新品に近い包丁

 

携帯が傷んだので買い替えを考えてショップに行くと、パソコンの接続(~光り?)も一緒にどうか?と言われました。全く素人なので、パソコンその他で御世話になっており、研ぎ依頼の常連様でもある人に相談し、その方向で行く事にしましたが、他にも一つ提案を受けました。

砥石で楽しんでばかり居ないで(とまでは、言われませんでしたが)「研ぎの料金が具体的に分かる表示なども有る方が親切では?大まかにはホームページに記載されているものの、参考は幾らあっても良い」との事でした。そこで今後は、記事にさせて頂く場合は可能な範囲で掛かった料金を表示していければと思います。今回、御依頼頂いた包丁も表示許可を得ての記載です。

 

兵庫県のI様より研ぎ依頼を頂いた包丁。二年前に購入してから研いだ事は無いそうですが、其れにしては傷や磨耗も特に酷くありません。刃に掛かる負担が少ない使い方だったのでしょうか。

 

全体

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刃部

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刃先拡大

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御依頼時、添付された画像からは和包丁仕立てに見えるので、切り刃から研ぎ下ろしが必要な状態なら和包丁基準で、一寸当たり(状態により)1000から3000円。しかし損耗が少なく、刃先のみの研ぎで済むなら、洋包丁基準の1cm当たり(状態に応じて)100円から200円。と返信しました。

現物が届いてみると、前述の通り刃先の痛みが少ない。しかし、洋包丁基準となった最大の理由は、切り刃が結構な度合いでホローグラインド(刃の断面が内反り)に成っている事でした。グラインダーや水研機による初期刃付けで多少ホロー気味に・・・と言うレベルで無く明らかにそれを意識していると思われます。つまり、これは切り刃をベタ研ぎやハマグリには限りなく出来ないと考えるべきで、特に減りが少ない段階では現実的ではありません。

結果、今回の包丁は16cm弱の刃渡りで損耗の少ない洋包丁基準(1cm当たり100円)となり、15×100円+税の1620円となりました。

 

 

平は割合細かい研磨痕でしたが、より食味に貢献する様に研磨剤とラッピングフィルムで少し磨き、切り刃の少量の汚れもざっと落としました。今回は刃先のみの研ぎとは言え、其処は長切れと刃の通りを意識して、峰側から刃先側にかけて徐々にきついハマグリ。刃元から切っ先へかけて徐々に鋭角に。これで、新聞の束に切り込めなかった初期に対して楽々切り込め、抜けも軽い割には刃持ちも満たす状態になりました。

 

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研ぎ手順としては荒砥を出す必要も無い位で、シャプトンの1000番・2000番の後に巣板という標準的な流れで進みました。しかし違っていたのは、鋼材の硬さは確かに中庸ではあるものの、其処から推測出来る以上の返りの出易さ。ここは最終の大谷山(カミソリ砥)に行く前に若狭の浅黄(田村山戸前?)で何時もより一段、返りを小さくしてから仕上げました。

 

 

 

全体

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刃部

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刃先拡大

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この包丁の印象としては、硬さ・組織の緻密さはまずまずという感触からの予想を超える切れで、少し驚きました。加えて、特別に長切れを狙った仕立てでは無くても、この研ぎ易さならば頻繁に研ぐ必要のある状況も苦にはならないでしょう。

I様、この度は御依頼頂き、又記載に際しても快諾を賜り有り難う御座いました。包丁に無理をさせずに使う、そんな使い手の負担を低減する様な研ぎに成っている事を願います。

 

 

「新品に近い包丁」への4件のフィードバック

  1.    同じ柳を周一位で研ぎ初めて やがて1年に成って来ます
    最近やっと自分の研ぎ軌道に合ってきたような気が致します
    1枚刃の庖丁は切れたら良いと良く他人から聞きますが又違った
    世界を自分は垣間見る感じが致します  他人の知らない心のスパイスみたいで面白いです!! ブログ何時も楽しみに拝見させて頂いとります!!

