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研ぎの重要性を御理解頂き 2

 

前回の依頼主は魚を捌く仕事をしている御身内がいらっしゃるとかで、多少、包丁には素養がある方でしたが、もうお一方はこれまで余り頓着せず、新品がベストの状態であると信じて買い足し(実は買い換え)て来たそうです。つまり、「研ぎ?何処でやってるの?自力では厄介だし、やっぱり買い替えでしょ。新品が一番」と、まあ一般的に広まっている認識だった様です。

所が、私と知り合い、切れる条件とそれが備わっている新品が如何に希少か、実物を見て説明を聞き、試しにと一本研ぎを依頼されてからは実地に使って御納得頂けました(キャベツがレタスみたいに切れたとの事)。元々、興味が出ると追求するタイプらしく、手持ちの包丁銘を検索したり刃物について情報を集め出す程。しかも刺身を自分で柵から切り分ける事も多いとかで、遂には中屋平治作イカ裂きの御購入に至りました。かなり上級の食いしん坊だと拝察されます。

 

今回お預かりしたのは、その時入れ違いに受け取った牛刀の類です。過去に買ったものの、現在休眠中となっていた三本です。

研ぎ前

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何やら研削部分以外がコーティングされている、これまた余り見かけない包丁です。

 

 

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此方は割合出回っていそうなヘンケルの1バージョンですね。

 

 

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左側面に有名フレンチシェフの名前がありましたので、コラボモデルというか

 

 

研ぎ後

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表裏ではっきりと研ぎ分けてあったので、それを更に強調する方向で仕上げました。通常の牛刀は沢山お持ちなので、特徴を出すべく見た目から菜切りっぽくするつもりでした。しかし案外硬度が低く、ベタ研ぎでは今一。そこで右はベタに近いハマグリ刃(巣板仕上げ)に大谷山で刃先を撫でて置き、左は素直に角度を変えずに巣板仕上げ。

 

 

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ヘンケルは通常の仕様でお決まりのコース。黒蓮華からの大谷山です。

 

 

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こちらもほぼ同様ですが、刃体の厚みの割りに刃幅が狭いので、切れの軽さを出す目的で通常以上に幅広のハマグリに仕上げました。割合、組織が細かく硬めな鋼材だったので、小さなストロークでも確実に切り込んでくれ、細かい作業では上々の使い勝手を見せてくれるでしょう。

 

今回、二度に亘って依頼頂いた包丁達、それに購入頂いたイカ裂きがあれば、今までとは比べ物にならない料理の仕上がり・作業負担の軽減が期待できると思います。休眠中だった包丁も含めて、存分に活躍させて頂ければと思います。

 

 

 

研ぎの重要性を御理解頂き

 

少し前に大同特殊鋼仕様と思われる正広牛刀を依頼された方から、今度は和包丁をと御持ち頂きました。もう一方の古い牛刀の持ち主からも牛刀×2、ペティ×1を続いて頼むとの事でした。では順に和包丁から。

これは私の母も五寸五分サイズで(ほぼ同寸の東型薄刃と出刃の三本セット)所持している物の少し大きいサイズ、関孫六の柳六寸五分(自分は刃渡りの実寸で料金計算していますが、マチから切っ先で計れば七寸と云う事になるのでしょう)です。伊吹と銘がありますが、人名を入れたのでなければこれがモデル名なのでしょうか。だとしたら、余り聞かないような気がするので古い物なのかも知れません。

 

研ぎ前 全体

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研ぎ前 刃部

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研ぎ前 刃先拡大画像

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元の状態は、酷くは無いものの全体がまずまず錆びており、それでも手入れしようとしたのか擦り傷も同じくらい全体に付いています。そして小さな欠けが数箇所と大きな欠けがありました。裏梳きが余り無いのは研ぎ減りというよりは元々の仕様の可能性も。

 

 

 

研ぎ後 全体

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研ぎ後 刃部

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研ぎ後 刃先拡大画像

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先ずは平と裏の錆を耐水ぺーパーで落としますが、平の平面が崩れ、鎬がかなり丸くなっていたので通常よりやや粗い番手から2000番前後まで。後はラッピングフィルムを一つ二つ上まで掛けて、研磨剤を三段階で終えました。このレベル(顔がぼんやり映る程度)になれば水を弾き、通常使用で速く深く錆が進行する事は稀です。

