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サンプル切断

 

砥取家にて、サンプルと弓鋸(タングステンカーバイトコーティングワイヤー装備)を持ち込み、万力を借りて切断してみました。

最初は、ウオータージェットカッターみたいな物が在れば、等と考えていましたが、当ても無いので自力で切断するしか無く、かといって切断砥石では熱が凄いと思い、弓鋸で挑みました。昔、カウリXのムクと積層を焼き入れ前に切ったのを思い出しましたが、しっかり焼きの入った白紙はかなり滑り、やはりもっと手強かったです(地金は地金で粘りや弾力で、また違った味わいでした)。しかし結局、人力での摩擦熱とは言え、結構熱くなっていたので若干の心配も在ります。

5~6個は切り分けるつもりでしたが、少しの休憩を挟んで1時間では3個止まりでした。次回も3個くらいになりそうです。

 

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あとは平面出しの為、表裏を研削後に各種仕上げ砥で研磨すればサンプルの完成ですが(拡大しての検査・耐蝕性テスト・出来れば表面の酸素や水分含量測定用)、二日後の検査では包丁その物の精度を測る目的ですので、飽くまでも次回の検査への下準備であり、機器の治具への適合如何を見る為の作業という事になります。

 

 

 

今回の丸尾山砥石の収穫。最近は取り回し重視でコッパや鎌砥・切れっ端の購入が多かったので、やや大きめ(普通サイズ・定寸)のは久しぶり。因みに自分が買う砥石の3~4割は、面が付けられる前の段階で選んで居ますので、判子などは無い物も多いです。この二つも帰宅後、面付けをした所、大当たりでした。近頃は思った様な砥石を選ぶ事が安定して出来ているので、研ぎの相性探しが幾分楽になって来たような気がします。(特に左は、はねてあった所から見つけて来たのでオマケみたいな物ですが、使用に際して難点を克服可能なら、石質は良いので使いたいと思い、購入しました。)

 

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待ちかねたサンプルが到着

 

以前から依頼していたサンプルが鍛冶から届きました。これは刃物として製作した物では無く、細長い刃金と地金を一定の厚みで鍛接・焼き入れして貰ったものです。ほぼ通常の作品を仕上げる工程と同等の作業内容を経て、日野浦さんから提供して頂きました。

 

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刃金側は研磨されています

 

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此方は地金側・打ちっ放し乍ら精度の高い仕上がり

 

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問題は、これを検査機器に掛けられるサイズに切り分けて表裏を研ぎ上げてやっとサンプルの完成となる事です。熱を掛けると金属組織に影響が出てしまう事を考えると、切断方法も限られますので、何とか上手い方法を探そうと思います。

 

 

 

 

此方も以前から話を聞いていた、サンプルの包丁が同梱されて来ました。確か銀紙三号だったと思いますが、鍛造に適したステンレスは、適切に鍛造を加えると性能が向上するのを確認したいので作ったそうです(鍛造効果による切れ味・長切れ・研ぎ易さに加え、細かく研磨した際の錆びにくさ)。

実際、到着したままの状態で手近に在ったトマトを切ってみた所、之まで経験した切れ味の良いどのステンレスにも引けを取らないものでした(対象はカミソリ砥を含む天然仕上げ)。現状は人造仕上げと思われるので、之を天然で仕上げれば更に切れ味が向上する事も考えられ、そうなると益々トップレベルの性能を見せてくれそうです。

 

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直近の予定としては、今回届いたサンプルを仕上げる前に、刃物の形状や研ぎ肌の精度を測定する検査を、九月上旬に研究の第一弾として取りかかりたいと考えています。

今在る包丁などの現状から、不必要に削り過ぎない範囲で如何に目標、つまり理想と考える形状に近付けられているか、そして望む研ぎ肌のレベルに仕上がっているかが確認出来ると思います。

 

 

 

サンプルの予備 続き

 

前々回に引き続き、研究用のサンプルが届くまでの「予備の準備」シリーズです。豆鉋は、刃先が完全には揃っていなかったり、刃金部分がやや平面が甘かったり(僅かにハマグリに研ぐ癖かも)、研ぎ目が残っていますが、仮の仕上がりました。あと、切り出しの他はイカサキ(柳のスケールダウンとも見做す事が出来る)と三徳が三種よりは、出刃(ハマグリ刃の代表例)を加える方が良いと考え、普段最も使っている小出刃(五寸五分)を加える事にしました。

