カテゴリー別アーカイブ: 依頼の刃物

三度、御依頼を頂きまして

 

 

以前、小刀と和剃刀の研ぎ依頼を頂きましたI様より、更に御問い合わせが。一転してアメリカンナイフの古典的なモデル、BUCK社の110です。

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ナイフ好きの方には説明の必要も無いフォールディングナイフで、勿論?自分でも持っています。父親の持ち物でしたが、アルマーのフォールディング(SERE)が大き過ぎたので交換しました。その後、チタンモデルや112?も追加した経験があります。

今回、アウトドアでは使う予定は無くいので、代わりに紙がすうっと滑らかに切れるのが御希望と。

 

研ぎ前 刃先

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皮砥で仕上げた結果、切れが今一に・・・との事で、角度を鈍角にしてしまったのが原因として考えやすいですが、初期の小刃(エッジ)角度がやや鈍角であったのかも知れません。アメリカのファクトリーナイフでは割合、多いパターンだと思います。

 

研ぎ前 刃先拡大

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角度を変えて、拡大画像の二枚。かなり、狭い範囲で其の割にきついカーブで砥石あるいは皮砥が当たっている様に見受けます。

 

 

今回の使用砥石、人造から。シャプトンの1000と2000。

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刃先の角度の再調整と僅かな刃毀れ取り

 

 

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そこから、研ぎ目の微細化とミクロのハマグリ気味に

 

 

天然は右から丸尾山の、薄っすら黒蓮華(墨流し模様入り)・戸前・田村山の戸前

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黒蓮華に硬めの伊予砥名倉

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丸尾山の戸前に卵色巣板(紅葉)名倉

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田村山の戸前に卵色巣板(紅葉)名倉

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研ぎ後 刃先

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研ぎ後 刃先拡大

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今回の鋼材(元は425モディファイトで現在は420でしたか)と、使用した天然は予想以上に相性が良く、研ぎ易さと仕上がりの良さに感心しました(合わせた名倉の後押しも有るでしょうが)。

このセットは狙ってはいたのですが、ウィーンのイベントで向こうの包丁(大半が硬さ控え目)に効果的だった組み合わせです。そこで、近い硬度であろうと試した結果、覿面だったと言う訳です。

 

 

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一応、御希望に副って紙が滑らかに切れるとは思いますが、更に髪も切れる程度には正確な刃先になって居ます。極端に其れに特化した鋭角研ぎでは無い為、材質にも因るかも知れませんが・・・。しかし、代わりに通常ナイフが相手にすると想定される対象には問題なく使えるでしょう。アウトドアも含めて。

料金的には、刃渡りが8.5cmで状態が1cm当たり100円レベルでしたので、8.5cm×100円+税で、918円でした。

 

 

I様、この度も有り難う御座いました。この仕様がお好みから外れていた場合は勿論、研ぎ直し致しますので御遠慮なく御願い致します。

 

 

 

北海道からの本焼き柳

 

北海道から本焼き柳の御依頼で、鮪の筋への切れと身離れを改善したいとの事でした。お手持ちの合わせの方では問題無いそうですが、其れとの差異が不明確でも有り、私の本焼きの研ぎ基本路線でお任せとされました。

切り刃は極緩いハマグリで、刃先近辺(3mm前後)から徐々に刃先に掛けてきついハマグリへ。切り刃と刃先の二段階のハマグリは双方、刃元から切っ先に向けて厚みと角度を減らして行きます。最終刃先角度は元側50度、中央40度、先側30度前後です。

 

到着時、刃先の厚みはかなり抜かれており、軽く糸引きが入っている様子でしたが、裏と表に恐らく製造段階のラッピング的な名残りが原因してか、紙の束には余り切り込めない状態でした。刃先・・・特に切っ先などは鋭利でしたが、やや滑り加減である事に加えて切り刃の抜けが不足している抵抗感がありました。

研ぎ前 全体

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刃部 アップ

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刃先 拡大

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切り刃の厚みの不均等は少な目でしたので、最初はキングデラックス1000と1200で

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ほぼ柳専用と化している細長シリーズ(白巣板ナマズ)と小鳥砥の名倉

