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洋包丁(ナイフ類)の研ぎ減り

 

洋包丁(所謂キッチンナイフ。また、多くの一般的なナイフ類も)の刃付けには、フラットグラインド(平らな研削)・ホローグラインド(刃先近くまで凹面の研削)・コンベックスグラインド(刃先まで放物線的に続く凸面構成)等があり、料理用途に特化して行く程、殊に刃先以外はフラットグラインドが多くなります。しかし、殆ど全てに共通する点としては、刃先から2~3ミリ幅で実際に切れる刃である所のエッジ(小刃)が付けられている事です。

最初の内は、切れが落ちても大抵、エッジを上書きする様に研いで居れば問題は無いのですが、困るのは経年の研ぎ減りや、欠けを取る為に大きく研ぎ下ろす場合です。殆どのブレード(刃体)が程度の差はあれ、峰から刃先まで厚みが減っていく刃付けに成っている為、最初の角度のまま研いで行くと徐々に厚さが増して行き、エッジの幅は広がります(接触面の増加による摩擦)。加えて、断面から見るとエッジの始まりに当たるブレードとエッジの境界の角が食材に切り込む際の抵抗となります(切り込む初期に幅広になった刃先が割って入る際の抵抗)。

上記の問題に対処する方法として、多く用いられるのが刃体自体の厚みを減らす事です。これは刃先の厚みを初期に近づけるのを目的とする物ですが、元来コンベックスでなくフラットな刃物でも実際の研削に於いては緩いコンベックスに近い仕上がりになると思われます。何故なら製造段階と違って、峰から刃先まで均一の面で研削し直す事がほぼ不可能だからです。しかし、元来コンベックスの刃体であれば元々の形状に則って(設計・コンセプトに従って)維持・管理している事になりますが、そうでないなら厳密にはコンセプトから外れている事になります。

一つの例として、(ハンティングナイフの範疇ですが)ガーバーのアーモハイドシリーズでは、高速度工具鋼のフラットなブレードの錆を防ぐ為に、エッジ以外を厚めのクローム鍍金で覆っていました。この場合、研ぎ減ったからといって刃幅の半分や3分の2辺りまで厚みを削り落とす設計思想とは考えられません。そんな事をすれば、余分にコストを掛けたオーバークォリティな鍍金が台無しです。これは極端な例かもしれませんが、自分は製造された状態を大幅に変更する事には抵抗があります。もし、刃先の角度を変えずに研ぎ・使い続けたいならば和包丁の構造を取り入れ、平と切り刃を形成するべきでしょう。

とは言え、肉や魚を適当に分断するだけなら未だしも、傷めずに切り分けたり野菜を綺麗に切るには分厚くなった刃先では上手く行きません。ですので、ある程度は厚み抜きをしなければなりませんが、精精、初期のエッジの2~3倍までの幅で構成可能な鋭角+ブレードとの段差角を丸める程度としています。勿論、それ以上の研ぎ下ろしを行い、広範囲の面の再構築も可能ですが、手間隙に比例した金額となり、何より元々の包丁の成り立ちやコンセプトから外れます。其処まで行けばもうメンテナンスでは無く、リフォームの域と言えるでしょう。作業内容としては工場送り返しが相応しいですが、メーカー刻印(印刷・腐食含む)等が消えるので受けて貰えない場合が多いかも知れません。

使用者が求める様に変更を加えるのが道具、との考え方もありますが、目的に合っていない使い方をしないのも又、本当でしょう。一本で何でも賄って、研ぎ減って分厚くなった牛刀を薄く薄く削りながらペティの様になるまで使い切るよりも、刃幅が半分に近く減って厚みが目立ってきたら、荒い仕事用に振り分ける。そして以前の用途には新しい牛刀を用意し、特に細かな用途や繊細な切れが必要な場面の為にはペティも準備しておいて分担させる。此方の方が効率も良く、道具を活かして長持ちさせる事に繋がると思います。

そもそも、鋼・ステンレス問わず、程度の良い牛刀(に限らず)を手入れしながら(適切な研ぎ・洗浄・乾燥)上手に使えば、一生の内にそう何本も買い換える必要は無い筈ではあります。良い物を大事にしながら適切に使えば、最終的には余分なコストは低く、使用時の負担は軽減(むしろ楽しい)、所有感も満たされ、満足度は間違いなく上がるでしょう。いま一度、振り返って見られるのも良いかと思います。

 

知人への御礼に

 

研ぎの重要性の説明や紹介を、客人等にして頂き御世話になっている和菓子屋の旦那へ、以前も研ぎサンプルとして平面を出して鏡面に仕上げた切り出しをプレゼントしました。そして先日は、「包丁と砥石大全」をやっと渡す事が出来ましたが、実際に研ぎ(又は鋼材や砥石)によって味の違いがある事を明確に実感して欲しいので、一般的なステンレスペティを研いで持って行き、比べて貰う事にしました。

