砥石選別の基準

 

稀にでは有りますが、砥石選別の御依頼を頂く事が有ります。何故、わざわざ砥石の採掘や加工を生業としている訳では無い、一介の研ぎ屋に過ぎない私なのか、と不思議に思う事が有ります。只でも、適正に研げさえすれば砥石の種類・銘柄は問わない。刃物との相性次第で問題が無い物を選ぶと公言している訳ですから尚更です。

例えば、肉の料理が食べたいとの御意向を受けて牛肉を選ぶ場合、その料理がステーキ・焼肉・肉じゃが・シチュー・青椒牛肉絲なのかによって変わって来ると思います。必ずしも単独の、例えば神戸牛のシャトーブリアンが常に最良の結果に繋がるとは限らない筈です。

同様に、或る山の或る層の砥石でさえ有れば最良、とは行かないのではないか。刃物や鋼材・研ぎ手・使い道、更に好みまで入れると条件が定まらない場合すら有るからです。一応、産地や砥石層によって大まかな傾向は見られる様です。しかし之も、個別の砥石其々の性能や質的な個性を体験すれば、全くとは言わないまでも別物ではとの印象を強く受けます。

従って研ぎ屋にとって重要視するべきは、産地や層の鑑別・同定が出来る鑑識眼を持つ鑑定家の能力より、その砥石がどれだけ良いか・何処まで仕上がるか(研磨力・外観仕上がり・切れ・永切れ)・質の個性(硬さ・泥の種類と出方・砥粒の目の立ち方・砥粒の均一性・凝集性)等を読む判別眼だと考えます。

特に、銘柄の指定無しで御相談を受けた場合は其の能力が頼みに成ります。過去に使った・試したあらゆる砥石の中から、現在入手可能で相手の求めている働きをする種類。しかも予算や使い方から、サイズや価格を判断しなければなりません。私などを当てにしてくれる方々は、この辺りを勘案の上なのだろうと愚考し、感謝しております。

相手の研ぎ方や御持ちの刃物を把握していれば、御提案する際の砥石の適合の確度は上がりますが、前述の項目から判断すれば大きく外れる可能性は低くなります。自らに置き換えて研ぎの仕事でも、使用砥石の違いに因る研ぎ料金の違いは皆無です。仮に、大突・奥殿・中山・マルカで差が有って、後者に成る程に研ぎ料金が上がるなどナンセンスでしょう。

砥石の説明として情報が限られている中で、二択の内から区別が逆に成る事は有り得ましたが御依頼頂いた砥石を意図的に、より一般的に高価と認識されている銘柄と偽って別物を渡すなど有り得ませんし、そうで無くても有り合わせを無理やり別銘柄で渡す事も有り得ません。

とは言え、産地や層の銘柄を最重要視される方の御気持ちも理解しているつもりですので、そう云った向きの一番確実な入手方法は、現地で採掘・加工している方から直接が良いでしょう。私の場合は其の山の其の層の石が有っても、質や個性で満足いかなければ見つかるまで御待たせし続ける可能性も有りますので、早く手に入れたい方も同じく直接を御薦め致します。

 

 

 

 

 

「砥石選別の基準」への10件のフィードバック

  1. 村上様
    ご無沙汰しておりました。
    以前ご選別していだいた、砥石達大活躍しています。
    特に三毛の巣板使いやすく出番が多いです。
    使うの勿体なくなりますが・・・

    1. 北海道のS様

      お久し振りです、お元気でしたでしょうか。

      私も、特に本焼きには三毛を多用している、と言うか必ず使うメンバーに入っています。対応できる幅は広いし研磨力や切れも申し分ないので有難いのですが、同じく使うのが勿体なく感じます。事前に予想して、三つ買っておいたのですが・・・他の砥石で代用可能な範囲は使い惜しんで最低限にしております。

      御送りした砥石が変わらず活躍しているとの事で安心しました。得難い砥石を手に入れた同士という事で、性能を活かして楽しみつつ大事にして行きたいですね。

      1. 選別頂いた青砥、敷内曇り、巣板3種、裏用の砥石で、自分の所有している包丁達の
        仕上がり、掛かり、全て満足でとっても楽しく砥げています!
        包丁達もきっと喜んでくれている筈で、感謝です!

