カテゴリー別アーカイブ: 依頼の刃物

本職用でしょうか、牛刀の御依頼

 

信州から牛刀の研ぎ依頼を頂きました。

芯材は銀紙3号の様です。其れを両側から挟んでいるのもステンレスですが、それ程軟らかい物でもありません。しっかりした手応えは有難いですが、製造段階の研磨痕が結構な深さなので、もし取り切ろうとすれば手強くもあります。

送られて来た時点で、既に刃先の厚みもかなり減らされており、鋭さも充分以上。但し刃毀れがそれなりと云ったものでした。しかし切れ・長切れ・抜けを両立した仕上げをとの御依頼でしたので、刃先2~3mmの調製幅(充分な切れは出ますが)を超えて研いで行きます。因みに、これにより1cm当たり100円でなく1cmあたり200円のコースとなります。

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刃先より少し中央寄りを触ると厚みの不均等、つまり元から切っ先まで自然に減少していない。刃元3~4cmと切っ先手前4~5cmが薄く、中央15cm余りが余分に厚い状態です。加えて、その中央部分も一様ではないので、平面の出た砥石を当てると山と谷(凹凸)が現れます。和包丁の切り刃で言われる所の笑窪状ですが、これらは刃幅の半分程度から下での事です。それより峰側では又、グラインドが変わっている様子にて、其処までの範囲で調整して行きます。

第一段階はシャプトンの1000番で、刃幅の3~4割刃先側の厚みが余分に残る部分を研ぎ落とすと同時に、刃毀れを小さくします。ここで前述した山や谷が出現するので、元から順に高低差が在るなりに整えます。刃元より、中央部最後部を減らすのは不可能なので、此処の対処は刃先2mmの範囲で厚みの変化の代わりに角度の変化で補います。(和包丁で行なう、切り刃による調整と刃先による調整の合わせ技)

中央部もなるべく切っ先に行くに従い厚みを低減していきますが刃幅中央から峰側は、より厚い状態が山脈状に残っており、其方との面構成が極端に違えば切断時の抵抗や切断面の乱れに繋がります。ですので、飽くまでも双方のバランスを見ながら程々に収めます。

第二段階は同じ手順をシャプトンの2000番で繰り返し、研ぎ目を細かくすると同時に刃先の欠けを取りきり、刃先角度を元40度・中30度・切っ先20度で鈍角から鋭角に、滑らかに変化を付けます。勿論、刃先2mm前後と更に上部が繋がる面はハマグリです。(あと切っ先が欠けていたので電着ダイヤと1000番・2000番で形成し直しています)

第三段階は此処までで触った全ての面(結局全面に渡りましたが)を耐水ペーパー400番・1000番・1500番・2000番・研磨剤(三段階)で研ぎ目を消して行きます。この際、各ペーパーで厚みの最終調整を意識しながら進めて行きます。

第四段階は、之までで作って来た刃先の再加工を黒蓮華で行ないます。より細かく、より滑らかに、より刃返りを出さない様に。

第五段階はカミソリ砥により最終仕上げとします。(大谷山戸前浅黄+卵色巣板紅葉の共名倉)

 

 

 

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信州のS様、以上が仕上げる工程の御説明になります。確認画像では申し分ないとOKを頂きましたが、返送後に使用し、性能でも御満足頂けましたら幸いです。この度は有難う御座いました。

 

切り出しと入れ違いに日本剃刀を

 

前回の切り出しを返送後、日本剃刀もとお送り頂きました(之も岩崎ですね)。いつもの常連さんからの二本(御本人+御友人所有の包丁)を挟んで取り掛かりました。内容的には、表の研がれた部分の均一化なども含まれていましたが、本格的な事は見合わせました。

裏と違って砥石に当たる面積が小さくないと切れに直接影響する訳では無いし、元の状態(作成時の梳きの入れ方や刃体の厚みの精度)から来る物を修正するには、適切な道具や工具が必要となる上にリスクもあるからです(加えて作業が長期間になり、料金も比例して上がります)。ですが、研ぎの工程に於いては平面に悪影響が出ない範囲で、出来るだけ砥石に当たる部分を揃える方向で作業する事に。

 

研ぎ前 表 画像

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表 刃部

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表 刃先 拡大

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研ぎ前 裏 画像

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裏 刃部

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裏 刃先 拡大

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今回は、形状がかなり整っており、刃先の研ぎ目も細かめに研がれていたので、シャプトンの2000番からのスタートでした。