ホームセンター等で1500円前後で買える廉価なペティとしては、幾つかある内で結構定評の物で、貝印の関孫六シリーズ・ST2000です。3000や4000はグリップの仕様違いで、ブレードは同一の様に見えます。下画像は、箱出しの新品で、刃付け(ブレードの研削)は先端4分の1以外は厚みは大体一定・小刃はやや粗い研ぎの後、研磨剤付きの羽布に近い仕上げでしょう。

これは、大きなギザギザが残存する段階で特にその先端付近をツルツルに近く磨く事により、上滑りし難く、尚且つある程度は滑らかな切れを実現する手法として、工場出荷時のステンレス系統の仕上げでは昔から多用される物です。確かに硬くて滑る素材や薄くて撚れる相手にも、効果的に切り込み易いと思います。その上、刃先周辺が接触する面積としては少し減少するので、抵抗が少なくなり易いメリットも有ります。

しかし、作業効率と「切断(切削)された対象の状態がどうなのか」は別問題です。木工でも、切ったり削ったりの表面の状態で、水分に対する耐久力等が違って来る様ですが、食材も又、空気や水に触れる間の変化に違いが有ります。乾燥し易さやスライスの吸水具合、香りの出方ですが、直接舌に乗せた時の味にも違いが出ます。ここでは、食材の切片を作って拡大できる顕微鏡が在りませんので、繊維質の素材としてやや薄いダンボールを切って、断面を拡大してみました。

 

ペティの全体画像

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刃部のアップ

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刃先の拡大

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切断したボール紙の断面の拡大

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次にキングハイパーの後でシャプトン2000番を掛け、黒蓮華のコッパで仕上げました。因みに、よく出来たステンレスなら、此処までで十分な切れが得られます(組織が荒かったり、粘りが在り過ぎ、硬度が低過ぎ等が有ると剃刀砥クラスが必要になります)。

 

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刃部のアップ(少し曇ってますね)

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刃先の拡大

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切断面の拡大

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黒蓮華で研いだ状態でもかなり満足な状態でしたが、比較対象として、又更なる長切れを求めて大谷山(コッパ)で仕上げてみました。

刃部のアップ(光ってますね)

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刃先の拡大

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切断面の拡大

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此処までの三つの切断面の違いは、まあザックリとしたテストなので分かり難いかも知れませんが、傾向として刃先を細かく仕上げる程、毛羽立ちが少なくなっている様に見えます。繊維を引き千切らずに滑らかに切断している度合いに拠る物と思われますが、同じ事が食材断面で起こっていると考えれば当然、どういった刃物で切るかは無視できない問題でしょう。

之はよく言われる、単に舌触り・口当たりのみに留まらず、食品が舌に乗った時の味覚物質の広がり具合い・切断面の空気との接触面積拡大による酸化度合い・細胞内容物の流失(味の低下)や溶出(自己消化の開始や加速)といった風味(味・香り)の劣化や栄養素の損失(特に水溶性のビタミンが惜しい)まで関連して来るからです。

包丁は単なる切断を主とした道具である訳では無く、切った食材の外観・風味まで左右する物です。調理する人の考え方ひとつで、包丁・砥石の種類や研ぎ方・切り方を作業効率のみ追求する方向から、食材の劣化を防いで、より味わいを引き出す方向まで180度違ってくると思います。その上での加熱・調味があって料理が(特に和食は)成り立つのでは無いでしょうか。味・外観と作業効率の、何処でバランスを取るかによって、その人の主義・思想や信念が問われる事にも成りそうです。

 

 

料金関連のお知らせ

 

之まで、依頼を頂いた刃物の研ぎは特別な場合を除いて、作業期間は一日~二日、つまり私の手元に届いてから返送期間を含めても、三日前後でお届け可能でした。

しかし今回の常連さんの研ぎは、引取りからお届けまで丁度、一週間お待ち頂く事となりました。今後はこの様に、一週間前後が精一杯となる場合もありそうです。ですから研ぎの御依頼をと御考えの方には、その辺りを御理解の上、お願い出来ればと思います。

それに付随して、常連さんとの会話で勧められた内容もありました。以前に知人から、「料金の具体例が挙げられていたり、料金の増減の基準が示されていた方が分かり易い」との指摘に対して、今回の包丁三種を例示として良いか伺った所、寧ろそうすべきとの返答でした。そこで以下に、今回の研ぎ料金の金額と内容を記します。

 

 

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まず、ステンレスの包丁(刃渡り13.7cm、小数点以下切り捨て)ですが、「洋包丁は1cm当たり100円」との基準通り、1300円+税でした。

この理由は、14cmに満たない刃渡りなので13cm扱いとなる事。又、刃の状態として欠けや捲くれが異常に大きくなかった事によるものです。

 

 

 

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次に和ペティ(刃渡り14cm)です。これは和包丁ですが、現状、洋包丁扱いの研ぎ料金として「1cm当たり100円」基準として1400円+税でした。

