切れの標準仕様

 

少し前のハマグリに付いての記載ですが、もっと前からの背景と言うか切っ掛けに成った事柄が有ります。研ぎ進める上での砥石の種類・性質に基づく組み合わせや、そのバラエティとしての複数のルートは標準的なものが決まっていました。勿論、刃物の形状や素材に対応してです。

そして、刃体の形状に対応して切り刃・小刃・糸引き、更に其れらは平面かハマグリか複合か。この辺りも最適解は初期状態と目的により変動するものの、大まかには角度・厚み・その変化の付け方の相場みたいな基準も確立に近付いている気がします。

包丁を主体とした一般的なナイフ類については、程度には絞るべきかも知れませんが。飽くまでも初期の形状から大きく外れない範囲で性能を引き出す方向。

上記の手順に則って、形状を整えつつ切り刃・小刃の調整を済ませれば、後は返りを取るだけです。ですが、此処まで仕上がった刃体の御蔭で、返り取りの結果が多少バラついた(ミクロの世界的なレベル)としても、誤差の範囲と言える影響程度です。例えれば、髪の毛が真横から押し付けるだけで上半分が落ちるか、部分的に繋がっているか。

特に、紙一枚~数枚を切るテストよりも、数十枚を切る性能を重視して来た事も有り、十分以上に切れていれば問題無しとしていました。拡大画像でも(200倍ですが)明らかな不備は見えない仕上がりに纏めては来ました。

しかし何時からか、返り取りをしていて、左右(表裏)の感触の僅かな違いを気持ち悪く感じる意識が強くなり、其れを打ち消す試みを繰り返す様に。紆余曲折は省きますが、結果的に返り取りの成否は、返り取りをする前に決していました。つまり、条件が整っていない返りを出した時点で、取り方を相当工夫しても好結果に結び付き難い。

必要な条件とは、出来るだけ目の細かい返りを殆ど有り得ない位に出す(出ないのが理想ですが困難)訳ですが、此の時に左右(表裏)均等に出すのが肝要です。過去を振り返れば、此れら各項目の一つ・或いは二つに気配りしていた記憶は有るのですが、三つ同時に且つ完全を目指していたか、自信が有りません。

後年は恐らく、二つ目までを重視して何度かに一度は返りの左右の不均等を、やや強引に落としに行っていた気がしますし、其れが結果的に誤差レベルでは有れど(理論上)最高の仕上がりとの差を生んでいた気がします。

サイズの大きな返りを取る・目が大きいままの返りを取る。この二つの悪影響が明白であれば、左右差(量・角度)を有する返りも又有害で当たり前でした。刃先が荒れる要件を潰して行くに如くは無く、今後はより返り取りの操作中の感覚に留意すべきと得心しました。

返り取りが「返りの状態チェック」を兼ねる訳で、手間も費用も増えないので同様のお悩みを抱えて来た諸兄にも、お勧めしたく記載してみました。チェックで合格しなかったら、強引に落としに行かず最終仕上げのやり直しへ。やはり、何かが心に引っかかったら検証して対処するのを徹底するべきですね。中々、物事全てにとは参りませんが。

 

 

 

※ 紆余曲折とは、左右の砥ぐ回数を同数に。其の上、仕上げ前には徐々に回数を減らす。圧力を均等に心掛ける。等、従来やって来た方法に加え、返り取りの素材各種や新たな方式を試行錯誤したけれど、変に出た物を取る努力は出さない努力に敵わない事が判明。出さなければ、返り取りの素材や状態への依存度も低くて成功率は高い。硬さと粘りのバランス的に厳しい素材(形状保持に不利)への攻撃性も低い結果と成りました。と云う内容です。

 

 

 

 

甲伏せの剣鉈

 

本焼きの御依頼が続いていましたが、更に特殊な(表面の殆どが鋼)甲伏せの刃物が届きました。通常、それ程には本腰を入れていないものの、此方も刃紋が付き物で。因みに合わせの方では鍛接線とか刃境の名称になります。飽くまでも鋼の表面に現れる硬度差や組織の違いから来る景色