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細長シリーズ(敷き内曇り)

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細長シリーズ(敷き内曇りの卵寄りでやや硬し)

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本焼き専用のやや硬口巣板(白+敷き内)

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千枚で傷消し・・・の筈がもう一つ・・・。

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研磨力+仕上がりの白巣板ですが追い込み切れず。

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白巣板蓮華の一つが覿面でした。良く食い付き、研磨も速いのに仕上がりが綺麗。

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最後は、鏡面青砥で裏押し(一本松戸前の名倉)

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研ぎ後 全体

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先側 刃部

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刃部 アップ

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刃先 拡大

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今回は、荒砥の必要性が無かった為に一寸当たり2000円となりました。刃渡り(刃の実測)が32cmだったので、料金は2000円×10.5寸+税で22680円でした。因みに所要時間は8時間ほど。

 

 

北海道のS様、この度は宝物の柳をお任せ下さり、有難う御座いました。合わせの方に負けない働きをしてくれると良いのですが。特性(製造法・刃の付け方)が違うと思われますので、其々の適性に応じた活躍を期待し、又それを楽しんで頂ける事を願っています。

添付しました画像の仕上がりに御喜び頂き恐縮ですが、現物が届いた際に、確認画像に劣らずの外観であれば幸いです。研ぎの御依頼、並びにブログ掲載への御協力に感謝致します。

あと、天然砥石の世界へようこそ。違いが分かると楽しいと思いますよ。御注文の砥石も狙い定めて選別してきます。其れまでは、御手元に届いたばかりの砥石達と親交を深めてお待ち下さい。

 

本職用でしょうか、牛刀の御依頼

 

信州から牛刀の研ぎ依頼を頂きました。

芯材は銀紙3号の様です。其れを両側から挟んでいるのもステンレスですが、それ程軟らかい物でもありません。しっかりした手応えは有難いですが、製造段階の研磨痕が結構な深さなので、もし取り切ろうとすれば手強くもあります。

送られて来た時点で、既に刃先の厚みもかなり減らされており、鋭さも充分以上。但し刃毀れがそれなりと云ったものでした。しかし切れ・長切れ・抜けを両立した仕上げをとの御依頼でしたので、刃先2~3mmの調製幅(充分な切れは出ますが)を超えて研いで行きます。因みに、これにより1cm当たり100円でなく1cmあたり200円のコースとなります。

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刃先より少し中央寄りを触ると厚みの不均等、つまり元から切っ先まで自然に減少していない。刃元3~4cmと切っ先手前4~5cmが薄く、中央15cm余りが余分に厚い状態です。加えて、その中央部分も一様ではないので、平面の出た砥石を当てると山と谷(凹凸)が現れます。和包丁の切り刃で言われる所の笑窪状ですが、これらは刃幅の半分程度から下での事です。それより峰側では又、グラインドが変わっている様子にて、其処までの範囲で調整して行きます。

第一段階はシャプトンの1000番で、刃幅の3~4割刃先側の厚みが余分に残る部分を研ぎ落とすと同時に、刃毀れを小さくします。ここで前述した山や谷が出現するので、元から順に高低差が在るなりに整えます。刃元より、中央部最後部を減らすのは不可能なので、此処の対処は刃先2mmの範囲で厚みの変化の代わりに角度の変化で補います。(和包丁で行なう、切り刃による調整と刃先による調整の合わせ技)

中央部もなるべく切っ先に行くに従い厚みを低減していきますが刃幅中央から峰側は、より厚い状態が山脈状に残っており、其方との面構成が極端に違えば切断時の抵抗や切断面の乱れに繋がります。ですので、飽くまでも双方のバランスを見ながら程々に収めます。

第二段階は同じ手順をシャプトンの2000番で繰り返し、研ぎ目を細かくすると同時に刃先の欠けを取りきり、刃先角度を元40度・中30度・切っ先20度で鈍角から鋭角に、滑らかに変化を付けます。勿論、刃先2mm前後と更に上部が繋がる面はハマグリです。(あと切っ先が欠けていたので電着ダイヤと1000番・2000番で形成し直しています)