 

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双方共に、未だ仮の仕上がりと言うのが正直な所で、研究に掛かるまでに出来ればもう少し精度高く研いでおきたい所です。

 

 

余談ですが、所属している社団法人で監修した恰好の本が、来週半ばに出版されます。私は自分の書いた文章以外にも、結構な範囲について校正というか校閲みたいな事をしました。しかし、最後の最後でもう一度試し刷りの印刷物で確認出来るとばかり思っていたにも関わらず、そのまま製本の流れになりました。小さい頃から割合、誤字や脱字が気になる方で、印刷物を読んでいると実際、目に付き易いのですが、何故かパソコンなどのディスプレイでは気づき難い様です。ですから、出版後にチェック漏れが出ないかやや心配なのですが、どうせ漏れがあるなら気づかないよりは把握しておきたいので、手元に本が届けば、やはり注意しながら読んでしまいそうです。因みに、姉妹本のように三年前に先行して出版された大工道具 砥石と研ぎの技法 でも気になる箇所が在った覚えが在ります。今回の題名は、包丁と砥石大全 だったかと思いますが、書店で目に付いた折は手にとって御覧頂いても、そうそうがっかりしない内容になっていると思います。

 

 

研究用の試料(予備)

 

研究サンプルの手配が遅れている為、急遽、以前にも東京の先生に試料として購入・研磨(天然・人造、双方研ぎ分け)して送った鍛冶屋に買い出しに行きました。物は同じく豆鉋で、材料も前回同様に青1と和鉄です。

 

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画像は、電着ダイヤ1000の後、キングの1000と1200を交互に数回当て、シャプトン1000と2000で大まかに形を整えた段階です。今後、再びシャプトンで面を出し、天然は合砥まで、人造は8000まで使って研究に使えればと思います。但し、1.3㎝×2.6㎝ほど有り、条件として出されていた、2㎝程の円形では無いので難しいかも知れません。無理なら初回は通常の刃物のみでスタートとなります。

 

 

因みに、前回送った二丁の豆鉋は以下の画像です。右が天然(敷内曇り)、左がキングの8000(近年の物より20年程前の方が仕上がりが良かったので、それにしました)

 

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サンプル決定と予備検査

先日は、研究目的の各種検査機材に適応する試料のサイズ等の最終的な打ち合わせと、当日持ち合わせた通常サイズの刃物でも測定出来る機材を選んで試験的に測定してみました。

 

切り出しは、新品と研磨済みの二種類、イカサキは販売用の軽く均し研ぎ済みとほぼ本刃付け済みの二種類。三徳は現物一種類です。

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使用した機材では表面の粗度と同時に面自体の凹凸やうねりも測定出来、仕上がりの細かさや面の均一性や破綻の無い連続性等が確認出来ます。

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ほぼ新品のイカサキを測定中

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これらによって、刃物自体の状態が判断出来るのみならず、任意の砥石の任意の番手(♯・グリッド)で研いだ際、センサーの振幅を読み取る事によって研ぎ目の細かさも測定出来ます。つまり砥石から転写された研ぎ傷のサイズにより、実際の砥石の性能判断にも役立ちます。以上は主として人造砥石の再確認といった所ですが、一例を挙げれば天然砥石、所謂合砥辺りはおおよそ8000番前後と言い習わされて来ましたが、それが確認出来ました。

 

そして、ほぼベタ研ぎで刃先近くからやや角度を付ける仕様にした物は、本当にそのものズバリの線がグラフ上で再現されていて納得もし、それ以上に面白く感じました。下画像は上の刃物とは関係ない、又切り刃とも確定出来ないサンプルとしての画像ですが、このような振幅と全体のラインで表示する事も可能です。

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小さな試料しか対応不可の機材用に、製品レベルの仕事を施した上で規定のサイズに納めたサンプルを、無理を聞いてくれる鍛冶に依頼しました。これで鋼材メーカーから出たばかりのテストピースに熱処理しただけではない、実際の刃物と同等の条件での測定に道筋が付きました。

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研究用の包丁(少し趣味の世界)

 