割り込みが軟鉄で鋼鉄を包んでいるとすれば、甲伏せは鋼鉄で軟鉄を包んでいる構造。四方詰めとか三枚と並ぶ、刀の作り方の一つですね。四国で作られており、知ってはいましたし一度は砥いでみたいとも思っていましたが、この流れで来るとは少々驚きました。

 

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到着時には、持ち主により欠けと傷を取る目的で少々、砥がれた状態でした。特に刃線の乱れが気になったとかで、刃引きの状態。刃紋もハッキリせず。

 

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刃元から切っ先へ向けて厚みをテーパー状に減らします。特に切っ先カーブ前の厚み。切り刃も左右差があり、左を減らして右に合わせます。これらを人造の400番、1000番で整え、耐水ペーパーで全体の磨き。

 

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その後、人造から天然の小割りした砥石で微調整と磨き。

 

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地金は各種巣板で、刃金は巣板からの千枚仕上げ。最後に刃先を中山の卵色で調整です。

 

 

 

仕上がり

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刃先拡大画像

 

 

今回、御依頼時点での御希望は刃先を整え、大きな傷を消し、出来れば刃紋もと。しかし元来、手持ちの砥石達は地砥や刃砥の様に、刃紋出しに適する性質を重視した物では在りません。そして自分の好みにも成りますが、刀で定石とされる「刃は白く、地は黒く」の逆を行く事。

つまり、切れを目的とした天然砥石で普通に刃物を砥ぐと、刃金は艶々・黒々、地金は白・灰色に成りますが、それでこそ刃金の組織の状態を確認し、その刃物の個性を見極められるとの考えです。そして美しさでも軍配が上がると思っています。

上記の内容を説明の上で御理解頂き作業に当たり、相性の良かった白巣板・黒蓮華と千枚との対比で纏まったのですが、刃先の切れに少々不満。砥ぎ目を揃える観点から、切り刃の刃金部分と同じ千枚仕上げでと考えていたのですが、数種をテストして中山の卵色仕上げに決定。

その為、画像では砥ぎ目が均一でない様子から角度の急変と見えるかも知れませんが、拡大の画像で見て取れる様になだらかに繋がっています。表面上の纏りよりも、切れと永切れを取ったのですが、そもそも私の研ぎは実用最優先ですので其れに従いました。差し込みとか拭いはとてもとても。研ぎっぱなしが好きで。

刃紋のコントラストは薄目では有りますが、尺の甲伏せ剣鉈として、様になる外観に仕上がったのでは無いでしょうか。刀剣研磨に準じたり、新品をより完璧な精度に、とかの完全観賞用には御応え出来かねますので、この辺りで御容赦願いたいと思います。

 

 

香川県のK様、此の度は御依頼を頂きまして有難う御座いました。こんな仕様に成りましたが、御満足頂けましたら幸いです。

 

 

 

 

砥石を頂きました

 

砥取家の次男氏から、砥石を頂きました。去年と同様、誕生日にとの事ですが今回はちょっと早過ぎですね。でも、有難く活用させて頂きます。

 

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此れですが、八枚やら巣板際大上やら、種類としてははっきりしない雰囲気での試し研ぎを勧められ、その流れで私の下へ。

 

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サラサラ系の八枚と違い、ツルツル寄りですので千枚的な光り気味の仕上がり。

 

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角度を変えた画像でも其れが分かります。

 

 

 

後で思い至ったのは、数年前に購入した恐らく八の尾の八枚だった筈の此方。

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仕上がりが可成り近い感じです。多分、同系統の石ではと思います。

 

 

他にも親戚筋として

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此れも更に前に購入した物。下画像の左端は裏?の表情。元は其方が表とされていましたが、裏の面を出した折りに試した研ぎの結果が良く、逆転して使っています。

 

 

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近しい性質の砥石三種です。八の尾には、もう一つサンプルとして頂いた巣板際大上(水色と云うか浅葱色)が有ります。この山も、様々な種類の石が採れますが巣板際大上の予備をもう一つ、購入できる機会を心待ちにしています。

