一昨日、高雄で選別して来た砥石達

 

北海道のS様から御自身用と、北の洋包丁様の御二人分の砥石選別の御依頼を頂いて居ましたので、一昨日は高雄へ出掛けて来ました。S様からは、確りした硬さの白巣板と私の御薦め。洋包丁様からは、ザクザク下ろす巣板と私の手持ちの奥殿産巣板に近い物。(茶色系統?)

あとは一年くらい前から、自分用の蓮華入り白巣板(大平産でしたか)を取り置きしていましたので、其れを引き取る目的も有ったのですが・・・加工途中の砥石を薦めて貰ったり、偶然にも展示施設に置かれていた砥石群を集めた棚を探れた事で、自分用としても、より必要性の高い種類の砥石を入手できました。

特に、強く要望を出した奥殿産の天井巣板は、屋外で寒冷対策をされていた原石の中から大きなのを一つ、選んで切り分けて貰いました。以前にS様に御依頼頂いた結果、切って貰った物は硬口で質は良かったものの、些か構造に難が有る砥石でした。其れを踏まえた上で御買い上げ下さったのですが・・・いずれは問題点を払拭した、同種の砥石を御送りしたいと思い続けて来ました。私自身が天井巣板を中心として、未だ未だ奥殿の巣板を充実させたいとの意向が有ったのも否定出来ませんが(笑)。

 

 

 

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先ずは、北の洋包丁様への一つ目。奥殿から菖蒲に掛けての、天井巣板との事です。柔らか目なので、平面を崩さずに(部分的に集中して研がずに)使えば、研磨力を発揮します。泥も良く出るので、滑らかな砥ぎ感と刃物への当たりが特徴で、和包丁の切り刃ごと当てるのに適しています。

只、質としては黒蓮華(羽二重っぽい?)であるので炭素鋼は勿論、ステンレスや特殊鋼にも不足の無い研磨を見せてくれますが・・・炭素鋼に対しては幾分、錆や変色に留意する必要が有るかも知れません。しかしステンレス・特殊鋼では其の懸念も少ないでしょう。

 

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裏を見ると、カラス模様も確認出来ます。カラスが有ると、何らかの特性を見せるのかは未だハッキリしませんが、少なくとも此の手のカラスが悪影響を及ぼす事は無かった筈です。

 

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何時もの切り出しで試し研ぎです。刃金は、やや仕上がりの緻密さは控え目ながら速く下ろし、地金の仕上がりは曇り~薄曇り。

 

 

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同じく二本目。此方は、奥殿のスタンダードな巣板とも言える、白と茶色の混じった物。しかし硬さは、上から数えた方が早い程度には硬口です。或る意味、上の柔らか目の巣板と同様に、此の硬さの巣板も扱いには若干の技術を要するかも知れませんね。

そして、後述しますが双方の砥石とも、硬さに於いては大幅な違いを見せながら、砥粒の種類としては結構な尖り方をしています。御蔭で、鋼に対してもシャリシャリと(少しオーバーに言っています)下ろす方向性です。

 

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裏は、皮の元々の様子が分かる状態です。

 

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研ぎ上がりは、刃金が鏡面~半鏡面。地金も半鏡面~薄曇り(明かる目)。硬くて緻密な砥面が、遺憾なく効果を発揮してくれています。

 

 

 

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北海道のS様への一つ目、奥殿天井巣板です。超硬口~硬口とまでは行かないのですが、可成り質が良く、難が少ない物。しかし先々・・・数ミリ減らすと、もう少し硬くなってくる可能性が有りそうです。勿論、硬さに加えて緻密さも向上するでしょう。此れは私が選んだ方の天井が、減らして行くに従って墨流し模様・紫色が増しつつ、硬さと緻密さが向上した経緯が有るからです。(私は少し難が有る方を選択したのですが、未だ其の荒れた部分は消えていません)

 

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裏は、天井巣板に良く見られる景色です。

 

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研ぎ上がりは、刃金が半鏡面で地金は薄曇り(反射は強め)です。今の段階では、刃物への当たりはソフトで適度な抵抗と共に強く下ろします。天井に特有の弾力を持ち、硬さに比して砥面の変形(研ぎ減り)は控え目です。

 

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上の天井を切り分けて貰った際、切り落とされた端っこです。共名倉として丁度、使えますね。

