昨日は、久し振りに砥石館で研ぎ講習を受けて頂きました。岡山のI様ですが、年末に掛けて幾らかの期間、メールでの遣り取りを経ての初対面。文面から想像をしていた通りと言っても良い程に、物事に対して深く真面目に取り組むタイプの方でした。
料理に取り組む必要性から、研ぎと刃物に興味を持たれての結果だそうですが、追求の度合いと理想の終着点などが凄いです。私如きの取り組みにも共鳴して頂けて、御助勢の御申し出まで。実際に御会いして、もし宜しければ、共に研ぎ関連の価値や魅力を発信して行く仲間に成って頂ければとの思いを強くしました。
しかし、先ずは今回の講習内容です。御持参の包丁、刀鍛冶が砂鉄から作った?つまり玉鋼製の三徳(製作者談)を練習台に。刃体の刃先側、三分の一程の幅で少し歪み(ひずみ)と厚さの不均一が有りましたので、修正しつつ研ぎで合理的な厚さの変化を出します。
中央の包丁が其れです。トマトは、上野館長から貰った物で、味の違いにも興味のあったI様の要望に応える為に炭素鋼とステンレスで切り比べました。結果は、御一緒に御出での奥方の方が如実に差を感じ取れた様子。
元々刃先の研ぎに関しては、一定以上の切れ・永切れをも結構なレベルで実現出来ていましたので、より刃体形状が整って来た事により紙の束への走りや抜けも改善しました。其処へ持って行く為の方法論や、技術的な注意点も理解を深めて頂けたかと思います。砥石館では、研ぎ上がった刃先の確認にも使える顕微鏡(パソコン画面連動品も)が有り、私と御自身での研ぎ目の均一さや小刃の面精度の違いも確認可能で便利です。
大体いつも研ぎ方の違い・刃物の性能を示すテストとしては氷を削ったり、紙の束・其れを捩った物を切って見せます。切断面のチェックや切れ味の低下具合を見て貰った所、気に成っていた点があると御質問が。髪の毛を切るのが難しいのだが、特別な研ぎ方でも有るのか?との事でした。
答えは簡単で、刃先の最終角度としては別に50度でも60度でも切れる。何なら、私の出刃は刃元角度が70度前後は有ると思うが、其れでも切れる。ただ角度が正確でさえ有れば良い。実感して貰う為に、上画像の洋三徳(ステンレス製)を人造中砥⇒巣板(中硬)で研ぎ、奥方提供の髪を切りました。切るのにも技術が要るので、I様にも容易な様にカミソリ砥クラスで更に研ぎ、髪の毛切断を初体験して貰いました。
目の前で砥ぎましたので、前言通りに(洋三徳は両刃なので)片側20度強・・・つまり両側合わせて40度強から50度近くの刃先で可能だと納得して頂けました。幾らかの驚きをもって受け止められた様子でしたが。一般に、「髪の毛を切る様な研ぎをすれば、俎板や頑丈な食材に当てれば一発で駄目に成る」と言われるようですが、氷を削ったり紙の束を切ってもガタ落ちに成らないのが汎用性の高い研ぎでしょう。
正確な角度を出せなければ薄さに逃げるしか無いのかも知れません。其の場合でも、刃先の角度が怪しいのは変わりませんが。食材に因っては、絶対的な薄さを必要とする場合が仕事の内容次第で出て来るでしょうけれど、漠然とした薄いだけの刃先に成っていたら期待に応えてくれるかは疑問ですね。私が研ぎを終えて刃物を御返送する際には、髪が切れる・最悪でも削れる程度の切れを満たさずに終えた事は有りません。まあ、短めに確り持ってですけれど。長い髪の先の方でも切れるのはレーザー等の役割なので。
事前に用意していた、天然砥石のサンプルです。砥石館の材料を使って台付きに。奥殿の巣板(恐らく天井)と中山の戸前(緑)です。
他には問い合わせを頂いていた、手持ちの余り使っていないコッパ砥石三つを御買い上げ。試し研ぎの結果、満足頂けた様子にて安心しました。一応、初心者が扱い易い性格を優先して選びましたので。
最後の小割りですが、奥殿の巣板各種(天井巣板内曇り・同じく紫カラス・本巣板茶色・本巣板白超硬)と千枚二種です。今後、小割りの砥石を販売する際には此の形態が良いかなと考えています。I様にはサンプル程度ですが上の小割りを使い、行く行くは玉鋼包丁を仕上げて頂ければと思います。此の度は遠方より有難う御座いました。
あと、ガーバーの御依頼を頂いて居た西宮のM様とも偶然、御会い出来て嬉しかったです。一度は見たいと思っていたヴァスコウエアスチールのガーバーフォールディングも触らせて頂き有難う御座いました。更に仕上がって行く事を願っております。