 

 

 

 

近々、月山さんから依頼の巣板選別の開始予定の所へ、講習受講者のK様から浅葱二種の御依頼が有りました。

天然砥石の魅力にハマったとの事で、御同慶の至りです。上記と併せて好適な質とサイズで狙いたいと思います。

かずかずけん様からの分は、手持ちのデッドストックから選別完了していますので遠からず月山さんの所へ出かける際にでも預けて来るつもりです。御確かめ下さい。

 

 

 

 

御知らせと、刃先の作り方

 

少し前に、味方屋作の三徳が売り切れになるかもと記載しましたが、やはり売り切れました。その後、天然砥石館で初となる(初心者向けで無い)研ぎ講習希望者の方の為、御注文分を送って頂きました。

 

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偶々、タイミング良く完成間近だった黒打ち

 

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定番の炭素鋼とステンレスの三層(軟鉄地金も有り)

 

ですので、在庫無しの状態には変わり有りませんが、司作・味方屋作共近日中に少量ですが追加される予定です。その際のマチの寸法ですが、出来れば旧型(現味方屋作と同一)のデザインでと考えています。

 

 

 

 

それと、この前の土・日に砥石館で館長(上野さん)と話していて気付いたのですが、刃先仕上げの標準として多用しているハマグリに付いて理解が十分では無いかもと。

一般的には、全く切れない鈍角の丸刃(マルッパ)を含めて、単に直線部を何の目的意識も無く曲線にしたラウンド形状(甚だしきは只の半円)をハマグリと呼ばれている様です。

上野さんには折に触れて説明して来たので、流石にそのレベルの認識では有りませんでしたが、形容としての言葉のみでは具体的な操作までは脳裏に浮かんでいなかったとしても無理は無いでしょう。

そこで、ホワイトボード上で図示しながら結構細かく語り合った内容を参考までに記してみます。飽くまで一部分ですが、良いんじゃないかと御思いの方は、次回の研ぎ時に是非一度お試し頂きたいと思います。

 

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上図は刃先を研ぐ際の基本の一つです。実際には現物の初期状態や、御好みの仕様に沿って砥ぐ場所や順序も全く異なります。

図を一瞥して、私が図形や展開・習字について壊滅的に身に付いていない事を御理解頂けた所で、いよいよ説明です。

上段は、例として刃体(洋包丁)の先端部分に付いている小刃の仕様変更としてのハマグリのビフォーアフターです。小刃の起始がAで、停止がBです。その間の直線を曲線にするのですが此の時、刃先たるBに向かって漸次鋭角に砥いで行くのが基本の研ぎ方です。つまり一定の曲率で砥がれた部分が存在しないカーブの研ぎ方と其の連続で構成された曲面。

もう一つは、小刃のカーブは上記の基本よりも少し直線気味。やや細身の厚さにする代わりに刃先(対象によって1ミリ~3ミリ前後)のみ漸次鈍角にしていく研ぎ方。此方も、曲線の何処にも同じ曲率の部分は有りません。平たく言えば、糸引きの効果を最大限引き出す事を狙って複合的なハマグリに組み込んだ状態。

図の下段ですが、二つ目のハマグリの効果を極限まで引き出す為に角度(それと厚み)の変化を付ける操作です。刃元(顎側)から切っ先に掛けて、引き切りの時は抵抗を低減・押し切りの時は上滑り防止を意図したものです。

Cは、研ぎ始めのポイント。通常、そこから切っ先まで直線的に研ぎ、順次A方向に移動しながら繰り返せば一つ目のハマグリに近付きます。此れに、斜め方向にも複数、砥ぐ事を組み合わせる事によって研磨量の多寡を明確化出来ます。

Cのポイントからだけでは効果が薄い初期状態の刃物では、次にC´やC´´からも、重ねて研ぎを加える事で改善可能です。私の標準は此処から刃先に掛けて鈍角化するので、ポイントCのやや上(峰寄り)から上記の線対称、つまり上(A)に向かって厚みを減らすのと同様の操作で刃先(B)へ向かって砥いで行く訳です。