 

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只、表層の皮と接しているカネの筋、その下にも走る純然たるカネの筋が邪魔です。しかし、下手に剥がそうとすれば割れてしまうので、広く叩き落とした上でダイヤにて丸く削り、擦り合わせても当たり難く整形しました。薄茶色の筋は、問題無いです。

 

 

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そして、予てより御本人の希望であった白巣板の硬口。手頃なのを探して居る内に見つけたのが、小振り乍ら蓮華入りの物。勿論、結構な硬口です。

 

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裏は若干、平坦で無い部分も有りますが・・・。

 

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研ぎ上がりは、刃金が半鏡面で地金も薄曇りから半鏡面(反射強め)。

 

 

 

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私用にも、天井巣板です。S様に選んだ物よりも少し、柔らかいかなと云うのと、筋の辺りに二か所の難点(ひび割れ・荒れ)が有った為、此方に決定。

試しに使ったり面を整えたりして減る程に、硬さ・緻密さは増して墨流し模様と紫色も強く出て来ました。此のままでも広範囲に使用出来て便利ですが、もう少し硬くなると、更に上の切れへの期待も。

 

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裏は、普通の天井の色と柄です。

 

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研ぎ上がりは、S様の天井に準ずるもの。

 

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此方にも、切り落とした部分は有り・・・

 

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こんな感じで、厚さも面積も有るので、小型のナイフ等には充分、研ぎに使えそうですね。

 

 

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北の洋包丁様に選んだ黒蓮華(羽二重っぽい)を3~4段階、硬くしたような質です。同じく、幾分は砥粒の目も立っており研磨力は充分。その代り、傷や斑を出さずに砥ぎ上げるのは技術を要する傾向に有ります。

 

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裏は奥殿の巣板(白色)に、よく見られる景色です。

 

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研ぎ上がりは刃金が薄曇り~半鏡面で、地金も薄曇り~半鏡面近くに。

 

 

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上画像は、一枚の原石を開いて二枚にした物。

 

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開いた二枚の状態です。

 

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メインの方、奥殿の巣板、茶色です。混じりっ気の無い物は案外、少数派の様ですね。中硬~硬口ですが、砥粒の目が立ち気味ですので食い付きが良く、中庸の硬さと相俟って研磨力は相当な物です。

 

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裏は、奥殿の巣板の茶色に良く見られるものです。

 

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研ぎ上がりは、刃金・地金ともに薄曇り(明るめ)。やはり、硬さと質に則った仕上がりです。柔らか目や、研磨力重視(砥粒の目が立っている)の砥石には良くある傾向。稀に、硬さからは想像以上に鏡面方向の仕上がりを見せる砥石も有りますが。

 

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開いた薄い方も試しましたが、何故か更に明るめの様な?。反射率も高そうです。流石に天然には、嬉しい誤算?も付き物で(笑)。

 

 

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中山の赤ピン系統の物。本焼き用として予定していた、大平産の蓮華巣板の代わりに選んだ砥石です。かなり柔らか目で、広い面を一遍に当てたり傷を消したりする場面で、重宝しそうです。

 

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裏は、平面部分が多くて安定しそうですね。

 

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研ぎ上がりは、此方も硬さと質に応じた物。砥粒の目が余り立っていないので、曇りがち乍らも傷が浅い仕上がり。

 

 

 

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此方は現在、判子を作って貰う事に成って居る店へのプレゼントに、高雄で貰って来た切り落としです。既に、長四郎と赤ピンの切り落とし(薄くて小さい)を渡して来たのですが、再度訪問の際に追加でと。

女将さんと若女将?の御二人とも、篆刻刀や彫刻刀で仕事をされるのは当然の事ながら、其れを研ぐ仕上げ砥は天然砥石。20~30年前に業者が販売に来た時に購入したそうで、拝見した所では硬口の東物。今と成っては中々、同等の物は入手が困難とか。

若女将の方は、何やら大会にも出場するガチ勢らしいので・・・研ぎの気分転換や、御気に入りの前の下研ぎにして頂ければと。他にも、彫る対象の材質に依っては、予想以上に有効かも知れませんので。

 

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厚みが有りましたので、中央に鏨を入れて真っ二つに。綺麗に割れて呉れました。

 

