知人の主婦から、家に在った古い包丁が出てきたので研いで欲しいと依頼を頂きました。
渡された包丁は、やや旧型と思われる正広の牛刀で、刃の磨耗や欠け・ある程度の錆等は想定内でしたが、過去の研ぎによって顎の削りすぎ・切っ先の研ぎ残し・中央部のタナゴッ腹+切っ先側三分の一が直線気味となっていました。
左側面
刃部のアップ
右側面
刃部のアップ
刃先拡大画像
先ずは、GC240番で欠け取り・刃線の修正。次に何故かキングの1000番。普段ならステンレスはシャプトンで行くのですが、現物がかなり片刃仕様だったのでつい無意識に。
この段階で刃の通り(対象に直圧で切り込む)と抜け(スライドさせての抵抗)をテスト。OKだったので側面の傷・研ぎ目・汚れ・錆を軽く耐水ペーパーと研磨剤で落とします。
ここからは天然です。「白巣板・黒蓮華」の柔らかめと硬め
敷き内曇り
合いさ八枚風(最新型)
田村山・戸前
大谷山
最後の二種には、田村山の切れ端の柔らかく細かい方を共名倉に
研ぎ上がり
左側面
刃部のアップ
右側面
刃部のアップ
刃先拡大画像
正広は、数年前に自分でも身内用に道具屋筋でオール金属モデルを買った事があります。それにはモリブデンバナジウムと表示があったと思いますが、今回のはダイドーステンレスとの刻印があるので、大同特殊鋼製の鋼材なのでしょう。研いだり切ったりした感覚から、ナイフ用(一部包丁にも使用)鋼材で例えれば、前者はやや柔らかい440Cで後者はそれより少しだけ硬い8Aといった所です。僅かな差ですが、「滑らかな細かさ」と「カリッとした掛かり」で性格が違う様です。
研ぎ上げた牛刀は特に使う予定や目的が在る訳では無く、使うとしても専ら母上だそうです。しかし、これは仕舞っておくには勿体無い性能(最近のスーパー・ホームセンターの中級品には遅れを取らない)。且つ肉・魚用に向く片刃仕様というキャラが立った包丁なので、ハムや塊肉のスライス(牛腿肉のタタキとかローストビーフ的な物)・柵から刺身を引くといった活躍の場を設けて頂けたらと思います。現在、普段使いの包丁が、左右均等の刃付けによる三徳や牛刀で、特に切れ味が良い訳では無い場合、上記の使い道でこの包丁は別物の働きをしてくれるでしょう。更にステンレス同士の比較であれば、軽く磨いた側面と天然砥石で仕上げた刃先による、味の向上にも貢献が見込める為、包丁・使い手の双方が今回、出てきて良かったと感じて貰えるのではと思います。是非家庭内で、特徴を活かしたジャンルで活躍する専用包丁としての道を歩んで欲しいです。
>ダイドーステンレスとの刻印が
かなり昔の庖丁と思います。
大同特殊鋼の刃鋼を正広が使っていた時代は平成の初期ではなかったかと思います。
ゆうけん様
情報を有り難う御座います。時期によって、使用鋼材が結構変わるものなんですね。
私が特に印象に残っているのはナイフのスパイダルコで、ATSやら銀紙やらVGやら忙しそうだなと思っていました。それに比べると包丁関係は全く目まぐるしくは無い印象でしたが、そうとも限らないと云う事でしょうか。或いは特定のモデル故に起因する事例とか。