勿論、刃物の状態に応じて上からや下からやポイント飛ばし、組み合わせは多種多様になります。目的は飽くまでも、其の刃物の性能を引き出すのみです。研ぎ手法は、曲面を目指すけれども直線を重ねるのが精巧に仕上がる気がします。(よく拡大画像では縞々が確認できます)

此の様な研ぎを行うのは、切れと永切れを両立させたいからですが、他には元々の刃物の状態を崩す割合を最小限にしたいからです。切り刃(主に和式)や小刃(主に洋式)の範囲を徒に広げたり、短絡的に必要以上の厚み抜き(肉抜き)をして強度を低下させたくありません。ある意味では適度な紡錘形の方が走りや抜けに貢献するので薄過ぎには警戒すべきだからです。

普段、自分が研ぎをする上で念頭に置いている注意点と共に、どんな研ぎをしていて、有意義なハマグリとはどういった物か、少し詳しく書いてみました。和式の切り刃も、基本的には此れの拡大コピーした内容と被る部分が大ですが、一様では有りません。ですが、調整幅を二段階持てるのは和式の利点ですね。(完成形は、更に刃元から切っ先に掛けての切り刃の厚み・角度の漸減と、刃先ハマグリ角の漸減も加わります)

 

研ぎ講習では、上記その他の操作に必要な身体各部の動作や砥石使いも含めて御伝え出来ればと考えています。此処まで読んで頂いた方の、参考になれば幸いです。

 

 

追記

講習を受けて頂いた方の弁では、本文を読んだ上で当日の説明を聞けば大方、理解出来たとの事。

しかしまさか、この図をプリントアウトして御持参されるとは思いもよらず、気恥ずかしさと驚きと共にその意気込みに恐れ入りました。K様、本日は有難う御座いました。御手持ちの柳達を上手に育てて行かれる助けとなりましたら幸いです。

 

 

 

 

広島からの本焼き

 

今回、御依頼の本焼きは広島からでした。主たる要望の内容は鎬筋を揃える事で、特に銘の辺りからの乱れへの対処。切り刃はベタ気味、刃先もベタ研ぎで。

新品状態からダイヤの砥ぎ下ろしで始めたらしく、ある程度高番手までの砥石は当たっているのですが、残存する切り刃の不均一さも見受けられます。

 

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人造の400・1000で切り刃を均しつつ、鎬筋を揃える研ぎ方を織り交ぜます。

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3000番の二種

 

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巣板で傷消し。中央と刃元に初期刃付け時の陥凹が見えて来ます

 

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更に傷を消しつつ鎬筋を揃えます

 

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刃先(ミクロの糸引き)と裏押しを中山の黄色いので

 

仕上がりです

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中央の陥凹は僅かに残存

 

 

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この状態で作業完了の御知らせメールと共に、仕上がり確認画像を御送りしましたが、更に鎬を揃えて欲しいとの事。

 

 

 

 

再度、1000番から砥ぎ

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中山の巣板で仕上げ(裏表)

 

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刃元は陥凹が消失、中央も痕跡のみに

 

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殆どベタです

 

今回は、普通に研いでいても自然と鎬が揃う状態では無く、手こずりました。刃付け段階で、切り刃が「切っ先の峰側」~「刃元の刃先側」に掛けて砥がれている事は、まま有ります。その所為で鎬筋が顎の上で下がる症状が出る訳です。

其の上、更に平の研削も中央から刃元に掛けて、切り刃方向へ低くなっており、難易度が上乗せ。何故なら低い所は高く出来ないので、辻褄を合わせるなら高所を低所にに合わせて削るのみ。しかし不用意に行うと厚みや身幅が激減です。

取り敢えず、切り刃を「刃元の峰側」~「切っ先の刃先側」の、言ってみれば初期のラインと交差する対角線で砥ぎ下ろし、平の捻りも(半分視覚効果狙いの耐水ペーパーレベルですが)若干ですが調整しました。この辺りを本格的に修正するなら、刃付け屋かナイフメーカーの設備が必要です。時間と費用を無制限でも無い限りは。包丁も一気に減りますしね。