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双方、裏に成る面を整えてから向かい合っていた面を砥面にしました。何れも中硬~硬口の奥殿の巣板、茶色の様です。

 

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筋などを避ける必要が有るので、篆刻刀・彫刻刀には問題が無かろうと予想しましたが・・・切り出しも行けましたね(笑)。

 

 

 

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最後は何時も通り、若狭(田村山)の切り落としで仕上げて置きます。

 

 

 

後述すると記載した、砥石の質に関する内容です。特に御依頼を頂いた物と云う事に成りそうですが、私の選別した砥石に押す判子に付いてです。

基本的に、「村上好み」の性質の中で高性能な物を提示する方向ですので、飽くまでも最高級かどうかは保証しません(笑)。と云うか、如何なる刃物を如何様に研ぐか・如何なる研ぎ手が研ぐのかを想定できないので、不確定要素が多過ぎて無理でしょう。

同じ理由で、私の判子を押された砥石群の中での優劣も、普通は付く事が有りません。此れは、「砥粒が微細で均質・砥粒の凝集性が緻密である・砥粒の目の立ち方が適切」と云う基本性能での事です。筋や層の境界などの難が有る要素では、ピンキリでしょうけど当該箇所を避けて使える人には、致命的な欠陥と迄は行かないと思います。当たらなければ、どうと云う事は無いですから。

従って、松竹梅とか一級・特級の区分けや上・最上等のランクは付けません。代わりと言っては何ですが、使い手が参考に成る区分を付けようかと。私が砥石を区別しているのは上記の砥粒の三要素を踏まえて、大まかなジャンルは三つです。手触りで言えば、サラサラ・スベスベ・キシキシと成ります。とは言う物の、硬口に成る程に普通は、ツルツルとしか感じられなくなって行きますけど(笑)。

予定としては、硬さに加えた其のジャンル分けが表記出来ればと考えています。ジャンルをABC,硬さを12345段階で分けると、A3とかに成って和牛のサシの入り方みたいですので、α、β、Θ辺りが良いかも知れませんね。因みに、今回の選別で入手して来た砥石に表示するなら、以下の様になります。

 

北の洋包丁様の一本目(天上巣板):Θ 2

同じく二本目(奥殿巣板白茶色):Θ 5

S様の一本目(奥殿天上巣板):α 3

同じく二本目(奥殿巣板白色):α 5

自分用(奥殿黒蓮華):Θ 5

同じく(中山赤ピン):β 2

同じく(奥殿巣板茶色):Θ 3

 

と成ります。因みに、一般人が使いこなせないレベルの硬さは含まないので、6~は想定していません。あと、妙に弾力が有ったり、ダイヤに掛かり難い質の物も硬いと感じられますが、要素が複雑に成り過ぎるので、切り出しを当てた感触でと割り切っています。

 

 

 

 

 

「一昨日、高雄で選別して来た砥石達」への10件のフィードバック

  1. 御選別有難う御座いました!
    手持ちの、天井巣板は1番のお気に入りで、勿体無いなと惜しみつつ出番が多いです。
    全く難を感じませんが、お気にかけて下り村上さんのお心遣いとっても嬉しかったです。

    白い巣板も、どんな砥石なんだろう?と好奇心で、ご依頼させて頂て頂きましたが、素晴らしい砥石を御選別下さり楽しみで仕方ありません。

    御選別砥石に間違いないのは言わずもがなですので
    砥石を楽しむのに、判子は指標になり砥石の事を知るのにとってもわかりやすいと思いました。

    自分への最高のクリスマスプレゼント有難う御座いました!!

    1. 御依頼を頂きまして、有り難う御座います。御期待にかなう砥石であればと願っておりますが、先ずは御届けして御確認を頂きたいと思って居ります。

      判子での表記は私が言って来た、砥石に関する説明を御理解頂けたり、次の御依頼の際の参考にして貰ったり、お手持ちの砥石で研ぎ比べる際の手助けにも成ればと愚考しました。

      1. 御選別砥石はメールでご説明いただいたり、メモを付けて頂いたものが、とても参考になり、そんな気持ちで村上さんの、真似して砥面撫でてみたり、研ぎ感を感じてみたり楽しんでおりました。

        後で纏めてお送りさせて頂く砥石達にも指標の判子楽しみにしております!!