次に、白巣板各種(黒蓮華・墨流し・巣無し)で前段階の傷を消しつつ、面を整えて行きます。その後、本戸前と共名倉にも使ういきむらさきで更に研ぎ肌を細かく。

最終は千枚を挟んで大谷山(共名倉は前述のいきむらさき)です。千枚は、少し久々に引っ張り出しましたが、緻密な鋼材をよく鍛造されている刃物相手には独特のぐいぐい来る研ぎ心地で、今回の玉鋼が良い状態である事を伝えてくれました。

本来、剃刀は毛は切れても肌を切らない様に刃先を僅かに鈍角化したりするものですが、実はこの剃刀の用途は刷毛の毛先の調整との事で、返りを取って完了としました。

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研ぎ後 表 画像

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表 刃部

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表 刃先 拡大

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研ぎ後 裏 画像

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裏 刃部

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裏 刃先 拡大

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料金的には、状態に鑑みて一寸当たり1000円基準、刃の寸法が5cmでしたので1.5寸として1500円+税の1620円となりました。

 

I様、引き続いての御依頼、感謝に堪えません。使用に際して、御希望に叶いましたら幸いです。有難う御座いました。

 

 

切り出しの御依頼で

 

特にブログ記事では、砥石の試し研ぎに今井義延作の切り出し等を多用する為か、切り出しの御依頼を頂きました。

片方は二代目の千代鶴さん(乱菊)、もう一つは岩崎の刻印があります。依頼内容は、岩崎の刃毀れを無くし、乱菊を切れる様に。との事で、切り刃はほぼ平面に研ぎ、最終は巣板で仕上げようと纏まりました。

 

乱菊 研ぎ前 表

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乱菊 研ぎ前 裏

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表 アップ

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表 刃先拡大

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裏 アップ

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裏 刃先拡大

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岩崎 研ぎ前 表

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岩崎 研ぎ前 裏

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表 アップ

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表 刃先拡大

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裏 アップ

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裏 刃先拡大

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シャプトン・キングハイパー・キングデラックス(1000・1200)で刃先を整えつつ平面度を向上

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白巣板・敷き内曇り・黒蓮華の系統で中砥ぎの傷を消しながら更に面を揃えていく(実際には下画像の砥石達を使った後、小さめの巣板を倍程度並べて砥面の崩れと相性に留意し仕上げました。今回は完全平面までは追い込まない仕様でしたので、平面用卵シリーズは活躍せず)

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乱菊 研ぎ後 表

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表 アップ

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表 刃先拡大

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乱菊 研ぎ後 裏

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裏 アップ

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裏 刃先拡大

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岩崎 研ぎ後 表

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表 アップ

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表 刃先拡大

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裏 アップ

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裏 刃先拡大

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作業完了後、確認用に上の様な画像を添付の上、メールでお知らせするのですが、その後で自分的に納得し切れずに研ぎ直す時があります。今回の場合(岩崎)もそうで、もう少し刃先を整え、それ以上に面精度を高めたくなって仕上げ直しました。ですので、最終的に現物は上画像とは少し違っていると思います(目視での研ぎ肌・切れは向上)。

料金的には、到着時の所見で乱菊の方がやや面が揃っていない様にに見えました(特に裏)ので、一寸当たり3000円。岩崎は一寸当たり2000円と提示しました。結果、前者が刃渡り7センチでしたが二寸として6000円+税。後者は(刃渡り6センチ程で二寸として)4000円+税でした。

実際は乱菊の面は予想より少しましで、逆に岩崎が(切り刃の面積が狭いからか)やや捻じれ取りに梃子摺りました。前述の仕上げ直しは之の名残に納得がいかず乱菊に近く精度を上げる為でした。

東京のI様、この度は御依頼有難う御座いました。あと、返送と入れ替わりにお送り頂いた方の処置は御相談の上、と言う事になりますのでメールでお示しした所感を参考に御判断頂きたく存じます。

 

今回も、まだ新しい二本

 

 

偶々ですが、前回の物に近く磨耗・損傷が少ない包丁(料理人の銘を冠した二本組)の研ぎ依頼を頂きました。

お問い合わせ段階では添付画像から見て、菜切りタイプの方が和包丁的に研ぎ下ろす必要アリかとも思われましたが、到着した現物は一見して刃先主体で問題なしと判断しました。