此処までのバランス取りで、かなり御希望に近づいた形に。しかし、かなり減っても良いと言われてはいたものの、部分的に刃先が減って裏押しの幅が広い部分と狭い部分の比が2~3倍になったので其処までとしました。流石に部分的に裏切れするのは不味いからです。

 

 

二回目の御知らせメールの画像にてOKが出ましたので、本日御返送致しました。後々、御手入れの度に形状を整える意識で行って貰えれば、徐々に自然な状態に落ち着くと思われます。

広島のN様、此の度は少々御待たせしてしまいましたが、之を契機に更に御好みの形状まで育てて頂きたく存じます。今後も御役に立てる事が有りましたら、宜しくお願い致します。

 

 

 

本焼きとナイフの御依頼

 

北海道から本焼きの柳を二本、それにバックの110とライヨールのソムリエナイフだと思いますが、其方の刃の研ぎ依頼を頂きました。

 

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店名が入っています。

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有名な図柄ですが作者も有名な、あの方なんでしょうか。しかし購入時、店側からは池田さんかもとか。青紙二号の水焼きだそうです。

 

 

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もう一方も店名が入っています。

 

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此方は、白紙二号の水焼きだそうです。

 

 

 

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荒砥の類から始める必要性が低かったので、人造砥石の1000番と3000番を二種類から。

 

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次いで、蓮華入りの白巣板各種から東の巣板でと考えましたが、相性の問題で丸尾山の本焼き用(地金に優しくない)巣板各種と柳用の細長巣板シリーズで。

 

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小割りした砥石も併用しつつ。

 

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上記の柳用細長巣板で。

 

 

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ナイフの方は、シャプトンの1000番と2000番の後、各種天然仕上げ砥で相性を探りました。結果、バックは中山の黄色で。ソムリエナイフは黒蓮華で仕上げました。

因みに画像中央右側のグレーが黒蓮華です。カーブした刃線ですから普通には砥げません。砥石の縁で点接触に近い、狭小な面積で角度を(水平な砥面に対して)斜めに当てながらの研ぎでした。裏は糸引きに近い一線のみの研ぎ。

 

 

 

仕上がりです。刃先と裏押しは、永切れを狙って中山の並砥で。

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今回は、切り刃の初期状態が少し不均一でした。特に新品の宮文の方が予想以上にホローで、刃元寄りの半分が痕跡を残しています。有次は中央付近の砥ぎ目が残存。其の辺りで刃先と全体の大まかな厚みの変化が纏りましたので研磨を留めました。

ですので之までの仕上がりより、やや研磨痕の名残りが目に付きますが確認画像にてOKを頂き、本日御返送と成りました。どちらの包丁も、之までの本焼きを触った経験上からは可成り、硬さも確りしている物でしたので永切れしそうです。

有次の方は御希望通り、平の磨きとマチの磨き(手持ちの道具で不器用にやってみました)を御確認頂きたいと思います。撮影後に、宮文の剥離しかかって来ていたコーティングは剥離剤で除去致しましたので其方も。

 

 

 

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分かり難いですが研ぎ後。

 

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バックの拡大。後で研ぎ直し、もう少し小刃が幅広・鋭角に。

 

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ソムリエナイフ。正解が不確定なので、取り敢えず上手く使えば紙も楽に切れる感じに。リカーブエッジになっていたので鎌やガットフックよりも小さなククリ(グルカナイフ)風ですね。

 

バックの方は、鋼材か熱処理が変更になったのでしょうか、硬度と粘りは有るのですが切れ味を引き出そうとすると結構、刃先角度や仕上げ砥石を選り好みする印象でした。

御廟山や水浅葱、中山並砥や東の硬口巣板でも試した後に中山の黄色で何とか仕上がりました。過去の110では見られない傾向という気がします。

 

 

 

北海道のT様、此の度は包丁とナイフの御依頼を有難う御座いました。到着は15日に成るとの事でした。今後も御役に立てましたら幸いです。

 

 

 

 

御知らせなど

 

