げて、始まりと終わりを研ぎ分けます。先ずは初期に付いていた小刃を研ぎ落とし、同時に鋭角化。小刃の幅の中で、最先端寄り三分の一は徐々に鈍角化に。此れで、やや柔らか目の鋼材(+焼き加)に対する永切れを期待出来ます。最後に、全ての角度を顎から切っ先に向け鋭角化で仕上げました。
人造の1000番、研磨力の有るタイプで小刃を研ぎ落します。
同じく1000番ですが研ぎ目が細かく平面維持も適度に優れる物で、刃先角度の研ぎ出しと角度変化のベースを。
人造の3000番で、全体の研ぎ目を細かく。
天然に移行し、奥殿の天井巣板中硬と黒蓮華の硬口で。後者は硬さと弾力が両立している上、相性も良くて助かりました。
最終仕上げは、中山の巣板硬口と戸前系で。後者の砥石は砥面に出ていた茶色部分が減って来て、大人しく無難な研ぎ心地でありながら、高性能仕上がりは変わらず。見込み通りの経過で何よりです(笑)。
研ぎ上がりです。初期画像が有ったとしても、到着時より小刃の幅が広がった位にしか外観の変化は感じられないと思われます。
研ぎ後、刃部のアップ。良く見れば光の反射で、研ぎ角を変えて居るのが観察できるでしょう。
H様には、研ぎの御依頼と共に幾分の待ち時間を許容して頂きまして、有難う御座いました。より良い仕上がりをと心掛けて研いで見ましたので、到着後は実際の御使用で御確認を御願いしたいと思います。もしも何か問題が有りましたら、御連絡を宜しく御願い致します。