通信講座の御試し?

 

小坊主様から御提案の有った、研ぎの通信講座みたいな物に関してですが・・・研ぎ依頼を兼ねて御送り頂いた三徳を例題にして考えてみました。

 

研ぎ前の状態

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知人の方の三徳を、小坊主様が研いで見ても期待通りに仕上がらないとかで。只、切れと永切れを試しましたが、ボランティア研ぎとして一般の方に研いで返す上ではそれ程、問題視される事も無いのでは?と感じました。私の所で研ぎ講習を受けてしまった弊害(?)かも知れませんね。確かに、髪の毛は切れませんでしたが・・・。

 

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小刃の付け方は、少々ですが角度の違う二種類で仕上げて有ります。何故か、左側は殆ど一定の小刃でしたが。刃先最終角度は、中々に上手い所で纏めて有ります。

 

 

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刃線の中央~刃元の拡大画像です。つまり直線部分ですが、その範囲はマズマズ。刃先に荒れが見受けられますが多少の不安定さは現状、止むを得ませんし性能への影響も小さいです。

 

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切っ先へ続くカーブの辺りの拡大です。やはり、角度の安定性が低下していますね。使用砥石にも因りますが、「直線部に比べて圧力の掛かり方が変わっても来ますので、刃先が荒れる」・「砥石への当たる方向も変わりますので返りの出る方向も変わる」・「従って返りの取り方も一様では無い」結果に繋がります。

 

 

 

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人造の1000番で研ぎ直して行きます。画像は研ぎ始めで、刃先側が未だ1000の研ぎ目に成っていません。つまり元の研ぎ方は(刃先の角度としては良いとしても)起こし過ぎ。取り敢えず、小刃の角度を一定に近付けつつ、刃先は目的の数値に合わせて行きます。最終刃先角度は刃元から切っ先に掛けて、片側40度⇒30度⇒20度にします。(切れと耐久性に由って加減します)

あと、切り刃の状態も(極端に厚みが邪魔では無いのですが)凹凸が抜けの抵抗に成っているので、問題個所を修正します。只、今回は研ぎ講座でも有りますので、小割りの砥石で処置すると共に、敢えて荒目の粒度で部位の明確化・処置の不完全化(続けて仕上げてみて下さい)。

 

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左側は、元から其の方向性に近い感じでしたので、上書きです。

 

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3000番で砥ぎ目を細かく。

右側の切り刃の凸部は、先側の半分の範囲で大きく三か所。

 

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同じく左側も。

切り刃の凸部は、もっと狭い範囲ですが此方も三か所。

 

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3000番で、仮の仕上げです。細かい砥石に繋いで行けば、返りが小さく薄く、出る量も低減されます。

 

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直線部分の拡大画像

 

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カーブ部分の拡大画像

 

 

 

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天然砥石で仕上げて行きます。長四郎引きで大まかに、赤ピンで最終仕上げです。

 

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私の標準仕様で、左右均等に仕立てました。

 

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研ぎ上がり画像

 

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刃部のアップ

 

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直線部分の拡大画像(返りが残っています)

 

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カーブ部分の拡大画像

 

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研ぎ直した結果、角度の適正化と安定化・返りの処理と刃先の性状の違いに因り、毛髪にも切り込める様に成りました。切り刃の修正により紙の束に対する走りや抜けも改善されましたが、此方は八割方の完成度ですので上書きで仕上げて頂きたいと思います。詳細は、別途メールした文面を御参照ください。

通信講座を想定し、様々なパターンを勘案しましたが状況や要因が雑多過ぎて一纏めの設定には無理が有ると感じました。御題に成る包丁も状態も違いますし(当方から支給すれば定まりますが)、研ぎ手の腕や年季・目指す仕上がりも様々でしょうから。

結果的には今回の様に個別の包丁、其々の状態に応じて研ぎ直しつつ、研ぐべき箇所を示す様に仕上げ切らないで御返送。メールにて現状の評価と今後、研ぎ進める方向性を御伝えする感じに成るかと。

私としては研ぎの途中とも言えますから、詳細解説を付けるのと合わせても、普通の研ぎ料金より少し低額で対応出来るかと思われます。つまり、研ぎ講座でも普通研ぎでも、御好みの方で御依頼下さればと。まあ、そんな酔狂な希望者は中々に居られないかも知れませんが、取り敢えず御要望が有れば上記の内容に準じた対応をさせて頂こうと考えています。

 

 

 

 

 