天然砥石館では天然砥石製作コースとして、丸尾山巣板・合砥と大谷山の薄物の合砥、青砥や会津砥が有りましたが此の度、岩手の夏屋砥も入りました。見かけや感触は、天草と似ている感じですが北と南で遠いのに不思議です。尤も、天然らしく色柄は一様ではありません。

 

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上画像は試みに自分で作ってみた物ですが、何故か前回の会津と同じく少々、砥粒が細か目のを選んでしまった様です。これら廉価で購入した上でのDIY以外にも、希少な東物の巣板・合砥も販売されています。

現在は販売用全商品の価格帯の内、中間レベルの在庫が減っていますが近々、仕入れられるそうですので興味が御有りの方には是非、足を御運びの上で御覧頂きたく思います。その中間レベルは勿論の事、普段は直に見る機会も少なくなった更なる上級品も含め、全て試し研ぎの上での御購入が可能です。

私は現在、砥石館に曜日限定で詰めては居りますが、砥石館から直接に利益を得ているものではありません。世界的に見ても砥石館の存在が貴重だと考え、館長である上野さんの理念(HP参照です)と覚悟(早期退職して移住)に対し、意気に感じて手伝いをしております。

もしも上記、私の心情に近い・又は御賛同下さる方々が居られましたら、亀岡の天然砥石館を可愛がって頂きます様、御願い致します。あ、見学のみならば無料なので、物見遊山として御越し下さる方も気軽にどうぞ。鉄道の駅からは、やや不便かも知れません。車で傍を通る際に御立ち寄り下さい。「天然砥石館」は何故か正式名称の御墨付でないので、「森のステーション」検索で。

 

 

 

 

北海道のT様には、本焼き二本とナイフ二本の研ぎ依頼を頂いており、更に名倉として使える石をも追加で御所望でした。

通常、共名倉の予備までは揃えておりませんが、亀岡へ通っている関係で砥取家へ寄る事が容易く、選別して来ました。

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上画像の三つがそれで、丸尾山の戸前系(天井・合いさ際?)と中山の黄色です。共名倉としての詳細な目的までは把握していませんが、御手持ちの砥石から推察しました。結果、鏡面狙いと研磨力増大、それに傷消しを狙える組み合わせを見つける事が出来ました。

どれがどれかは、使ってみてのお楽しみでしょうか。分かり難ければ、試し研ぎ後に御尋ね頂ければと。今週後半には、研磨作業完了の御知らせメールを御送りできると思いますので、添付の仕上がり画像を確認の上、御判断頂いて問題無ければ名倉を同梱して御返送に成ります。

 

 

 

 

砥石館で出席日数一番の御常連様には、味方屋作三徳を二本纏めて購入頂きました。御自身用と友人用との事ですが、場合によってはもう一本、親戚用に必要かもと。現状、在庫が一本ですので確定となれば売り切れとなります。

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(上画像は、自分で使っている物です)

司作と違って味方屋作は、追加で仕入れるのも比較的随意で可能ですが流石に間髪入れずとは行きませんので御注意願いたいと思います。ともあれ、先行して二本の御買い上げを頂きまして有難う御座います。

 

 

 

 

 

今後は研ぎ講習なども

 

亀岡の天然砥石館では試し研ぎやDIYでの砥石製作の他に、簡単な包丁研ぎ指導もメニューの中にあり、館長の上野さんや私が従事しております。

体験者には概ね好評を頂いており、特に得物を御持参の方には技術をある程度身に付けると同時に、切れ味を増した(或いは別物になった)包丁を手に凱旋と言う訳で満足度も高い様です。

基本的には其れで良さそうなのですが・・・御本人の要望が高度であったり、御持ちの包丁の難易度が高かったりする場合も有り(例えば薄刃包丁)。通り一遍の説明や、簡易な一律研ぎの範囲に収まらない要求には対応が困難です。

あと、ふとした外出先で曜日の問題を指摘される事も。砥石館は通常、火曜・水曜以外は開館日ですが私が詰めているのは土・日・祝日です。本当は行きたくても所謂平日しか休めないのですがと言われれば返答に困る訳です。

