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本職用でしょうか、牛刀の御依頼

 

信州から牛刀の研ぎ依頼を頂きました。

芯材は銀紙3号の様です。其れを両側から挟んでいるのもステンレスですが、それ程軟らかい物でもありません。しっかりした手応えは有難いですが、製造段階の研磨痕が結構な深さなので、もし取り切ろうとすれば手強くもあります。

送られて来た時点で、既に刃先の厚みもかなり減らされており、鋭さも充分以上。但し刃毀れがそれなりと云ったものでした。しかし切れ・長切れ・抜けを両立した仕上げをとの御依頼でしたので、刃先2~3mmの調製幅(充分な切れは出ますが)を超えて研いで行きます。因みに、これにより1cm当たり100円でなく1cmあたり200円のコースとなります。

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刃先より少し中央寄りを触ると厚みの不均等、つまり元から切っ先まで自然に減少していない。刃元3~4cmと切っ先手前4~5cmが薄く、中央15cm余りが余分に厚い状態です。加えて、その中央部分も一様ではないので、平面の出た砥石を当てると山と谷(凹凸)が現れます。和包丁の切り刃で言われる所の笑窪状ですが、これらは刃幅の半分程度から下での事です。それより峰側では又、グラインドが変わっている様子にて、其処までの範囲で調整して行きます。

第一段階はシャプトンの1000番で、刃幅の3~4割刃先側の厚みが余分に残る部分を研ぎ落とすと同時に、刃毀れを小さくします。ここで前述した山や谷が出現するので、元から順に高低差が在るなりに整えます。刃元より、中央部最後部を減らすのは不可能なので、此処の対処は刃先2mmの範囲で厚みの変化の代わりに角度の変化で補います。(和包丁で行なう、切り刃による調整と刃先による調整の合わせ技)

中央部もなるべく切っ先に行くに従い厚みを低減していきますが刃幅中央から峰側は、より厚い状態が山脈状に残っており、其方との面構成が極端に違えば切断時の抵抗や切断面の乱れに繋がります。ですので、飽くまでも双方のバランスを見ながら程々に収めます。

第二段階は同じ手順をシャプトンの2000番で繰り返し、研ぎ目を細かくすると同時に刃先の欠けを取りきり、刃先角度を元40度・中30度・切っ先20度で鈍角から鋭角に、滑らかに変化を付けます。勿論、刃先2mm前後と更に上部が繋がる面はハマグリです。(あと切っ先が欠けていたので電着ダイヤと1000番・2000番で形成し直しています)

第三段階は此処までで触った全ての面(結局全面に渡りましたが)を耐水ペーパー400番・1000番・1500番・2000番・研磨剤(三段階)で研ぎ目を消して行きます。この際、各ペーパーで厚みの最終調整を意識しながら進めて行きます。

第四段階は、之までで作って来た刃先の再加工を黒蓮華で行ないます。より細かく、より滑らかに、より刃返りを出さない様に。

第五段階はカミソリ砥により最終仕上げとします。(大谷山戸前浅黄+卵色巣板紅葉の共名倉)

 

 

 

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信州のS様、以上が仕上げる工程の御説明になります。確認画像では申し分ないとOKを頂きましたが、返送後に使用し、性能でも御満足頂けましたら幸いです。この度は有難う御座いました。

 

今年の刃物祭りと業務連絡

 

今年も関の刃物祭り(10月11日)に行ってきました。と言っても、今回は特に購入予定の物も無く、砥石の出店も見当たらなかったので、何時もの鰻屋に寄って食事とお土産だけにしました。

アピセで日野浦さんと話し、今後の展開について報告したり、テレビで米国の少年との交流を見た事については、その後の予定を聞いたり。また鍛冶体験に来ても良いぞと言われた事は嬉しく、いつか再び切り出しを作りに行きたいと申し込んでおきました。

 

現地で、過去の勤務先の元同僚とも年に一度の再会を果たした訳ですが、相変わらず気を使って貰い、恒例のプレゼントを頂きました。仕事に関連するマスプロ製品としてのペティではなく、オリジナルです。アウトドアナイフショーでもチャレンジャー部門で展示している意欲的なグループの一人でもあり、下画像がその作品です。

 

