今回のM様からの御依頼は、ガーバーのキッチンナイフシリーズの内から、フレンチとカルタナと言うモデルの二種です。大きい方のフレンチのハンドルには、何故か点々と傷跡?が付いて居り、歴戦を感じさせる部分です。御要望としては、所期の切れ加減を或る程度、向上させて欲しい。但し、鋭利さ重視のミソノの包丁も有るのでガーバーの方は、少々ハードに使う方向を想定していらっしゃる様で。
後、M様はハイスにクローム鍍金との御認識と御見受けしましたが、研ぎ進める内に感じた印象では、ステンレスの可能性も有るのかなと。少し調べて見たのですが、少なくともカルタナにはステンレスモデルが有るとの事で、確かに(初期状態から著変が無いと仮定すれば)カルタナのブレード形状はステンレスモデルと酷似しています。
ただ、フレンチに関してはステンレスモデルが存在するのか不明ながら、側面の厚みを抜いてみた結果、カルタナ同様あたかも三層利器材であるかのような模様が。研ぎ込んで行く工程での刃先の反応も近似であったので、悩ましい所です。まあ、ステンレスであってもハイスであってもガーバー特有の、余りにも厚いクローム鍍金ゆえに三層クラッドもかくやの模様が出たのかも知れませんが(笑)。ただ、何れの鋼材でも鍍金が施してあるのだとすると、識別の手掛かりには使えない事に成りますね。
先ずは、フレンチから。刃線上、中央付近から手前に掛けて、幾らかの損耗と錆が少々。僅かながら、刃先近傍には孔食も。
荒目の粗砥で初期の小刃に対し、小刃を研ぎ落しつつ刃体側面の峰側に向け、厚みを抜きつつ鋭角化。
細かめの粗砥で、切っ先へ向かって鋭角化に可変研ぎ。
刃体側面の幅、三分の一程度に渡って各種ペーパーを用いて、気に成る部分を重点的に厚みを抜きます。中央部から切っ先カーブに掛けてが厚みの中心で、極端に言うとUSNパイロットサバイバルナイフの風情です。ですが、全体のバランスを鑑みて極端には変えません。もしもペラペラにしてしまうと、両側面が薄くなった分の強度低下に加え、両面がフラット過ぎる断面形状になり易く、其の場合は対象の張り付き(生肉や生魚)・食い込んだ状態でのスタック(南瓜や根菜)が懸念されるからです。
仮に、押し付けるだけの切り方に限定するならば、薄い刃体と鋭角な刃角度しか頼る術は有りませんが、正確に(押すにしろ引くにしろ)スライドを伴う切り方が出来るなら、通常使用で問題が生じる事も無いでしょう。薄い刃体を求めるのなら最初から、そう云ったコンセプトの製品を選ぶのが順当だと考えます。
試し切りでの刃先周辺の切れ込み具合から、妥当と思われた時点で刃体側面全体との繋がりを均しつつ、切っ先方向へのテーパー化も交えて磨いて行きます。広い意味では、大まかに平と切り刃を作った上で、全体的な外観は大きく変えない方向に纏めます。
次に、刃先周辺の3mm前後の幅で、やや鋭角目ながら切っ先方向へ向かってハマグリ化、加えて刃先最先端1mm程は鈍角化のハマグリ化。切っ先方向へも鋭角化の研ぎを行ないます。
天然に入って、対馬砥で大まかに刃先の仕上げとしますが、上画像の工程で、残って居た刃線上の損耗を落とし切るのに予想以上に研ぎを要し、厚みのバランスが崩れました。
刃幅の半分弱を400番の砥石で、改めて切り刃状に厚みを抜き、磨き直しまで行なった為、下画像では鍛接線様の模様が現れ、小刃状の部分の幅は一段と狭く成って居ます。
敷き内曇りと、馬路の戸前で研ぎ傷を消します。
中山の合いさ中硬から、超硬口の戸前で仕上げ研ぎです。
研ぎ上がりです。
カルタナも、基本的には同様の工程を辿ります。研ぎ前の状態ですが、ブレードはフレンチ同様の厚みの残り方をして居り、左側面よりも右側がふっくらしているのも共通です。
カルタナはサイズ的に、フレンチよりも軽作業向けかつ鋭利さ重視に仕立てるべく、此の段階で400番により厚み抜きを。
中硬の合いさ・超硬口の戸前・超硬口のカラス巣板でもイマイチ相性的に万全では無かったので、硬口~超硬口の水浅葱で仕上げ研ぎ。
研ぎ上がりです。水浅葱との相性が良かったのは、組織的に細かいステンレスを想起させますが、自分的には(刃幅・厚みのバランスと刃線の状態を含む)刃体形状と、正確な角度の刃先(ハマグリ・テーパー状を含む)、更には相性の良い砥石で仕上がってくれれば文句は無いので、何れがステンレスでも特殊鋼でも一安心です。
双方、適度な硬さは有りつつも、砥石に因っては、より粘りを感じさせる場面が有りました。後者は幾分ですが砥石の選択に迷う場面も有りましたが、最終的には納得が行く切れが出せたと考えています。
M様には、途中での追加が有ったとは言え、長らくの御持ちを頂きまして有り難う御座います。マイペースで取り組めましたので体調の良い状態を維持して進める事が出来、其の分?仕上がりにも不安が少なく精神的にも助かりました。
一両日中には、改めてメールにて御知らせの予定ですが、先ずはブログ上で経過を御覧頂くのも良いかと掲載させて頂いた次第です。御笑覧を頂けましたら幸いです。