第三段階は此処までで触った全ての面(結局全面に渡りましたが)を耐水ペーパー400番・1000番・1500番・2000番・研磨剤(三段階)で研ぎ目を消して行きます。この際、各ペーパーで厚みの最終調整を意識しながら進めて行きます。

第四段階は、之までで作って来た刃先の再加工を黒蓮華で行ないます。より細かく、より滑らかに、より刃返りを出さない様に。

第五段階はカミソリ砥により最終仕上げとします。(大谷山戸前浅黄+卵色巣板紅葉の共名倉)

 

 

 

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信州のS様、以上が仕上げる工程の御説明になります。確認画像では申し分ないとOKを頂きましたが、返送後に使用し、性能でも御満足頂けましたら幸いです。この度は有難う御座いました。

 

切り出しと入れ違いに日本剃刀を

 

前回の切り出しを返送後、日本剃刀もとお送り頂きました(之も岩崎ですね)。いつもの常連さんからの二本(御本人+御友人所有の包丁)を挟んで取り掛かりました。内容的には、表の研がれた部分の均一化なども含まれていましたが、本格的な事は見合わせました。

裏と違って砥石に当たる面積が小さくないと切れに直接影響する訳では無いし、元の状態(作成時の梳きの入れ方や刃体の厚みの精度)から来る物を修正するには、適切な道具や工具が必要となる上にリスクもあるからです(加えて作業が長期間になり、料金も比例して上がります)。ですが、研ぎの工程に於いては平面に悪影響が出ない範囲で、出来るだけ砥石に当たる部分を揃える方向で作業する事に。

 

研ぎ前 表 画像

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表 刃部

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表 刃先 拡大

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研ぎ前 裏 画像

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裏 刃部

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裏 刃先 拡大

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今回は、形状がかなり整っており、刃先の研ぎ目も細かめに研がれていたので、シャプトンの2000番からのスタートでした。

次に、白巣板各種(黒蓮華・墨流し・巣無し)で前段階の傷を消しつつ、面を整えて行きます。その後、本戸前と共名倉にも使ういきむらさきで更に研ぎ肌を細かく。

最終は千枚を挟んで大谷山(共名倉は前述のいきむらさき)です。千枚は、少し久々に引っ張り出しましたが、緻密な鋼材をよく鍛造されている刃物相手には独特のぐいぐい来る研ぎ心地で、今回の玉鋼が良い状態である事を伝えてくれました。

本来、剃刀は毛は切れても肌を切らない様に刃先を僅かに鈍角化したりするものですが、実はこの剃刀の用途は刷毛の毛先の調整との事で、返りを取って完了としました。

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研ぎ後 表 画像

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表 刃部

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表 刃先 拡大

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研ぎ後 裏 画像

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裏 刃部

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裏 刃先 拡大

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料金的には、状態に鑑みて一寸当たり1000円基準、刃の寸法が5cmでしたので1.5寸として1500円+税の1620円となりました。

 

I様、引き続いての御依頼、感謝に堪えません。使用に際して、御希望に叶いましたら幸いです。有難う御座いました。

 

 

切り出しの御依頼で

 

特にブログ記事では、砥石の試し研ぎに今井義延作の切り出し等を多用する為か、切り出しの御依頼を頂きました。

片方は二代目の千代鶴さん(乱菊)、もう一つは岩崎の刻印があります。依頼内容は、岩崎の刃毀れを無くし、乱菊を切れる様に。との事で、切り刃はほぼ平面に研ぎ、最終は巣板で仕上げようと纏まりました。

 

乱菊 研ぎ前 表

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乱菊 研ぎ前 裏

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表 アップ

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表 刃先拡大

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裏 アップ

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裏 刃先拡大

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岩崎 研ぎ前 表

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岩崎 研ぎ前 裏

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表 アップ

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表 刃先拡大

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裏 アップ

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裏 刃先拡大

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シャプトン・キングハイパー・キングデラックス(1000・1200)で刃先を整えつつ平面度を向上