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鋼材はVG10、焼き戻しは殆ど無しの堅焼きだそうで、ハンドルは上がアイアンウッド、下が黒檀だったと思います。そのハンドルにボルトを通す為、タングには戻しが掛かっているとの事。タング後端は軽くテーパーになっており、所謂テーパードフルタングです。

 

4~5本の中から選ばせてくれたので、身が厚い方から2本を採りました。その方が、刃付けによる差別化が顕著に現れるからです。因みに、ヘンケルのペティ(左)と比較すると、中央、右に行くに従って厚みが増しています(現物は峰の角が僅かに丸めてあるので、画像では控えめに写っていますが)。

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四~五年ほど前には、こんなナイフも頂きました。ひと目見て以来、母が気に入って放さないので、其方(親宅)に配備されたままになっている物です。

マイカルタハンドルにVG10の三層クラッドのブレードですが、主にパンやチーズを切る為、テーブル下の引き出し手前に位置を占めています。此方も、やや堅焼きですが中庸な研ぎ感(滑ったり返りの処理に悩む様な研ぎ難さは無い)と結構な長切れで、割り当ての仕事内容では滅多に研ぐ必要を感じません。上のペティは更に硬いのなら、一層の長切れが期待できます。

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あと、半月ほど前、ある大使館を通して研ぎ文化振興協会宛に研ぎの出来る人材の派遣をと連絡があったそうです。一応、私が対応する事になるだろうと聞いてはいましたが、本日振興協会からの転送ではありますが依頼のメールを自ら確認する事が出来ました。今後は相手方と直接情報の遣り取りをして現地でのイベントに備えます。

もし、研ぎの依頼をと御考えの方は、来月前半の海外出張期間と其れまでの準備期間中は、納期の面で御迷惑を御掛けする事になるかと思いますが何卒御理解の程、宜しくお願い致します。

 

(場合によっては、「六月七日の砥石の選別」の導入部分で軽く触れていた計画が本決まりとなり、其方も担当するとなれば春以降、更に長期の御迷惑を・・・となるかもですが、それは又いずれ。)

 

連休中に小鮎様と

 

連休中に、小鮎様と砥取家にてミーティング?をして来ました。旧交を温めると言うか、お土産交換会と言うか砥石の品評会でしょうか。稀少な銘柄や豪華なサイズなど、手持ちの殆どが実用一点張りの自分では適わない砥石たちを披露頂きました。

 

その中で、幾つか共名倉にと頂いた石があります。黄色が中山産、グレーが奥殿産(浅葱)、褐色が関東の合砥?クリームが伊予砥との事です。

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共名倉といえど、当然小さい刃物ならば普通に研げる訳で、実際前回の剃刀研ぎでは、その種類の中でほぼ手持ち中、一番小さいサイズの砥石たちを幾つか使いました。

今回頂いた砥石を試す前に、自分の普段使い用の本戸前の切れ端で砥いで見ます。

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次に千枚(これは最初、極めて形状が歪だったので、面を均しながら使える所を使っています)

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奥殿産

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中山産

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因みに、共名倉は絶対性能よりも馴染みを優先して八枚です

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試した結果、本戸前⇒千枚⇒中山・奥殿の順で刃金が鏡面に近づく様です。地金も同じ順で明るく仕上がりますが、中山と奥殿では刃金の違いが少ない割りには、奥殿の方が地金の明るさ(反射)はかなり上となりました。

小鮎様、砥石の知見を広めさせて頂き、又楽しい石たちを有難う御座いました。前回亀岡から連れ帰った、いきむらさきの共名倉もお役に立てば幸いです。

 

 

 

おまけは、今回の亀岡行きで購入できた新たな千枚です。今現在、最も鉄を吸わせていないので成るべく使用頻度を抑えて性状を維持したいと思っています(使用して行く内、水分・鉄分・塩素も?で硬くなり勝ち・弾力が無くなりパサつきが出る傾向が多い印象です)。

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切り出しと入れ違いに日本剃刀を

 

前回の切り出しを返送後、日本剃刀もとお送り頂きました(之も岩崎ですね)。いつもの常連さんからの二本(御本人+御友人所有の包丁)を挟んで取り掛かりました。内容的には、表の研がれた部分の均一化なども含まれていましたが、本格的な事は見合わせました。