よって洋包丁基準、それも1cm当たり100円コースで承りました。料金としては三徳型が17cm、菜切り型が16cmですので、それぞれ税込みで1836円、1728円となりました。

 

 

構造的には、ステンレスの地金で恐らくセミステンレスを挟み込んだ三層利器材(クラッド鋼)かと思われ、それを物語るように刃金部分のみ薄い変色と浅い錆があります。

研ぎ前 全体

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研ぎ前 刃部

 

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研ぎ前 刃先拡大

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研ぎ後 全体

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研ぎ後 刃部

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研ぎ後 刃先拡大

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研ぎ前 全体

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研ぎ前 刃部

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研ぎ前 刃先拡大

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研ぎ後 全体

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研ぎ後 刃部

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研ぎ後 刃先拡大

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先ずはどちらも、小割りした巣板で刃金部分の錆をざっと落とし、ステンレス部分は汚れ落とし・研磨痕の微細化を狙って研磨剤(クリームクレンザーの後、パールクレンザー)をかけました。

次にシャプトンの1000番で欠け・磨耗を研ぎ落とし、新聞の束でテストしながら刃先の厚みや角度の調整(刃元から切っ先へ漸減)をします。

基本的な形が整うと、続いて天然砥石による更に細かい調整と研ぎ目を消す作業です。通常の標準仕様の巣板で仕上げるとやや甘い感触。そこで硬さ・研磨力のある本焼き用の巣板で仕上げました。

もしも地金ごと研ぎ下ろす必要が出た場合、砥石の方から刃物形状に寄り添ってくれるタイプとは異なるこの砥石では、刃金・地金を同時・一律に仕上げる事は困難でしょうが、今回は対象が刃金限定なので良い仕事をしてくれました。

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同市内、やや北のI様、此の度は御依頼、有難う御座いました。深い錆が出難いタイプとは言え、出来れば刃先の水分除去に更に留意頂けると、刃金部分の傷みが大きく変わってくるかと思います。それ以外の切れ・刃持ち・柄の耐久は心配ない包丁の様ですので。

 

新品に近い包丁

 

携帯が傷んだので買い替えを考えてショップに行くと、パソコンの接続(~光り?)も一緒にどうか?と言われました。全く素人なので、パソコンその他で御世話になっており、研ぎ依頼の常連様でもある人に相談し、その方向で行く事にしましたが、他にも一つ提案を受けました。

砥石で楽しんでばかり居ないで(とまでは、言われませんでしたが)「研ぎの料金が具体的に分かる表示なども有る方が親切では?大まかにはホームページに記載されているものの、参考は幾らあっても良い」との事でした。そこで今後は、記事にさせて頂く場合は可能な範囲で掛かった料金を表示していければと思います。今回、御依頼頂いた包丁も表示許可を得ての記載です。

 

兵庫県のI様より研ぎ依頼を頂いた包丁。二年前に購入してから研いだ事は無いそうですが、其れにしては傷や磨耗も特に酷くありません。刃に掛かる負担が少ない使い方だったのでしょうか。

 

全体

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刃部

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刃先拡大

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御依頼時、添付された画像からは和包丁仕立てに見えるので、切り刃から研ぎ下ろしが必要な状態なら和包丁基準で、一寸当たり(状態により)1000から3000円。しかし損耗が少なく、刃先のみの研ぎで済むなら、洋包丁基準の1cm当たり(状態に応じて)100円から200円。と返信しました。

現物が届いてみると、前述の通り刃先の痛みが少ない。しかし、洋包丁基準となった最大の理由は、切り刃が結構な度合いでホローグラインド(刃の断面が内反り)に成っている事でした。グラインダーや水研機による初期刃付けで多少ホロー気味に・・・と言うレベルで無く明らかにそれを意識していると思われます。つまり、これは切り刃をベタ研ぎやハマグリには限りなく出来ないと考えるべきで、特に減りが少ない段階では現実的ではありません。

結果、今回の包丁は16cm弱の刃渡りで損耗の少ない洋包丁基準(1cm当たり100円)となり、15×100円+税の1620円となりました。

 

 

