久々に砥石館で講習

 

昨日は、久し振りに砥石館で研ぎ講習を受けて頂きました。岡山のI様ですが、年末に掛けて幾らかの期間、メールでの遣り取りを経ての初対面。文面から想像をしていた通りと言っても良い程に、物事に対して深く真面目に取り組むタイプの方でした。

料理に取り組む必要性から、研ぎと刃物に興味を持たれての結果だそうですが、追求の度合いと理想の終着点などが凄いです。私如きの取り組みにも共鳴して頂けて、御助勢の御申し出まで。実際に御会いして、もし宜しければ、共に研ぎ関連の価値や魅力を発信して行く仲間に成って頂ければとの思いを強くしました。

 

 

 

しかし、先ずは今回の講習内容です。御持参の包丁、刀鍛冶が砂鉄から作った?つまり玉鋼製の三徳(製作者談)を練習台に。刃体の刃先側、三分の一程の幅で少し歪み(ひずみ)と厚さの不均一が有りましたので、修正しつつ研ぎで合理的な厚さの変化を出します。

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中央の包丁が其れです。トマトは、上野館長から貰った物で、味の違いにも興味のあったI様の要望に応える為に炭素鋼とステンレスで切り比べました。結果は、御一緒に御出での奥方の方が如実に差を感じ取れた様子。

元々刃先の研ぎに関しては、一定以上の切れ・永切れをも結構なレベルで実現出来ていましたので、より刃体形状が整って来た事により紙の束への走りや抜けも改善しました。其処へ持って行く為の方法論や、技術的な注意点も理解を深めて頂けたかと思います。砥石館では、研ぎ上がった刃先の確認にも使える顕微鏡(パソコン画面連動品も)が有り、私と御自身での研ぎ目の均一さや小刃の面精度の違いも確認可能で便利です。

大体いつも研ぎ方の違い・刃物の性能を示すテストとしては氷を削ったり、紙の束・其れを捩った物を切って見せます。切断面のチェックや切れ味の低下具合を見て貰った所、気に成っていた点があると御質問が。髪の毛を切るのが難しいのだが、特別な研ぎ方でも有るのか?との事でした。

答えは簡単で、刃先の最終角度としては別に50度でも60度でも切れる。何なら、私の出刃は刃元角度が70度前後は有ると思うが、其れでも切れる。ただ角度が正確でさえ有れば良い。実感して貰う為に、上画像の洋三徳(ステンレス製)を人造中砥⇒巣板(中硬)で研ぎ、奥方提供の髪を切りました。切るのにも技術が要るので、I様にも容易な様にカミソリ砥クラスで更に研ぎ、髪の毛切断を初体験して貰いました。

目の前で砥ぎましたので、前言通りに(洋三徳は両刃なので)片側20度強・・・つまり両側合わせて40度強から50度近くの刃先で可能だと納得して頂けました。幾らかの驚きをもって受け止められた様子でしたが。一般に、「髪の毛を切る様な研ぎをすれば、俎板や頑丈な食材に当てれば一発で駄目に成る」と言われるようですが、氷を削ったり紙の束を切ってもガタ落ちに成らないのが汎用性の高い研ぎでしょう。

正確な角度を出せなければ薄さに逃げるしか無いのかも知れません。其の場合でも、刃先の角度が怪しいのは変わりませんが。食材に因っては、絶対的な薄さを必要とする場合が仕事の内容次第で出て来るでしょうけれど、漠然とした薄いだけの刃先に成っていたら期待に応えてくれるかは疑問ですね。私が研ぎを終えて刃物を御返送する際には、髪が切れる・最悪でも削れる程度の切れを満たさずに終えた事は有りません。まあ、短めに確り持ってですけれど。長い髪の先の方でも切れるのはレーザー等の役割なので。

 

 

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事前に用意していた、天然砥石のサンプルです。砥石館の材料を使って台付きに。奥殿の巣板(恐らく天井)と中山の戸前(緑)です。

他には問い合わせを頂いていた、手持ちの余り使っていないコッパ砥石三つを御買い上げ。試し研ぎの結果、満足頂けた様子にて安心しました。一応、初心者が扱い易い性格を優先して選びましたので。

 