裏と違って砥石に当たる面積が小さくないと切れに直接影響する訳では無いし、元の状態(作成時の梳きの入れ方や刃体の厚みの精度)から来る物を修正するには、適切な道具や工具が必要となる上にリスクもあるからです(加えて作業が長期間になり、料金も比例して上がります)。ですが、研ぎの工程に於いては平面に悪影響が出ない範囲で、出来るだけ砥石に当たる部分を揃える方向で作業する事に。

 

研ぎ前 表 画像

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表 刃部

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表 刃先 拡大

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研ぎ前 裏 画像

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裏 刃部

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裏 刃先 拡大

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今回は、形状がかなり整っており、刃先の研ぎ目も細かめに研がれていたので、シャプトンの2000番からのスタートでした。

次に、白巣板各種(黒蓮華・墨流し・巣無し)で前段階の傷を消しつつ、面を整えて行きます。その後、本戸前と共名倉にも使ういきむらさきで更に研ぎ肌を細かく。

最終は千枚を挟んで大谷山(共名倉は前述のいきむらさき)です。千枚は、少し久々に引っ張り出しましたが、緻密な鋼材をよく鍛造されている刃物相手には独特のぐいぐい来る研ぎ心地で、今回の玉鋼が良い状態である事を伝えてくれました。

本来、剃刀は毛は切れても肌を切らない様に刃先を僅かに鈍角化したりするものですが、実はこの剃刀の用途は刷毛の毛先の調整との事で、返りを取って完了としました。

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研ぎ後 表 画像

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表 刃部

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表 刃先 拡大

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研ぎ後 裏 画像

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裏 刃部

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裏 刃先 拡大

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料金的には、状態に鑑みて一寸当たり1000円基準、刃の寸法が5cmでしたので1.5寸として1500円+税の1620円となりました。

 

I様、引き続いての御依頼、感謝に堪えません。使用に際して、御希望に叶いましたら幸いです。有難う御座いました。

 

 

切り出しの御依頼で

 

特にブログ記事では、砥石の試し研ぎに今井義延作の切り出し等を多用する為か、切り出しの御依頼を頂きました。

片方は二代目の千代鶴さん(乱菊)、もう一つは岩崎の刻印があります。依頼内容は、岩崎の刃毀れを無くし、乱菊を切れる様に。との事で、切り刃はほぼ平面に研ぎ、最終は巣板で仕上げようと纏まりました。

 

乱菊 研ぎ前 表

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乱菊 研ぎ前 裏

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表 アップ

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表 刃先拡大

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裏 アップ

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裏 刃先拡大

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岩崎 研ぎ前 表

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岩崎 研ぎ前 裏

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表 アップ

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表 刃先拡大

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裏 アップ

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裏 刃先拡大

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シャプトン・キングハイパー・キングデラックス(1000・1200)で刃先を整えつつ平面度を向上

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白巣板・敷き内曇り・黒蓮華の系統で中砥ぎの傷を消しながら更に面を揃えていく(実際には下画像の砥石達を使った後、小さめの巣板を倍程度並べて砥面の崩れと相性に留意し仕上げました。今回は完全平面までは追い込まない仕様でしたので、平面用卵シリーズは活躍せず)

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乱菊 研ぎ後 表

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表 アップ

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表 刃先拡大

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乱菊 研ぎ後 裏

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裏 アップ

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裏 刃先拡大

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岩崎 研ぎ後 表

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表 アップ

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表 刃先拡大

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裏 アップ

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裏 刃先拡大

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作業完了後、確認用に上の様な画像を添付の上、メールでお知らせするのですが、その後で自分的に納得し切れずに研ぎ直す時があります。今回の場合(岩崎)もそうで、もう少し刃先を整え、それ以上に面精度を高めたくなって仕上げ直しました。ですので、最終的に現物は上画像とは少し違っていると思います(目視での研ぎ肌・切れは向上)。

料金的には、到着時の所見で乱菊の方がやや面が揃っていない様にに見えました(特に裏)ので、一寸当たり3000円。岩崎は一寸当たり2000円と提示しました。結果、前者が刃渡り7センチでしたが二寸として6000円+税。後者は(刃渡り6センチ程で二寸として)4000円+税でした。

実際は乱菊の面は予想より少しましで、逆に岩崎が(切り刃の面積が狭いからか)やや捻じれ取りに梃子摺りました。前述の仕上げ直しは之の名残に納得がいかず乱菊に近く精度を上げる為でした。