    1. かずかずけん様

      一般論としての「包丁」に手が慣れる、という事も重要ですが、本質的には「その一本の包丁」に慣れる事が必要になると思います。後々は「その一本」を増やして行く事により、普遍的な共通項や黄金率に到達できれば・・・となりましょう。

      一年を掛けて自分と相手(包丁)を知る過程は素晴らしい蓄積だった事と推察されます。更に、その包丁を使い込んだ上での研ぎとなれば、トライアンドエラーをも内包し、そこからのフィードバックが研ぎに反映されますので、(少なくとも、使い手兼研ぎ手である所の持ち主にとっては)ベストなサイクルでありましょうから是非、機会ある毎に刺身を引いて頂ければと思います。

      一枚刃?切れたら?・・・そんな風に言われる方々と話すには、先ず言葉の定義や論拠を御教示頂く必要がありそうです。上記の内容を御理解頂くのは難しいかも知れませんね。

  2. 研ぎたての包丁での切れ味はこれまた格別ですね!
    多くの方々がむらかみさんの研ぎを見て楽しんでおられるとおもいます。
    たしかに包丁は切れてその食材の味を引き出すこれは和食の味にも通じており今や世界的に和包丁が話題になってます。
    でも、その研ぎはおそまつと言えない研ぎ方の包丁が多いのも事実です。
    自分も、包丁を研ぎ出してからその魅力にはまり現在に至っておりますが多くの方々に研ぎのすばらしさをお伝えしたいと思っていることも確かです。
    それと、包丁を使うのにまな板が日本では常識的に使われています。
    衛生上プロはプラスチックまな板を使っているのですがヤハリここは木のまな板を使ってこまめに衛生面にちゅういを払いながら使用することが包丁には一番良いと言えます。

    1. ゆうけん様

      そうですね。私もかなり以前は、特に一流の包丁人であるならば、きちんと研ぎ上げ磨き上げ、良い状態を保っているものとばかり思っていました。

      ところが、案外そうでもない事も在るらしいと見聞きするようになって、認識が変わりました。そして、それこそ「(自分にとって)研ぎ易い様に研ぎ、切れれば良い」という姿勢に疑問を感じました。

      確かに、自分の持ち物をどう扱おうが自由との考え方も有るでしょうが、物事の道理としては二点ほど引っ掛かります。一つには、相棒とも言うべき道具の包丁を(初期の状態を維持しつつ)長持ちさせる事が困難になると思われます。部分研ぎや不正確な研ぎの常態化で変形・変磨耗のリスクが高まるからです。それは製作者・販売者が誠心誠意携わっている場合、人・物双方に失礼に当たり又エコでもありません。

      二つには、最善に近くメンテナンスされていないと、本来の切れが出せず食味が落ちるだけでなく衛生状態が落ちる事にもなり(汚れ・錆の問題)、食べる相手・食材に失礼である上に、料理としての安全性にも関わって来ます。私も完全な研ぎと迄は言えずとも、上記の事柄に照らして出来るだけ礼に悖る事の無きようにと心掛けているつもりではあります。

      あと、俎板に関しても御指摘の通りだと思います。硬質の樹脂製は刃物に優しくないですね。更に由々しきはガラス製(強化ガラス?グラスファイバー入りの何か?)俎板が欧米で出回っているとの事、何の冗談かと思います。ロックウェルのCで64度をグラスハードとして(刃物硬度の)指標の一つとされる程の硬さだったのでは?それに接触・衝突させて問題無い製品がそんなに普及してきているのでしょうか。

      やはり俎板は木製、中でも銀杏(イチョウ)が扱い易いと感じます。最初は匂いが強いですが、弾力・水はけ・腐り難さ・手頃な値段と良いバランスです。只、野菜・・特に牛蒡などの色の濃い食材を切ると、色移りし易い方かなとも感じ、少し困る時もありますが。
         

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