研ぎは表にGC240番(通常・小割り)、キングハイパー、白巣板(通常・小割り)。裏にはキングハイパー、白巣板、鏡面青砥です。但し、切り刃(地金部分に数箇所、鋼の後ろ部分にも二箇所、製造段階での削り過ぎがあったので、最低限満足できる形状まで研ぎ落としました。

この際、地金の質に応じて小割りした巣板系が活躍するのですが、今回は普通・蓮華・黒蓮華でも今一でしたので、一番適応範囲の広いナマズで何とか仕上げました。刃金・地金の硬さや粘りで相性が変わりますが、形状の不均等ではナマズに軍配が上がりますね。これは小割りだけでなく通常品でもそうだと思います。

後は、一番大きな欠けを取りながら刃線・角度を揃えていき、全体が纏まった所で終了としました。欠けは三割ほど残りますが、刃先を減らすと少ない裏梳きが問題になり、全体も余分に小さくなります。そもそも柳ですから、欠けが呼び水となって新たな欠けが発生する事も考え難いです。研ぎでは、やや強めにハマグリにしましたし、俎板も木製使用を視野に入れて頂いている様子にて、より長持ちしてくれる事でしょう。

 

 

復帰の和包丁

 

久し振りに和包丁を複数、まとめての御依頼を頂きました。

三年間、飲食業から離れていたけれど、この度、再開されるとの事です。内装などが工事中なれば研ぐスペースの確保もままならず、これまで御自身で面倒を見てきた包丁達を任せて頂けた様です。

到着したのは五本でしたが今回は相談の上、柳(尺)、出刃・大(六寸五分)と出刃・小(四寸五分)の三本を研ぐことに。(寸法は刃渡りに対する私の実測)

 

研ぎ前 柳

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柳 刃部

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刃先拡大

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研ぎ前 出刃(大)

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出刃(大) 刃部

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刃先拡大

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研ぎ前 出刃(小)

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出刃(小) 刃部

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刃先拡大

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柳は、ほぼベタに近い研ぎが成されており、厚みが邪魔になる物ではありませんでした。しかし、刃元に近づく程に切り刃が広くなる傾向。そしてベタ気味ゆえに、刃先の負担が大きく見受けられ、それは相対的に切り刃の幅が狭い切っ先側でも同様でした。

そこで、刃渡り中央より手前の出過ぎている刃先を欠け取りを兼ねて研ぎ落とし、逆に切っ先に向かってはテーパー状に厚みを取りながら鎬をやや上げました。刃先は鋼部分、最先端までの半分はハマグリに。勿論、その角度も刃元から切っ先にかけて徐々に鋭角に。

 

研ぎ後 柳

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柳 刃部

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刃先拡大

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出刃は、大小どちらも似た傾向(多分初期からでしょう)が伺えます。切っ先側は厚みがかなり残る上に、刃元も角度を変えながら「R」の右半分みたいな書道でいう「はらい」的なラインで鎬筋から刃線まで形成されています。これは、以前から自分が使い手としても研ぎ手としても苦手な仕様でした。ですので、お任せで研ぎ依頼されていた事もあって、双方軽減していく方向で仕上げました。

又、柳より相当以上にタナゴッ腹でしたので、これも欠け取り兼用の研ぎ落としで刃線の丸みをやや減らしました。其の上で、刃先のハマグリ度合いは2~3倍ほど強めに仕上げました。

 

研ぎ後 出刃(大)

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出刃(大) 刃部

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刃先拡大

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研ぎ後 出刃(小)

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出刃(小) 刃部

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刃先拡大

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以上の研ぎに使用した砥石は、表はGC240番(通常品+小割り)・キングハイパー・白巣板(コッパ+小割り)。裏はキングハイパー・白巣板・敷き内曇り・合いさ・鏡面青砥です。

 

 

 

 

さて、今回お送り頂いた包丁達ですが、漏れた包丁が気になりました。同じチームで働いて来た他の三本は研ぎ直されたのに、研ぎ屋に来ていながら、この二本をそのまま帰らせるのは気が引けると言いますか。他にも、持ち主が御自身で研ぎ直すにしても手間が省ける方が楽であろうし、ましてや買い換えられてお蔵入りになっては可哀想と・・・。