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白巣板・敷き内曇り・黒蓮華の系統で中砥ぎの傷を消しながら更に面を揃えていく(実際には下画像の砥石達を使った後、小さめの巣板を倍程度並べて砥面の崩れと相性に留意し仕上げました。今回は完全平面までは追い込まない仕様でしたので、平面用卵シリーズは活躍せず)

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乱菊 研ぎ後 表

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表 アップ

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表 刃先拡大

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乱菊 研ぎ後 裏

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裏 アップ

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裏 刃先拡大

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岩崎 研ぎ後 表

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表 アップ

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表 刃先拡大

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裏 アップ

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裏 刃先拡大

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作業完了後、確認用に上の様な画像を添付の上、メールでお知らせするのですが、その後で自分的に納得し切れずに研ぎ直す時があります。今回の場合(岩崎)もそうで、もう少し刃先を整え、それ以上に面精度を高めたくなって仕上げ直しました。ですので、最終的に現物は上画像とは少し違っていると思います(目視での研ぎ肌・切れは向上)。

料金的には、到着時の所見で乱菊の方がやや面が揃っていない様にに見えました(特に裏)ので、一寸当たり3000円。岩崎は一寸当たり2000円と提示しました。結果、前者が刃渡り7センチでしたが二寸として6000円+税。後者は(刃渡り6センチ程で二寸として)4000円+税でした。

実際は乱菊の面は予想より少しましで、逆に岩崎が(切り刃の面積が狭いからか)やや捻じれ取りに梃子摺りました。前述の仕上げ直しは之の名残に納得がいかず乱菊に近く精度を上げる為でした。

東京のI様、この度は御依頼有難う御座いました。あと、返送と入れ替わりにお送り頂いた方の処置は御相談の上、と言う事になりますのでメールでお示しした所感を参考に御判断頂きたく存じます。

 

今回も、まだ新しい二本

 

 

偶々ですが、前回の物に近く磨耗・損傷が少ない包丁(料理人の銘を冠した二本組)の研ぎ依頼を頂きました。

お問い合わせ段階では添付画像から見て、菜切りタイプの方が和包丁的に研ぎ下ろす必要アリかとも思われましたが、到着した現物は一見して刃先主体で問題なしと判断しました。

よって洋包丁基準、それも1cm当たり100円コースで承りました。料金としては三徳型が17cm、菜切り型が16cmですので、それぞれ税込みで1836円、1728円となりました。

 

 

構造的には、ステンレスの地金で恐らくセミステンレスを挟み込んだ三層利器材(クラッド鋼)かと思われ、それを物語るように刃金部分のみ薄い変色と浅い錆があります。

研ぎ前 全体

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研ぎ前 刃部

 

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研ぎ前 刃先拡大

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研ぎ後 全体

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研ぎ後 刃部

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研ぎ後 刃先拡大

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研ぎ前 全体

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研ぎ前 刃部

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研ぎ前 刃先拡大

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研ぎ後 全体

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研ぎ後 刃部

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研ぎ後 刃先拡大

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先ずはどちらも、小割りした巣板で刃金部分の錆をざっと落とし、ステンレス部分は汚れ落とし・研磨痕の微細化を狙って研磨剤(クリームクレンザーの後、パールクレンザー)をかけました。

次にシャプトンの1000番で欠け・磨耗を研ぎ落とし、新聞の束でテストしながら刃先の厚みや角度の調整(刃元から切っ先へ漸減)をします。

基本的な形が整うと、続いて天然砥石による更に細かい調整と研ぎ目を消す作業です。通常の標準仕様の巣板で仕上げるとやや甘い感触。そこで硬さ・研磨力のある本焼き用の巣板で仕上げました。

もしも地金ごと研ぎ下ろす必要が出た場合、砥石の方から刃物形状に寄り添ってくれるタイプとは異なるこの砥石では、刃金・地金を同時・一律に仕上げる事は困難でしょうが、今回は対象が刃金限定なので良い仕事をしてくれました。

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同市内、やや北のI様、此の度は御依頼、有難う御座いました。深い錆が出難いタイプとは言え、出来れば刃先の水分除去に更に留意頂けると、刃金部分の傷みが大きく変わってくるかと思います。それ以外の切れ・刃持ち・柄の耐久は心配ない包丁の様ですので。