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最後の小割りですが、奥殿の巣板各種(天井巣板内曇り・同じく紫カラス・本巣板茶色・本巣板白超硬)と千枚二種です。今後、小割りの砥石を販売する際には此の形態が良いかなと考えています。I様にはサンプル程度ですが上の小割りを使い、行く行くは玉鋼包丁を仕上げて頂ければと思います。此の度は遠方より有難う御座いました。

 

 

 

あと、ガーバーの御依頼を頂いて居た西宮のM様とも偶然、御会い出来て嬉しかったです。一度は見たいと思っていたヴァスコウエアスチールのガーバーフォールディングも触らせて頂き有難う御座いました。更に仕上がって行く事を願っております。

 

 

 

 

 

研ぎ目に付いて(表面処理)

 

数日前の事ですが、砥石によって砥ぎ分けた状態(砥ぎ肌)は実際の所、どう違うのか?効果の差は?其処の所を見せて欲しい。との御話しを頂きました。

実は数年前に、奈良の中小企業センターで検査をして貰うべく、日野浦さんにサンプル用の刃金(白二だったかと)+地金(極軟鋼)を鍛接・焼き入れ・焼き戻し迄した物(角棒)を作って貰いました。其れを切断し、鋼鉄面・軟鉄面の其々に付いて各種砥石で研磨した後、純粋や食塩水が噴霧された雰囲気中での腐食テストをして貰う予定でした。

結局はサンプル四つ(キングの1000・8000・巣板・カミソリ砥でしたか)を渡して、目の細かさの比較までは終えましたが、錆に付いてのテストは有耶無耶に。惜しい事でした。今回は其の時の残りの試料を思い出したので、御手製の耐食性実験風を試みたいと思います。

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当時、タングステンカーバイトの弓鋸を使って数時間。手作業で十等分にしたのが無駄にならずに良かったです。

 

 

 

ただ、其れとは別に実際の刃物の状態、つまり水はけと云うか撥水性の違いも見たいとの事でしたので、手持ちの包丁で試してみます。丁度、近く砥石館での講習を御希望の方からの持参要望も頂いている司作三徳。これの研ぎ直しも兼ねて、先ずは其方からです。

 

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初期状態は、地金が千枚仕上げ・刃金は赤ピン仕上げです。

 

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水道の蛇口の下で流水を当てましたが、特に振り払わずとも大半が流れ去ります。

切っ先カーブの辺りから切っ先にかけて、蛇行した線上に細く残っているのは鍛接線に沿っています。恐らく刃・地共に抵抗が小さいので、水分が付着し易いのは其所しか無かったのでしょう。

 

 

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次に、軽く巣板(やや粗い~中庸)で仕上げを変えてみました。刃金は直ちに巣板仕上げとまでは戻りませんが、地金の変化は顕著です。

 

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平に付着している水滴に違いは有りませんが、切り刃の部分は殆ど撥水効果が有りません。時間経過と共に、部分的には水分が移動して行きますが、広範囲で水に塗(まみ)れています。

 

 

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で、順当に行けば次はキングデラックス辺りに成る筈ですが、生憎と小割りが無い物で黒幕の1000番で。流石に研削力が有りますね。しかし、研削力と其れに相応しい?深さの傷が入るのに、可成り光り気味に成っても居ます。此れは研磨剤が削る方と光る方、双方に役割が振り分けられているのでしょう。

 

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そして光っていない1000番クラスよりも水はけが良いのかと言えば、余り変わらない様子。厳密に言えば、多少は差が有るかも知れませんが。少なくとも、上の巣板仕上げよりも水分の付着が強い印象です。(巣板よりも全面に均等に溜まり易い)

 

 

 

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工程を逆に戻って仕上げ研ぎ完了。今回は、刃金部分は先まで硬口の八枚仕上げです。

 

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錆の痕跡も益々軽減され、講習での披露に向けて更に整って来た様です。此れを含めた手持ち包丁達の外観や切れ味が、参考に成りましたら幸いです。

 

 

 

講習後は、最初の画像に有りました耐蝕テスト用試料の再研磨と御手製試験を予定しています。

 

 

 

 

 

今年、最初の研ぎ講習

 