「通信講座の御試し?」への19件のフィードバック

  1. 村上先生

    通信講座的なものについてのご相談につきまして、ご丁寧に対応して頂き、心から感謝致します。

    現状の問題点を明確に認識することができました。今後の課題として意識して精進させて頂きたいと思います。

    このように、研ぎ修正も加えて頂き、解り易く詳しい説明も頂いているにも関わらず、良心的な費用をご提示下さいました。何だか、申し訳なく思います。

    包丁を研ぐ文化は、とても大切にしたい文化であると感じ初めました。ボランティア研ぎと侮らず、気持ちを込めて、研がせて頂かねばと思います。

    全てに未熟な人間ですが、今後ともご指導のほど、宜しくお願い致します。

    1. 小坊主様

      いえいえ、此方こそ新たな視点でのアイディアを頂き有り難う御座います。其の御礼も兼ねてのサービス料金でもありました。

      まあ、こう云った対応を希望する酔狂もとい篤志家?は、極めて稀とは思いますが万が一の為に考えておく方が良いかと。

      サービス研ぎに限定せず、有料でも到着時の状態を大幅に越える研ぎをしている所ばかりとは限らないのではと感じましたね。

      今回のは其れくらい、ややですが難の有る包丁でしたし悪くない仕上がりでした。講評?を活かして研ぎの向上に繋げて頂けましたら幸いです。

      1. 村上先生

        包丁の形状を手研ぎにて大幅に改善する作業は、大変な手間暇がかかりますね。少々の割高な料金設定をしても採算が合わないと感じます!同じく、この「通信講座」も、大変な労力を必要とする割に、先生の十分な利益には繋がらず、誠に申し訳ないご相談をしてしまった気がいたします・・・

        しかしながら、先生の営業形態は、利益追求一辺倒ではないとのことですので、ほどほどに、研ぎの世界に酔い狂う人生を楽しませて頂こうと思います!

        1. そうですね。今回は兎も角、大幅に変えるのは大変です。機械なら簡単かと云えばそうでは無く、(変えるのは簡単でも狙い通りには難しい・機械の研削痕を取るのが大変)何処かで苦労は出て来ると思われます。

          問題点の洗い出しと説明は、いつも自分自身に対して行なっている様な物ですから、案外負担とまでは感じませんが・・・まあ何れにしても儲けには繋がらないでしょうね、此の料金でも高いと思われている節が有りますので。では、同様の仕上がりには幾らでしてくれるのでしょう?半額で全く変わらない作業をする所が有れば、喜んで外注させて貰いたいですね(笑)。

          常連さん経由で聞いた所では、某包丁関係者達の言に「村上と同様の研ぎをするなら~万円位は貰わないと」・「うちの職人にやらせるなら、もう一本(安物では無い奴でしょう)買える位は貰わないと」と云うのが有ったそうですが。まあ、本焼き関連だったので余計でしょうか。

          1. 村上先生

            「研ぎ屋むらかみ」の、職人としてのクオリティの高さを否定する程の研ぎ職人がおられるでしょうか??
            さらに、文章表現においても他の研ぎ屋さんで、挑戦状を叩きつけるほどの、勇気がある方がおられるでしょうか?!

            今回の「通信講座」のお試し!?は、大変満足致しました。本来であれば、大阪まで出向いて「研ぎ講習」を受けねば学べない事柄も習得できました。いつもながらですが、メールでの質問に対しても懇切丁寧にご対応下さいました。

            私のような初心者で、「研ぎ講習」に様々な理由で申込を躊躇されておられるような方も、気軽にこの「通信講座」をご相談されては如何かな!?とも思いました。(ブログ記事で、あえて使用されておられる難解な漢字は使われないのでご安心を!)余計なお節介を失礼しました。(笑)

            やっかいな酔狂研ぎ人ですが、今後とも宜しくお願い致します。

  2. ご質問ですが・・
    先生が、人造の1000番で研ぎ直しをして下さった行程の中で、
    「元の研ぎ方は(刃先の角度としては良いとしても)起し過ぎ」
    とのご指摘がありますが、「起こし過ぎ」との解釈は、「刃元」を研いだ辺りが、包丁を起こし過ぎている。との理解でよろしいですか?

    また、「ステンの包丁」の性質として、「返りの取り難さ」のご指摘がありますが、その理由としては、添加された「クロム」の影響で、材質に粘りが生じ、返りが刃物本体から分離し辛い・・というイメージでしょうか・・?

    1. 「刃先」と対になる部分への言及ですので、この場合は「当方に到着時の研ぎ方」或いは「小刃本体」に付いてです。「刃元」と対になるとしたら、前段に「切っ先」に触れられていないと可笑しくなるでしょう。

      ステンレスの性質に現れ易い、返りの取れ難さは御指摘の通りだと思います。もう一つ考えられるのは、只でも(炭化物が大きく成り勝ち・耐摩耗性も大により)砥ぎ難いステンレスを、設定ギリギリまで焼き入れするとクレームとまでは行かずとも嫌がられるので控え目にする・又は焼き入れと戻しの管理が適当(悪い方の意味)なので組織が粗く成ったり粘り過多に成ったりするのかも知れません。

      1. 村上先生

        私が、「刃先」を研いだ状況が、両刃の理想的な刃先の角度変化(40度→30度→20度)に対して、刃元から切っ先にかけて全体的に、「起こしすぎ」であった・・ということでしょか?!