ですので、取り敢えず使用に差し支えない程度に整えておこうかと思いました。六寸鎌型薄刃は鎬筋と刃線の蛇行・刃毀れ少々が問題でしたので、欠けを取りつつ蛇行を鎬筋は三分の一、刃線は二分の一に、それぞれ修正しました。まあその分、刃先までベタでツライチとは行きませんが、飽くまで対症療法です。しかし効果としては、フラットな俎板によりフィットし易く、切れも、刃先が引っ掛かる事無く使えると思います。

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もう一方の八寸柳は、切り刃も安定しており、欠けも微細なレベルでしたので、刃先を裏表ともに白巣板で整え、切り刃も小割りした巣板で均しておくに留めました。唯一、切っ先側の2cm程が鶴首っぽくなって居た為、他の刃先部分よりもコンマ何ミリですが多目に研ぎ落としました。

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最後の二本は、自分が標榜する仕様に仕上がっている訳では無いので、この作業に対しては値段を付けられません。~円相当のサービス・・・的な表現は不可ですね。若干余計な御世話かとも思いましたが、再び店を構えられる依頼主へのお祝いと、これから先、向き合って行かれる仕事への応援と捉えて頂ければ一向に差し支えありません。

K様、この度は御依頼有り難う御座いました。出来れば包丁達は今後も欠ける事無く一緒に活躍させてやって頂けましたら有り難く存じます。心より、お店の成功をお祈りしております。

 

 

前々回に引き続き

 

前々回の記事で記載しました古い正広牛刀の持ち主、K様のお知り合いであるY様より、「それに匹敵する位に古い包丁ですが。」と研ぎの御依頼を頂きました。

下の画像がそれですが、購入は二十年ほど前になるとの事でした。状態としては、あまり研ぎ直し等されていない様子でしたが、刃先の歪みや無数のごく小さな欠けがそれなりの年月を感じさせるものの、磨耗自体は案外少なく感じました。

これは、包丁自体の鋼材の仕上がりとして、硬さ・粘りのバランスが割り合い優れて居た事と、これを含めて複数本で運用して来た為、負担が分散したのだと思われます。

 

 

 

研ぎ前 刃体の画像

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研ぎ前 刃先の画像

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研ぎ前 刃先拡大画像

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何時もの様に、汚れ・研磨痕を耐水ペーパーと研磨剤で軽く落とし、GC240番の荒砥からシャプトンの1000番、2000番に繋ぎ、前回購入の白巣板で大まかに傷消しと角度調整をします。あとはステンレスの定番コースの黒蓮華(今回は軟らかめ)、大谷山で仕上げました。

荒砥の段階では、やや「粘りが強すぎ・粗めの返り」を感じ、せいぜい6Aレベルの鋼材かな(其の割にはやや硬め?)と思いましたが、2000番以降は組織の細かさがはっきりしてきて、8Aと同等以上の切れが得られました。これは、荒砥・中砥・仕上げ砥の各段階で、徐々に厚みや角度の変化を付けつつ研ぎ進めている効果を、工程が進む度に新聞紙の束を切り分けてテストする事で確認できます。

 

 

 

研ぎ後 刃体画像

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研ぎ後 刃先画像

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研ぎ後 刃先拡大画像

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今回のY様は、ほぼ同ジャンルながら他にも仕様の違う包丁をお持ちなので、それぞれ刃の硬さや厚み等に応じて、作業内容を割り振りすべきというアドバイスに御納得頂けました。例えば今回の包丁は、軟らかい物を綺麗に切り分ける専用にする。そして硬い物・半冷凍の物・野菜の根(場合によっては土付きかも)のように刃の負担になる対象には、刃が厚め(頑丈)・焼きが甘め(欠けず捲れて研ぎ直し易い)な包丁を用いるといった具合です。

今後は、上記の内容を念頭に御使用頂ければ研ぎ直しのサイクルも長く設定でき、快適な環境で調理作業に取り組めると思います。Y様、この度は有り難う御座いました。

 

 

 

 

新しい道具

 

22日の日曜に、亀岡に行って来ました。大方の目的はやはり砥石探しだったのですが、お待たせしている方には申し訳ない結果で、ご希望に副う物は採掘に時間が掛かりそうです。

