現在の仕様

 

少し前に、幾度か研ぎを御依頼下さった方と会話する機会が有りました。私としては珍しく、電話に出られる時間帯と言うかタイミングで掛けて頂いたので長時間、御意見や体験談も聞かせて貰えました。

刀や和式刃物に親しんで来られた方にて、刀剣研磨師に(押しかけ弟子としても)通じている上に、近頃は私を始め普通の研ぎ屋も試している所の様です。そこで仕上げの標準仕様や、受け付けてくれる研ぎ方には違いが有るのが分かったと。

当然、請け負って砥ぐ対象の刃物の種類や割合、自身の見識や所有する道具・工具により、違いは出るでしょう。しかし、顧客の意向に沿って或る程度は対応する幅も有るのでは無いですか。と返答しました。

私の標準仕様は(形状に付いては記載して来ましたので表面仕上げに付いてです)、相性に因りますが和包丁の切り刃(裏押しも同様)も洋包丁の小刃も硬口の合砥仕上げです。細かく言えば、和包丁の切り刃の地金部分は千枚(相当)で刃金部分は千枚か其れ以上の硬さ・細かさの合砥です。勿論、裏押しも同様です。

理由は幾つか在りますが、一番は永切れです。巣板と比べても倍近く切れが持つと認識しています。二番目は鋭利さです。対象に切り込む最初期の掛かりが違います。三番目に錆・変色が少ない点。四番目に切られた食材の味と香りが損なわれ難い事です。以上は主に和包丁に対する利点ですが、洋包丁も此れに準じます。

世の中には、細かく仕上げると切れが続かない(引きちぎってでも分断したいのでしょうか)・切れ込みが悪い(滑らかな刃先で切り込む角度や加える圧力が分かり難いのでしょうか)・切った物が張り付く(張り付き難い切り方もあるかも)、等の理由で反対意見も有る様です。前記の反論は、切る技術の違いや切る対象による違い、鋭利な切れに対する要求量の違いも在るでしょう。

これらを一纏めに論じるのは経験・立場・目的のレベルなど、不確定要素が過ぎるので止めておきますが、個別の目的とそれに最適だと思われる項目が確定しているなら、其れを突き詰めるのは否定しませんし、妥当な対処でしょう。実際、私も明確な要望が有れば可能な限り沿うようにしています。偶々、これまで1000番仕上げで指定された事は無いですが。

つまり、御希望が御任せであったり、目的をお聞きして御任せに近い内容で問題無さそうな場合が大半であったので、1000番仕上げや青砥仕上げで返したりは無かった訳です。もしも何かの目的に特化した御希望の仕上げが有れば、なるべく対応したいです。ただ、はっきりしない目的に対しては、自分が考え得る汎用性の高い仕上げである所の御任せ(標準仕様)としています。

逆に、コレクションや保存用として依頼された事は極少数、有りました。その場合でも、普通の仕上げにプラスアルファ程度で、とてもとても刀に比肩するレベルには達していません。ですので、もしも(綺麗さを最重要視して)観賞用や保存用の本気仕様を行うなら、通常の2~3倍の手間暇を掛けるでしょうね。

表面的な「綺麗さ」の為でなく「形状のバラつきの修正」の為に均し研ぎと、「錆・変色予防」の為に化粧研ぎをしているので、誤解の有りません様に御注意願います。それは「走りや抜け」、食味の為でもありますが。綺麗さは飽くまでも、これらの要素を満たした結果の機能美として付いて来るのだと考えています。

ですので、以下の画像では手持ちの包丁類が或る程度以上、形状も表面処理も整って来たかなと思っていますが、殊更見た目の綺麗さを追求しているつもりは有りません。万一、コスメテイックな美麗さを追求するなら、繰り返しに成りますが現状に倍する手間暇を掛けて完全な傷消しと斑消しに取り組む必要が有ります。

 

 

 

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現状は、此れが私の(標準)実用研ぎという事に成ります。形状的には80点近辺かと。世の各人の実用研ぎの範疇は一様では無いでしょうから、100人居れば100通り在って良いのでしょう。

私の仕様も、「試した上での」否定ならば御自由です。状況次第では合理的な疑問が出るのも理解していますので。しかし比較対象や、テストの構成要件を正確に指摘した説明を添付の上で御願い致します。切り手のレベルの標準化は困難が予想されますが。

研ぎ屋に出す場合も、各人の標準に近い仕上げの所を選べば満足度も高い筈です。そして、その標準のバラエティが多い程、好みに近い所に当たる確率は高く、更には多様な選択肢から選ぶ楽しみにも繋がるでしょう。願わくは皆様に、納得のいく出会いを。

 

 

 

 

 

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