先月、小西さんからの電話により「きしな屋」さんの存在を知らされました。主として全国の旨い物を集めたセレクトショップ的な印象です。でも、桶や石鹸もあったかと。
其処で取り扱いのある包丁は、近年急速に有名になっているのですが、その鍛冶の方がイベントで来阪される際に、研ぎに関するアドバイスを。との事でした。
私の意見など必要性は低いのではと思いつつも、有り難い計らいに対して、可能な限り御協力は惜しまないと答えました。ついては①研ぎの話しなら現物を示しながらが良い②どうせなら、比較の為には当該包丁と同等が望ましい、と考えて椿包丁を買って来ました。
此方は、新しく出来た船場の方の店舗です。
今日は二回目の来店ですが、拘りの醤油や温泉から採った塩など購入しました。
そして真打の包丁です。五島列島で作られている、椿包丁。
知名度は、自分もテレビで二・三度見かけた程で、1つの番組はドキュメンタリー大賞を取ったそうですね。その所為も有ってか二年待ちとも云われ、結構な品薄傾向らしいです。
新品の状態。刃体自体は厚みも適度に抜かれており、峰から見て大げさなテーパーで無いものの充分な印象。(更に抜けや走りを求めるなら切り刃の厚みや刃先角度の変化で対応は容易)
刃元から切っ先に掛けての刃線の連なりは、幾分厚みや角度のバラつきが見られるのに対して、鎬から刃先までの緩いハマグリ気味の面構成は秀逸。(左側中央は広範に薄目)
多くの和包丁に散見される、切り刃の全長に掛けて厚い・薄いの交互連続は避けられないが、最重要である刃金の状態は申し分無し。硬さと粘りがバランス良いので、結果的に弾力的と感じる実用的な仕上がりです。
テレビで出て来た、現地の方々が「良く切れる」「長く切れる」とコメントしていたので如何ほどか興味が有ったのですが、納得の刃金。標準品でしょうから青紙の筈だと思いますが、青を意識させる(どちらかと言うとネガな)感じは希薄です。
砥いでみますが、元々薄目ですのでキングデラックスを使ってソロソロ。砥ぎ難さも無く、特に研磨力に優れる砥石を必要としません。
切り刃の凹凸の凸部を、人造の小割り各種で均します。
其の後、天然の巣板・戸前・千枚で仕上げます。切り刃の地金部分は、小割りの八枚(三種)・千枚で砥ぎ目を浅く。
一応、仮にですが研ぎ上がり。此れで切れと永切れ・錆び難さは実用上、充分ですので使いながら育てて行くつもりです。
少し気に成ったのは刃金の先端部分。小さな欠けは、研ぎで取れるかと考えていたのですが居座っています。
此れだけなら、何でも無いのですが反対の刃先には随分長目に鍛接線にも似た線が。そして線の端が最も刃先の先端に接近した地点で欠けが発生している様に見えます。
地金よりも刃金に重要度が高いですが、組織の仕上がり(焼き加減・微細化加減)や皹の類いは、可なり細かく安定した研磨面で無いと判定が困難です。
天然砥石の相性の良い仕上げなら、深い傷や妙な光り方が邪魔しないので楽ですね。ですから、私は刃金部分こそを最大限、細かくてしっとり艶の出る砥石で仕上げるべきだと考えます。
しかし先々、研ぎ減った時に此処に悪影響が出なければ、現状は単に視覚的な気掛かりと言う以上の物では在りません。普通にガンガン使って行きたいと思います。