 

新品に近い包丁

 

携帯が傷んだので買い替えを考えてショップに行くと、パソコンの接続(~光り?)も一緒にどうか?と言われました。全く素人なので、パソコンその他で御世話になっており、研ぎ依頼の常連様でもある人に相談し、その方向で行く事にしましたが、他にも一つ提案を受けました。

砥石で楽しんでばかり居ないで(とまでは、言われませんでしたが)「研ぎの料金が具体的に分かる表示なども有る方が親切では?大まかにはホームページに記載されているものの、参考は幾らあっても良い」との事でした。そこで今後は、記事にさせて頂く場合は可能な範囲で掛かった料金を表示していければと思います。今回、御依頼頂いた包丁も表示許可を得ての記載です。

 

兵庫県のI様より研ぎ依頼を頂いた包丁。二年前に購入してから研いだ事は無いそうですが、其れにしては傷や磨耗も特に酷くありません。刃に掛かる負担が少ない使い方だったのでしょうか。

 

全体

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刃部

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刃先拡大

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御依頼時、添付された画像からは和包丁仕立てに見えるので、切り刃から研ぎ下ろしが必要な状態なら和包丁基準で、一寸当たり(状態により)1000から3000円。しかし損耗が少なく、刃先のみの研ぎで済むなら、洋包丁基準の1cm当たり(状態に応じて)100円から200円。と返信しました。

現物が届いてみると、前述の通り刃先の痛みが少ない。しかし、洋包丁基準となった最大の理由は、切り刃が結構な度合いでホローグラインド(刃の断面が内反り)に成っている事でした。グラインダーや水研機による初期刃付けで多少ホロー気味に・・・と言うレベルで無く明らかにそれを意識していると思われます。つまり、これは切り刃をベタ研ぎやハマグリには限りなく出来ないと考えるべきで、特に減りが少ない段階では現実的ではありません。

結果、今回の包丁は16cm弱の刃渡りで損耗の少ない洋包丁基準(1cm当たり100円)となり、15×100円+税の1620円となりました。

 

 

平は割合細かい研磨痕でしたが、より食味に貢献する様に研磨剤とラッピングフィルムで少し磨き、切り刃の少量の汚れもざっと落としました。今回は刃先のみの研ぎとは言え、其処は長切れと刃の通りを意識して、峰側から刃先側にかけて徐々にきついハマグリ。刃元から切っ先へかけて徐々に鋭角に。これで、新聞の束に切り込めなかった初期に対して楽々切り込め、抜けも軽い割には刃持ちも満たす状態になりました。

 

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研ぎ手順としては荒砥を出す必要も無い位で、シャプトンの1000番・2000番の後に巣板という標準的な流れで進みました。しかし違っていたのは、鋼材の硬さは確かに中庸ではあるものの、其処から推測出来る以上の返りの出易さ。ここは最終の大谷山(カミソリ砥)に行く前に若狭の浅黄(田村山戸前?)で何時もより一段、返りを小さくしてから仕上げました。

 

 

 

全体

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刃部

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刃先拡大

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この包丁の印象としては、硬さ・組織の緻密さはまずまずという感触からの予想を超える切れで、少し驚きました。加えて、特別に長切れを狙った仕立てでは無くても、この研ぎ易さならば頻繁に研ぐ必要のある状況も苦にはならないでしょう。

I様、この度は御依頼頂き、又記載に際しても快諾を賜り有り難う御座いました。包丁に無理をさせずに使う、そんな使い手の負担を低減する様な研ぎに成っている事を願います。

 

 

古いシリーズの番外編

 

古い牛刀(洋包丁系)などの記事が続きましたが、又一段と年季の入った洋包丁と言うかキッチンナイフの依頼を頂きました。

ガーバー社製、フランボージュと言うモデルだそうです。所謂、ハイスピードツールスチールにクローム鍍金のブレードを、アルミのハンドルに鋳込んだハンティングナイフ。或いはそれをベースとしたキッチンナイフのシリーズで、後年アルミの地肌にアーモハイドコーティングを追加した為、通称アーモハイドシリーズが代名詞的に知られる・・・だったと思います。(自分もミニマグナム・ショーティは各三本、二十年前に購入し持っています。)