平は割合細かい研磨痕でしたが、より食味に貢献する様に研磨剤とラッピングフィルムで少し磨き、切り刃の少量の汚れもざっと落としました。今回は刃先のみの研ぎとは言え、其処は長切れと刃の通りを意識して、峰側から刃先側にかけて徐々にきついハマグリ。刃元から切っ先へかけて徐々に鋭角に。これで、新聞の束に切り込めなかった初期に対して楽々切り込め、抜けも軽い割には刃持ちも満たす状態になりました。

 

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研ぎ手順としては荒砥を出す必要も無い位で、シャプトンの1000番・2000番の後に巣板という標準的な流れで進みました。しかし違っていたのは、鋼材の硬さは確かに中庸ではあるものの、其処から推測出来る以上の返りの出易さ。ここは最終の大谷山(カミソリ砥)に行く前に若狭の浅黄(田村山戸前?)で何時もより一段、返りを小さくしてから仕上げました。

 

 

 

全体

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刃部

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刃先拡大

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この包丁の印象としては、硬さ・組織の緻密さはまずまずという感触からの予想を超える切れで、少し驚きました。加えて、特別に長切れを狙った仕立てでは無くても、この研ぎ易さならば頻繁に研ぐ必要のある状況も苦にはならないでしょう。

I様、この度は御依頼頂き、又記載に際しても快諾を賜り有り難う御座いました。包丁に無理をさせずに使う、そんな使い手の負担を低減する様な研ぎに成っている事を願います。

 

 

古いシリーズの番外編

 

古い牛刀(洋包丁系)などの記事が続きましたが、又一段と年季の入った洋包丁と言うかキッチンナイフの依頼を頂きました。

ガーバー社製、フランボージュと言うモデルだそうです。所謂、ハイスピードツールスチールにクローム鍍金のブレードを、アルミのハンドルに鋳込んだハンティングナイフ。或いはそれをベースとしたキッチンナイフのシリーズで、後年アルミの地肌にアーモハイドコーティングを追加した為、通称アーモハイドシリーズが代名詞的に知られる・・・だったと思います。(自分もミニマグナム・ショーティは各三本、二十年前に購入し持っています。)

 

 

研ぎ前 全体

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刃部

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刃先拡大

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元の状態としては、刃先の毀れと研ぎ減りした厚み、それに長さ26センチ近い刃線のS字カーブが問題でした。持ち主としては、刃先までほぼベタ研ぎを御希望でしたが、料金も掛かる上、製品のコンセプトからの逸脱が著しいので取り敢えず、妥当と思われる研ぎを施すので試用してから改めて判断して頂く事にしました。

 

 

 

研ぎ後 全体

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刃部

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刃先拡大

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GC240番の荒砥で刃線を整え、シャプトン1000番・2000番で研ぎ目を消した後、相性の良い巣板を選んで仕上げました。

これを研ぐ前の準備として、手持ちのショーティを使って巣板・合砥の中から適合し易い物を探しておいたのですが、どちらかと言うと、軟鉄には厳しい鋼向きの白巣板(最近の製品)と硬くて細かめの合いさ(これも最近の製品)が運よく適していました。それ以前に持っていた砥石の殆どはそこまで合わなかったので助かりました。ただ、より仕上がりが良かったのは白巣板の方でした。

私の方は合いさがより適しており、切れ・研ぎ肌ともに上回ったのですが、同メーカーの同種のナイフで同じハイス鋼でも一律には研げないですね。もしかすると年代による鋼材の成分違いや焼入れでのサイズ毎の仕様違いかも知れません。何れにしても、この年代のハイスは現在の特に粉末ハイスに比べて、目の細かい仕上がりを求めるのは困難な印象でしたし、それは今も変わりません。

普段なら見たり研いだりする機会がかなり少ないモデルを扱うことが出来て良い経験になりました。M様、この度は有難う御座いました。この研ぎで問題がありましたら、違う仕様への研ぎ直しも可能ですのでお知らせ頂ければと思います。

 

 

 

後日、メールにて感想を下さいました。「感謝・感激」「恐ろしい切れ味」「取り敢えず煮豚を切ってみたが驚嘆」と、過分な評価を頂きましたが、何よりも元のコンセプトを踏襲した研ぎで気に入って頂けた事が嬉しいです。