        1. 包丁も複数を御持ちで、形状・鋼材の違いも有るとなれば、砥石も幾つか必要ですよね。仕上がりも、段階を上げて超仕上げまで掛けようとすれば尚更。

          そうで無くても、中砥と仕上げ砥が一つずつで済む事は少ないですし。そんな中、何れの砥石も御役に立てているのは嬉しい限りです。包丁の使い勝手や寿命にも関わるので、其処への貢献も見逃せません。

          研ぎ感など、研いでいる時間まで楽しければ言う事なしですが、どうやら其の辺りも申し分ない様で重畳です。冥利に尽きる結果に、此方こそ感謝致します。

          1. やはり、鋼の包丁好きで、鋼のしか触ってません。

            形状は村上さんに研いで頂いたの見よう見まねに、メールで教えて頂いた方法で研いでいますが刃先の角度を変えながら研ぎたいけど出来ない、砥石と包丁ばかり減らしてます。

            でも、試行錯誤してるのが楽しく時間を忘れて研いでます。

            超仕上げ…先程村上さんブログにあげられた光沢のある砥石気になりました。
            資金を貯めた後、御選別して頂けたら嬉しいです!

  2. 鋼の包丁でも鋼材によって、白の一号・二号・三号とか青も有りますし、カウリが無かったでしたか?あ、元の持ち主に返却したのでしたか。情報が混じって記憶違いなら済みません。

    砥石は此れも、確か裏押し用に購入された物が記事の最後の砥石に当たります。性能も質・性格も殆ど一緒ですよ。まあ、剃刀砥クラスは幾つか有っても面白いので、気になった石があれば、お問い合わせ下さればと思います。

    刃先は迷ったら、先ずは切り刃の角度の1.5倍で軽い糸引きからに立ち返ると良いかもです。顎から切っ先への変化は分割で研ぎ分ける所からでしょうか。

  3. 角度変化は刃元から3分割で刃先に向かって寝かせて研いでみてます。
    しのぎを上げたり、切り刃の形状を変えたり追い込み系は失敗すると怖いので、刃付けしていただいた形状を追いかけるように研いでる感じです。

    カウリは村上さんに研いで頂いたまま、見本にしています!
    今は年末に届いた自分で購入した白1号の本焼きの柳がお気に入りです。

    切れ方は三毛が一番かかるような気がして三毛多用してます。
    高性能な砥石を選別していただいて所持しているのに、ブログ読ませてもらうと、砥石欲しい病に・・・

    自分の白鋼の包丁しか研ぎませんが、ステンレスは、たまにかみさんのUX10は俎板に刺さる!など文句言われない程度に研いでいます。

    カミソリ砥気になります!
    予算作りますのでまた選別頂けたら嬉しいです。

    1. 御聞きしている限り、研ぎの方向性が定まっている様子で安心しました。確かに鎬を上げたり、刃線が変化する程の研ぎは当面、必要性が低いでしょう。難易度も高いですし。

      裏押し用の砥石は、あれも確かマルカだった様な。そうで無くとも、当たり品のマルカと同等以上の性能を確認しました。剃刀砥と言えば、あれも含まれるでしょうが大谷山以外でも田村山・大平の硬口戸前も相当すると思います。

      御興味が御有りなら、上記の中からでも御薦めを御用意出来ればと考えております。

      1. 自分の持ってる本焼きは以前選別して頂いた、砥石達で充分満足な仕上がってます。

        剃刀砥と、贅沢を言えばステンレスに良さそうな砥石を選別頂けたら嬉しいです。

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