東京のI様、この度は御依頼有難う御座いました。あと、返送と入れ替わりにお送り頂いた方の処置は御相談の上、と言う事になりますのでメールでお示しした所感を参考に御判断頂きたく存じます。

 

小鮎様からの質問で(九月六日の砥石選別含む)

 

少し前に、共名倉用の肌理が細かく柔らか目で刃金を光らせる石は?との質問を頂いたので、其れについて自分の手持ちを参考までに。

昨日は本来、天上戸前うぐいすを狙っていましたが探し当たらず、代わりに卵色巣板のこっぱと共名倉用の戸前いきむらさきを選んできました。

 

購入時

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持ち帰って面付け後

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購入時

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表裏面付け後

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卵色巣板は、鉋の刃や切り出しなど特に平面を研ぐ用途専用に、面が崩れる間もなく小振りな砥石をローテーションする為、複数揃えています(白の後で卵複数はお奨めです)。今回の卵もそれに役立つと思いました。

 

平面用卵色シリーズ

1 やや黄色巣板寄りと思われる物

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2 少し紅葉の混じった物

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3 黒付け坊主に近いらしき物

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4 これも少し紅葉混じりですが茶・灰でなく緑褐色

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5 一つだけ有る天上巣板層の卵

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何故此処まで卵を載せたかと言えば、砥取家に贈った切り出しの手入れを兼ねて共名倉の実例を示そうと考えたからです。それらの切り出しは、欠けや錆が出る度に研ぎ直しをして来ており、一度仕上げてから確か三度目の手入れになります(錆びや欠けを狙って研ぐので初期よりも平面度合いが甘くなっており、次回行なうとしたら人造の1000番辺りから再び精度を出して進める事になりそうです)。

左久作 大小刀 アーサーバルファー鋼に和鉄地金(三原鉄だったかと)

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中屋平治  錬鉄切り出し スェ-デン鋼に錬鉄地金

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これの手入れに使うのが卵シリーズと言う訳で、その後に大谷山と共名倉で仕上げる場面では今回購入したもう一つを俎上に上げようと。

 

 

自分が鏡面を狙って使う共名倉は以下の通りです(共名倉に求める性能・性質はHPの記載も御参照頂ければ)。

八枚

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大上

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やや軟らかい大上

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いきむらさき寄りの戸前系

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硬軟二種の戸前(一本松)

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千枚系らしきもの

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特に大上二種は適応範囲・扱い易さ・仕上がりで抜群です(但しこれらは、この目的に沿って選別した石であり、同銘柄でありさえすれば同じ働きが期待できるとは限りません)。

 

 

先ずは裏の錆を落とし、梳き部分を磨いた後、白巣板で裏押しをしました。表は白巣板からですが、砥粒の目が立ち気味とまったりの二種で刃金・地金双方の反応を窺いながら進みます。

 

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まずまずの結果だったので、続いて購入し立ての卵を試しますが、これも充分な性能。砥ぎ感は黒付けと紅葉入りの中間、つまり目が細かく泥も出るが多すぎず、研磨力はやや目の立った砥粒で(トロトロではなく)さらりと研げる(地金・刃金共に均等に仕上がる)印象です。過去の3つ程の経験上、黒付けに近いほど、(特に硬くない限り)泥がやや多めで地金に優しい様です。

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念の為、従来の卵と比較してみても遜色ない様子。

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ここから、本来はやや硬口で目の細かい合砥(千枚・八枚系か、特に細かい大上・戸前系)に繋ぐ所ですが、鋼材・砥石の質・更に相性も良かったのでこのまま大谷山(三つ有る手持ちの中で扱い易さが最も優れた石)へ。

そして合わせる共名倉はいよいよ、新入りのいきむらさきです。

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使い勝手・仕上がり共にまずまず。

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しかしもう一声と、万能タイプの大上(やや軟らかめ)を使用。

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潤滑性・クッション性が適度で、接点の状態が正確に伝わる研ぎ心地で扱い易い上、仕上がりも更に向上しました。此方に比べると、このいきむらさきは共名倉としては中の上くらいでしょう。

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只、そんないきむらさきも通常使用では、鋼を結構明るめに仕上げてくれます。逆に言うと、この段階でこうならない合砥は鏡面狙いの共名倉としては不足と言う事になります。