今日はR様が自宅まで御出で下さり、研ぎ講習を受けて頂きました。ZDPの柳を御持参で、此れに満足いく切れ味を出せればとの御要望でした。

既に、何処かの牛で有名な県の講習は数度、受けられたとの事でキッチリ切り刃が整っていました。しかし其方は現在混んでいるので受講が難しいのと、天然砥石に付いて聞きたい事柄が有っての御訪問でした。目的の具体的な項目としては、刃先の微細な欠けを取り切る・より永切れを目指す、の二点と成ります。

先ずは欠けに付いてですが、実用上は大問題には成らない物の、確かに数か所に確認出来ます。顕微鏡を用いてチェックもされる方にとっては、気に成るのも無理は有りません。ただ、ZDPとは言え極端に硬く焼き入れされてはおらず、そうかと言って粘りが有り過ぎる訳でも無い、「中庸の硬さの範囲内でバランスが良い方」でした。

そこで思いついた砥石(中山並砥)を試すと、まずまずの仕上がり。研磨力と傷の消える性能の中庸の砥石から試した訳ですね。更に、より良い状態を目指して奥殿の本巣板等各種。傾向としては、奥殿の天井巣板や中山赤ピンで相性の良さを見せます。

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其の後は、刃先の角度の適正値や角度変化による効果を見て・切って確認して貰い、御自身でも白巣板やカミソリ砥で実践。砥石の選択と砥ぐ際の注意点を意識する事で、仕上がりの違いを実感された様です。

紙の束を切り、氷を削った後まで切れを保てる研ぎ方と、天然砥石による効果の上乗せに付いても説明し、その状態でも髪の毛を切れる事も体験して貰えました。

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上画像の砥石は、サンプルとして御渡しした奥殿の巣板・中山の戸前よりは並砥に近いと思われる物。既に硬目の仕上げ砥は御持ちだそうですが、参考までに使って頂ければと思います。因みに、此の二つの仕上がりも十分なレベルでした。先々、砥石追加の要を認めた場合の参考になれば幸いです。

 

 

 

 

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本日は御茶の御土産まで頂戴し、R様には感謝致します。今後も、御不明な点や疑問点などが有りましたら御気軽に問い合わせて頂ければと思います。有難う御座いました。

 

 

 

 

 

講習に向けて準備

 

明けまして、御目出とう御座います。本年も宜しく御願い致します・・・との台詞に相応しい画像も特に無いのですが、少し研究と準備をしていました。 思い返せば去年の年末年始は、高雄に泊まり込みで色々と勉強させて貰っていました。今年はゆっくりしようと思いつつも、ついつい今月上旬・中旬の講習に向けての準備と、序でに研究をしていました。

 

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余分な所をハツって落とした、鍛え落ちとでも言うべき部分ですがサンプルには成ります。右は奥殿天井巣板で、左は中山緑色の戸前です。これ等は薄いので、神戸の方へ贈った様に砥石館で台を付ける予定です。砥石館での講習の際に丁度良いでしょう。

 

 

 

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本巣板の茶色も、余分な箇所を落としましたので其れを小割りに。面を付けました。

 

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筋が邪魔な場合は、避けて割ったり削ったりします。

 

 

 

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上画像の包丁で試します。簡略にですが千枚仕上げの状態から。

 

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作ったばかりの茶色で。明るめの曇りに仕上がります。

 

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共栄で購入の硬口の白。更に明るく成ります。もう少しで光り系と言えそうです。

 

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天井巣板の内曇りです。今回の中では一番曇りましたが、或る意味当然ですね。

 

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同じ天井巣板ですが、超硬口です。千枚系統に近い仕上がりで、殆ど半鏡面です。

 

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最後に、刃金部分(特に刃先)を中硬の中山赤ピンで仕上げて置きます。砥ぎ易い上に、硬口の浅葱に近い切れと永切れを齎してくれて便利です。

 

 

 

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結構、長い直方体の状態で採掘される事が多いそうですが、此れも御多分に漏れず。切り分けて貰って持ち帰りましたが、砥石の性質と層の成り立ち(硬さと粒度の分布)を調べる為に表裏から試用しつつ、ガンガン減らしています。

因みに現在は面積の広い、便宜上裏(底面)としている方が硬さ・細かさで上回っています。逆に表は筋や亀裂、入り肌などの雑味が多く硬さも劣ります。その割には、上手く研げば裏で仕上げたのに近い性能を見せてくれるので面白いものです。最初は表側は、もっと柔らかくて雑味も多かったので、性能も其れに準じていたのですが追い付いて来た感じですね。