ガーバーのピートさんが発案(デザインも?)されたであろうナイフを職人が丁寧に形にした物です。他所とは違う製法や仕上がったブレードの精度の高さから、無理なコストダウンやヤッツケ仕事と縁が無い事は明らかです。

可能な限り、その刃物が持つ性能を引き出したい。それも個性を生かす方向で。という自分の基本姿勢のまま仕事を終えられて良かったです。そして、そうするに相応しい製品だったと思います。

 

 

研ぎの重要性を御理解頂き 2

 

前回の依頼主は魚を捌く仕事をしている御身内がいらっしゃるとかで、多少、包丁には素養がある方でしたが、もうお一方はこれまで余り頓着せず、新品がベストの状態であると信じて買い足し(実は買い換え)て来たそうです。つまり、「研ぎ?何処でやってるの?自力では厄介だし、やっぱり買い替えでしょ。新品が一番」と、まあ一般的に広まっている認識だった様です。

所が、私と知り合い、切れる条件とそれが備わっている新品が如何に希少か、実物を見て説明を聞き、試しにと一本研ぎを依頼されてからは実地に使って御納得頂けました(キャベツがレタスみたいに切れたとの事)。元々、興味が出ると追求するタイプらしく、手持ちの包丁銘を検索したり刃物について情報を集め出す程。しかも刺身を自分で柵から切り分ける事も多いとかで、遂には中屋平治作イカ裂きの御購入に至りました。かなり上級の食いしん坊だと拝察されます。

 

今回お預かりしたのは、その時入れ違いに受け取った牛刀の類です。過去に買ったものの、現在休眠中となっていた三本です。

研ぎ前

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何やら研削部分以外がコーティングされている、これまた余り見かけない包丁です。

 

 

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此方は割合出回っていそうなヘンケルの1バージョンですね。

 

 

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左側面に有名フレンチシェフの名前がありましたので、コラボモデルというか

 

 

研ぎ後

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表裏ではっきりと研ぎ分けてあったので、それを更に強調する方向で仕上げました。通常の牛刀は沢山お持ちなので、特徴を出すべく見た目から菜切りっぽくするつもりでした。しかし案外硬度が低く、ベタ研ぎでは今一。そこで右はベタに近いハマグリ刃(巣板仕上げ)に大谷山で刃先を撫でて置き、左は素直に角度を変えずに巣板仕上げ。

 

 

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ヘンケルは通常の仕様でお決まりのコース。黒蓮華からの大谷山です。

 

 

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こちらもほぼ同様ですが、刃体の厚みの割りに刃幅が狭いので、切れの軽さを出す目的で通常以上に幅広のハマグリに仕上げました。割合、組織が細かく硬めな鋼材だったので、小さなストロークでも確実に切り込んでくれ、細かい作業では上々の使い勝手を見せてくれるでしょう。

 

今回、二度に亘って依頼頂いた包丁達、それに購入頂いたイカ裂きがあれば、今までとは比べ物にならない料理の仕上がり・作業負担の軽減が期待できると思います。休眠中だった包丁も含めて、存分に活躍させて頂ければと思います。

 

 

 

研ぎの重要性を御理解頂き

 

少し前に大同特殊鋼仕様と思われる正広牛刀を依頼された方から、今度は和包丁をと御持ち頂きました。もう一方の古い牛刀の持ち主からも牛刀×2、ペティ×1を続いて頼むとの事でした。では順に和包丁から。

これは私の母も五寸五分サイズで(ほぼ同寸の東型薄刃と出刃の三本セット)所持している物の少し大きいサイズ、関孫六の柳六寸五分(自分は刃渡りの実寸で料金計算していますが、マチから切っ先で計れば七寸と云う事になるのでしょう)です。伊吹と銘がありますが、人名を入れたのでなければこれがモデル名なのでしょうか。だとしたら、余り聞かないような気がするので古い物なのかも知れません。

 

研ぎ前 全体

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研ぎ前 刃部

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研ぎ前 刃先拡大画像

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元の状態は、酷くは無いものの全体がまずまず錆びており、それでも手入れしようとしたのか擦り傷も同じくらい全体に付いています。そして小さな欠けが数箇所と大きな欠けがありました。裏梳きが余り無いのは研ぎ減りというよりは元々の仕様の可能性も。

 

 

 

