先週末は、以前に何度か研ぎ講習を受けて頂いた方が、自宅へ御越し下さいました。鮮魚関連の方なので、御土産も其れに関する物を頂きましたが、焦眉の急?は「包丁を研いだ後の食材への匂い移り」でした。
巷間で実(まこと)しやかに広まっている、調理の直前に研いだ包丁では切られた食材が鉄臭くなる、と云うのは本当か?が気に成って居ました。其れなら、実験してみようとの御誘いで、当日は刺身で試す事に。御土産とは別に、其方の素材も持参頂きました。
因みに私は普段、魚介類は多数派と迄は言えない食生活ですが、偶には摂る様にしています。下画像は、鰆の切り身が有ったので霜降り(湯霜)した後、酒で溶いた味噌の付けて置き、焼く直前で柚子を加えました。酒が旨味豊富な物でしたので、味醂は無し。イメージとしては、幽庵焼きの変形です。
下は、普通に赤鰈の煮付けです。酒と醤油のみ使用。
さて、試食用として俎上に上がったのは、1キロ少々だったという穴子。刺身に引くのも御任せしました。私は刺身で穴子は初かも知れません。使用した包丁は、まだまだ形状を整えつつある私の司作柳です。
途中、敢えて天然の仕上げ砥石で研ぎ直します。事前に研いで置いた状態と比べる為です。
砥いで置いた状態での刺身・砥いだ直後での刺身。食べ比べてみた結果は、殆ど遜色ないと云う感想で一致しました。食味的には、部位による脂の乗り方・身幅の違いから来る切り方の違いと思われる差は感じましたが。
後半は、私の小さな柳(まあイカ割きですね)を使用しての比較です。此方は人造仕上げ砥(三十年ほど前のキングの8000番)で砥いで置いた状態と、研いだ直後の差を感じられるかどうか。
結果は此方も、特筆するべき顕著な差は現れず。前述の原因によると思われる、食味の僅かな違いは有れど、匂いに鉄臭さの強弱は感じられず。
今回は特に「刃先(3~4mm)と裏押しによる切れの回復を図った研ぎ」が鉄臭さを誘発するのか?を試してみたのですが、事前の予想を遥かに下回る影響しか出ないのではと結論付けました。
あるいは、切り刃全面の研ぎ・もっと荒い砥石の使用、であれば大きな差として現れる可能性も有りますが、其処まで調理直前に本格的な研ぎをする事は考え難いので、現実的なお手軽研ぎに絞っての簡易テストとしました。
その範囲に於いてでは有りますが、上記の条件では殆ど杞憂と言って差し支えないのでは無いか。そんな事を話し合いながら、二人で全ての穴子を平らげたのでした。山葵醤油よりも市販の拘りポン酢・お気に入りの醤油+柚子かスダチの系統が御薦めです。
パンドカンパーニュやバゲットは、切る練習にも適しています。硬い外皮(特に焦げ)に弾かれたり上滑りする事無く短いストロークで切り終える。勿論、力押しでへしゃげさせてもダメで、外側の硬い部分全周に艶が出ると成功です。
序でに、上記のフランスパン切りでも楽しんで貰いました。
御土産で頂いた太刀魚は、太い部分を塩焼きに。細い部分は切りかけで刺身に。
先ずは出刃では無く、手入れが必要に成って来ていた三層利器材の三徳で。
何処かで見かけた情報でしたが、太刀魚の骨からは良い出しが出るとの事で。軽く炙ってから試してみました。
確かに鯛の骨などとは又、違った味でしたが其の風味から何故か、アサリの出汁を連想しました。うまみ成分の比率か、香りの所為なのか分かりませんが、面白い感覚でした。例えるなら、筍ととトウモロコシ・タラの芽と海苔みたいな。
S様には、楽しい実験に御誘い頂き、美味しい御土産まで頂きまして恐縮です。又、来ますとの事でしたので、御来訪を楽しみにして居ります。整理整頓できていない環境で御不便をお掛けしましたが、有意義な時間を有難う御座いました。