 

 

 

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此方も層の研究に使っている、巣板を半分にした片割れ。巣と牙目が問題でしたが、画面右側を意図的に減らしつつ巣を落として来ましたので、双方の問題点が解消されて来ました。このまま手順を重ねると、何処まで向上してくれるのか今少し試します。

 

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半分の片割れ、もう一方です。此方は既に、雑味も軽減されて普通に使える状態に近付いています。場合によっては、日本に滞在中に研ぎ講習をと御希望の受講者の方へ、サンプルとして渡して置いても良いかも知れません。折角ですので、記念品にも良いかと。

 

 

 

 

 

御知らせ

 

本年は、之までよりも多く(それでも一般的には極少数でしょうね)研ぎ講習を受講して頂きました。研ぎの御依頼と合わせて、感謝致します。

年明けからも、既に予約を頂いて居る方々の御蔭で張り合いの有るスタートに成りそうです。ただ一月中は、ゆっくり出来る(可成り時間が押しても余裕が有る)日時が埋まってしまいましたので御報告致します。

それら以外では、標準~少々延長レベルでしたら問題無く行える日時は有りますので、講習受講を御考えの方がいらっしゃいましたら上記を御勘案の上、御判断頂きたいと思います。宜しく御願い致します。

 

 

 

 

 

小割りの砥石に付いて 2

 

昨日は中岡さんと遣り取りしたのですが、幾つかの話題の中には小割りの話も。曰く、「むらかみの小割りが欲しいから、切り落とし?詰め合わせを」との問い合わせが有る。しかし其の際、全員に「むらかみに聞いて」と答えるのは如何な物か。あとは小割りの記述を読んだ方が、いざ探そうとしても如何にすれば良いのか?と。

確かに初めて天然砥石に触れる場合でも簡単では無いですし、更に小割りに適する素材を選別した上で自力で作れと云うのも酷な話かも知れません。おまけに向こうにも聊か手数を掛ける可能性も有るとすれば考えざるを得ません。

駄目押しで、「もう村上が作れば良いだろう。材料は此処のを使えば良いんだし」と言われては、否やは有りませんね。そんな訳で先々、販売用の小割りを作り貯めて行こうかと考え始めています。勿論、私の持っている物と寸分違わぬとは行きませんが、実用する上で妥当と思われるレベルで数種類、予定をしています。

 

 

 

現在使用している小割りの例(奥殿産巣板)です。

 

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右は、下画像(二年前?共栄で購入)の原石白が不定形かつ厚かったので、整形も兼ねて半分に。その際の小割りです。左の二つは一年前、山頂付近で採掘した天井巣板(硬口)です。云わば奥殿の超硬口シリーズですね。

 

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毛筋や茶色部分も問題なく使える硬口巣板

 

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少し前に採って来た、天井巣板(内曇り)の小割りです。同じ天井巣板でも山頂の硬口は、此れの数倍硬いです。其の為、使い勝手は此方に分が有ります。ただ、仕上がりは全く違います。

 

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同じく、天井巣板(内曇り)を採りに行った際に見つけました。全体が紫がかっている事に加え、カラスでも有ります。小さな筋の部分は邪魔だったり、使用中に幾分割れ易い傾向も有りますが先ずは扱いに困る程では有りません。

 

 

 

例に挙げた此れらの小割りですが、当然の如く使用者や対象の刃物により使い分けが必要です。此処まで種類が違うと、相性の問題も大きく変わって来ます。同じ山の同じ層であれば、流石に程度はマシに成りますが。後は目的とする仕上がり次第でしょう。

性質的に層の並びが平行であったりと、東の石は製作上は利点も有りますが硬さは柔らか目が少なかったりします。ですので、硬軟・粒度・目の立ち方など様々な要素でバランス良く揃えるのは簡単では無いでしょう。時期やラインナップ・価格帯に関しても未確定ですが、出来るだけ本当に使ってみて良い仕上がりが期待出来る石だけを選別したいと思います。

 

 

 

 

 

取り置きの包丁

 