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裏側の緑褐色ではやや粗い砥粒なので扱い難いですが、これはこれで共名倉のコンビ砥石?みたいで面白くもありますね。

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小鮎様には参考にして頂けましたでしょうか。お役に立てば幸いです。

 

今回も、まだ新しい二本

 

 

偶々ですが、前回の物に近く磨耗・損傷が少ない包丁(料理人の銘を冠した二本組)の研ぎ依頼を頂きました。

お問い合わせ段階では添付画像から見て、菜切りタイプの方が和包丁的に研ぎ下ろす必要アリかとも思われましたが、到着した現物は一見して刃先主体で問題なしと判断しました。

よって洋包丁基準、それも1cm当たり100円コースで承りました。料金としては三徳型が17cm、菜切り型が16cmですので、それぞれ税込みで1836円、1728円となりました。

 

 

構造的には、ステンレスの地金で恐らくセミステンレスを挟み込んだ三層利器材(クラッド鋼)かと思われ、それを物語るように刃金部分のみ薄い変色と浅い錆があります。

研ぎ前 全体

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研ぎ前 刃部

 

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研ぎ前 刃先拡大

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研ぎ後 全体

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研ぎ後 刃部

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研ぎ後 刃先拡大

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研ぎ前 全体

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研ぎ前 刃部

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研ぎ前 刃先拡大

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研ぎ後 全体

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研ぎ後 刃部

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研ぎ後 刃先拡大

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先ずはどちらも、小割りした巣板で刃金部分の錆をざっと落とし、ステンレス部分は汚れ落とし・研磨痕の微細化を狙って研磨剤(クリームクレンザーの後、パールクレンザー)をかけました。

次にシャプトンの1000番で欠け・磨耗を研ぎ落とし、新聞の束でテストしながら刃先の厚みや角度の調整(刃元から切っ先へ漸減)をします。

基本的な形が整うと、続いて天然砥石による更に細かい調整と研ぎ目を消す作業です。通常の標準仕様の巣板で仕上げるとやや甘い感触。そこで硬さ・研磨力のある本焼き用の巣板で仕上げました。

もしも地金ごと研ぎ下ろす必要が出た場合、砥石の方から刃物形状に寄り添ってくれるタイプとは異なるこの砥石では、刃金・地金を同時・一律に仕上げる事は困難でしょうが、今回は対象が刃金限定なので良い仕事をしてくれました。

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同市内、やや北のI様、此の度は御依頼、有難う御座いました。深い錆が出難いタイプとは言え、出来れば刃先の水分除去に更に留意頂けると、刃金部分の傷みが大きく変わってくるかと思います。それ以外の切れ・刃持ち・柄の耐久は心配ない包丁の様ですので。

 

新品に近い包丁

 

携帯が傷んだので買い替えを考えてショップに行くと、パソコンの接続(~光り?)も一緒にどうか?と言われました。全く素人なので、パソコンその他で御世話になっており、研ぎ依頼の常連様でもある人に相談し、その方向で行く事にしましたが、他にも一つ提案を受けました。

砥石で楽しんでばかり居ないで(とまでは、言われませんでしたが)「研ぎの料金が具体的に分かる表示なども有る方が親切では?大まかにはホームページに記載されているものの、参考は幾らあっても良い」との事でした。そこで今後は、記事にさせて頂く場合は可能な範囲で掛かった料金を表示していければと思います。今回、御依頼頂いた包丁も表示許可を得ての記載です。

 

兵庫県のI様より研ぎ依頼を頂いた包丁。二年前に購入してから研いだ事は無いそうですが、其れにしては傷や磨耗も特に酷くありません。刃に掛かる負担が少ない使い方だったのでしょうか。

 

全体

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刃部

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刃先拡大

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御依頼時、添付された画像からは和包丁仕立てに見えるので、切り刃から研ぎ下ろしが必要な状態なら和包丁基準で、一寸当たり(状態により)1000から3000円。しかし損耗が少なく、刃先のみの研ぎで済むなら、洋包丁基準の1cm当たり(状態に応じて)100円から200円。と返信しました。