代わりに、自分用の物として変形の原石ですが、まずまず厚みのある蓮華混じりの巣板を見つけました。長さで16センチ、厚さ6センチのサイズがあり、面直しの際に自分は電着ダイヤを下に敷いて砥石を動かす為、やや負担になってくる重さです。勿論、刃物研ぎの最中に上下の向き変えでも少し気を使います(泥が付いていると良く滑ります)。

しかし、かなりの砥粒の細かさ・その割りに目の立った感触・中庸な硬さの砥面を評価して購入しました。硬さと目の立ち方から、圧力とスピードを加減しなければ傷が入りやすい可能性も考えましたが、其の分研磨力が有れば中継ぎとして良いし、鉄分を吸って硬さが増せば改善されるのは経験上分かっていたので問題にはしませんでした。

 

砥面

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尖った方の側面  巣が平行に

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広い方の側面   巣が見え難く

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砥面の蓮華が多い部分

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裏側

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裏の蓮華の多い部分

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この砥石も、加工場に在った物をそのまま持って来たので上下の面は平面ではありません。特に底面は、面付け機で巣の層を粗方落とした上部と違って切り出したままです。そこで上は巣の名残を落とす為・底は座りを良くする為、何時もの様に電着ダイヤで削り落としました(直線では無い部分の面取りは、ダイヤシャープナーを使用です)。

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右半分の巣が無くなった辺りで試し研ぎをした所、まだ巣の影響があるのか砥粒の目が立っている所為か、刃金・地金ともに傷が消しきれない印象。しかし其の分、前段階の傷は速く消えるとも言えそう。

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次の日、更に砥面を均しつつ包丁でも試してみると、硬めの刃金では結構光り気味に仕上がる物もあり。前日の切り出しで再び試せば、確かに地金では変化が薄いものの刃金は最終仕上げでも良いかと思える仕上がりでした。巣の影響の多寡だけなら地金の変化(研ぎ目の細かさの向上)ももっと大きい筈で、これは初期の予想通りの展開だと思われます。

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念の為にマイクロスコープで確認しても問題ない様でした

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もう一つ、以前から興味のあった道具を試す事が出来ました。パールクレンザーがそれで、月山さんから使っていて性能が良いと何度か話に出ていましたが、大容量且つ結構な値段と言うことで、其の内に買う事もあるだろうと保留にしていました(そう勧める本人はユニークな入手方法で調達できているそうで良いなと思いつつ)。

それが帰宅したらポストに入っていたレターパックから出てきました。かずかずけん様から御裾分けのようで、早速有り難く使わせて頂きました。鋼のペティに付いた変色レベルの錆に対して試しましたが、かなり確り落とす割りに傷が付いたり無闇に光らせる訳でもなく、扱い易いものでした。

ペティは巣板・千枚(やや粗い)・大谷山(軟らかい)の其々、小割りした砥石で側面も磨いている仕様なので、これまでの通常のクレンザーは言うまでも無く傷が入るし、クリームクレンザー(各種研磨剤含む)でも表面の質感・光り方が変わります。其れが出ないのは、パールクレンザーの成分が珪酸系鉱物(天然)、あとは活性剤(陰イオン系)との表示があるのでその組成(研磨剤としては天然素材のみ)に因る物でしょう。ある意味、これも一つの天然仕上げの範疇に入るのかも?と思うと楽しい気分になりますが、実際にこれで処理した刃物で食材の味に変化があるのか試してみるのも興味があります。

かずかずけん様、この度は有り難う御座いました。ただ、余り気に入ってしまうと、自分もゆくゆくは大容量を大人買いする事になるのかと不安も残ります・・・。

 

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正広の古い牛刀

 

知人の主婦から、家に在った古い包丁が出てきたので研いで欲しいと依頼を頂きました。

渡された包丁は、やや旧型と思われる正広の牛刀で、刃の磨耗や欠け・ある程度の錆等は想定内でしたが、過去の研ぎによって顎の削りすぎ・切っ先の研ぎ残し・中央部のタナゴッ腹+切っ先側三分の一が直線気味となっていました。

 

左側面

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刃部のアップ

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右側面

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刃部のアップ

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刃先拡大画像

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先ずは、GC240番で欠け取り・刃線の修正。次に何故かキングの1000番。普段ならステンレスはシャプトンで行くのですが、現物がかなり片刃仕様だったのでつい無意識に。