この理由は、現物が新品であり切り刃から研ぎ下ろさずとも、刃先周辺の研ぎで問題無い為です。もし鎬から切り刃全体を研ぐ必要が出てくれば、和包丁の「1寸当たり1500円」基準に則り、14cm、つまり4.7寸(4.5寸で計算)なので1500×4.5寸=6750円+税となります。勿論、刃の状態で増減します。この包丁の場合、出荷時の切り刃の状態がかなり整っているので、整っていない場合と比べれば2分の一程度になると思われます。(刃先の損耗などが同程度の場合)

追加情報として、これは「私から直接お買い上げ頂いた包丁」なので、本来は錆び・汚れを落とす所で留めますが、洋包丁扱いにも関わらず、更に切り刃を小割りした天然砥石で均し研ぎしています。自分の好みの仕上がりと、使用時の錆び難さを求めての無料サービスです。

 

 

 

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最後の和式の三徳包丁(17cm)です。和包丁基準で17cmつまり(5.7寸ですが)5.5寸×1500円の-25%で今回は6200円+税です。

この理由ですが、本来、両刃(刃の表裏から研がれている)の三徳なので、研ぐ箇所が二倍で料金も二倍になる所、切り刃の幅が狭い構造なのを鑑み、片刃和包丁扱いとしています。更に以前の研ぎで切り刃の余分な厚みを抜き、刃元から刃先までテーパー状に均されつつあり、更に刃先の損耗が少なめであった為、25%引きとなっています。

 

 

以上の内容からお分かりの様に、傷んだ包丁が修復に時間や手間が掛かるのみならず、新品でも適切な形状で出荷されていなければ、かなりの修正が必要になります。しかし、それは取りも直さず状態が適切になって行く程(研ぎ回数の増加に従い)、損耗が少なく使える程(使用者の知識・技量の向上に従い)、料金が二分の一や三分の一まで在り得ると言う事です。

因みに、研ぎ料金が安くなる条件として代表的な三つを挙げますと、以下のようになります。

①新品時から形状が整っている包丁を選んで頂く。

②使用に際して、欠け・捲れ・錆びに注意してなるべく傷めない。

③普段は御自身で、形状を悪化させる事無く寧ろ適切な状態に近づける様に研ぎ、手に負えない時や更に上を求める場合に研ぎ依頼をする(之は可能ならばですね)。

 

 

 

お終いになりましたが、もう一つお知らせです。

和包丁の 研ぎ料金が来年より、一寸当たり3000円となります。これは新品やそれに近い状態から、まずまず使用に耐える研ぎを行うに当たってかなりの手間隙が掛かる為です。大まかに言えば、六寸前後の和包丁でも、人造の荒砥・中砥・天然中砥・天然仕上砥と進むのに、少なくとも5~6時間。場合によっては7~8時間も珍しくありません。

但し、初期からかなり整っている物や、数回の研ぎを経て整ってきた物は、一寸当たり2000円くらいで済むと思います。更にその後、酷い錆や欠けが無く維持されている物に至っては一寸当たり1000円という場合も。

之まで最高は、「尺(尺越えだったかも)の剣鉈を鏡面に」との依頼で研ぎ時間32時間でした。因みに仮眠と簡易な食事以外は継続して二日で仕上げました(当時の料金設定では時給としてはワンコイン未満)。一日8時間の勤務とすれば四日分の労働時間ですが、例えば月給を頂いている皆さんなら、計算すると日当、或いは時給換算幾ら位になるのでしょうか。

とは言え、上記、料金の説明を読んで頂いた方はお分かりかと思いますが、基準料金が上がっても状態次第という点は同じなので、余程、物が悪くなければ実質は大差ありません。では何故改定するのかと言えば、自分が現物を見てこれは・・・と思っても中々、適正な値段を提示し難かった為です。つまり不必要に遠慮してしまう傾向がありますので、やや高め(本来これでも砥石代・技術料・手間賃から考えると・・・ですが)の料金設定から、「良い状態なので~割り引きになります」なら言い易いかなと思っての判断です。

洋包丁は、引き続き変更なしですが、これは一般の方が普段使いされているであろう包丁への応援とサービスと御考え頂ければと思います。宜しくお願い致します。

 

 

錆び繋がりで

 

以前から各地域で水道水に含まれる成分が違うなと感じていました。例えば、二十年程前の岐阜県関市では、風呂桶に水を張ったら数回で水色っぽい粉末状の物が標準的な位置の水面近辺に付着しました。夏場などはシャワーのみだったので、風呂桶に入らず掛け湯の為に溜めるだけでも同様でした。

他にも三重県名張市でも十年程前までは上記に近い感じでしたが、数年前からはやや改善しているようです。その影響は例えば紅茶を淹れる時に味・水色・香り共に抽出が悪いなど、調理関連で気になっていました(出汁や調味料が一緒でも、大阪と同じ味になりにくいし)。只、それが水道水中に含まれる天然のミネラルだろうとは思いますが、投入される消毒薬や処理施設の種類も関連するのかは不明なままです。