 

 

研ぎ前 全体

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刃部

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刃先拡大

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元の状態としては、刃先の毀れと研ぎ減りした厚み、それに長さ26センチ近い刃線のS字カーブが問題でした。持ち主としては、刃先までほぼベタ研ぎを御希望でしたが、料金も掛かる上、製品のコンセプトからの逸脱が著しいので取り敢えず、妥当と思われる研ぎを施すので試用してから改めて判断して頂く事にしました。

 

 

 

研ぎ後 全体

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刃部

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刃先拡大

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GC240番の荒砥で刃線を整え、シャプトン1000番・2000番で研ぎ目を消した後、相性の良い巣板を選んで仕上げました。

これを研ぐ前の準備として、手持ちのショーティを使って巣板・合砥の中から適合し易い物を探しておいたのですが、どちらかと言うと、軟鉄には厳しい鋼向きの白巣板(最近の製品)と硬くて細かめの合いさ(これも最近の製品)が運よく適していました。それ以前に持っていた砥石の殆どはそこまで合わなかったので助かりました。ただ、より仕上がりが良かったのは白巣板の方でした。

私の方は合いさがより適しており、切れ・研ぎ肌ともに上回ったのですが、同メーカーの同種のナイフで同じハイス鋼でも一律には研げないですね。もしかすると年代による鋼材の成分違いや焼入れでのサイズ毎の仕様違いかも知れません。何れにしても、この年代のハイスは現在の特に粉末ハイスに比べて、目の細かい仕上がりを求めるのは困難な印象でしたし、それは今も変わりません。

普段なら見たり研いだりする機会がかなり少ないモデルを扱うことが出来て良い経験になりました。M様、この度は有難う御座いました。この研ぎで問題がありましたら、違う仕様への研ぎ直しも可能ですのでお知らせ頂ければと思います。

 

 

 

後日、メールにて感想を下さいました。「感謝・感激」「恐ろしい切れ味」「取り敢えず煮豚を切ってみたが驚嘆」と、過分な評価を頂きましたが、何よりも元のコンセプトを踏襲した研ぎで気に入って頂けた事が嬉しいです。

ガーバーのピートさんが発案(デザインも?)されたであろうナイフを職人が丁寧に形にした物です。他所とは違う製法や仕上がったブレードの精度の高さから、無理なコストダウンやヤッツケ仕事と縁が無い事は明らかです。

可能な限り、その刃物が持つ性能を引き出したい。それも個性を生かす方向で。という自分の基本姿勢のまま仕事を終えられて良かったです。そして、そうするに相応しい製品だったと思います。

 

 

研ぎの重要性を御理解頂き 2

 

前回の依頼主は魚を捌く仕事をしている御身内がいらっしゃるとかで、多少、包丁には素養がある方でしたが、もうお一方はこれまで余り頓着せず、新品がベストの状態であると信じて買い足し(実は買い換え)て来たそうです。つまり、「研ぎ?何処でやってるの?自力では厄介だし、やっぱり買い替えでしょ。新品が一番」と、まあ一般的に広まっている認識だった様です。

所が、私と知り合い、切れる条件とそれが備わっている新品が如何に希少か、実物を見て説明を聞き、試しにと一本研ぎを依頼されてからは実地に使って御納得頂けました(キャベツがレタスみたいに切れたとの事)。元々、興味が出ると追求するタイプらしく、手持ちの包丁銘を検索したり刃物について情報を集め出す程。しかも刺身を自分で柵から切り分ける事も多いとかで、遂には中屋平治作イカ裂きの御購入に至りました。かなり上級の食いしん坊だと拝察されます。

 

今回お預かりしたのは、その時入れ違いに受け取った牛刀の類です。過去に買ったものの、現在休眠中となっていた三本です。

研ぎ前

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何やら研削部分以外がコーティングされている、これまた余り見かけない包丁です。

 

 

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此方は割合出回っていそうなヘンケルの1バージョンですね。

 

 

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左側面に有名フレンチシェフの名前がありましたので、コラボモデルというか