この段階で刃の通り(対象に直圧で切り込む)と抜け(スライドさせての抵抗)をテスト。OKだったので側面の傷・研ぎ目・汚れ・錆を軽く耐水ペーパーと研磨剤で落とします。

ここからは天然です。「白巣板・黒蓮華」の柔らかめと硬め

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敷き内曇り

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合いさ八枚風(最新型)

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田村山・戸前

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大谷山

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最後の二種には、田村山の切れ端の柔らかく細かい方を共名倉に

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研ぎ上がり

左側面

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刃部のアップ

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右側面

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刃部のアップ

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刃先拡大画像

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正広は、数年前に自分でも身内用に道具屋筋でオール金属モデルを買った事があります。それにはモリブデンバナジウムと表示があったと思いますが、今回のはダイドーステンレスとの刻印があるので、大同特殊鋼製の鋼材なのでしょう。研いだり切ったりした感覚から、ナイフ用(一部包丁にも使用)鋼材で例えれば、前者はやや柔らかい440Cで後者はそれより少しだけ硬い8Aといった所です。僅かな差ですが、「滑らかな細かさ」と「カリッとした掛かり」で性格が違う様です。

研ぎ上げた牛刀は特に使う予定や目的が在る訳では無く、使うとしても専ら母上だそうです。しかし、これは仕舞っておくには勿体無い性能(最近のスーパー・ホームセンターの中級品には遅れを取らない)。且つ肉・魚用に向く片刃仕様というキャラが立った包丁なので、ハムや塊肉のスライス(牛腿肉のタタキとかローストビーフ的な物)・柵から刺身を引くといった活躍の場を設けて頂けたらと思います。現在、普段使いの包丁が、左右均等の刃付けによる三徳や牛刀で、特に切れ味が良い訳では無い場合、上記の使い道でこの包丁は別物の働きをしてくれるでしょう。更にステンレス同士の比較であれば、軽く磨いた側面と天然砥石で仕上げた刃先による、味の向上にも貢献が見込める為、包丁・使い手の双方が今回、出てきて良かったと感じて貰えるのではと思います。是非家庭内で、特徴を活かしたジャンルで活躍する専用包丁としての道を歩んで欲しいです。

 

 

 

京都でのイベント参加

 

去る二月一日は、京都の歌舞練場で行われたイベント、「和食道」に砥取家の土橋さん他、四名で参加してきました。

その一週間前に亀岡に行ったのは、本焼き用の砥石選別の他、この打ち合わせも兼ねての事でした。実は昨日、当日参加出来なかった月山さんが電話で様子を気にしていたので、これは業務連絡と報告の様な記事です(念の為に部分的に撮っていた画像が少しあるだけです)。

 

京都には昔からそこそこ行っていましたが、雪が積もっている状態は初めてだったかも知れません。ほぼ車中からの眺めだったとは言え、東寺の横を通る時には、塔の上にも綺麗に降り積もり、雪化粧と言うに相応しい光景でした。撮影しなかったのが悔やまれます。

下画像は、歌舞練場内に割り当てられた一角の背後、幕裏から見た庭です。

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ブースとしては、長さ1.8メートルのテーブルの横に、研ぎ台が二つ。テーブルには本・砥石・DVDを流すモニターです。

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研ぎ体験の他に、研ぎ上げた包丁でトマトと胡瓜を切って貰ったり、鋼とステンレスの鋼材の違いによる味の違いを体験して貰いました。

下画像は、元は刃体形状の研究に於いて、廉価な包丁の初期状態のサンプルとして購入した包丁ですが、今回、ステンレス製ヘンケルの洋三徳と対比させるべく鋼の和三徳として使用しました。

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ヘンケルは人造砥石、キングの8000番仕上げです。

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一枚目の画像で分かる方も多いと思いますが、切り刃が三段になっています。最初は極端ながら単純な三段構成かと見ていましたが、峰から刃先までツライチの研削に、鎬筋らしき物を作る為に切り刃中央から峰側1cm程がホローグラインド状になっています。そして仕上げにサンドブラストになっていました。