ですので六月辺りからは月・木・金曜に、(希望者が有って当方と御互いに日程が合えばですが)もう少し高度な内容の研ぎ講習を受け付ける事を考えています。大まかには、洋包丁コース(1時間~2時間)と和包丁コース(2時間~3時間)で、数枚のレジュメと解説で理解を深めた後に実技の流れです。

受け付けは、当方のHPの問い合わせなどで御希望の曜日や内容を送信頂ければと。ただ、研ぎの御依頼で手が塞がっていなければですので万が一、「流行らない研ぎ屋」の勇名を返上する事態にでも陥れば難しくなりますね。今の所は考え難いですが。

因みに、料金は「洋包丁コース」で1万円・「和包丁コース」で2万円と考えています。時間帯は、天然砥石館の開館時間に準じる事に成ります。私程度の技術ですし料金的な側面も勘案した上で、それでも良いと興味を持たれた少数派の奇特な方は、御申し込み頂ければと思います。

 

 

 

館長と三河白巡りなど

 

少し前になりますが、天然砥石館の館長である上野さんと三河白の産地を見て来ました。採掘跡までは難しいので、嘗て採掘・販売していた店舗(現在は住宅)で記録や試料を見せて頂いたり、現在でも販売中の店で商品を選んだりしました。

前記の御宅とは上野さんの個人的な繋がり(御身内同士が同級生とか)があり、快諾を得られたので実現した訪問となりました。大奥さんが、先代や更に前の採掘者が遺した三河白の極上品を大切に保管されており、本や専門誌に掲載された文章や多数の写真と共に解説もして頂きました。

 

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上画像は、当地を離れて販売などのイベント?に出向く折にと、御家族の一人が制作されたとか。

此方に伺うまでは、現状なかなか真に細かいコマを触った事が無く、実は目白が一番微細なのでは?と考えていました。しかし往時の最高クラスと云う物を触れた今ではコマの名声にも納得が行きました。貴重な原石なども御提供下さり、有難く展示させて頂きます。

 

 

 

 

次に訪ねたのは、峠道に面した販売所が併設された御宅。此方は未だ、商品が並べられています。ん十年前に、上野さんが買い物した時とは少し様子が違っていた様ですが。

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開店前の到着にも拘わらず対応下さいました。所謂、泥だし用の名倉サイズが多いですが現在では希少となった、砥石本体で研磨可能なサイズも残っています。近頃、上物二つの内の一つが売れたとか。此方では、折角なので小さい物ですが一つ購入して来ました。

 

 

 

 

近くの自然公園の川沿いにも、砥石層に近いのではと思われる石が散見されたり。

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最後に見学した下画像の施設で、豊かな動植物の分布と共に周辺で確認される多種多様な岩石に感銘を受けました。

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因みに、一軒目で拝見した三河白の全層並べた木枠入りサンプルが、此方でも展示されていました。彼方が提供元だった訳です。

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下画像の右は一軒目での頂き物の鎌砥。当地では層の違いや質のバラつきで使い分けたのでしょうが、ほぼ砥石と言えば三河白のみが出回っていたとの事でした。左は二件目で購入した物。当代の方からは、層などの分類は困難であると。

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現地で御世話になった方々は勿論ですが上野さんには、今回の三河巡りに誘って頂いて感謝しております。現地に行かねば分からない事や、当時の採掘関係者からで無ければ聞けない話など、貴重な経験をさせて頂く事が出来ました。

そして大奥さんが御主人を始め、一族の男達が採掘した砥石を大事にしている様に、自分も頂いた鎌砥を大事にしたいと思います。

 

 

 

 

お終いは極最近、手に入れた砥石達です。

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かなり、平面の刃物に特化した様な砥ぎ感と質。剃刀や鉋、切り出しの平面研ぎと包丁の裏押しにと言った所ですが、そうそう出番が有るのかどうか。でも念の為にと、ついつい買ってしまう千枚。

 