これらが研ぎに影響を与えているとは、特別意識していませんでした。しかし、長時間の研ぎではやはり錆が出易いので、ある程度の目の細かさまで平や裏を磨いてしまう事は普通で、更に一度は濃すぎる炭酸水素ナトリウム水溶液も用いて皮膚が痛んだ事も有り、こちらは中止していました。もう一つ以前から、月山さんの包丁の扱い方を見るに付け、余り錆に神経質になっていないなと思っていました。改めて聞いてみると、明らかに自分の経験上、常識と考えられるレベルより錆びに対して警戒する必要が低い様です。使用砥石や研ぎに於ける操作などを勘案しても、水道水の影響が最も大きいのではと考えました。

以下は極端な例だと思いますが、六甲縦走路の端に位置する自分の通っていた大学周辺でも、利用されていた水にフッ素が極端に多く、その影響が歯の表面に現れ、歯くさりと呼ばれる地域が在ったと聞きました。かなり古い話で、現在では当然対処されている筈ですが、やはり各地の水質はばらついているのでしょう。

現在、ある企画に則した包丁を仕上げる為に、新品の包丁を纏めて研ぐ必要があり掛かりきりになっていました。新品と言う事は在りますが、予想以上に錆びやすいので面食らうと同時に、打ち合わせ時点でそんな話は聞いていなかったので、条件の違いを検討していました。そして一つの結論に達しました。それは塩素です。大阪では国内有数の高度浄水処理施設が導入され、水質は万全の筈ですが、妙に塩素がきついのかも知れません。何故なら、システムキッチンにシャワー水栓を付けるに当たって、当初必要性をあまり感じていなかった浄水機能付きにした所、明らかに味が変わったからです。そこで、浄水器を通した水に前回より濃度を抑えた炭酸水素ナトリウムを加えた水溶液をスプレー(現在は霧吹き)で吹きながら研ぐと、かなり錆の発生を抑える事が出来ました。錆の発生が抑制されれば、除去の手間も省けますが、そもそも刃物に悪影響が出る可能性を未然に防げるに超した事はありません。炭素鋼包丁に対しては、この方法が定番となりそうです。

 

補足です。研ぎ作業中は上記のような炭素鋼が対象でなくても(中断すると仕上がりに影響します)、電話や来客に瞬時には対応出来ませんので、御理解の程、宜しくお願い致します(店舗を構えている訳で無く、又、御依頼は基本的にメールにて承っており、電話でお受けしておりませんので)。あと、これまで数ヶ月、仕事開始からのサービス料金にて研ぎ依頼をお受けして来ましたが、近々改訂となりますので合わせてお願い致します。

 

包丁への塗布用油脂

 

これまで、自分の手持ちの刃物や依頼を受けて研いだ刃物には、ほぼ100%、油の類いは付けていませんでした。ステンレスでは通常環境で保管・運搬で錆が出る事は考え難く、また炭素鋼刃物も、一日から二日移動に掛かったとしても問題無いと考えてきました(更に天然砥石仕上げは安心感上乗せでしたので)。

しかし、そもそも出来るだけ油脂を付けたく無かったのは、それ自体の酸化で却って腐食したり汚れや匂いとしてこびり付くのを避けたかったからです。包丁や、食品を切る可能性があるナイフ類にはもう一つ、体内に入った場合の毒性も気がかりでした。関で働いていた頃は、ナイフ類の出荷前準備でフォールディングナイフなどの摺動部には流動パラフィン、ブレードにはシリコンオイル、炭素鋼にはフッ素系(テフロン配合)の褐色のオイルを使っていました。包丁程、食品を対象としないし、一応使用前にはユーザーも洗うであろうけれど、特別毒性の強い物を大量に摂取する訳では無いとは言え、大丈夫かなあと思っていました。

月山さんと話していると、例えば海外発送分などになると錆の心配が高くなるのでは無いかとの意見で、確かに気候の変動も大きく結露の可能性も高まる場合も予想され、そういう場合のみは考えてみる事にしました。事前のイメージではシリコンオイルなどは精製が良ければ体内に入っても少量なら行けるかな程度でしたが、調べてみると材料にも色々ある物です。フードオイルやフードグリスは各社から潤滑材・溶剤・噴霧剤として様々な物質を使用した物が発売されており、悩みました。

その中で各目的の物質中、問題の少なそうな組み合わせで目星を付けて買いに行きましたが、結果的に只一種類、売っていたものが想定していた物よりも適していた印象で素直に即決しました。TAIHOKOHZAIの食品機械用潤滑材というスプレーで、通常(安全性の基準で国内外の規格クリアが謳われている物が多いですが)NSF H1  や3Hの表示があっても「偶発的な接触」程度への対応の様です。しかし之は食品機械の「刃物部分」にもOKとあり、より安心な気がしました。そもそも潤滑剤自体が中鎖脂肪酸トリグリセリド(栄養学で習ったような?中性脂肪に近い?原料は高純度植物性脂肪酸との事)でほぼ食品扱いの様です。噴霧用ガスとしてはLPGとありますので、残留や毒性の心配もほぼ必要無いでしょう。

当面この製品で試しながら使用して、期待する働きを見せてくれると良いなあと考えています。(試用してみた範囲では、油膜が特に強めでは無いものの、塗布のし易さや水分の弾き・気化も程々な感じです)