流石にその凹みを均す研ぎをすると2cm近く研ぎ下ろさねばならないので適当な所で切り上げました。他には、切っ先側三分の一の刃体がプロペラ状に捩れていた為、真っ先に刃線が整う程度には木槌にて修正。あれやこれやで、前々日に六時間掛かって許容範囲に納めたのが下の画像です(切り刃・刃先共に最終は白巣板仕上げ)。

形状的には色々難点が多い包丁でしたが、元から先へ厚みがテーパー状に抜けている事と並んで鋼の仕上がりについては、意外にと言うべきかそれだけにと言うべきか、かなり良かったです。少なくとも2~3倍の値段の包丁と遜色無い硬さ・粘り・切れを見せてくれました(偶々当たりだったのかも知れませんが)。

 

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平と鎬がはっきり構成されず、購入後に自分で研ぎ込む事で形成した包丁は、過去にもありました。これがその刃渡り三寸程の剥き物包丁です。しかし之はフラットな研削だったので、今回の物には驚きました。

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値段的に釣り合うであろう和・洋の三徳で味の違いを試して貰った結果ですが、やはり殆どの人が「鋼の方が味が濃い」或いは「甘みが強い」との感想でした。自分では、他に香りが強く長く感じるのですが、其処のところに言及する人は少ない印象を受けました。

もう一つ気になったのは、試し研ぎや研ぎの指導を求める層に於ける電動シャープナーの普及率です。完全に予想以上でしたが、まあ、こういった事に興味を持たれる人を対象にしたから当然かもしれません。そして或いは、それらが京セラ製だとすれば京都ならではなのかな、とも思いました。但し、殆どの方が使用している内に満足し切れなくなっている様子で、なればこその御来場。特に、あるカップルの男性側が、このイベントの目玉として我々のブースを楽しみにして下さっていたとの由、誠に有り難く感じました。

他に、今回行なった説明やデモンストレーションについては、こういった内容を講習・学校的な存在の下で習える機会が欲しいとの感想もありました。当日は僅かながらもそんな要望に副うことが出来たとすれば、大きなイベントに参加した1グループという立ち位置ではありましたが、やる意味は大きかったと思います。

 

 

 

おまけは、帰宅後に、気になっていた手持ちの包丁の手入れです。千枚による均し研ぎで本焼き柳の斑を消しました。ほぼ半鏡面になりましたが、その前段階で使用した砥石は、「丸尾山の白巣板」、「八ノ尾の八枚・巣板際大上」、「相岩谷の戸前・並砥」と思われる物、「菖蒲の合いさ」と思われる物で相性を探りつつ仕上げて行きました。

あと、ついでに久し振りに初期の司作三徳。最近の物とは刃金・地金の感触がやはり違っていて、改めて個性に合わせた扱いの必要性・面白さを感じました。こんな感覚も、一般の方の中に分かって貰える層が増えれば包丁を大事にしてくれる家庭も増えると思うのですが。

 

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本焼き用の砥石の選別

 

今回は、かずかずけん様より本焼きの刃紋が出易い砥石を、との依頼もあり、亀岡に行ってきました。

刃紋の程は、現物の包丁を当ててみない事には確実には分かりませんが、自分の経験でその傾向が強いと思われるコッパを選んでみました。

 

 

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上の白巣板二種ですが、どちらも「巣無し」の質との事で、特に下は以前のコッパ(下画像)と同系統で、更に研ぎ易い硬さ・泥の出方をするものです。勿論、最新の白の例に漏れず、鋼を良く下ろしてくれます。

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此方は「敷き内曇り」ですが、かなり卵色巣板寄りの蓮華混じりです。卵の蓮華はやや硬めが多いと思いますが、中庸な硬さで砥粒の質的にも研磨力があるタイプと見ました。

 

 

 

次の二種は、土橋さん的には白巣板の巣無しの質との事ですが、自分の見立てではほぼ、敷き内曇り。しかも、一年程前に合いさや戸前に隣接して採掘された敷き内に近いと思います。当時は、やや硬めであり、かなり鋼を下ろす代わりに粗い砥粒混じりなのか、傷が入り易く感じました。それに比べて今回は研ぎ易さ・仕上がり共に向上しています。

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この二つは、これも以前の下画像のコッパに特徴が似て居ます。ですので、やはり鋼を良く下ろすのは一緒ですが、仕上がりは完全に曇り傾向です。

