マニアックナイフ詰め合わせ(前半戦)

 

以前にも研ぎの御依頼を頂いた、兵庫県のM様から、6本のナイフを送って頂きました。カスタムナイフと言うか、手作りのマニアックな鋼材で出来た2本を含みますが、其れ以外も少し凝った造りであったり、入手面で希少性を感じそうな物。

 

 

先ずはガーバーのマスキーでしたか、一見するとフィレナイフ的なデザインですが、ブレードの厚みと刃幅のバランスから、案外と言っては何ですが・・・確り感が有り、使用時・研ぎ作業時の双方で撓り過ぎる事も無く扱い易いです。

M様の御希望としては、刺身包丁的な使用目的を想定されているそうで、7:3くらいの片刃風を提案されていました。しかし刃幅が狭い為、厚みを全体的に研ぎ落しつつも半諸(非対称両刃)にすると、汎用刃物の域を出ない(万能性が有るとも言える)恐れが有ります。其処で、左側面は8割5分~9割のベタ研ぎ(刃先側3分の1辺りから刃先まで微ハマグリ)とし、最先端は右側を研いでから仕上げ砥による返り取りレベルの糸引きで仕上げてみます。両刃の刃物を多く御持ちと御見受けしますので、違いを楽しんで頂けると良いのですが。

 

 

 

研ぎ前の状態、全体画像。切っ先カーブ近辺の厚みが気に成りますね、研削作業では付き物なんでしょうか。

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刃先は、マズマズ損耗が見られました。最も大きな欠けの部分は、最後まで痕跡は残る事に。他の部分は全体が揃いましたので、目視でも注意を要する程度の箇所を追い込むのも、如何かと思われますし。

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人造砥石の粗砥320番で研ぎ始め。右側は、普通~やや広目の小刃程度の幅で研ぎます。角度は、刃元が25度強で切っ先は25度弱ですが、刃先最先端は30度で揃えます。此れは先々、使用者御自身による研ぎ直しの際の難易度を下げる為、加えて左側面を殆どベタ研ぎにする際に、厚みを切っ先方向へテーパー状に抜くので抜けの改善は充分に見込めるとの判断です。

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左側面は大幅に砥ぎ下ろすとは言え、完全に全体の厚みを弄ると辺に撓る構造に成りそうですので、峰側の1.5~2mmは残しました。刃先側の3㎜前後で、少し角度を変えて微ハマグリに。但し、厚みをテーパー状にしたので、刃先角は一定に。

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平面維持と研磨力に優れる1000番で、更に正確な面を出して行きます。

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次いで、研ぎ目の細かい1000番と3000番で。

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天然に入り、中硬の丸尾山の白巣板黒蓮華気味。

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中山の並砥から戸前に掛けての層でしょうか、中硬~やや硬口。

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中山の合いさ、やや硬口で仕上げ研ぎ。

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研ぎ上がり、全体です。

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同じく、刃部のアップ。

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刃先拡大画像

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左側も、糸引き的な返り取りは30度で。

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刃先の砥石が当たって居る部分は、かなり確り見れば判別可能です。

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次にオピネルの2本ですが、此方はハンドル材が変更されているタイプです。№9は黒の水牛ハンドルで、№はスタッグホーンの様ですね。通常はブナ材と思われる、軽く柔らか目のハンドルと成って居ます。そして今回は、何れもステンレスモデルです。

オピネルのブレードは、刻印の有る辺りと切り刃状にグラインドされた刃部とに分かれている印象です。まあそもそもフラットな状態に打ち抜いたブレードに刻印を入れ、その後に自動研磨で刃部を削り落とすのでしょうから、刻印部分が浅くなってしまう範囲まで、研削する訳には行かないでしょう。もしも腐食や印刷での銘入れならば、作業工程の更に後、刃先の研ぎ直前で可能ですから、制限される度合いが違います。

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ブレードの、切り刃状に研削された部分の厚みは、刃元~カーブ手前までは薄く、ネイルマークの長さと殆ど同一幅の範囲は相当に厚く成って居ます(ネイルマークの無い右側面も同様)。

ネイルマークが無い右側も同じなのは不思議ですが、厚みの残存による抵抗の増大で、走りや抜けの面では不利と成って居ます。只、ブレード形状(刃線のカーブ部)的に直線部よりも切り込み的には有利なので、切る対象が薄かったり柔らかい場合、悪影響が幾分は相殺されては居ます。硬い・粘っこい・繊維質な相手では、明らかに引き切りで(真っ直ぐ押し付け切りでも)抵抗に。

粗い番手から順に、布ペーパー?主体で厚みの調整です。とは言え、直線部は薄過ぎる位の厚さなので、カーブ部分も同等以上に薄くすると、耐久性に問題が出そうです。従って、刃線がアールである事・切り刃状の部分を微ハマグリにする事により、切り込みに有利な分を差し引いて、強度を落とさない程度かつ引き切りでの抵抗が増加しない程度に抑えました。

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厚みの調整と磨きを兼ねつつ1500番辺りまで細かくして行き、天然砥石(丸尾山敷き内曇り)に移行します。

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中山の巣板、やや硬口で。

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同じく、硬口の合いさで仕上げ研ぎ。

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研ぎ上がり、№9の方です。

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同じく、№8の方です。

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上画像を撮った後で、少し研削痕が残って居る部分が気に成り、最終的にブレード側面の仕上げは軽くですがダイヤモンドペーストも使って見たり。その甲斐あって、筋状の物は目立ち難く成る効果が見られました。しかし慣れない所為か、光の気減によっては却って全体的には均一な面に見え辛い事も(笑)。

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M様には、更に残りの三本を御待ち願う事と成ってしまい、申し訳無く思って居た所ですが・・・追加でキッチンナイフらしさ溢れる、二本のガーバーをも送って頂き、有り難う御座います。

通常、洋式の包丁やナイフは和式に比べて研ぐ面積などが少ないのですが、御希望内容が幾分、和式に拠って居たりする分、手間暇が掛かりますので宜しく御願い致します。先ずは、前回に引き続き研ぎの御依頼に感謝致します。引き続き極力、御要望を満たせる内容で作業を進めて行きたいと考えて居ります。

 

 

 

 

 

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