味の幅と砥石の幅

 

丁度一週間前でしたか、近所の「居酒屋」へお邪魔して来た訳ですが、其処で興味深い物を見せて頂きました。百倍出しと言うものでしたが、気になって数日後、土居さんに見に行きました。

本当は其方はおまけで、主目的は川汲浜産(買いたて)と折り浜産(買いたて)の、促成熟成比較をするべくの買い足しでした。百倍は未だ、試作品で各料理人がテスト段階であるので、販売はしていないとの事でしたが、若旦那(現当主ですね)に前記の店内での経緯を伝えると特別に分けて頂きました。

砥石館で、館長や居合わせた常連さん・試し研ぎに御来館の方を対象に、促成熟成の昆布と百倍出しの二種類を試して貰ったり、自宅で取り急ぎ簡単な料理に使ってみました。うどんつゆと出汁巻きもどきに使用した所、十倍出汁よりも戻す際の加減の判断が求められるものの、把握してしまえば必要な水の量に最適な元を提供できます。塩や醤油(薄・濃)で整える必要性は同様。

出汁巻きもどきでは、通常出汁の分だけ玉子(固まり易い)が薄まり焼き方が下手だと焦げ(アミノ酸・塩分由来)や凝固不足に繋がりますが、解きほぐした玉子に直接振り入れる事により回避可能です。

 

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手渡された時点で、上記の利便性と保存性は容易に想像できましたので、是非とも販売をと希望しておきました。数年前、前当主の御主人からも、何周年記念か海外への普及時かで、昆布と鰹の配合を数種類ずつテスト用に作ったサンプルだがと、頂いたのを思い出したり。

 

 

そして、先程から記載している促成熟成ですが、以前に番組で見た方法(アレンジですが)を施して、昆布を長時間掛けて熟成した(寝かせた)効果を狙うものです。

端的には、アミノカルボニル反応(糖とタンパク質の結び付き)を図る為にゆっくり時間を置くのでなく、必要な成分を添加し加熱する事により反応を促進する訳です。

具体的には、昆布に酒を塗ってオーブンなどで加熱すると云うものです。純米酒を使い、ダッチオーブンでやるのが御勧めです。

 

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昆布は購入時に余り寝ていないと、半年から一年経過するまで少し青臭い傾向が有ります。望ましいのは一年以上、二年~三年は寝かしたいのですが。それもあって、私が昆布を買う時は1キロ入りの業務用にしています。

半分を消費する頃には最低限の時間が経過しているのを見越してですが待ちきれない場合や、湯・水から出汁を引く時間短縮を狙う場合は促成熟性を施します。ただ、此れをやると出し殻になった昆布には味・香りが殆ど残存しなくなるので再利用は難しいです。

未だ多くの料理で試してはいませんが、自分の好みでは折浜の方が合う場面も多々ありそうです。但し、上品さやクリアな後味では、どう使っても川汲に軍配が上がるでしょう。

 

 

 

 

そして、昨日は天然砥石館の上野館長と舞鶴まで出かけて来ました。若狭で砥石を採掘・加工している天然砥石尚さんの所です。以前から砥石を分けて頂いたり、色々と御話しをさせて頂き御世話になっていましたが、御当地へ伺ったのは今回が初めてです。

亀岡まで自走し、其処からは館長の車で。尚さんにはインターまで迎えに来て頂き、そのまま御自宅脇の作業場まで御案内を。

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上野さんが興味を持った工具では実際に台打ちの工程を実演。

 

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砥石館での体験用に選んだ砥石を、尚さん自ら確認の図。其々の相手に間違いの無い砥石を届けようとする拘りを感じます。

結果的に、砥石館では中級者向けと少し上級者向け、二本の田村山産砥石が置かれる事になりました。因みに、戸前と戸前浅葱だったかと。之までは、出所不明の若狭が一本だけでしたので、かの地の砥石が充実して来ましたね。

 

 

 

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其の後は、小西さんから頼まれていた砥石の選別です。舞鶴に行くと伝えた折りに、それならばと。上画像は、田村山の標準的な感じの中から大きさ・形状・お買い得価格の三点で選びました。