 

 

前回に関連して片刃と両刃

片刃と両刃の違いについてもよく取り沙汰されます。曰く、両刃は真っ直ぐ切り割るのに適するが、片刃は(右利き用の場合)裏の方、つまり左に向かって切り進んでしまう。しかし斬れ味は鋭いので薄く・細く切るのには向いている。等です。 上記に対して之また良く出る反論が、角度が同一なら片刃も両刃も切れ味は一緒だ、というものです。

しかし、これには切断対象への外力の掛かり方がまず違ってきます。例えば、人参や丸の魚などを中央から両断するような場合、V型の刃を垂直に入れると、左右の切断面に均等に押す力が掛かり、同時に切断面の反対側から押し返される事になります。それは切断面から先にどれだけの体積・質量が連なっているかで大きく変わりますが、基本的には刃によって押される力よりは弱いでしょう。しかし食材の食感や風味を劣化させかねないのは間違いないと思います。 対して、片刃で同様に切るならば、グリップや親指による裏の押さえで、左方向への刃の進行を抑えて垂直方向に矯正する必要があります。この場合、左の切断面の上方と、右の切断面の下方に、純然たる切断による圧力以上の力が加わりますが、その影響がV型に比べて切断面全体の合計で増減するのかは、実際に計測しなければ断言出来ません。しかし、裏の梳きの御陰で摩擦が軽減される事、左の切断面の下方は横方向に押される力が少ない事から、左側に位置する部分への悪影響はかなり少ないと思われます(それが右へしわ寄せになっていなければ尚良いのですが)。

それでは間違いなく片刃のメリットが活かされる場面とは何でしょうか。恐らく食材の端から切り分けて行く時でしょう。この場合、例えば右端から切るなら切られて分離する切片に掛かる力は、左から押し広げられる力が殆どで、薄ければ薄い切片である程、右に連なる部分からの押し返しによる力は少なくなります。加えて左へ進行する刃を抑える力、つまり切片の左側下方への右向きの力も同様です。一方、切片より左の本体部分には垂直方向から剪断力が掛かる以外、ほぼ外力はありません。切片下方に掛かる右向きの力が少なければ、それだけ反作用で掛かる本体右側上部への力も減少するからです。しかも接触面の摩擦も、裏梳きによって激減した最小限の面積が触れるのみです。これにより、包丁の切断面の左右共に余分な外力が少なくて済み、食材の食感と風味を損なう事が少なくなると考えられます。

ここまで考えてくると、両刃のデメリットが目立つように感じますが、扱い方一つで片刃和包丁に近い効果を得る事が可能です。それには包丁を右に倒し、左の切り刃を食材に対して垂直に位置させ、その状態から切ります。勿論、片刃和包丁と同等の刃角である事は少なく、裏梳きも無いので接触面積は裏梳き部分のみとは比べるべくも在りません。しかし、この操作によって本体に横方向からの力は掛からず、又、平に対して切り刃の角度が在る為、単一平面に対するよりは張り付きが少なくなります。ただ注意点としては、包丁を右に傾ける都合上、刃先の位置や向きが左方に偏位するので、特に不慣れな間は普段よりも左手を切らないように気を付ける必要があります。

ともすれば洋包丁と片刃和包丁の間で中途半端にも見られがちですが、専門性の高い片刃和包丁に対して、汎用性の高い両刃和包丁は、使い方次第で片刃に近い効果を得る事も可能になります。例えば切り刃を広げて鋭角にすれば上記の内容に適し、刃幅が狭く鈍角なら魚介を捌くのに向きます。更に始めの記載通り、均等に切り割る作業に於いては特別な注意も技術も必要無く、ある程度万能に使うには悪くない選択だと思います。洋包丁に追加するなど、和包丁の入門用としても相応しいかも知れません。

切れる角度と厚みの関係

 

研ぎをしていると、幾つか疑問に思う事が出て来ます。その一つが身(刃体)の厚みと刃の角度の関係です。勿論、切る対象との兼ね合いも在って、一概には決めつけられませんが、薄い身に鋭角の刃、特に和包丁で言う所の切り刃があれば極めて鋭い切れ込みが得られます。

それでは、刃物の物理的な耐久力が許す限りに於いて薄い程、良いのかと言えば、そうでは無いと思います。何故なら切る対象が厚く硬い性質の場合や、刃がしなると正確な作業が困難。また食材を綺麗に整った形に切り分けられない等の弊害が出ます。そして刃物を大事に長く使う立場からは、強度と刃持ちを考慮して、やや猶予を持たせた構造の方が良いでしょう。

私が考える薄すぎる刃体は、対象と目される物の切削に於いて作業効率が落ちたり、正確な刃の進行が妨げられる程のしなり・捻れが出る場合です。刃角が鋭角過ぎる場合は、刃体よりも全体への悪影響は顕著ではありませんが、刃持ちに直結する為に作業時間に関わります。洋包丁の小刃の場合は、ブレードが薄くなっていった先の梁構造として、基本的に薄物であるところの洋包丁(特に鎬の無いVグラインド)に剛性を付与する働きが期待出来るので、例えば極薄のハマグリ刃で刃幅の半ばまで刷り上げるのは一般的には非推奨です。角を丸めたやや鋭角の小刃が妥当でしょう。