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以下は、手持ちの本焼きを試した結果です。この包丁では、最初の二種(画像二番目の砥石)よりも相性が良かった最後の二種の内、やや柔らかい方(画像四番目の砥石)で仕上げました。

 

先ずは最初の状態(手持ちの白巣板蓮華仕上げ)

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次に今回の仕上がり

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元々の状態がまずまず刃紋が出ている所からのスタートで、且つ近い仕上がりだった事により、違いがはっきりしていないと思われるかも知れません。しかし、厳密に比べれば後者の方が僅かにくっきりしています。

今回は、刃紋云々よりも全鋼包丁たる本焼きを、より研ぎ易い砥石の方に軸足を置いた選別になっています。と言うのも先に触れた様に結局は現物と現物の相性や研ぎ方次第になるからです。とすれば、刃紋を研ぎ出す手前までの研磨力と傷が消える仕上がり(勿論切れも)を両立した性能が有ってこそ、になるでしょう。それを疎かにしては刃紋どころでは無い筈です。

そう言う訳で、全体としては細かさは申し分無い割りに、硬さと研磨力が目立つ取り合わせです。お陰で合わせの包丁などでは(平面の刃物と比べて)地金に傷が入り易かったり、刃金でも注意しないと刃先に返りが出過ぎたりします。本焼きの切り刃でさえ包丁・砥石共に平面同士でないと研ぎ斑が出る程です(もしそれを完全に消すなら、柔らかい砥石やそれを小割りした物で均す必要も)。この上、更に刃紋を引き立てるには、根気良く様々な砥石や研磨剤で試し、又天然砥石の粉末の配合も調整し、適合するまで長い挑戦・・・・となるでしょう。

 

後はこれらを、かずかずけん様に試し研ぎの上、御判断頂ければと思います。

 

 

 

二種類のハマグリ刃(前回の記事に関連して) 

 

前回の記事に記載させて頂いた本焼き柳について、後日、使用感を連絡下さいました。「刺身包丁でのハマグリは初めてながら、非常に切れ・離れが良い」との事で、安心しました。しかし其れにも増して、「今後の使用が益々の楽しみ」とのコメントを有り難く思いました。

持ち主の役に立ち、使用時の負担が軽減される事が研ぎの第一義ですがその上、使うのを楽しみに感じて貰えるなら、ほぼ間違い無く今後長きに亘りこの包丁が大事にされると考えるからです(これは、頻繁に道具を使う人、特に使うのが好きな人には通じる気持ちでは無いでしょうか)。

私は、包丁と其れを作った人、そして使う人の三者(?)に対して、どうしても均等に意識してしまいます。作り手の感性による形状や意図した構造。使い手の好みや使用状況に要請される形状や構造。その間で、どちらに寄り添う事も可能ではあるが、一朝、姿を変えるには身を削られるしか方法の無い包丁。それ故、作り手・使い手の意思や個性を温存・反映させつつ、生まれた時点の基本構造は変えない研ぎが望ましいのではないか(必要欠くべからざる大改造や、傷んでの再生は止むを得ず)。少なくとも、変更を加えるならば微調整の範囲に留めるべきではないかと思います。そして、その変更は使い手によって綿密に計算されたもので、且つ研ぎ手(使い手でも専門家でも)によって確実に性能向上がなされるのが理想でしょう。減った部分は帰って来ないからです。

自分の研ぎは、余り極端に調整幅を取りませんが、それは上記の様な理由からです。基本的には、切り刃をほぼベタに近い極緩いハマグリ刃。刃先近辺はアールをきつくして行きます(鈍角)。そして糸引きや段刃は無し。なぜなら、「きついアール」の開始位置やきつさを変更する事で事足りるからです。これが今回の題名の二種類の内の一つ、「耐久力重視」の方です。そして、刃物としての刃の通りは一定以下の切り刃の厚み(鋭角)で出している物です。

対して、「切れ味重視」のもう一方は、先ず最も鋭角な部分は刃先になります。そこから、切り刃を鎬筋方向にアールに研ぎ落として行きます。極端に言えば、頂点は鋭角ながら少しふっくらした涙滴型です。鋭い頂点で切り込んだ後は明確な、なで肩の切り刃構造により抵抗少なく切り進む・切り抜ける事が出来ます。但しこのままでは薄すぎる刃先のダメージが予想されるので糸引きが必要となるでしょう(ここで抵抗になる新たな段差(段刃)を増やしては本末転倒)。

