前回の砥石館で、思いがけず懐かしい方の訪問を受けました。地域住民で、且つ砥石関係者だった方。特に天然砥石粉末を高濃度で配合した、人造砥石製造に携わっていた経歴を御持ちで。実は数年前に、関係者数人で自宅脇の工房に御邪魔した経緯があります。その際には見学のみならず、嘗ての製品の試し研ぎまでさせて頂いたり。帰りに頂いた数個を、自宅で試して気に入り、数日後に一人で買い増しに行ったのも良い思い出です。
使ってみての感想は、吸水が少な目で当たりがソフト。その割に研磨力と平面持続も悪くないと云う物でした。見学時の説明で、販売していた頃は研磨力の強さが全盛の時代だったので、うちの製品は不満を述べられる事もあった。しかし、自分は仕上がりの傷が浅くて当たりの柔らかい砥石を作ろうと努力していたと聞かせて頂いた通りの砥石達でした。
今回の訪問を受けて、同日の夕方には上野館長と工房を訪ねました。館でも貴重な御話しを頂いたのですが、機械類を前に更に詳細な説明を受けました。更に所有されている各種天然砥石と、残存している可成りの数に上る製品の在庫も確認。そして今回も、帰りには製品のサンプルを持たせて頂きました。
今回の分。合砥をベースに研磨剤やボンドで整形した物。
上画像以降は前回の分ですが、同様の物です。色合いは原料のバラつきなどで様々。一応、色粉も使用して範囲内に収めてあるそうですが。
此方は赤門前がベースの物。
対馬の黒名倉がベースの物。
巣板ベースの物は特に気に入って買い増し、四本持っていました。
やはり、原料の違いで色のみならず性格にも違いが。ある意味、天然砥石感に富んだ面白さにも繋がっています。でもそうなると、バラエティの幅が欲しく成ったり試し研ぎで選びたくなったりするのは、人造砥石としては痛し痒し?
研いだ仕上がりを御紹介。先ずはシャプトンの1000番で。
巣板ベースで砥いだ所。
その拡大画像です。結構光っていますが、傷は浅いし均一な砥ぎ目です。
次に合砥ベースで砥いだ所。
光り方が強まり砥ぎ目も細かく成っています。此処からならば天然仕上げ砥石に繋ぐのも容易です。まあ、普通に切れるし持ちもまずまずなので、重症の方で無ければ此処で留めても良いのですが。
現在は研磨力の有る砥石で形状を作り、刃先の仕上げには返りの出難い砥石で仕上げるのがスタンダードだと思いますが、遥か以前の当時から其処に拘った製品造りをしていたとは、驚かされます。其の成果なのでしょう、人造は得てして永切れに付いては天然に及ばない物ですが、合砥ベースの黄色い砥石での仕上がりは明らかに持つ方です。切れも悪く無く、そういう傾向は研承シリーズの高番手を彷彿とさせます。
場合によっては、天然砥石館での商品として御目見えするかも知れません。実現すれば往時の郷土の産品として又、現地へ行かねば手に入らないレア物として、楽しい存在に成るのではと期待してしまいます。