対して、厚すぎる刃体は、対象に切り込めなかったり、切る前に割れてしまう様な場合です。刃角に於いては、切れ込みが重く、対象に圧力が掛かり過ぎて切り口が変形する場合などです。どちらも厚みと刃幅に余裕があれば、肉取り・研ぎ抜きと言われる鋭角に研ぎ直しにより改善出来ます。その点から見れば、洋包丁よりも和包丁の方が明確な平と切り刃がある分、容易に且つ幅広く対応出来ます。

以上の点から、厚すぎと薄すぎの大まかな姿が見えてきました。理屈の上では、その両極の間であれば、お好みでとなるのでしょうが、研ぎをしていく上では多少、黄金律と言うか最適値の様な所も気になります。とは言え切り刃だけでもベタ(角度違い)やハマグリ(曲率・カーブの頂点の位置違い)に糸引きや段刃(+糸引き)・刃先ハマグリ(+糸引き)など、枚挙に暇がありません。そこで、私が判断材料の一つとしている極めて条件を限定した具体例として、刃先の角度(種類は問わず)が紙(一枚から二、三枚程度)に数㎜切り込む間の刃の通り(此処では任意の角度で保持した刃を対象にスライドせず押しつける時の刃の進行度合い)を説明します。

標準的な包丁ではまず、紙(新聞など)の端に刃線が直交する状態から寝かせていき、直圧を掛け、紙が逃げたり曲がったりせず刃が通るかを見ます。もし寝かせず(0度)通れば、それは必要以上の鋭さです。10度から20度でもまだ余分かも知れません。30度から45度で通れば充分でしょう。この様な紙への刃通りでは和食で言われる掛かり・走り・抜けは判断出来ませんが、少なくとも切れ味の最初の段階で刃先が切り進めるか否かは分かります。ここをクリアして初めて厚みのある物(折り畳んだり厚く巻いた新聞など)に対しての切り抜けを追求出来ます。

 

(参考までに関連するチェック方として、同じくスライド無しでの直圧ですが、やや刃の先か元を上げます。ギロチンの刃が斜めのまま直進するのを再現する要領で切り込みを確認します。此方の方が紙からの抵抗を受けにくく、楽に切り込める筈で、先のテストで不合格でも今度はパスする事も有るでしょう。勿論、その際の「斜め」が10~30度くらいのどの範囲かで、切れのレベルを測ります。経験上、30度を大きく上回っても切れ込みはそれに比例する程では無いので、その範囲内での比較が適当かと思われます。

それでも駄目なら二種類の要素を加えて「斜め+斜め」で当たれば更に優しいテストになり、最後はそこにストロークを長く取ったスライドを付け足すと、最大限の切れ味を引き出せます(一応、ストロークの長短でチェック可能)。此処に及んで未だ切れない様では殆どの用を足す事は出来ないと思われますが、目的の仕事に必要なレベルの切れがどのテストをパスすれば得られるのかを把握しておく必要があります。)

 

通常私の場合は、ほぼベタ研ぎ+刃先ハマグリで研いでいき、此処までのテストで刃通り・切り抜けを確認した後、モバイル顕微鏡で研ぎ目と刃先の整列も確認。問題無ければ研ぎ終了とし、依頼主に上記画像添付の上で作業完了メールをお送りしています。

 

始まりは理由が知りたくて

 

そもそも研究を始める1番の目的は、以前からの疑問の答えが知りたかった事でした。天然砥石、特により硬くて細かい砥石で研ぐと、良く切れるのは当然として炭素鋼も、ステンレスまでも「長く」切れるのです。

自分の人造砥石の経験は知れていますが、恐らく鋭利な刃先を作る能力は殆どの天然砥石を凌駕する物も出て来ていると思います。つまりそれぞれの角度毎に最も薄く研ぎ上げる能力は安定性も含めて人造に分がありそうです。

ではどうして天然砥石を使っているかと云えば、大きくは次の三点です。まず切れ味が良い。これは絶対的に鋭利な研ぎ上がりを目指した物で無く、切削対象たる木材・魚・肉・野菜その他殆どを、単一(若しくは2~3種)の仕上がり状態で賄える汎用性です。人造の極鋭利な刃先は細かく、対象によっては滑って切り進みにくい、或いは接触面が互いに平滑過ぎ、摩擦が大きく動きにくい傾向もあり得ます。そこで刃先や研ぎ肌の仕上げを状況に応じて使い分ける必要が生じる訳ですが、天然仕上げでは殆ど滑る場面は出てこず、ゴムや樹脂に対しても接触面の吸着が少なかった経験があります。勿論、刃物や対象物、使い方で違いはありますが、巣板・合砥・鏡面砥石の内、どの仕上げてあっても、多少の差はあれど上記のメリットが見込めます。