        「返りへの対策」については重要かつ奥深いですね。探求していきたいと思います。有難うございます。

          1. 村上先生

            なるほど、それで納得致しました。

            今回の包丁の材質は「やや軟」であるとのご判断ですが(長い研ぎの経験の中で、培われ来られた感性によって判断しておられると想像しています。)、経験の浅い人間には、研ぐ包丁の硬度の判断が難しいですね。

            硬度の基準として参考となる(中庸の硬さ)包丁の具体的な商品名などありますでしょうか?

  3. ステンレスの包丁として中庸の方さと感じるのは、ミソノのモリブデンや正弘のMSCでしたか、オールステンレス包丁。あとはジャパンヘンケルの中級、或いは廉価バージョンでしょうかホームセンター等で普通に買えるシリーズです。

    それに比べてグローバルやグレステンが大きく違うとも感じませんが・・・取り敢えず、流通で目に付いたり有名処と云う観点で上げてみました。トージローは、積層地金方は三層より硬さと云うより細かさが上の様な?

    何れにしても、鋼材に違いは有りますが高村のVG10辺りにに比べると柔らか目かなと思います。其れ以上になると今度は、ZDPやハイス等の所謂高級鋼材使用だったりでジャンルが変わる気がします。それらの実用硬度を落とさずに製造されていたら、一般の方が研ぐのに困るレベルに成りかねませんが。

    1. 村上先生

      ご丁寧に、有難うございます。
      ホームセンターで普通に購入できるものの多くは、硬さとしては「中庸」なのですね。

      一般家庭で、研いで使う分には、余り硬すぎない包丁が良さそうですね。

      図書館で「包丁関連」の書籍を数冊借りてきました。

      人類の歴史と、この利器としての刃物の関係は深そうですね。しかし、家庭からその存在が消えつつあるのですね!?

      昨夜夢の中で、日野浦氏が現れました!
      工房を訪ねた私は、包丁を作って下さい!と懇願しておりました(笑)

      1. 小坊主様

        そうですね、自分で研ぐ・砥がないに関わらず硬過ぎる包丁には弊害が有ります。丁寧に扱えるなら、永切れにはメリットなんですが。

        丁寧に使い、切れが鈍れば研ぎに出す。と云うのが一番、面倒が無いと思われます。砥石を揃えて研ぎを練習するなら、時間も費用も掛かりますし(其れで何処まで切れを出せるかは未知数)。大まかで良ければ、シャープナーでしょうか?

        日野浦さんの所は、遠いし大変ですよね。相手を見て、作品を出してくれたり、くれなかったりする見たいです。悪い印象を与える程の者は、極少数と思われますが。将来的には、司作を入手されると炭素鋼包丁の真髄を感じられるのではと。今回の日立の炭素鋼統廃合が、瓢箪から駒?で、上限タイプの素晴らしい性能が分かりました。鍛冶屋の腕が有っての事ですが、之までで最高だと感じます。切れと永切れ・砥ぎ易さは勿論、気に成っていた白一のカシカシが無く、白二の滑らかさを持っています。日野浦さんも、鋼材は充分仕入れたとの事で、今後が楽しみです。最近の地金は、昔と同様に仕上げようとすると少々難しいのですが。

        1. 村上先生

          「今回の日立の炭素鋼統廃合が・・・」
          とのことですが、具体的にはどのような統廃合が行われたのでしょうか?

          1. 小坊主様

            確か青紙も同様の流れだったと思いますが、白紙は一・二・三の他に其々A・Bの区分も有りました。その商品展開の種類を縮小したという事です。詳しくは、メーカーの情報を当たって貰った方が良いと思いますので、宜しくお願い致します。

  4. 村上先生

    「上限タイプの素晴らしい性能が分かりました。鍛冶屋の腕が有っての事ですが、之までで最高だと感じます。」

    とのことですが、最近に研がれた司作黒内三徳(白一)で、今回の日立の統廃合で、鋼材がより高品質になったことを実感されたのですね!

    その違いを実感されたことが、またすごい事のように思います!

    1. いや、白一との名称では無いのではと。白の炭素量の上寄りと下寄り、の二分割だと思います。

      従来より、高品質に成ったのか鍛冶屋の腕との相性が良かったのかは判定が難しい所でしょうが、仕上がった鋼は殆ど全面的に文句が無い性能で。大変、満足しています。

      1. 村上先生

        「統廃合」の件ですが、ネット上で下記の記述がありました。

        「かつて白紙・青紙の1号、2号はそれぞれA・Bに細かく分かれていたが、規格統一で、1号、2号のみの分類となった。」

        未だ、釈然としない部分もありますので、自分でも調べてみたいと思います。有難うございます。

        1. そうでしたか、一応は一号と二号の分類と成っていたんですね。

          昔の分類されていた鋼材を、正確に使い分ける腕を持ちつつ使って来た鍛冶にとっては、新たな一と二の呼び分けに馴染みにくいのでしょうか・・・私も日野浦さんから聞いたままに捉えていて、上限・下限と認識していました。普通に考えれば、小分けしていた頃より良く成るとは予想し難かった事に反して、良い仕上がりでしたので結果オーライと成りました。

          何れにしても、折角の素材を活かせるかどうかは(従来同様)熱処理と鍛造次第に成るのは間違い無いでしょう。

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