洋包丁(ナイフ類)の研ぎ減り

 

洋包丁(所謂キッチンナイフ。また、多くの一般的なナイフ類も)の刃付けには、フラットグラインド(平らな研削)・ホローグラインド(刃先近くまで凹面の研削)・コンベックスグラインド(刃先まで放物線的に続く凸面構成)等があり、料理用途に特化して行く程、殊に刃先以外はフラットグラインドが多くなります。しかし、殆ど全てに共通する点としては、刃先から2~3ミリ幅で実際に切れる刃である所のエッジ(小刃)が付けられている事です。

最初の内は、切れが落ちても大抵、エッジを上書きする様に研いで居れば問題は無いのですが、困るのは経年の研ぎ減りや、欠けを取る為に大きく研ぎ下ろす場合です。殆どのブレード(刃体)が程度の差はあれ、峰から刃先まで厚みが減っていく刃付けに成っている為、最初の角度のまま研いで行くと徐々に厚さが増して行き、エッジの幅は広がります(接触面の増加による摩擦)。加えて、断面から見るとエッジの始まりに当たるブレードとエッジの境界の角が食材に切り込む際の抵抗となります(切り込む初期に幅広になった刃先が割って入る際の抵抗)。

上記の問題に対処する方法として、多く用いられるのが刃体自体の厚みを減らす事です。これは刃先の厚みを初期に近づけるのを目的とする物ですが、元来コンベックスでなくフラットな刃物でも実際の研削に於いては緩いコンベックスに近い仕上がりになると思われます。何故なら製造段階と違って、峰から刃先まで均一の面で研削し直す事がほぼ不可能だからです。しかし、元来コンベックスの刃体であれば元々の形状に則って(設計・コンセプトに従って)維持・管理している事になりますが、そうでないなら厳密にはコンセプトから外れている事になります。

一つの例として、(ハンティングナイフの範疇ですが)ガーバーのアーモハイドシリーズでは、高速度工具鋼のフラットなブレードの錆を防ぐ為に、エッジ以外を厚めのクローム鍍金で覆っていました。この場合、研ぎ減ったからといって刃幅の半分や3分の2辺りまで厚みを削り落とす設計思想とは考えられません。そんな事をすれば、余分にコストを掛けたオーバークォリティな鍍金が台無しです。これは極端な例かもしれませんが、自分は製造された状態を大幅に変更する事には抵抗があります。もし、刃先の角度を変えずに研ぎ・使い続けたいならば和包丁の構造を取り入れ、平と切り刃を形成するべきでしょう。

とは言え、肉や魚を適当に分断するだけなら未だしも、傷めずに切り分けたり野菜を綺麗に切るには分厚くなった刃先では上手く行きません。ですので、ある程度は厚み抜きをしなければなりませんが、精精、初期のエッジの2~3倍までの幅で構成可能な鋭角+ブレードとの段差角を丸める程度としています。勿論、それ以上の研ぎ下ろしを行い、広範囲の面の再構築も可能ですが、手間隙に比例した金額となり、何より元々の包丁の成り立ちやコンセプトから外れます。其処まで行けばもうメンテナンスでは無く、リフォームの域と言えるでしょう。作業内容としては工場送り返しが相応しいですが、メーカー刻印(印刷・腐食含む)等が消えるので受けて貰えない場合が多いかも知れません。

使用者が求める様に変更を加えるのが道具、との考え方もありますが、目的に合っていない使い方をしないのも又、本当でしょう。一本で何でも賄って、研ぎ減って分厚くなった牛刀を薄く薄く削りながらペティの様になるまで使い切るよりも、刃幅が半分に近く減って厚みが目立ってきたら、荒い仕事用に振り分ける。そして以前の用途には新しい牛刀を用意し、特に細かな用途や繊細な切れが必要な場面の為にはペティも準備しておいて分担させる。此方の方が効率も良く、道具を活かして長持ちさせる事に繋がると思います。

そもそも、鋼・ステンレス問わず、程度の良い牛刀(に限らず)を手入れしながら(適切な研ぎ・洗浄・乾燥)上手に使えば、一生の内にそう何本も買い換える必要は無い筈ではあります。良い物を大事にしながら適切に使えば、最終的には余分なコストは低く、使用時の負担は軽減(むしろ楽しい)、所有感も満たされ、満足度は間違いなく上がるでしょう。いま一度、振り返って見られるのも良いかと思います。

 

「洋包丁(ナイフ類)の研ぎ減り」への2件のフィードバック

  1. 納得です(^^)
    うちの普段使いの牛刀は週に一度、長くても二週間に一度は研ぎます。これぐらいの頻度で研ぐと欠けが無い限り仕上砥のみで研ぎ時間2〜3分で研ぎ上がり余分に鋼を研ぎ減らす事なく長持ちする様に思います(^^)

    うちには何本もの包丁が有りますがうちの嫁は何でもこの牛刀で済ましてしまいます(笑)

    1. 尚様

      完全に同意です。其れがベストな使用環境だと考えています。しかし、もし砥石や技術的な問題で週に一度・若しくは十日に一度、適正に研ぎ上げるのが難しい場合には、使用者が信頼出来る相手を選んで研ぎに出すべきでしょう。一週間から三週間の使用期間であれば、上手く扱える人の包丁なら仕上げ砥のみ。悪くても中砥を少し当てる位ですぐに切れが戻るでしょう。切れないと力を入れて大きな抵抗を受けながら対象に切り込む事になり、更に俎板に当たる衝撃も大きく成りがちで、摩耗や欠けが酷くなります。

      自分ではステンレス系統は数回の使用で(切れの変化が無ければ別です)軽くカミソリ砥クラスで撫でておきます。特に普段使い用の物は、手の平の半分程度の薄層の大谷山を持って床屋スタイルです。各人で、使用状況と期間に応じた研ぎを判断してストレス無く切れる状態を維持して頂きたい物です。

      何でも牛刀で済ませるのも、酷い扱い(魚のかぶと割りやカニの殻割り、食材以外の切断など。・・・超絶技巧が有れば別ですが)をせず、無理を掛けない使い方であれば、やや減りが早いだけですので余り問題は無いと思います。特に、鈍る前に研いで貰っている幸せな包丁ですしね。可哀想なのは、基本性能を上回る仕事内容を要求されたり、使い方を理解していない使用者の手にある包丁です。一般の人が刃物その物と使用法について、基礎的な知識や技術を身につける機会が有ればと思います。

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