この度の砥石を得て

 

前回、手に入れた砥石達は予てからの私の希望、或いは願望を満たしてくれる物でした。流石は、古来より名品と名高い中から選んだだけの事は有ります。

具体的には、巣板・合砥(曇り~薄曇りに仕上がり、切れも充分な)を超える切れと微細な仕上がり(半鏡面~鏡面)を実現し、尚且つカミソリ砥クラスの弱点克服と言うか、更なる高望みを叶えてくれる砥石です。

以前にも多少記載しましたが、カミソリ砥の弱点(やや難癖に近いですが)と感じるのは、研がれた刃物が「一様な仕上がり」に成り勝ちな事。平面以外の立体的な形状への追従性が低い事。鋼材・仕上がり等に因っては、結構適応範囲が絞られる事。感覚として線の細い切れと、唐突な切れ止みも・・・。端的には、対応可能な範囲で鋼材の個性を均質化しつつ金属粒子を微細化、平面の切り刃へ特化した砥石と言えるでしょうか。

上記の印象から、之まではステンレス(炭素鋼に比べて個性の幅が狭い)以外では、相性によって巣板・戸前系・千枚系で刃金部分を仕上げて来ました。しかし、もう一段上を実現できない物かとの想いも拭い切れませんでした。切れ・長切れ・仕上がり(美観・防錆の兼備)で、より満足いく砥石は無いものかと・・・。

千枚系統では、大まかには納得できる場合が多く、若狭の系統も取り混ぜれば上位互換や守備範囲拡大を狙えます。この上、全性能(切れ・長切れ・仕上がり)を上乗せし、守備範囲も広くて研ぎ易い砥石を望むなど、欲張りすぎだと自分を納得させていたのですが、巡り合わせの妙で幸運にも期待通りの石に辿り着きました。

結果的には、組織の粗い炭素鋼を始め、廉価なステンレス(ふにゃふにゃ)・中級品の癖の有るステンレス(柔い粘い)・焼入れと戻しが変則的なステンレス(ハシカイVG10)・粉末冶金鋼(カウリY但し実用硬度)にも最も優秀な性能を発揮。主眼の炭素鋼は当然として、特にステンレスへの長切れ効果は驚きました。あくまでも最終仕上げなので、手前の各段階で夫々の石は必要ですが。

 

 

其れが前回の砥石達でしたが、中でもこの浅葱。小振りながら、同系統の中でも目的を絞って厳選した物。一緒に試した30型や40型、大判含めた黄板等色物とは異なる反応と仕上がりに大満足です。(何故かレーザー型の色物には刃金の仕上がりが同等な石が有り、確保して来ました)

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刃金はほぼ鏡面、地金も透明感ある仕上がり。平面の刃物であれば、カミソリ砥に繋いで完全鏡面への移行も楽。

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しかし白眉は、曲面(刃・地、共)にも対応してくれ、斑の無い微細な研ぎ肌で鋭利な切れ(画像は説明用に刃金の中央で明確な研ぎ分け)。更には地金も引かず、中々の滑走感を併せ持っています。つまり砥石に当てる面積広く硬軟両部分あり、完全平面がほぼ存在しない刃物である包丁に最適。

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切り刃は千枚で刃金(先側半分)は浅葱です。刃金に比べれば地金の仕上がりは、少し補正が必要な場合も。なので、千枚の本体・小割りした物にて均し研ぎ。

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今後は要件にも因りますが、合わせの包丁については基本的に此の仕様を標準としたいと考えています。地金の千枚仕上げは変色と錆びを軽減し、刃金の○○仕上げ(今は伏せておきます)は考え得る最良の刃先を実現してくれると思います。

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おまけは、此方も探していた蓮華入り巣板で粒度細かく硬さ中庸の物(側面には蓮華だらけ・砥面には黒っぽい模様の中に蓮華が出始め)。いうなれば本焼きの標準仕様に必要な石です。

以前からの手持ちにはコッパで大中小の白巣板蓮華がありますが、やや硬目でしたので有り難いです。此で大まかに仕上げ、部分的な均し研ぎはコッパで行う事になるでしょう。

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下はその予備?(墨流し+蓮華)ですが、上の石とほぼ近似の石も取り置き依頼中

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因みに、私は心配性なので今回掲載の浅葱は勿論、前回掲載画像のレーザー型・色物の予備も揃えるべく三度、選別して来ました。幸い、意外なほど驚異的にほぼ同質の石(数個ずつ)を見つけ出せたので、今後はそれらを仕上げの主力として最大限、自分の理想とする研ぎ上がりを追求したいと思います。

 

あと、S様に御送りした石の質もやはり気に成り、近い物を手持ちに加えてしまいました。続いて御依頼頂いた青砥は、もしかすると余り御待たせせずに見つかるかも知れませんのでお楽しみに。もし、サイズ・予算で御希望があれば御知らせを。上手く行けばかなり自由が利く可能性もありますので。

 

 

「この度の砥石を得て」への7件のフィードバック

  1. 村上様
    今年もよろしくお願いいたします。
    硬いほうの砥石は砥やすく、いろいろな包丁の裏や糸引きに大活躍してます!
    敷き内はもったいなくて、本焼きにしか使ってません。

    掲載された本焼き用の砥石もすごく気になります、もしお売りいただけるならほしいなぁって(笑)
    青砥石楽しみにしてます!