二つ目は錆びに強くなる点です。普通に水回りで使用していても錆や変色が少なくて済みます。これは調理に於いて水のみならず、食材の成分が付着しても同様で、更には保管中でも箱の中で埃や結露が無ければ、人造の2~3倍は錆が出ずにいてくれます。但し細かい仕上げである程効果が高いので、錆びに対しては鏡面一択です。つまり研いだ際の傷が細かい程、そして浅い程錆びにくさに繋がると考えられ、この点で細かい筈の高番手の人造でも天然の1.5~2倍相当の番手で無いと比肩出来ないのは傷が深いのが原因ではと考えています。

そして三つ目が1番有り難く又、不思議に感じている点で長切れです。これまた炭素鋼であろうがステンレスであろうが、切れの持続が少なくても3~5割増しになるようです。特に効果を実感し易いのがステンレスの低級から中級品で、具体的には420J2相当や8Aクラスですが、これらを鏡面に成る砥石まで仕上げると、ひとクラス上の切れと保ちが得られます。例えば8A(カミソリ砥で鏡面仕上げ)がV金10号(巣板や通常の合砥仕上げ)と同等というようにです。之については今まで、昔から云われる天然砥石の刃先硬化作用(熱くなるまで要摩擦)とか、鋼材の弱い部分を優先的に削り落とすのでは。又、天然砥石に含まれる硫化物による硫酸・堆積した微生物由来の硝酸の類いによる化学変化。などが推測されてきたようです。

自分としては、研ぐ事で摩擦熱が上がり、水に触れる時点で焼きを入れ直している。という意見以外はどれもがあり得ると考えてきました。しかし、砥石の成分が酸性・アルカリ性どちらかを調べたり、塩酸の様なものに刃物を漬けたり(加えて加熱も)した人も居られたものの、今ひとつはっきりしなかった印象から、可能性が最も高いのは研磨の仕方と判断してきました。しかし、天然砥石を使っていると、ステンレスでは起こらない反応が炭素鋼では起こっているのに気づきました。それは砥石の硬化です。昔から砥石の様子が使う内に変化すれば「層代わり」の一言で片付けられていたようですが、之まで使った砥石は柔らかくなった2~3の例外を除き、全て硬くなりました。これは使っていなくても違う砥石から出た研ぎ汁を数回塗布するだけで起こり、水やステンレスの研ぎ汁では起こりません。と言う事は、砥石の成分が鉄を含んだ水分により硬化するなら反対に刃物も砥石の成分を含んだ水で硬化してもおかしくは無い事になります。ただ、もう一押しの要素は、「熱」ではなく研磨その物では無いでしょうか。塗装する前はサンドブラストなどで金属表面を一皮剥きますが、この状態は励起している状態らしいので、研磨中は似たような環境が整っており、反応が進みやすい・或いは表面に定着しやすいのかも知れません。勿論、低いとは云え常温の水と砥石よりは摩擦熱程度でも無いよりは良いのでしょう。

ステンレスでは酸化皮膜が反応を阻害する筈だから、化学反応は無く研磨による物理的な性状の変化だと考えていましたが、上の推測に従えば、皮膜が出来る暇を与えず化学的に処理されている可能性も考慮する必要が出て来ます。炭素鋼に比べれば、割合は少ないでしょうが精密に微量な成分まで検査可能ならば、炭素鋼・ステンレスどちらも根本原因が分かり、且つ性能の上乗せが実証出来ると思います。これまでの推測が正しいのか、又感じているメリットがデータで現れるのか、天然砥石に惚れ込んだ者としては、研ぎ上げた形状の正確さや合目的的な形状と共に大いに関心があります。

 

説明文 8               (研ぎ屋むらかみHPより)

共名倉について

 元々は名倉砥石という砥石があり、単体で使用されていたものの、他の砥石に摺り合わせ、研ぎの補助として砥泥を出す用途にも使われ出した為に代名詞的な呼称になったと思われる。(その主たる目的以外に、砥石本体の目詰まりを取る・目起こしをする・平面維持を助ける働きもある)同じ用途でそれ以外の砥石が使われる場合は共名倉と呼ばれる。一般的には仕上げ砥たる巣板・合砥に対して、同系統の砥石が使われる状況を指す。そもそも補助を必要とする状況とは、大きく分けて以下の二つの場合だろう。一つは研磨力の向上を企図したもの、もう一つは傷を消す為のものである。

 前者は文字通り、研磨力の劣る砥石に研磨力の期待できる共名倉を摺り合わせて、作業効率を高める為の使い方である。この場合、次々に砥泥が出て新しい砥面で研げる柔らかい砥石よりも硬めの砥石、そして砥粒の目が立っている砥石よりは寝ている砥石にこそ使われるのが順当である。その為、これに合わせる共名倉には逆に、余り硬くなく、砥粒の目が立っているものが望ましい(仕上がりを問わず、研磨力優先なら硬い共名倉を使う事もあり得る)。