 

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もう一つは、やや贅沢な選び方に。元来、田村山ではレーザー型が少ないので、加工場に移動した序でに態々切って頂きました。もっと大き目の砥石に出来る所、注文に合わせて貰ったので恐縮ですが、作業を目の前で見学出来て有難かったです。

 

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で、切り落とした方も当然の如く良さそうでしたので

 

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貰って来ました。

此の二本は御依頼で選びましたが、もしも御気に召さなくても手持ちに加えたい位ですので気が楽ですね。兄弟分の切り落としも傍に在りますし。

 

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以前の加工時に切り落としたとの奥殿もおまけで。

 

 

 

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最後は、自分の仕事用(楽しみ用?)です。数年前に分けて頂いた戸前と浅葱の予備をと考えていましたが、バラエティに振ってしまいました。

少々、性質の違う二本です。今回の浅葱は弾力が少なめで、砥粒の目が立った研磨力の有るタイプ。

 

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田村山の巣板は一つ欲しいと思っていましたが、やや贅沢な質とサイズですね。御当地の巣板は硬口が多く、カミソリ砥レベルの物も有るそうですが、此れは中庸でソフトな感触。

それでも鋼の仕上がりは細かく光り気味です。弾力のある合砥とは、また異なる砥ぎ易さの砥石で面白さを感じると共に、活躍に期待が持てます。

 

 

 

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試し研ぎですが

 

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切り落としの結果です。

 

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戸前浅葱の結果。

 

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巣板の結果。

 

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巣板の別角度。

 

 

 

因みに、数年前に分けて貰った砥石。

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戸前

 

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戸前浅葱

 

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神戸の削ろう会で頂戴した天上巣板

 

常々、戸前と浅葱の予備・巣板を追加したいけれど、今度は御当地でと考えていました。昨日は積年の希望が叶って直接現場で見聞きし、選別の機会を得ました。普段使うには勿体ないレベルの砥石を融通して頂き、感謝致します。

これで、今まで使い惜しみし過ぎた嫌いがある田村山も、気兼ねなく使って行けそうです。従来、高硬度の粉末冶金鋼や特殊鋼・鉋刃に向けた役割に特化させてきた砥石達ですが、相性探しの範疇にもっと参加して貰う予定です。

 

 

 

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また、帰りには此方も持たせて下さり、有難う御座いました。一昨日に柿が切れたので(変な言い回しですね)丁度良く、久々のあんぽ柿?で嬉しかったです。

ビタミンCも案外入っていたと思いますが、同時にベータカロチンがビタミンA効力を発揮するんだったかと記憶します。緑黄色野菜代わりに、冬近くで野菜が少ない時には重宝する果実の一つですね。

 

 

 

 

「味の幅と砥石の幅」への2件のフィードバック

  1. 有難うございました(^^)

    楽しい一日を過ごせました(^^)!
    またいつでも気軽に遊びに来て下さいね(^^)
    砥石の選び方、流石です(笑)自分しかわからない様に目印を付けた極上だろうと思われる?砥石がランダムにおいてあるのですが、村上さんに選んで頂いた砥石は全部ソレでした(笑)
    僕は刃物を研いで選別していますが、触っただけでの選別でわかるのですから凄いです(*_*)勉強させて頂きました!

    1. 尚様

      半日以上、御付き合いを頂き有難う御座いました。貴重な御話しと見学で大変勉強に成りました。自宅で実際に試してみても、分けて頂いた砥石達には感心しきりです。

      自分で自分の好みの砥石は段々と選べる様に成っては来ても、総合的にどうかや特定の人に向いた物となると要素が複雑ですね。好みや研ぎ方が近いと互いに頷き合える感じでしょうか。ですので精々、硬さ細かさ・砥粒の目の立ち方・泥の出方くらいでグループ分け程度です。

      良いと思える砥石の質が近い方とは理解が速いと思いますが、その意味では双方の判定が近かったのが奏功したのでしょうか。舞鶴は以前から興味のある場所でもあり、また寄せて頂くのを楽しみにしています・・・他には海軍カレーも気になっていたりしますし。

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