研ぎ後 全体

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研ぎ後 刃部

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研ぎ後 刃先拡大画像

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先ずは平と裏の錆を耐水ぺーパーで落としますが、平の平面が崩れ、鎬がかなり丸くなっていたので通常よりやや粗い番手から2000番前後まで。後はラッピングフィルムを一つ二つ上まで掛けて、研磨剤を三段階で終えました。このレベル(顔がぼんやり映る程度)になれば水を弾き、通常使用で速く深く錆が進行する事は稀です。

研ぎは表にGC240番(通常・小割り)、キングハイパー、白巣板(通常・小割り)。裏にはキングハイパー、白巣板、鏡面青砥です。但し、切り刃(地金部分に数箇所、鋼の後ろ部分にも二箇所、製造段階での削り過ぎがあったので、最低限満足できる形状まで研ぎ落としました。

この際、地金の質に応じて小割りした巣板系が活躍するのですが、今回は普通・蓮華・黒蓮華でも今一でしたので、一番適応範囲の広いナマズで何とか仕上げました。刃金・地金の硬さや粘りで相性が変わりますが、形状の不均等ではナマズに軍配が上がりますね。これは小割りだけでなく通常品でもそうだと思います。

後は、一番大きな欠けを取りながら刃線・角度を揃えていき、全体が纏まった所で終了としました。欠けは三割ほど残りますが、刃先を減らすと少ない裏梳きが問題になり、全体も余分に小さくなります。そもそも柳ですから、欠けが呼び水となって新たな欠けが発生する事も考え難いです。研ぎでは、やや強めにハマグリにしましたし、俎板も木製使用を視野に入れて頂いている様子にて、より長持ちしてくれる事でしょう。

 

 

復帰の和包丁

 

久し振りに和包丁を複数、まとめての御依頼を頂きました。

三年間、飲食業から離れていたけれど、この度、再開されるとの事です。内装などが工事中なれば研ぐスペースの確保もままならず、これまで御自身で面倒を見てきた包丁達を任せて頂けた様です。

到着したのは五本でしたが今回は相談の上、柳(尺)、出刃・大(六寸五分)と出刃・小(四寸五分)の三本を研ぐことに。(寸法は刃渡りに対する私の実測)

 

研ぎ前 柳

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柳 刃部

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刃先拡大

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研ぎ前 出刃(大)

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出刃(大) 刃部

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刃先拡大

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研ぎ前 出刃(小)

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出刃(小) 刃部

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刃先拡大

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柳は、ほぼベタに近い研ぎが成されており、厚みが邪魔になる物ではありませんでした。しかし、刃元に近づく程に切り刃が広くなる傾向。そしてベタ気味ゆえに、刃先の負担が大きく見受けられ、それは相対的に切り刃の幅が狭い切っ先側でも同様でした。

そこで、刃渡り中央より手前の出過ぎている刃先を欠け取りを兼ねて研ぎ落とし、逆に切っ先に向かってはテーパー状に厚みを取りながら鎬をやや上げました。刃先は鋼部分、最先端までの半分はハマグリに。勿論、その角度も刃元から切っ先にかけて徐々に鋭角に。

 

研ぎ後 柳

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柳 刃部

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刃先拡大

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出刃は、大小どちらも似た傾向(多分初期からでしょう)が伺えます。切っ先側は厚みがかなり残る上に、刃元も角度を変えながら「R」の右半分みたいな書道でいう「はらい」的なラインで鎬筋から刃線まで形成されています。これは、以前から自分が使い手としても研ぎ手としても苦手な仕様でした。ですので、お任せで研ぎ依頼されていた事もあって、双方軽減していく方向で仕上げました。

又、柳より相当以上にタナゴッ腹でしたので、これも欠け取り兼用の研ぎ落としで刃線の丸みをやや減らしました。其の上で、刃先のハマグリ度合いは2~3倍ほど強めに仕上げました。

 

研ぎ後 出刃(大)

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出刃(大) 刃部

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刃先拡大

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研ぎ後 出刃(小)

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出刃(小) 刃部

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刃先拡大

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以上の研ぎに使用した砥石は、表はGC240番(通常品+小割り)・キングハイパー・白巣板(コッパ+小割り)。裏はキングハイパー・白巣板・敷き内曇り・合いさ・鏡面青砥です。

 

 

 

 

