北海道のT様から、二本の和包丁を送って頂きました。下掲の柳と河豚引きですが、先ずは重延と銘の有る柳の方から。
柳は下画像の上側、合わせの方ですね。下側の河豚引きは、本焼きです。
研ぎ前の状態、全体画像です。余り研ぎべりしては居ませんが、問題点としては刃先の一部の欠けに加え、切っ先カーブ周辺の刃線が多角形っぽく角の有るライン・鎬筋が中央付近から急に反り上がって切っ先へ向かっている・切っ先側の四割くらいの切り刃がホロー気味、と成って居ました。
試し切りをしてみれば、薄目の刃体・幅は狭いが鋭角ベタ研ぎ+中央付近から急激に鎬が上がっている切り刃の効果で、紙の束や其れを捩った物への効果は絶大でした。所謂、写真で言う所の奇跡の一枚的な、対象にぴたりとハマったテスト結果でしたが、此れには刃先の耐久が付いて来られていなかった模様で、微細な欠けや捲れを誘発するバランスでは有りました。
其処で、組織の細かさ・均一さは可成りな物ながら、やや焼きが甘目の仕立てを考慮し、刃先強度を確保しつつも前述の切れ加減に迫る性能を目指しました。
同じく研ぎ前、刃部のアップ。
裏です。平と合わせて、切り刃よりも少ないですが軽い錆も有ります。今回は、オリジナルの木砥の目を活かした風合いの維持を御希望でしたので、其の儘に。
峰の磨きの御要望も有りましたが、全体的に酷い研削痕は少ない状態でした。
マチの磨きも・・・確かに初期状態は、粗削りの儘で焼かれた黒打ちの仕立てと云った印象。
人造の320番で、刃先の欠け取り・切り刃のベタ研ぎに因る厚み取りから。
研磨力・平面維持に優れる1000番で、切り刃を整えます。ただ、初期の状態から切り刃の先側の半分は、厚みが減らされ気味でしたので、欠け取りで幾分は刃先の厚みが増したとは言え、完全にベタに成る程には攻められません。
研削痕の浅い1000番・3000番で、切り刃全体の厚みと角度を切っ先に向けて僅かに鋭角化+テーパー化。鎬筋も元側・先側の中間部分の繋がりを滑らかに。
天然に移行し、対馬で形状を整えつつ研ぎ目を浅く。
丸尾山の巣板各種で、更に傷消しと切り刃の整形。
中山の巣板の後で合いさカラス、やや硬口で仕上げ研ぎ。
更なる切れを求め、より相性の良い硬口の合いさカラスで最終仕上げです。
研ぎ上がりです。
同じく、刃部のアップ。
刃先拡大画像。
裏です。欠け取りの御蔭で、図らずも糸裏と成って居ますが、出刃などと異なり柳ですから刃先の負担は小さく、問題は無いでしょう。
待ちの磨きは、綺麗な水牛を傷付けずにとの御要望でしたので、際迄は少し余裕を持ち過ぎてしまったかも知れません(笑)。
峰は、元からマズマズな状態でしたので、目立つ傷が残る事も無く普通に全体が整いました。
T様には既に、此処までで暫くの御待ちを頂いて居りますが、目前の砥石館イベントを挟みますが河豚引きの方も鋭意、研ぎ進めて行きますので、もう少しの御待ちを御願い致します。
村上様
いつもながら、完璧な仕上りに感服しております。
毎回研ぎの工程を拝見できるのは、とても有難いです。
この重延は何とか譲って頂いた貴重なもので、村上様にしかお任せしたく無いと思いました。
今回も私の判断に間違い無かったです。
引き続き宜しくお願い致します。
北海道T
T様
いつも、大切な刃物を送って頂き感謝しております。正直、自分程度の技術では御期待に完全には御応えしかねる状況が有ったり、知識や専門工具の不足から、万全に仕上がったと言えるのか、悩む部分を否定しきれ無かったりします(元来、驚く程に不器用な人間ですので)。
しかし又、基本的には(天然砥石は別条)普通に入手可能な道具立てで、成るべく所有者の方も引き続き手入れが容易な仕様に仕立てる、そんなコンセプトで行なって来た側面も有ります。従って過剰な高望みは馴染まない、と開き直って進まざるを得ないとも考えて居ます(笑)。
そんな私には勿体ないレベルである、希少価値の高いレア物・名高い過去の名品を含めた刃物に触れる機会を度々、頂ける事は有り難い限りです。今後も、余り後悔させて仕舞わない様、取り組んで行きたいと思って居ます。