    1. S様

      こちらこそ宜しくお願い致します。

      画像の二つですが、先ず大きい方は形状・サイズ・外観により(質以外の要素で)かなり高いです。私も少し無理して買いました。まあ、異常に高い物から見れば未々でしようが、自分は実用するので、ガンガン使うには勿体無いかなと思ってしまいますね。取り置きしているのも同型同質同価格です。

      小さい方は、其れに比べれば数分の1の値段でしたが此れは、厚みと変形、下半分が焼け気味のせいです。即ち、やや難が有るのを承知で買いました。もしフランス行きの話が確定した場合の為で、重量的な問題と、破損した時の精神的ショック?防止です。

      尤も、それまで数ヶ月はあるので、もう少し手頃な同系統を探しておきます。勿論、青砥も。

  2. S様

    (頂いたメールへの返信ですが、此方にも掲載させて頂きたいと思います。他にも砥石を求められる向きが有るやも知れず、であれば所感を表明しておくべきかと。)

    こう云った砥石の値段は、極端に言えば巷間耳にする所の「あって無い様な物」かも知れません。しかし、私の見解を御説明するなら、以下になります。

    もし二つの砥石から一つを選ぶ場合は、半々の確率としてマズマズ納得できます(当たり外れを判断できずに買う前提)。しかし、判断できる者が判別したなら、良い方と悪い方の価値はどうなるでしょう?例としての価格が一万円とすれば、一万円とそれ以下・一万円とそれ以上か?どちらを上げ・或いは下げるべきか。そして之が10の中から・20の中から・30の中から選ぶとすると、落選した砥石たちとの価値の差はどの様に順位付けて差別化するべきか?個人としての購入でなく選択を任された立場としては、いつも考えています。

    純粋に、砥石としての性能だけでも上記の要素がのしかかりますが、之に定型(直方体)・定寸(30型など)・色・柄についても価格が変動します。こちらは主に砥石製造販売側の理屈ですが。その上、めったに採掘されない品となると、確率の問題ですから(採れるか採れないか誰にも断言できないので)ある意味、言い値もあり得る訳です。

    ですから今回の巣板も、8万前後・10万前後・十数万・それ以上(有り得なくなって来ますが)と、どの値も付く可能性がある訳です。自分では、見た目などが整った上で性能も文句なしなら、上記の理由で凄く高価でも止むなしと思っています。そして、多くの中から性能を見込まれて選ばれたのなら(見た目は二の次の石でも)、それなりに高価になるべきだと思います。少なくとも同価格帯シリーズよりは。それは、選ばれなかった(ある意味捨てられた)砥石に対する言い訳・理由付け・慰めだと感じるからです。

    私のような立場で砥石を選ぶとは、自分の能力を糾される事・買い手に対して間違いない品を提供する責任を負う事・そして特に選ばれなかった砥石に対して愛惜の念を忘れない事だと考えています。

    1. 村上様
      研いで頂いた包丁も、教えて下さった研ぎ方を実践して(私のヘタクソ研ぎですが…)相変わらす凄く切れます!
      選んで頂いた砥石も別格です。

      自分で判断できないとはおもいますが。。試し研ぎに行けない環境で、良い砥石にめぐりあえる確立に賭ける、のも厳しいなと思いました(良い砥石を知らかったので、手に入った物が最良とおもっておりました)が、選んで頂いた砥石を使って、こんなに違うのか!とビックリしたのが忘れられません。

      こんな事を言ったら本末転倒ですが、包丁も砥石ももったいなくて使う時、惜しい気持ちになってしまいます。
      砥石も研ぎも村上さんにお願いして良かったなって思ってます!

      砥石楽しみにしてます!

      1. S様

        一度、適切な形状に整えておけば、その後はトレース・上書きを意識して研ぐ事で楽に性能を維持できると思いますし、それこそが研ぎに出す意義の一つでしょうね。

        「包丁も砥石も使うのが勿体無い」、まさしく同感です。本末転倒かも知れませんが、使い捨てや使いっぱなしと対極をなす道具との向き合い方ならでは。そのレベルであってこその愛用品であり相棒ではないかとも思います。

        其処まで惚れ込んだ砥石なり、手間隙かけて手入れした包丁は、必ず其れに応えて我が身を助けてくれる事でしょう。すると、益々可愛くなり大事にしてしまうんですよね。で、又予備が欲しくなる、と。どうしょうもないですねえ、困ったもんです。

    1. ゆうけん様

      青砥は、人造の荒砥・中砥から天然仕上げに繋ぐ役割として重宝されている層も多い様ですね。

      私は出て来る泥が多目で且つとろっとして、余りシャリシャリしない性格のは好きですが、シャリっとタイプはやや苦手なもので、使う機会は多くなくなっています。泥の出るのは減りも速く、勿体無くて。

      では、序に次の記事にでも手持ちの青砥を掲載してみましょう。

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