さて、今回お送り頂いた包丁達ですが、漏れた包丁が気になりました。同じチームで働いて来た他の三本は研ぎ直されたのに、研ぎ屋に来ていながら、この二本をそのまま帰らせるのは気が引けると言いますか。他にも、持ち主が御自身で研ぎ直すにしても手間が省ける方が楽であろうし、ましてや買い換えられてお蔵入りになっては可哀想と・・・。

ですので、取り敢えず使用に差し支えない程度に整えておこうかと思いました。六寸鎌型薄刃は鎬筋と刃線の蛇行・刃毀れ少々が問題でしたので、欠けを取りつつ蛇行を鎬筋は三分の一、刃線は二分の一に、それぞれ修正しました。まあその分、刃先までベタでツライチとは行きませんが、飽くまで対症療法です。しかし効果としては、フラットな俎板によりフィットし易く、切れも、刃先が引っ掛かる事無く使えると思います。

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もう一方の八寸柳は、切り刃も安定しており、欠けも微細なレベルでしたので、刃先を裏表ともに白巣板で整え、切り刃も小割りした巣板で均しておくに留めました。唯一、切っ先側の2cm程が鶴首っぽくなって居た為、他の刃先部分よりもコンマ何ミリですが多目に研ぎ落としました。

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最後の二本は、自分が標榜する仕様に仕上がっている訳では無いので、この作業に対しては値段を付けられません。~円相当のサービス・・・的な表現は不可ですね。若干余計な御世話かとも思いましたが、再び店を構えられる依頼主へのお祝いと、これから先、向き合って行かれる仕事への応援と捉えて頂ければ一向に差し支えありません。

K様、この度は御依頼有り難う御座いました。出来れば包丁達は今後も欠ける事無く一緒に活躍させてやって頂けましたら有り難く存じます。心より、お店の成功をお祈りしております。

 

 

前々回に引き続き

 

前々回の記事で記載しました古い正広牛刀の持ち主、K様のお知り合いであるY様より、「それに匹敵する位に古い包丁ですが。」と研ぎの御依頼を頂きました。

下の画像がそれですが、購入は二十年ほど前になるとの事でした。状態としては、あまり研ぎ直し等されていない様子でしたが、刃先の歪みや無数のごく小さな欠けがそれなりの年月を感じさせるものの、磨耗自体は案外少なく感じました。

これは、包丁自体の鋼材の仕上がりとして、硬さ・粘りのバランスが割り合い優れて居た事と、これを含めて複数本で運用して来た為、負担が分散したのだと思われます。

 

 

 

研ぎ前 刃体の画像

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研ぎ前 刃先の画像

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研ぎ前 刃先拡大画像

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何時もの様に、汚れ・研磨痕を耐水ペーパーと研磨剤で軽く落とし、GC240番の荒砥からシャプトンの1000番、2000番に繋ぎ、前回購入の白巣板で大まかに傷消しと角度調整をします。あとはステンレスの定番コースの黒蓮華(今回は軟らかめ)、大谷山で仕上げました。

荒砥の段階では、やや「粘りが強すぎ・粗めの返り」を感じ、せいぜい6Aレベルの鋼材かな(其の割にはやや硬め?)と思いましたが、2000番以降は組織の細かさがはっきりしてきて、8Aと同等以上の切れが得られました。これは、荒砥・中砥・仕上げ砥の各段階で、徐々に厚みや角度の変化を付けつつ研ぎ進めている効果を、工程が進む度に新聞紙の束を切り分けてテストする事で確認できます。

 

 

 

研ぎ後 刃体画像

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研ぎ後 刃先画像

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研ぎ後 刃先拡大画像

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今回のY様は、ほぼ同ジャンルながら他にも仕様の違う包丁をお持ちなので、それぞれ刃の硬さや厚み等に応じて、作業内容を割り振りすべきというアドバイスに御納得頂けました。例えば今回の包丁は、軟らかい物を綺麗に切り分ける専用にする。そして硬い物・半冷凍の物・野菜の根(場合によっては土付きかも)のように刃の負担になる対象には、刃が厚め(頑丈)・焼きが甘め(欠けず捲れて研ぎ直し易い)な包丁を用いるといった具合です。

今後は、上記の内容を念頭に御使用頂ければ研ぎ直しのサイクルも長く設定でき、快適な環境で調理作業に取り組めると思います。Y様、この度は有り難う御座いました。