以前にも研ぎの御依頼を頂いたO様から、包丁を送って頂きました。一度目は、熱処理から来る鋼材の特性を鑑み、やはり常道どおり切れと永切れのバランスを取る為に、自分の中で(テストの結果を反映した)相場と成って居る角度変化(刃元から切っ先に掛けて最終刃先角度は片側35~40度⇒30~35度⇒20~25度)で仕上げて見たのですが。
次の御依頼では、もう幾許かの切れの上乗せをとの御要望を頂戴し、夫々の角度を5~10度ずつ鋭角化。そして今回、その二回目ぐらいの研ぎ方で、との指定で研ぎ進めました。
研ぎ前の状態。炭素鋼ですので、普通に使って居れば薄錆は出て来ますね。浅い錆なら、軽い手入れで充分に維持できます。
恐らくは包丁のコンセプトとして、硬さが売りの仕立てでは無いので(捲れは出ても欠けが少なく、研ぎ直し易い)、通常より鋭角気味の仕様では如何かと多少の心配も有ったのですが・・・適正な御使用を為されたと拝察されます。微細な欠け(と言うか捲れですね)がカーブ辺りに連続・刃元近くに単独の欠け程度で。
何れも軽症でしたので、人造砥石は幾分、研磨力の大人しいシリーズから研ぎ進めました。先ずは600番で刃先の荒れを取りつつ、小刃の本体を。
次に、1000番で研削痕を浅くしつつ、刃元~切っ先に向けた角度変化を明確に。
人造の最後は、4000番で。小刃本体の先端、最終刃先へ向かって鈍角化+最終刃先角度も切っ先へ向かって鋭角化。
天然に移行し、丸尾山の白巣板・白巣板巣無しを用いて、刃先の形状の仕上げ研ぎ。
梅ケ畑の赤ピン、中硬と硬口で最終仕上げ・・・を狙ったのですが、僅かに相性的に今一歩の感。
中山の巣板、中硬と硬口で更なる向上を試した所、上手く性能を引き出せた様です。此処で言う性能とは、切れと永切れ・掛かりの良さと滑らかな切れ加減の両立の事です。其れ等、全ての要素を網羅しようと欲張るならば、どうしても使用砥石の精選を避けられない事に成ります。
普通で良いと言う事なら、マトモな砥石で適正に研ぐだけで何とか成るのですが、折角研ぐのですから(砥石も刃物も減る訳ですし)可能な限り性能を引き出したい物ですね。
研ぎ上がりです。
O様の様に、切れに対する御自身の御好みを把握しつつ、其れに相応しい扱い方をされるのは、大変に適切な刃物の運用方法だと思います。もし仮に、刃にダメージを与える素材で出来た俎板の使用・乱暴な力加減・刃物の耐久力を超えた対象への切り付け、等を避け得ない方であれば、如何に薄い刃先の鋭角が齎す切れを望んだとて、詮無い事でしょうから。
今後も、私の能力の許す限りに措いては、刃先形状・角度の調整等の種類を問わず、御希望に沿える様に努力して行きたいと思いますので、宜しく御願い致します。