        1. 私の説明や文章が、お役に立っていましたら何よりです。自分が知り得た知識や、体験を重ねて見えて来た傾向を、研ぎで悩んでいる方々の問題解決に繋げられたとすれば、研ぎを追究する者の本懐と言えます。(勿論第一義は、刃物を研ぐ事それ自体なのは間違い無いのですが)

  2. ブログ楽しみにしておりました。
    念願の村上選別砥石を手にする事を嬉しく思っております。
    ザクザク下す巣板などと我儘な注文をしてしまったと反省しながら待っておりました。
    硬めの砥石は、村上さんのフニッシュの砥石にに憧れてご依頼させていただきました。
    上手く使いこなせるよう、研ぎを楽しみたいと思います。

    S氏と調理人集めて試し研ぎ会を開こうと思います。
    S氏の村上様砥石も触ってみたいのが本音ですが、仲間にも村上様の選別砥石の素晴らしさを体験してもらいたい思っております。

    次はS氏おすすめの赤ピンをご依頼したいなと企んでおります。
    仲間も砥石に魅了されると思いますのでその折はご依頼さて下さい。

    1. 具体的な御依頼の方が、選別には助かります。但し、其れに見合う砥石が無いと、手の打ち様が有りませんが(笑)。その場合は、代替品で良いのか次の機会を待つのか、判断して頂く他は有りません。

      ザクザクの方とは、違う方向性での手強さが有ると言いますか・・・今回の白茶色は、中々に硬いのですが使いこなせばヤワな鋼材にもシャキッとした刃を付けてくれます。

      皆さんで楽しんで頂けましたら幸いですが、赤ピンは豊富に揃う方では無いので、タイミングと運次第な部分が大きいかも知れません。

      1. ザクザクは中継ぎ的に使える砥石のつもりでご依頼さて頂きました。
        白茶色の砥石活躍の現場沢山ありそうです。私は高村さんの包丁好きで使っており、今回の砥石達との相性も楽しみにしております。(S氏の選別緑板、天井巣板とはとても良い相性だなと感じました)

        赤ピンも硬いのは色々とブログで拝見し興味がありました。

  3. そうですね、中継ぎとしては万全の存在でしょう。しかし、殊ステンレスと言う事に成れば、仕上げとしても適任かも知れません。柔らか目で研磨力も有りますので、砥石の平面維持・返りの出過ぎ予防で優しく使って頂ければと。

    硬い方は、念の為に共名倉を用意しました。長四郎の正目に面が付いた物ですが、普通に使えますし場合に依っては、目を起こす用途にも好適かと思います。

    天然砥石は総じてなのですが・・・赤ピンもピンキリですので、仕上げ砥として必要充分な質の物(硬さと細かさ)を選別しなければ行けません。そうなると、基本は複数が揃った条件での選別が不可欠となり、正に其の時・其の状況に居合わせなければ成りません。

    出来るだけは努力してみますが、複数回の出張でも出会えなければ、見付けた時の砥石は超高価格と成るので、余りに拘ると覚悟が必要な場合が有ります(笑)。

  4. 砥石受け取りました。
    白い巣板は硬いにのに普通に研げてしまい、サクサクな研ぎ感が楽しく研げ、研ぎ肌もムラがでず、ニヤニヤしてしまいました。
    模様も綺麗な砥石ですよね。

    天井巣板に驚きました!
    クッション性があり研ぎやすく、地金刃金どちらも傷も入りずらいく、しかも良く下すのに、仕上がりは鏡面近くに。切れも切れすぎ注意な刃が付き、色んな刃物を引っ張り出して試してみました。
    楽しくて時間を忘れて研いでいました。

    とっても良い砥石ありがとうごいました!!

    1. 無事の到着に安心しました。

      私も、お送りした程の奥殿の白は持っていません。少し控え目な蓮花が入った小さめ、位です。其の手持ち以上に、砥面に難も無く仕上がりが良さそうだと判断しましたが、間違い無かった様ですね(笑)。

      奥殿の天井巣板は、加工の途中から正に期待通りの石の質であるのが分かり、とても嬉しかったのですが・・・S様にも今回選別した石の良さを御理解頂き、その希少性・性能の高さと共に喜びを分かち合えた事を更に欣快に存じます。

      此れで、奥殿の天井巣板の勿体無い病が寛解に向かいましたら、幸いです(笑)。

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