 

 

研ぎ後

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表裏ではっきりと研ぎ分けてあったので、それを更に強調する方向で仕上げました。通常の牛刀は沢山お持ちなので、特徴を出すべく見た目から菜切りっぽくするつもりでした。しかし案外硬度が低く、ベタ研ぎでは今一。そこで右はベタに近いハマグリ刃(巣板仕上げ)に大谷山で刃先を撫でて置き、左は素直に角度を変えずに巣板仕上げ。

 

 

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ヘンケルは通常の仕様でお決まりのコース。黒蓮華からの大谷山です。

 

 

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こちらもほぼ同様ですが、刃体の厚みの割りに刃幅が狭いので、切れの軽さを出す目的で通常以上に幅広のハマグリに仕上げました。割合、組織が細かく硬めな鋼材だったので、小さなストロークでも確実に切り込んでくれ、細かい作業では上々の使い勝手を見せてくれるでしょう。

 

今回、二度に亘って依頼頂いた包丁達、それに購入頂いたイカ裂きがあれば、今までとは比べ物にならない料理の仕上がり・作業負担の軽減が期待できると思います。休眠中だった包丁も含めて、存分に活躍させて頂ければと思います。

 

 

 

研ぎの重要性を御理解頂き

 

少し前に大同特殊鋼仕様と思われる正広牛刀を依頼された方から、今度は和包丁をと御持ち頂きました。もう一方の古い牛刀の持ち主からも牛刀×2、ペティ×1を続いて頼むとの事でした。では順に和包丁から。

これは私の母も五寸五分サイズで(ほぼ同寸の東型薄刃と出刃の三本セット)所持している物の少し大きいサイズ、関孫六の柳六寸五分(自分は刃渡りの実寸で料金計算していますが、マチから切っ先で計れば七寸と云う事になるのでしょう)です。伊吹と銘がありますが、人名を入れたのでなければこれがモデル名なのでしょうか。だとしたら、余り聞かないような気がするので古い物なのかも知れません。

 

研ぎ前 全体

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研ぎ前 刃部

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研ぎ前 刃先拡大画像

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元の状態は、酷くは無いものの全体がまずまず錆びており、それでも手入れしようとしたのか擦り傷も同じくらい全体に付いています。そして小さな欠けが数箇所と大きな欠けがありました。裏梳きが余り無いのは研ぎ減りというよりは元々の仕様の可能性も。

 

 

 

研ぎ後 全体

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研ぎ後 刃部

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研ぎ後 刃先拡大画像

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先ずは平と裏の錆を耐水ぺーパーで落としますが、平の平面が崩れ、鎬がかなり丸くなっていたので通常よりやや粗い番手から2000番前後まで。後はラッピングフィルムを一つ二つ上まで掛けて、研磨剤を三段階で終えました。このレベル(顔がぼんやり映る程度)になれば水を弾き、通常使用で速く深く錆が進行する事は稀です。

研ぎは表にGC240番(通常・小割り)、キングハイパー、白巣板(通常・小割り)。裏にはキングハイパー、白巣板、鏡面青砥です。但し、切り刃(地金部分に数箇所、鋼の後ろ部分にも二箇所、製造段階での削り過ぎがあったので、最低限満足できる形状まで研ぎ落としました。

この際、地金の質に応じて小割りした巣板系が活躍するのですが、今回は普通・蓮華・黒蓮華でも今一でしたので、一番適応範囲の広いナマズで何とか仕上げました。刃金・地金の硬さや粘りで相性が変わりますが、形状の不均等ではナマズに軍配が上がりますね。これは小割りだけでなく通常品でもそうだと思います。

後は、一番大きな欠けを取りながら刃線・角度を揃えていき、全体が纏まった所で終了としました。欠けは三割ほど残りますが、刃先を減らすと少ない裏梳きが問題になり、全体も余分に小さくなります。そもそも柳ですから、欠けが呼び水となって新たな欠けが発生する事も考え難いです。研ぎでは、やや強めにハマグリにしましたし、俎板も木製使用を視野に入れて頂いている様子にて、より長持ちしてくれる事でしょう。