これまで、自分の手持ちの刃物や依頼を受けて研いだ刃物には、ほぼ100%、油の類いは付けていませんでした。ステンレスでは通常環境で保管・運搬で錆が出る事は考え難く、また炭素鋼刃物も、一日から二日移動に掛かったとしても問題無いと考えてきました(更に天然砥石仕上げは安心感上乗せでしたので)。
しかし、そもそも出来るだけ油脂を付けたく無かったのは、それ自体の酸化で却って腐食したり汚れや匂いとしてこびり付くのを避けたかったからです。包丁や、食品を切る可能性があるナイフ類にはもう一つ、体内に入った場合の毒性も気がかりでした。関で働いていた頃は、ナイフ類の出荷前準備でフォールディングナイフなどの摺動部には流動パラフィン、ブレードにはシリコンオイル、炭素鋼にはフッ素系(テフロン配合)の褐色のオイルを使っていました。包丁程、食品を対象としないし、一応使用前にはユーザーも洗うであろうけれど、特別毒性の強い物を大量に摂取する訳では無いとは言え、大丈夫かなあと思っていました。
月山さんと話していると、例えば海外発送分などになると錆の心配が高くなるのでは無いかとの意見で、確かに気候の変動も大きく結露の可能性も高まる場合も予想され、そういう場合のみは考えてみる事にしました。事前のイメージではシリコンオイルなどは精製が良ければ体内に入っても少量なら行けるかな程度でしたが、調べてみると材料にも色々ある物です。フードオイルやフードグリスは各社から潤滑材・溶剤・噴霧剤として様々な物質を使用した物が発売されており、悩みました。
その中で各目的の物質中、問題の少なそうな組み合わせで目星を付けて買いに行きましたが、結果的に只一種類、売っていたものが想定していた物よりも適していた印象で素直に即決しました。TAIHOKOHZAIの食品機械用潤滑材というスプレーで、通常(安全性の基準で国内外の規格クリアが謳われている物が多いですが)NSF H1 や3Hの表示があっても「偶発的な接触」程度への対応の様です。しかし之は食品機械の「刃物部分」にもOKとあり、より安心な気がしました。そもそも潤滑剤自体が中鎖脂肪酸トリグリセリド(栄養学で習ったような?中性脂肪に近い?原料は高純度植物性脂肪酸との事)でほぼ食品扱いの様です。噴霧用ガスとしてはLPGとありますので、残留や毒性の心配もほぼ必要無いでしょう。
当面この製品で試しながら使用して、期待する働きを見せてくれると良いなあと考えています。(試用してみた範囲では、油膜が特に強めでは無いものの、塗布のし易さや水分の弾き・気化も程々な感じです)