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研究に使えそうな機材色々

 

先日、研ぎ文化振興協会繋がりで京都府中小企業技術センター関連施設において、此方で実証を目指している試験項目の相談と、希望する研究に使えそうな機材の見学をさせて頂きました。

大きく分けて

①表面の粗度・硬さ(表面のみでは無いが)・組織の性状や組成分析用

②立体物の寸法や形状計測用(接触・非接触あり)

③金属の対候試験用(温度、湿度のみ・塩分含有雰囲気下での曝露)

があり、項目によっては、それぞれに能力の程度や使用する物(分光やX線など)による違いで、単一目標にも関わらず複数用意されていました。

 

以下は見学の際説明を受けながら撮った画像です。

 

CNC三次元座標測定機 X・Y・Z方向でプローブの接触により計測

IMG_0533三次元座標測定器

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画像測定機 CCDやレーザープローブによる光学計測

IMG_0534画像測定器

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下画像は、最初にある物の簡略型で、直線上をレコードの針で表面をなぞる様にX軸方向(上下方向)のみに数値を出しますが、複数列繰り返せば、ある程度の面積にも対応出来ると言う事です。

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非接触三次元測定装置ですが、あまり大きな試料には対応出来ないようです。レーザープローブ式。

IMG_0537非接触三次元測定装置

 

下は硬さを計測出来ますが、かなり新しく、高度な測定が出来ます。例えば、従来のロックウエルやビッカースと違い、余り表面に傷を付けずに軽い接触で可能です。

IMG_0538硬度測定器

 

5%食塩水を噴霧して、耐蝕性能を比較するのに用います。通常、数十時間から数日の範囲で運用するとの事です。

IMG_0539対候試験機

上の物より一般的な(塩分含有雰囲気での曝露でない)温度湿度サイクル試験機です。此方の方が実際の使用条件に近いテストが出来そうです。

IMG_0540温湿度試験機

 

 

下はやや旧式で、倍率も比較的控えめだったと思いますが、研磨の表面を通常観察するには手頃かと感じた顕微鏡です。それ以上の新型・高性能な物は、減圧下で試料を拡大しつつ成分を分析出来たりする優れものですが、入れられるサンプルが小さい物限定であったり、磁気を使用する為に金属は不対応だったりします。しかし、機材によっては所謂ステンレスの酸化皮膜自体を計測し、極表層、中央、最下部で酸素の含有量まで分析可能との事です。

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以上の機材を用い、刃物の研ぎ肌の粗度、形状の精度(平面度合い・目標とする形状との差異)、天然砥石仕上げの耐蝕性などを調べられればと考えています。これらによって、良い刃物は勿論、適切な研磨とそれを支える砥石の価値が見直される事を願っています。

 

 

 

検査の準備

 

包丁は、普及品の利器材使用品(新品)との対比用に、手持ちの中からやや高級な利器材使用品の包丁(新品)、手打ちの包丁(新品)を考えており、加えて手打ちの包丁に研ぎを施した物で仕上がり形状の違いが出ればと思います。

 

その研ぎの種類として、刃先以外はほぼベタ研ぎで、切り刃の厚みもほぼ一定にした物の例です。これは、包丁の身自体が刃元から切っ先に掛けてある程度テーパー状に造形されているからです。

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白巣板仕上げ

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これも刃先以外はほぼベタ研ぎながら、切っ先に掛けて切り刃の厚みを意識的に抜いた物です。これは上記の物とは違い、両端以外は身自体の厚みの変化が少なかった為です。

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敷内曇り仕上げ

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此方は身のテーパーがかなり強調されている仕上がりだったので、切り刃の厚みは一定気味。しかし鎬から刃先まで極緩いハマグリ刃にしてあります。やや欠けやすい白紙一号Aである事も関係しますが、普及品の大半が多段・若しくはハマグリ風の刃付けになっているのと対比が出来ればとの想いからです。

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千枚仕上げ

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最後にもう一度研ぎ直した普及品の切り出しです。

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研磨の精度

 

これまで研ぎに於いては、刃の厚みや角度の連続的且つ不可逆的な変化、また面の連続性・平滑性・平面度合いの向上を重視しつつ取り組んで来ました。それは刃先の切れ味と並ぶ重要項目である、「掛かり・走り・抜け」に直結するからです。つまり対象に切り込み始めてから刃が受ける抵抗(スライドしつつ進むので縦横2種類の方向からの抵抗になりますが)が一定・或いは軽減しながら切り進む状態に仕上がるかどうかに関わります。これが実現されれば、綺麗に野菜の皮を剥く・切り分ける、肉や魚を傷めずに切ると言った事が出来るだけで無く、それに必要な筋力も少なくて済みます。

しかし製造段階での刃身の状態や出荷直前の刃付けにより、どの程度研磨すれば問題無いレベルにまで仕上がるかは大きく左右されます。大まかに言えば値段の高い製品程、良い状態で販売されている確率が高い訳ですが、各項目全てに十分なコストが掛けられる最上級品を除き、材料・デザイン・本体の表面処理・刃身や刃付けの歪み取り等、それぞれ何処かに絞られています。勿論コスト以外にも製造側の技術的な限界もあり、一定以上のレベルに仕上げるには多かれ少なかれ購入後の調整研ぎが必要になります。(和包丁は洋包丁よりも調整範囲が広く、より大変になります。)

結果として、安い刃物だから研ぎも安く済ませたい、といった感覚は良く理解出来る物の、現実的には逆に正確な状態に仕上げるまでのハードルが高くなります。使用されている鋼材は硬度の低い物が多い為、研磨は楽に思われそうですが、これも逆に粘りが強すぎて返りが取れなかったり下りが悪くて刃が付きづらい事も多いです。従って快適に使える仕様に調整するには研ぎ手や砥石に要求が多い刃物とも言えます。

上記の「掛かり・走り・抜け」では刺身など、主に引き切り(プルスライド)の場面で重要になりますが、反対に押し切り(プッシュスライド)の場合は楔効果で割り開く働きが得られ、植物性の繊維を断つのに効果的です。効率的では無いので薦められない刃を真っ直ぐ押しつける落とし切り(ドロップカット)では関係ない様に思われますが、この場合も切り刃の断面形状によって対象への侵入時の抵抗が違ってくるので、最低限「直圧による刃の通り」だけでも考慮するべきだと思います。

 

以上の要素を突き詰めてきちんと研げているかを研究する為、遠からず産業総合研究所的な施設で平面精度や表面の平滑度合いを検査して貰う予定で居ます。具体的には凹凸を色違いで画像に表したり、厚みの変化のバラツキの程度が可視化出来ないかと考えています。そこで手始めに普及品の切り出しを仕上げて新品との違いを確かめる準備です。

 

新品時の画像

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一端ここまで仕上げましたが

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GC240番、電着ダイヤ1000番、キングデラックス1000・1200番からのシャプトン1000・2000番

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敷内曇り

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白巣板蓮華

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本戸前

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千枚

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カミソリ砥

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他には、下画像のホームセンターで販売されている三徳包丁に対して、自分の手持ちの三徳の新品、更にはそこから研ぎを加えた物で比較して違いを見たいと思います。包丁の値段の違いによる差異が明確になれば、それぞれの値段なりの包丁の価値が再認識され、的確に目的の形状に研磨されている事が実証されれば、研ぎの正確性や重要性が確認出来ます。

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