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直近の本焼きの研ぎにも使用した蓮華巣板です。これで丸尾山の蓮華巣板は大小合わせて四つ目で、ようやく切迫感が無くなりました。2~3個では今一、相性の幅から不安が残ります。

 

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天然砥石館で、DIYの砥石づくりコースとして用意されている種類から、会津砥を選んで面付けしてみました。

数年前、義理堅い北海道の刃物店から情報提供の返礼として、詳細不明だがと砥石を送られました。きよんどさんに鑑別を願い出て会津らしいと判明した其れとは、やや質が違ってより仕上げ砥に近いですが此れは此れで使えそうです。

 

 

 

 

京都から御持参の本焼き

 

先月の後半、料理人の方に京都市からわざわざの御来訪を頂きました。幸い直前に電話を御受けしてからの顔合わせでしたが、実は其れより先に幾度となく電話を掛けていたとの由。普段、昼夜逆転気味の作業ペースに加えて、土日は天然砥石館に通い出したので余計に電話には出られておりませんでした。

基本的にメールでの問い合わせを御願いするしか無いですし、そもそも直接来て頂いても単に砥石が多目にあるだけの自宅です。来客も想定しておらず散らかり気味なので、恐縮でした。

 

その御依頼品ですが、以下の三本です。ゴールデンウイーク中の砥石館通いを終えて、何とか研ぎ上がりました。

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先丸タコ引きの欠け以外は、大きな問題点は余り無い様子。あ、他の二本も切っ先が傷んでいますね。

 

 

 

先丸タコ引きのみアトマから。後は揃って人造砥石(研承の400・1000、キングハイパー硬軟)で極軽度ハマグリに切り刃を整え、刃先は漸次強度ハマグリに。切っ先へ向かって角度の鋭角化も。

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最後に天然砥石の、主に巣板で切り刃の砥ぎ目を消しつつ、刃先を仕上げます。

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中山産

 

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菖蒲と奥殿

 

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それに丸尾山の蓮華入り白巣板二種。自分の印象では本焼きを特異的に下ろす相性では蓮華だと感じます。全体を均すには東の巣板。最終の刃先と裏押しは、より永切れを狙って中山の並砥で仕上げました。

 

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先丸タコ引きの研ぎ前。光の反射が広範囲に満遍なく見え、平面的な刃先だと分かります。

 

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同じく研ぎ後。光の反射が強く限定的、かつ歪んで見えます。つまり砥ぎ目がより細かく、刃先が曲面に成っています。

 

 

今回、大阪の当方まで御持ち頂いたのには理由が有るとの事。大まかに言って自社の製品以外は砥いでくれない所が殆どである点。もう一つは、拘りなく受け付けてくれても仕上がりに不満が残る業者に出して後悔したと。

加えて、私が砥ぐ際の標準としている形状に高評価を頂けた様です。なんでも、師匠に当たる方から研ぎの要諦を手解きされた際、指南を受けた内容と似通っているそうで。御自身では未だ十分には実現できていないと言う其れを、期待されての上だとすると嬉しさと共に身の引き締まる思いです。

 

 

 

同時に御受けした砥石の選別。巣板と合砥です。

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丸尾山の白巣板、少し蓮華交じり?何れの和包丁にも合うのは勿論、本焼きにも十分対応可能と見ました。

 

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中山の戸前で黄板と呼べるでしょうか。やや細身ですが長さと厚みには不足が無く、硬さは中庸からやや硬。砥粒は細かさと研磨力が両立している優れもので、例の判子に恥じない性能。

切り刃を巣板、刃先と裏押しを戸前でも良いですし、お手持ちの硬~超硬と思われる砥石を裏押し専用にして頂いたり。組み合わせは包丁との相性・御好みで、探って頂ければと思います。

 

 

アトマの高精度厚板ベース+両面ダイヤシートは月山さんから週明け届きますので、御出で下さる時には揃って御確認頂けます。

京都市のH様、研ぎ以外に砥石選別なども御依頼頂きまして、有難う御座いました。其々が仕事内容に適していましたら幸いです。

 

 

 

 

研いだ包丁のビフォーアフターなどを載せていきます。