現物が届いてみると、前述の通り刃先の痛みが少ない。しかし、洋包丁基準となった最大の理由は、切り刃が結構な度合いでホローグラインド(刃の断面が内反り)に成っている事でした。グラインダーや水研機による初期刃付けで多少ホロー気味に・・・と言うレベルで無く明らかにそれを意識していると思われます。つまり、これは切り刃をベタ研ぎやハマグリには限りなく出来ないと考えるべきで、特に減りが少ない段階では現実的ではありません。

結果、今回の包丁は16cm弱の刃渡りで損耗の少ない洋包丁基準(1cm当たり100円)となり、15×100円+税の1620円となりました。

 

 

平は割合細かい研磨痕でしたが、より食味に貢献する様に研磨剤とラッピングフィルムで少し磨き、切り刃の少量の汚れもざっと落としました。今回は刃先のみの研ぎとは言え、其処は長切れと刃の通りを意識して、峰側から刃先側にかけて徐々にきついハマグリ。刃元から切っ先へかけて徐々に鋭角に。これで、新聞の束に切り込めなかった初期に対して楽々切り込め、抜けも軽い割には刃持ちも満たす状態になりました。

 

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研ぎ手順としては荒砥を出す必要も無い位で、シャプトンの1000番・2000番の後に巣板という標準的な流れで進みました。しかし違っていたのは、鋼材の硬さは確かに中庸ではあるものの、其処から推測出来る以上の返りの出易さ。ここは最終の大谷山(カミソリ砥)に行く前に若狭の浅黄(田村山戸前?)で何時もより一段、返りを小さくしてから仕上げました。

 

 

 

全体

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刃部

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刃先拡大

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この包丁の印象としては、硬さ・組織の緻密さはまずまずという感触からの予想を超える切れで、少し驚きました。加えて、特別に長切れを狙った仕立てでは無くても、この研ぎ易さならば頻繁に研ぐ必要のある状況も苦にはならないでしょう。

I様、この度は御依頼頂き、又記載に際しても快諾を賜り有り難う御座いました。包丁に無理をさせずに使う、そんな使い手の負担を低減する様な研ぎに成っている事を願います。

 

 

七月十一日の砥石選び

 

今月は十一日の土曜に、亀岡に行って来ました。何時もの様に、注文されている層の偵察と自前の補充を兼ねて。そして以前から話が出ていた対外的な活動開始への進捗を聞く為でした。

 

まず顔を合わせると、これから採れたばかりの巣板を切ってしまいたいので待ってくれとの事。その間、手近な木箱や台上の砥石を選んでいました。結果、10本ばかりの尺長や厚めの真四角な上物が切り分けられましたが、自分の希望する硬さ・弾力をやや上回っており、一応サンプルとして小さいのを購入するに留めました。

因みに、白巣板層らしいですが、敷き内よりは黒蓮華気味だと思います。匂いもうっすらそんな感じ。

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帰宅後、砥面・底面共に電着ダイヤで面を出し、養生をしてから試し研ぎ。結果、砥粒の細かさ・目の立ち方は上々で、研磨力・傷の消えに不足はありません。丸尾山の巣板としては硬過ぎず弾力が有るタイプなので研ぎ減りは少なめ。其れに影響されてか、食いつき方もグイグイ来る感じで言ってみれば若狭(田村山)の砥石を彷彿とさせる印象でした。

 

 

 

待っている間に見ていた方ですが、戸前系でやや千枚風味を感じさせる物です。

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天井戸前や敷き戸前の色・柄に近い外観ながら、一部にグレーや緑褐色以外の色調を含んでいる。研いで見ると明らかに普通の戸前系と違った研ぎ感や仕上がりになる。そんな物が偶にありますが、これもそんな砥石です。勿論、戸前寄りと千枚寄り、どちらに近いかは個体差があり、一様ではありませんが、今回のは若干の千枚寄りでしょう。

 

 

 

更に千枚寄りだったのは以下の画像。以前、戸前系ばかり数十個纏めて切り出された時に選んで来た物です。側面から見るとグレーと緑褐色で綺麗に分かれており、半々といった所でしょう。

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そして最も千枚に近い物も同時に手に入れていました。手持ちの千枚際戸前?の中では一番大きい物。

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最後は、此れも変わった物です。共名倉兼、小さい刃物用として購入しましたが、カミソリ砥に合わせると予想以上の性能で、研磨力・潤滑力・仕上がりと三拍子揃った働きを見せてくれました。通常使用としてはやや硬い(丸尾山産合砥としては)かなと思いましたが、結果的に鏡面用の超仕上げ「三大共名倉」として重宝しています。(因みに他の二つは、特に砥粒が細かく適度に目の立った大上の硬軟それぞれです。)