 後者を更に分類すると、傷(研ぎ傷・研磨痕)を消す為のものと、傷が入るのを防止する為のものがある。傷を消す使用法は、硬軟どちらの砥石に対してもあり得るものの、共名倉としては兎に角より細かく、より柔らかく、尚且つ砥粒の目は適度に立っているものが目的に適う。余りにソフトな当たりでは、前段階の傷を消せない為である。

 傷の防止とは、特に硬口で目の立っている砥石の場合は地金を引く(軟鉄部分に引っ掻き傷を作る)ことが多い為、予め研磨の潤滑材として、研ぎ汁(水+砥石から剥離した砥粒+研ぎ下ろされたれた金属粒子)が出る前から砥面上の水膜にコロイド状に砥粒を分散させておくものである。

単にベアリングとクッションの役割だけで良ければ、砥粒は大きく、柔らかく、目の立っていないものが最適である。しかし求める研ぎ肌の仕上がりや刃先の切れ味によっては、潤滑性能とのトレードオフにはなるが、砥粒の性質を硬く、細かく、目も立っている方向に変更する必要が出てくる。つまり傷を消す事と傷を防止する事はかなりの部分、二律背反の関係にある訳だ。しかし使用者の選択一つで、同じ砥石でも共名倉の違いにより切れ味は勿論研ぎ肌も違ってくる。地金・刃金双方の景色が透明感のある明るいものから、陰影に富んだ渋い仕上がりまで、様々な表情を見せる。正しく、天然砥石の対応出来る幅を広げ、刃物の性能や美観までもアレンジしてくれるものである。

やや特殊な例としては、剃刀の最終仕上げで使う砥石は、名倉の精粗で三段階の研ぎをそれ一つで済ませる事があるという。これは超堅口の砥石一つに三役を担わせる、つまりこれまでに述べてきたほぼ全ての名倉の役割を総動員する使用法と言え、その為かつては土台たる砥石は兎に角硬くて細かければ、後は名倉で何とかなるとまで考えられていた節もある。本来は砥石そのものも吟味されるべきであろうが、確かに究極の名倉活用法ではある。もし本当にそれが出来ていたのであれば、その名倉が途轍もなく優秀であった証左となるが、現在そのような名倉砥石は稀少であり、検証するのも簡単では無くなっているようだ。

注)

その後、知り合った方から厚意で頂いた黒名倉は性能的に満足出来る物で、仕事内容により、使わせて頂こうと考えています。又、同じく(別の知人から)頂いた三河のボタンは普通に研げるサイズであったため、泥を出す用途では使っていません。

説明文 7               (研ぎ屋むらかみHPより)

 使用砥石(天然仕上げ砥石)について

 私が主に使用している砥石は殆どが砥取家製の巣板・戸前・合いさの他、カミソリ砥、及びそれに準じる硬度・粒度の物として、千枚・八枚系を標準以上の仕上げ、又は鏡面近く仕上げる場合の下研ぎ用としても用意しています。

 カミソリ砥クラス(大谷山戸前浅黄・御廟山戸前いきむらさき等)は、美観や錆対策としての鏡面仕上げもさることながら、刃先の切れ味と長切れに大いに貢献してくれます。特にステンレス鋼は、炭素鋼の刃に対して鋭さ・食い付き・長切れで、不満が出易いので必須の物だと感じています。

 通常良く使っている砥石達です。(断りが無い限り丸尾山産です)

 敷内曇り各種(硬さ、細かさや切れ味・刃金と地金の仕上がりのムラ等それぞれ違う物)

  白巣板各種(白巣板巣なし・蓮華・黒蓮華がかった物等)

  卵色巣板各種(紅葉の他は敷の緑色系統細かさ違い、黒づけ坊主っぽい物・天上の堅口等、硬めで平面を出し易い手の平サイズ)

  千枚・八枚

  大谷山戸前浅黄(硬さ・細かさ・仕上がり違い。ただ相性次第の事もあり)

  御廟山戸前(いきむらさき・色物等)

  その他、八ノ尾の八枚らしき物、水木原の卵色巣板らしき物、山不明の鏡面仕上げ用レーザー型各種等

  共名倉について

  これまでに身近な所で手に入れた白・黒名倉があまり使い勝手や仕上がりが良くなかった為、共名倉を使用しています。良くなかった点である、過大なクッション性・研ぎ肌の不均一性・刃先形成の不完全さがほぼ解消され、満足いく仕上がり・操作性・作業効率に改善されました。特に重宝しているのは、使用砥石や研ぐ刃物、狙いの仕上がりにもよりますが、丸尾山の敷内曇り(蓮華混じり)・八枚・大上二種(墨流し模様入り)です。但し、これらは特に切り刃全面を鏡面にする時に使用するもので、そうで無い限り殆ど必要ありません。他には巣板の研磨力を増強する為に一本松の戸前二種を共名倉に使用する場合があります。

基本的にステンレスはカミソリ砥クラスの仕上げとしています。炭素鋼(合わせ)は相性次第で、巣板でも十分な目の細かさ・切れ味に仕上がれば合格。十分でなければ千枚・八枚クラス、又はカミソリ砥クラスで刃金の調整(刃先だけでは無い)をしています。