司作の柳を待ち焦がれている今日この頃ですが(最後に2・3週間前にも電話で相談したのですが)、取り置きしていた包丁も有ります。

その味方屋作ステンレス(三層クラッドで芯の刃金は白紙相当)ですが、昨夜依頼主の香川のK様から連絡が。やっと発送になりますが、標準としている刃先調整を御希望との事で砥いで置きます。

 

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新品時です。

 

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刃先の調整だけですので、オール天然で。先ずは天草(やや硬)、次いで会津(中硬)。共名倉も会津です。

 

 

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奥殿の内曇り⇒本巣板の茶色。少し、刃先の細かさと掛かりの軽さが予想通りとは行かず。

 

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中山の赤ピン(中硬)で仕上がるかと思われましたが、返りの取れ方と切り続けた際の切れの変化が不安定。

 

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思いついた奥殿の天井巣板(カラス)で仕上げて、上記の問題をクリアしました。まあ、これ等は或る程度以上のレベル同士での比較なので、高望みすればと捉えて頂ければ。新品時より1㎜以上、刃先が減ると神経質さも落ち着く可能性は大です。

 

K様には、此の度の御買い上げを有難う御座いました。少し、我儘?な所も有るかも知れませんが、御手持ちの大谷山や田村山などの仕上がり具合で研究しつつ、手なづけて頂きたいと思います。

 

 

 

これで、現在の在庫の包丁は下画像のペティのみになりました。今後も必要に応じて(此方は流石に可成り容易な筈)追加する流れでしょうか。他には先々、キリン刃物の洋三徳もかなと考えています。

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小割りの砥石に付いて

 

此の所、研ぎ講習希望の方(受講済み・受講予定)に説明する機会が有りましたので改めて。私の基本的な仕様としては、均し研ぎの一環として形状や表面処理を整える目的、つまり切れ抜けの向上・錆や変色の予防と除去時の補助を狙って行なっています。

現在は、巣板(硬・軟・曇り・光り系)と千枚・八枚系統、硬口戸前・浅葱・水浅葱などが各数種ずつ用意してあります。刃物と御依頼内容に合わせた石を使うのですが、基本的に刃金には鏡面近くなる砥石を最終仕上げにしており、地金には半鏡面狙いが可能な千枚系統を標準としています。(刃金への小割りの使用は例外的)

地金(軟鉄)を鏡面にするのは、刃物・砥石共に平面同士でも其処まで簡単では無いので、曲面を持つ刃物に鏡面砥石の小割りを当てても時間と手間の観点から、意義は殆ど見出せないとの判断からです。性能は大差無いのに、コストばかり嵩みます。

 

最初に戻って・・・講習御希望の方から、前回の記事に記載しました鏡面にする(正確には鏡面にする手助けになる)手順と、其れに使う小割りの砥石に付いての問い合わせを頂きましたので、同様に興味を持たれた方がいらっしゃるかもと考え、御返信を此方にも転載してみます。

 

 

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「鏡面にする手順」ですが、此れは自宅に講習に来て貰った(画像の)人にも説明した内容に成ります。つまり、①平面に研いだ刃物を平面を出した鏡面砥石に刃・地共に当てる以外の方法として、小割りを使う。それでも、可能な限り刃金は鏡面レベル砥石に当てる。②小割りは、或る程度細かくなるまで角砥石で刃物を砥いでから使う。(刃は勿論、地も硬口戸前・千枚以上の砥石を当ててからで無いと効率が悪い)③巣板・戸前系統(私は千枚八枚を多用)で数種の小割りを用意する必要あり。地金に硬い砥石の傷が入っていれば巣板で消すしか無い。④用意した小割りに習熟する。

以上が最低でも必要です。加えて、用意した石が砥ぎたい刃物に合っている必要が有ります。ですので、私の持っている小割りを渡しただけでは(しかも最終仕上げ用のみでは)余り効果が見込めない事も有り得ます。最終的には、各自が各自の刃物と研ぎ方に適する石を探し出さなければ成らない訳です。あと、私の使う為の砥石は小割りを含めて不特定多数へ販売できる様な数は有りません。理由は前述の通りですね。従って、サンプル程度に一つ二つはプレゼント可能、というだけです。勿論、それで最大限の効果が期待出来るとは限りません。