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画像側面は、いき紫特有の赤っぽい色が出ているので、どう影響するか気になっていましたが、少なくともその部分が表面に出ない限り他の千枚寄りと異なる挙動は無さそうです。以前、天上戸前いき紫を持っていた時、赤色とその周辺でとても違いを感じたので、その時が楽しみなような心配なような複雑な気分です。

 

 

六月七日の砥石の選別

 

七日の日曜日に亀岡に行ってきました。千枚採掘までにまだ間が在るのは分かっていましたが、土橋さんから前の週に電話があり、久し振りに会う事に。

勿論、行けば砥石を見るのはお決まりですが、月山さんから「使い勝手の良い白巣板は常時募集」との依頼もあり、先ずはそれを探しました。3~4個ばかり選んだのですが、新潟からの来客用に20個ほど入用だとの事にて其れは断念、代わりに面付け機まで仕上がった段階の中から80型相当のコッパ2個と薄めのレーザー型1個を送って貰う事にしました。

他にも、打ち合わせのような会話で、日仏での匠村計画の内容を聞いたり、当日居合わせた二人の来客に丸尾山砥石の説明をしつつ、自分用の砥石も探しました。今回選んだのは以下の物です。

 

本戸前 色物のレーザー型

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試し研ぎ用にしている青紙一号に極軟鋼地金ですが、丸尾山の本戸前としては結構、光り気味に仕上がりました。単体で研ぎ感が似ていると感じたのは御廟山の戸前色物(黄色主体)です。

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少し前に手に入れた別の本戸前の色物ではもう少し曇りがちだったと思います。研ぎ感としては三色に近い此方が好みなんですが。

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実は合砥の中で最も研ぎ感が好きなのは本戸前なので、以前はそれだけで複数持っていました。しかし仕上がりの差別化や切れの性格(料理用として)から、千枚系にシフトした経緯があります。

本戸前色物の中でも特に朱・紺・褐色の三色タイプ(朱が多目)が好みで、その他に八枚風、梨地混じり(少な目)と続きます。三色は適度に泥が出て研ぎ易く研磨力もあるタイプ(曇り気味)。八枚風は泥少な目で下ろすよりも磨くタイプ(やや光り気味)で、それ故に刃も石も減りが少ない。

上記二つに比べて個体差が大きいと思われる梨地は、其れが多いと精細な研ぎに邪魔をする場合も在る様です。また、ある程度硬くないと泥による張り付きや平面維持の低下になり、中々これはと思う物が少ない印象でしたが、以前偶々おまけで頂いた小さなコッパ(少し梨地入り)は、使いやすく良い仕上がりでした。尤も、初期は泥が出過ぎの柔らかいだけの印象だった物が鉄分を吸って硬くなってからでしたが。それに従い、刃物にも因りますが、仕上がりは過去手に入れた本戸前としては一、二を争うほど光り気味になりました。(それが以下の砥石です)

 

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今回手に入れた砥石は、初期から適度な硬さで面の崩れや研ぎ減りも少ない。そして粒子の細かさ仕上がりの綺麗さで、手持ちは勿論、これまで砥取家で試した分を含めて丸尾山産本戸前のトップレベルかと思われます。

初めは手持ちの予備、或いは普段使いやバラエティとして求めたのでこの結果には少し驚いていますが、ラッキーだったと思います。しかしこうなると、やはり本戸前は諦め切れず、レーザー型でも良いので好みのシリーズを再構築するべく、見て行きたいと云う誘惑に駆られつつあり危険な兆候ですね。

 

 

 

※  因みに 本文中に言及した御廟山の戸前色物は、以下の砥石です。厚みはあれどレーザー型としては、やや狭い砥面。只、元々取り回しや平面管理のし易さから80型やレーザー型は実用的だと捉え、重宝してきました。その基準で考えればメリットの方が勝るかも知れません。

御廟山としてはやや軟らかい為、刃金は完全には鏡面にならず、地金も同様です。しかしそれだけに、気難しさも控えめで、其処も気に入っています(手持ち御廟山の難易度別で三段階の初級)。

 

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