序でに形状に付いても

 

前回、記載を飛ばした形状に付いてですが、説明は過去に数回記載しました。ですので具体的に身近な物で試した画像を上げてみます。

特に、新聞は広告などを挟んだままの朝刊で多用しています。これは、刃先の最先端だけの切れでは判別が付かない「走り・抜け」、あと私が個人的に気にしている「通り(刃通り)」もテスト出来るからです。

刃通りは、余り押し引きせずに一定の角度で入った刃が押し付けるだけで切り進めるのか。更に意図しない方向に刃筋が逸れて行かないかを見ています。ギロチンみたいな使い方ですね。

御依頼頂いた包丁は砥ぎ上げた後に和・洋問わず、以下のテスト或いは其れに準じた物で確認後、御返送しています。当然、鋼材の種類や熱処理・製造工程の違いに因り、切れも永切れも違って来ますが、テストを一定レベルでパスする形状(刃先とその周辺・角度変化や厚みの変化)と成らずに終える事は有りません。

 

 

 

1508001484656

関の先輩から頂戴したVG10(焼き戻し無し)のペティ。最終仕上げは中山の並砥です。

新聞は挟まれている広告を含め、普通の厚み。左手で保持して切り下します。先ず切れないと入りませんし、形状が整っていないと楽に真っ直ぐ進みません。当然、一挙動です。最後まで切り落としたければ、刃通りを活かせば大半の包丁で可能に成ります。

中級以下の鋼材でも研ぎで後押ししてやれば、垂直に5~10回までは切れが続き易いです。15回前後で鋼材に因る永切れが垣間見えます。TV撮影では100均包丁で披露したのですが、残念ながらカットでした。

やって見た方は御存じでしょうが、そう簡単には切れないし(適正形状)、切れても刃先の損耗が酷い(適正角度)ので良いテストに成ります。刃物と研ぎの双方が問われますね。

 

 

1508001490519

上記のテスト後に、刃先の荒れ(摩耗や捲れ)をテストします。通常は此処でやっと紙一枚を切る意味が出ます。今回は分かり易くする為にエアパッキン、通称プチプチを丸めて切っています。

紙の束や厚みのあるプチプチを切るのは、カッターと違って包丁の仕事が薄物一枚切る事で無い場合が多いからです。繊維質や粘弾性の有る、厚みを持った対象に、刃渡りや刃幅の可成りの部分が接触しつつ通り抜ける訳ですから。

 

 

Still_2017-10-15_020001_60.0X_N0001

ペティのテスト前、刃先拡大画像

 

Still_2017-10-15_021608_60.0X_N0003

ペティのテスト後、刃先拡大画像

 

割と高性能なVG10の硬焼きとも言える仕立てですが、テスト後の刃先の最先端は、流石に少し摩耗が見られますね。其れは先端部が僅かに白っぽくなっており、厚みが増している事から伺えます。

硬すぎると、此処で微細な刃毀れが。柔いと刃先が撚れて捲れに成ります。その点からは此のテスト対象程度の硬さに対しては、適切な熱処理と言えるでしょう。もっと硬い相手には、毀れる可能性は有りますが。

ですので、硬い焼き入れの刃物程、柔らかい素材を切る必要が有ります。過剰な圧力・衝撃・角度のブレという外乱には御用心。その代り、純然たる摩耗に対しては永切れを期待する事が可能です。

 

 

 

同じく、和包丁でもテストです。半自作の菜切り。

 

1508001496928

相手の新聞は、広告などの影響で少し厚目に成っていますが和包丁ですのでハンデ代わりです。切り刃構造は、刃先へ向けての角度調整の他、切っ先へ向けての厚みと角度の変化を二段構えで調整できるメリットが有りますので。

結果、ペティよりも楽に、正確に(刃幅や刃渡りに因る面接触の安定性も有るでしょう)永く切れてくれます。

 

 

1508001503539

新聞の後でプチプチの切れ方も同条件のワンストローク。上記ペティより鋭利に深くまで切れ込みます。刃渡りは少し上回るとは言え、ペティはカーブ・菜切りは直線的と、刃線の違いにより切り込むには不利ですが和包丁の面目躍如と言った所でしょう。

 

 

Still_2017-10-15_020050_60.0X_N0002

菜切りのテスト前、刃先拡大画像

 

Still_2017-10-15_021654_60.0X_N0004

菜切りのテスト後、刃先拡大画像

 

白紙二号のAを確りと鍛造し、熱処理にも大きな瑕疵が無かったからでしょうか、テストに因る刃先の損耗は見られません。勿論、厳密に切れを比べれば落ちているとは思いますが、視覚的には著変無しです。いや、僅かに艶は落ちていますか。

鋼材と熱処理、研ぎと切り方の総合的な効果が、今回の対象を歯牙にも掛けなかったのでしょうが、その証拠に最後まで切れ心地が大きく下がらず、引き切りを意識せずとも(前述の)刃通りを実感できました。

 

 

 

 

テストでは、敢えて調理における必要性最低限を上回る要求を課しています。それは、使用する方の利益(労力削減・食材への刺激低減・正確な作業向上)に成るだけで無く、包丁を気に入り大事にして貰えると考えるからです。

包丁の性能を引き出し、有用性を認識される事で粗末に扱われない様になったり、より愛着を持って手入れされて欲しいと希望しています。ですので私が施している研ぎの標準では、刃先周辺の研ぎ直しを持ち主自らが行なう事で、当分切れを維持できます。

つまり、(主に和式に成りますが)切り刃の大まかな形状が整っているので刃先を潰さない限り、私の研ぎ上がりに近い切れを数回以上、自力で回復可能です。其の為もあっての緩いハマグリ(切り刃)から、きついハマグリ(刃先)への組み合わせです。

これは平や裏の磨きも同様で、私は特殊な機材や道具を使わず、一般的に市販されている範疇を用いて磨いています。持ち主の手元に帰って来た包丁は、其の気に成れば御本人でも維持管理可能なのが理想だと考えているからです。あと、特殊な能力や機材には手が出ないのも在りますが。

その他、各種テストを経て現在の標準的な研ぎを定めた訳で、拾い集めた要素に「角度・厚みの変化」で切り抜け(走り・抜け・刃通り)を。「天然砥石」で耐摩耗性の向上と錆・変色の予防・リカバリーの向上を。との二大項目が有ります。後年、切られた食材の味と香りの違いに気付かされたのは嬉しい追加でしたが。

 

興味を御持ちの皆様は勿論、疑念を御持ちの諸賢にも是非一度、御試し置かれる事を御薦め致します。(あ、私に依頼をと言う意味では無いです。研げる方は御自身で、同一仕様にてどうぞ)

 

 

 

 

 

「序でに形状に付いても」への1件のフィードバック

  1. 追記です

    えー、テスト後にはもう一度、研ぎ直した上で御返送に成ります。研ぎの経過途中のイメージは、荒砥で切れる様にして中砥で楽に軽く引けるように。最終仕上げで更に楽に長く・永く、綺麗に切れる様に。此処の処理如何で、刃通りが際立って来ます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <s> <strike> <strong>