以上の様な所でしょうか。余り、耐水ペーパーや研磨剤ほどには汎用性が高い性格の品物では無いので、御理解頂ければと思います。此の辺りの事情に関しては、同じ印象を持っている方もいらっしゃるかもしれませんので、ブログの方にも情報として載せておいた方が良いかもと感じました。

 

 

 

 

 

最近の事柄

 

昨日は、以前から問い合わせ頂いて居た堺のN様が研ぎ講習に来られました。本に載っていた私の包丁の様な鏡面に研ぐ方法を、との御希望で。

現在、私の包丁の研ぎは(特に地金部分)本当の鏡面とまでは行かない仕様ですが、或る程度までは参考に成るかと説明を交えつつダイジェストで実技を御覧頂きました。

 

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サンプルに使ったのは、以前に砥石館でのイベント時に幾分、錆びさせてしまった包丁。一度は砥いで置いたのですが今回もう一度、手入れも兼ねて巣板⇒千枚⇒御廟山⇒千枚三種の小割りの順に作業してみました。その結果、錆の痕跡は半減した様です。

 

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其れとは別に、御持参の本焼きを使って練習です。元々、結構形状が揃っていましたが、厚みと角度の減らし方が不均一な点や刃先角度の不適切などを試し切りで体験して貰いました。

 

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実感した問題点をクリアして行き、整って来た状態で終えました。此の度は、少し遠くまで御足労頂きまして有難う御座いました。しかし、楽しんで頂けた様子にて安心致しました。

 

 

 

 

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上画像は前回、キリン刃物への遠征後に高雄 から帰る際、手渡された物です。何れも伊予砥から作られた砥石で、成分は限りなく天然のみ。

右のマーブルは一部、成分を調整した物と通常の混合だそうで、共名倉効果と云うか目詰まりし難い性格に成っているとの事。現在は完成度を上げるべく、試作を繰り返している様です。

 

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研磨力と滑りが適度で、其の上に砥ぎ感としては吸い付く様な印象。砥ぎ易く、傷も余り深く無いですね。

 

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検証の為に、刃金が硬い切り出しでもテスト。印象は変わらずで、下りも十分。

 

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赤い方は、現状(此の個体では)研磨力に不満との事でしたが、余り気には成りませんでした。どちらかと言えば、研磨痕の浅さと均一さの方が目立っていて気に入った位です。

 

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其の傾向は此方の方が、より分かり易いでしょうか。

 

 

 

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あと、伊予砥はダイヤの錆取りにも良いそうですが。上画像は数年前に小鮎さんから頂いた物で、伊予の中でも硬くて細かい物。此れは砥面の直しや泥出しには向いていますが錆取りには硬過ぎる様です。

 

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そう言うと、向いているのが有ると作業場の近くに在った石を分けて頂きました。

 

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数回は錆落としをして、全面にうっすら付いていたのが改善して来ました。確かに効果が有りますね。

 

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こんな感じで行なうのですが。

 

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硬い砥石の面直しに使うと、コロイド状と云うか正に共名倉として働いてもくれます。傷が入って困る事も有りません。

 

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人造伊予の後で、超硬い?奥殿の巣板を当ててみます。先ずは裏でチェックすると刃金が下りています。硬い割に研磨力は充分。

 

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結構荒い人造伊予の後ですが、刃・地共にまずまず傷が減っています。

 

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此方は、刃・地共に少し柔らかいので、更に良いですね。

 

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しかし、流石に飛ばし過ぎなので一度、上画像の白よりやや柔らかい茶色で。

 

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同じく茶色の結果。

 

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どうせなので、もう一段柔らかい巣板も使って。

 

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再度、硬い白。

 

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同じく。

 

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最後は奥殿の浅葱。

 

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同じく。

 

 

 

 

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講習で使った後、もう少しだけ仕上げて置きます。

 

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最低限、次の錆を呼ばない程度には軽減されたと思います。此れ以上は、使いながらの原則で進める事に。

 

 

 

 

 

 

二度目のオールドガーバー

 

以前に、古いガーバーのナイフ(フランボージュだったかな)を送って頂いたM様から再びガーバーのナイフ四本が届きました。

 