しかし切れ味重視で、何なら鎬筋の角まで丸めた刃体は、確かに切り抜けや離れは最高かも知れませんが、包丁を操作する上で、直線に切り込んだり食材の切断面を平面に仕上げることが困難・或いは経験・技術が要求されます。それ故、特に薄刃包丁などはベタ研ぎ(+糸引き位?)以外は敬遠され易いのではないでしょうか。以上を鑑み、包丁初期の状態次第でもありますが、自分の研ぎでは通常、限界までの鋭利さ重視の刃先+極限の抵抗軽減の涙滴型ハマグリは採用していません。何と言っても、食材を切った先には俎板が待っています。余程、経験・技術が無いと包丁の刃先を傷めず軽い接触で切り続けるのは難しいでしょう。木工用刃物と同等の刃先強度が有って欲しい位です。

そう云う訳で、対応範囲の広さや切れと長切れの両立・維持管理のし易さ等の点から現在、標準としている仕様を設定しています。長切れも考慮してはおりますが、切れに不足はまず感じられないと思われます。勿論、お好みに合わない・目的に特化した研ぎを御希望の場合などは、(包丁の資質的に可能であれば)それに副うように調整したいと思います。

 

 

ご依頼頂いた本焼き柳刃

 

四国から、九寸・白紙三号の本焼き柳の研ぎ依頼を頂きました。形を整えるのを御希望との事でした。

 

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到着した時点では、ベタ研ぎに段刃(小さめ)となっており、小さな刃毀れは在るものの、ベタ故の鋭さで束ねた新聞にも良く切れ込みました。しかし刃先の薄さとやや甘めの焼き加減により、中央から先寄りに少し捲れが出ました。

形状としては、刃元がやや厚みを削られ過ぎ+顎の上に浅い溝。中央から元寄りに、初期刃付けの動力研削痕。中央から先寄りに鎬筋のブレ(下書きと実際の研削の齟齬)がありました。

本来、刃元から切っ先にかけては厚みや刃先角度が減少して行くべき所ですが、一度削られた厚みは増やせないので、刃元は(隣接する中央の厚みや角度を考慮の上)、切り刃の真ん中で鈍角に面を再構成。中央部はほぼ初期通りの状態、そして切っ先寄りは余り厚み自体が抜けていないので縦方向にも極緩いハマグリを意識しつつ厚みを減らす研ぎ。(この段階で可能な限り傷を消し、段差も均しておきます)。

そこからほぼベタの、極緩いハマグリに切り刃を整え、刃先の3~4ミリはきっちりしたハマグリにして行きます。前述のように当然、位置によって角度は変えてあり、刃元は最終刃先角が50度、中央は40度、切っ先は30度と徐々に減少させています。

この仕様により、切れ・走り・抜け共に改善され、先の試し切りでも捲れが出なくなりました。因みに、使用砥石はキングデラックス1000番、シャプトン2000番、白巣板蓮華、白巣板(最新型)です。千枚も試しましたが、白巣板の最新の方が切れ・仕上がり共に相性が良く、そのまま最終仕上げとしました。裏押しは、人造・巣板・合いさと進み、最後は一番、和包丁に多用している鏡面青砥で問題なく仕上がってくれました。

平については、特に指定が無かった為、付いていた磨き斑を取る程度としました。(刃紋が切り刃に出ている物と違って平に出ている物でしたので、切り刃を砥石で研ぐ際に特に変わった事はしませんでしたが、)平の磨きの終わりの方で人工の研磨剤に天然砥石の粉末を混合した物で磨きました。その分、研磨剤のみよりは少し、テンパーラインの艶の違いが出たかと思います。

 

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お送りした所、先ずは仕上がりに大変満足頂けたとの事です。出来れば、その後で使ってみても悪くない、と思って頂ければ何よりですが。御自身でも巣板・戸前の系統で研がれているので、今回の仕様の内容と今後、お持ちの砥石で維持管理する場合のポイントをメールで御説明しました。

この包丁が使い勝手が良く、手入れも遣り甲斐を持って臨んで頂ける様であれば、持ち主の役にも立ち、また包丁の為にも成るので、そう在ってくれればと思います。O様、この度は有り難う御座いました。