研ぎ依頼頂いた鎌形薄刃です。仕上がり後にお聞きすると、詳細に記載しても良いとの事でしたが、程々に御紹介を。
十七年間、御愛用の包丁ですが、この半年はまともに研いでいる時間が無かった物との事です。その為、包丁と作者に失礼に思っていたが、研ぎ屋むらかみのホームページを見てここなら頼んでみようと思った旨、メールにてコメント頂きました。加えて、当方からの作業完了メールに添付した、研ぎ上がり確認用の包丁画像を御覧になり、その仕上がりに思わず会社の方々に見せて回ると大変驚かれたとか。
以上のように言って頂けた事は、この仕事をしていてとても有り難く、嬉しい事です。特に、包丁に対して手入れをしてやれずに済まないと感じるような方から選んで貰えると言うのは、この上ない喜びです。そして、日々の生活の中で完全なメンテナンスを常時、欠かさない事は大変困難でありますし、仮に一時期手を掛けてやれない期間があったとしても、そのまま放っておく事無く、納得出来そうな所を選んで研ぎに出された訳ですから、余り気に病まないで頂ければと思います。そういう時に活用して頂くべく研ぎの仕事をして居りますので。
包丁の状態としましては、身の厚い、刃金も硬めの古風な作りで、その為か結構な刃毀れがあります。全体の雰囲気からここ数年の物では無い、ひょっとしたら二十~三十年前の物かとも感じました。何故なら、経時変化での硬化も伺わせたからで、この厚みでさえ鎌形薄刃の構造的特徴である、切り刃中央がへこむ状態になっていました。 峰側から歪む薄さであれば、かなり叩いてひずみを調整も出来たり、鎬裏もある程度矯正出来たりしますが(自分の肉の薄い硬度の低い鎌形はそうしました)、硬くて厚い鋼の刃側半分が歪んでおり、無理に叩くとそこだけ薄い刃先が心配です。加えてその範囲だけで刃先が揃う程、叩きで調整すると、全体でするより裏梳き部分が不均等になります。実際に全体で調整した手持ちの薄刃でもまずまずの歪み具合の裏梳きになっています。元々はベタ研ぎでの御希望でしたが、切り刃から刃先までベタにすると刃金中央が砥石に当たらず、逆に当たる切っ先・刃元が薄くなっていきます。そこで刃金部分の範囲で許容できる直線を出し、そこから鎬までベタ気味に均し研ぎしました。仕上げは白巣板(やや敷内曇り寄り)で研ぎ、小割した千枚で化粧研ぎしてあります。裏押しは鏡面青砥です。
研ぎ前 全体画像 1
研ぎ前 全体画像 2
研ぎ前 刃部アップ
研ぎ前 刃先拡大画像
研ぎ後 全体画像 1
研ぎ後 全体画像 2
研ぎ後 刃部アップ
研ぎ後 刃先拡大画像
数日後、この包丁を使用する機会があったとの事で感想を頂きました。抜群の斬れ味と言う件名で、「素晴らしい斬れ味で惚れ惚れしている。やはりプロに研いで貰って良かった」と綴られていました。 私としては、単に問題無いと言って頂ければ充分満足ですが、気に入った、ましてや感動したとでも言って貰えるなら、特にそれが包丁を大事に思う人からであれば、望外の喜びと言うほか在りません。
Y様、ご依頼頂きまして有難う御座いました。
村上さん、先日は愛用の鎌形薄刃を研いでいただき有難うございました。素晴らしい切れ味は、健在です。やはり、切れる包丁で料理を作れるのは、この上ない喜びです。全くストレスがありません。日々の手入れをしてられないことが悔やまれますが、私はこの包丁の厚み、重さ、硬さが一番の好みです。「古風」とは知りませんでした。
私は素人ゆえ、どうすればこのように研げるのか探究心をくすぐられます。ブログを拝読していると、その奥深さに唯々感嘆してしまいます。
次回は、柳刃と出刃の研ぎをお願いしたいと存じます。
Y様 包丁の素の状態を気に入り、その良さを引き出し、大事にしながらしっかり使っていく。という向き合い方をする人にはシンパシーを感じます。それを踏まえた上でのプロの応用は又、別ですが。包丁を確認した際、ベースの形を崩さず維持されていたので、使い手のスタンスも推察できました。
私の研ぎ方も、基本的に元の形を維持しながら「切り刃では厚み・刃先では僅かな角度」の違いを、元と先で作り分けるだけです。そこに天然砥石による「錆びにくい研ぎ肌・研磨痕の少ない刃先」を上乗せしています。
私の仕上がりで宜しければ、以降も適宜、御依頼頂ければと思います。今回はコメントも含め、有難う御座いました。