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長いの(緑のアーモハイド)は、フィレナイフですね。デュレンダル?らしいです。黒いアーモハイドはA400、ハンティングナイフですね。銀色の二本はミミングですが、一方は上記二本と同様にハイス鋼(ハイスピードツールスチール)モデル、もう一方はステンレスモデルで違いが有ります。

 

長いのの刃先部分アップ。かなり損耗が見られます。 1545234182304

 

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黒いのは大分マシですね。 1545234226567

 

 

ステンレスミミングも、少々傷んでいます。 1545234196919

 

 

ハイスのミミングには錆も。 1545234205482

 

 

 

 

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M2(ハイス)と云う鋼材は傷が付き易く取れ難いので、今回も事前に手持ちのショーティで試していました。ハイスの耐磨耗性に打ち勝つ研磨力の砥石では新たな傷が付き、傷を付けない柔らかな砥石・砥粒の目の立ち方では、前段階の傷を消せない印象です。現在の手持ち砥石の中で相性的に良かったのが中山の赤ピン(硬口)で、下りに加えて傷消しと切れまでも満足いく物でした。其れで仕上げる計画を立てて、研ぎを開始。

 

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人造の400番で欠けや摩耗を落として行きますが、特に大きな物三つは取れ切る頃には不必要に刃幅が狭く成ります。

 

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同じく400番ですが、全体的には揃って来ました。

 

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緑の1000番で荒仕上げです

 

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同じく緑1000番

 

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白1000番

 

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白3000番

 

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蓮華巣板

 

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同じく蓮華巣板

 

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奥殿の本巣板の白

 

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同じく本巣板の茶色

 

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同上

 

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フィレナイフ特有の、ブレードを骨に当てたまま湾曲させ三枚に卸す方法に適する様、鋭角にはしない研ぎを御所望で。最後には掛かりを強調する為に天井巣板(硬口)で仕上げました。

 

 

 

他のは、やや鋭角気味にとの御意向に沿ってオリジナルよりも僅かに鋭角に。中山の赤ピン三種(やや軟・やや硬・硬口)で。

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左がやや軟、右がやや硬

 

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硬口赤ピンで仕上げ

 

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ミミング(ハイス)も同じ仕上げ

 

 

 

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最後のステンレスミミングですが、小刃を落としてベタにとの御要望で。しかし、刃体の寸法や強度が激変するのは如何な物か、との助言を入れて頂き刃先中心の研ぎで小刃を取る事に。

 

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400⇒緑1000⇒白1000⇒白3000で下地を

 

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中硬の巣板⇒本巣板茶色

 

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此の茶色よりも相性の良かった本巣板白で整え

 

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此れ又、掛かりを優先して天井巣板(硬口)で最終仕上げです。ただ、此のナイフは刃線中央に少し返りが取れない部分が。熱処理ムラか、電動工具の影響でも有ったのでしょうか。サイズと予想される作業内容から、実用上では(使用環境にも因りますが)余り問題は出ないレベルと思われますが。

 

 

 

 

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仕上がりです

 

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フィレナイフの研ぎ上がりと刃先拡大画像です。三つ有る欠けの痕跡の内、最大の物の周辺です。取り切ると全体を無駄に減らす事に成るので、此処までで留めてあります。

 

 

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A400の研ぎ上がりと刃先拡大画像です。

 

 

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ハイスのミミング、研ぎ上がりと刃先拡大画像です。

 

 

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ステンレスミミング、研ぎ上がりと刃先拡大画像です。

 

 

 

西宮のM様には、再度珍しいガーバーのナイフを御送り頂き有難う御座います。メールでも記載しましたが、此の状態で問題無いか御判断頂きたいと思います。もしもOKが出て、御手元に届いた際に問題が有りましたら再調整しますので宜しく御願い致します。

 

 

 

追伸です

御送りしたメールの通り、砥石も参考に御送りします。この前、幾つか用意されていた赤ピンの中の一つです。中硬と硬口の中間で、硬口寄りです。

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序でにもう一つ。奥殿の山裾で、天井巣板を探して居た折りに偶然見つけた本巣板の白のサンプルレベルの一つです。赤ピンの硬口よりは傷を小さくし難いかも知れませんが、代わりに研磨力が上乗せ。切れも十分な良い砥石で、砥ぎ易さでは此方が上です。

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研いだ包丁のビフォーアフターなどを載せていきます。