最近は御近所様から持ち込みで依頼をされたり、メールでの依頼・問い合わせを頂いたり(何故か以前から東からばかり)しつつも、明日の研究最終打ち合わせ兼手持ちサンプルでの試験運用開始に備えていました。

金属標本的な物で無く、性能的に製品レベルに達した資料製作は、既に親しい鍛冶に相談してあったので、後は機材に適した形状・サイズが確定次第それに従って加工して貰い、自分で研ぎ上げれば測定に掛かれます。それまでに出来る検査として、通常サイズでも可能な測定機によって先ず刃物自体の面精度辺りから取り掛かるべく包丁を研いでいました。勿論、製造段階で削られた部分は戻せないので、本当に理想通りの形状とは行かないまでも、より近付けるよう、そして研ぎ面に凹凸や歪みが無いように更に追加で研いでいた訳です。

所が、巣板を小割した物で表面を均したり化粧研ぎをしたりはして来ましたが、以前手に入れた柔らかめの千枚の木っ端を弓鋸で挽いて小割し、その際の粉末も用いて化粧研ぎをしてみると、巣板とも鏡面砥石とも又違った仕上がりとなりました。研究用の均し研ぎでなく趣味の化粧研ぎに近い感覚で楽しんでしまい、美観を追求する余り面精度が低下していないか一抹の不安もありましたが、一味違う仕上がりの包丁達を見ていると、やはり嬉しさの方が勝ってしまいます。

 

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研究に使えそうな機材色々

 

先日、研ぎ文化振興協会繋がりで京都府中小企業技術センター関連施設において、此方で実証を目指している試験項目の相談と、希望する研究に使えそうな機材の見学をさせて頂きました。

大きく分けて

①表面の粗度・硬さ(表面のみでは無いが)・組織の性状や組成分析用

②立体物の寸法や形状計測用(接触・非接触あり)

③金属の対候試験用(温度、湿度のみ・塩分含有雰囲気下での曝露)

があり、項目によっては、それぞれに能力の程度や使用する物(分光やX線など)による違いで、単一目標にも関わらず複数用意されていました。

 

以下は見学の際説明を受けながら撮った画像です。

 

CNC三次元座標測定機 X・Y・Z方向でプローブの接触により計測

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画像測定機 CCDやレーザープローブによる光学計測

IMG_0534画像測定器

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下画像は、最初にある物の簡略型で、直線上をレコードの針で表面をなぞる様にX軸方向(上下方向)のみに数値を出しますが、複数列繰り返せば、ある程度の面積にも対応出来ると言う事です。

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非接触三次元測定装置ですが、あまり大きな試料には対応出来ないようです。レーザープローブ式。

IMG_0537非接触三次元測定装置

 

下は硬さを計測出来ますが、かなり新しく、高度な測定が出来ます。例えば、従来のロックウエルやビッカースと違い、余り表面に傷を付けずに軽い接触で可能です。

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5%食塩水を噴霧して、耐蝕性能を比較するのに用います。通常、数十時間から数日の範囲で運用するとの事です。

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上の物より一般的な(塩分含有雰囲気での曝露でない)温度湿度サイクル試験機です。此方の方が実際の使用条件に近いテストが出来そうです。

IMG_0540温湿度試験機

 

 

下はやや旧式で、倍率も比較的控えめだったと思いますが、研磨の表面を通常観察するには手頃かと感じた顕微鏡です。それ以上の新型・高性能な物は、減圧下で試料を拡大しつつ成分を分析出来たりする優れものですが、入れられるサンプルが小さい物限定であったり、磁気を使用する為に金属は不対応だったりします。しかし、機材によっては所謂ステンレスの酸化皮膜自体を計測し、極表層、中央、最下部で酸素の含有量まで分析可能との事です。

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以上の機材を用い、刃物の研ぎ肌の粗度、形状の精度(平面度合い・目標とする形状との差異)、天然砥石仕上げの耐蝕性などを調べられればと考えています。これらによって、良い刃物は勿論、適切な研磨とそれを支える砥石の価値が見直される事を願っています。

 

 

 

検査の準備

 

包丁は、普及品の利器材使用品(新品)との対比用に、手持ちの中からやや高級な利器材使用品の包丁(新品)、手打ちの包丁(新品)を考えており、加えて手打ちの包丁に研ぎを施した物で仕上がり形状の違いが出ればと思います。

 

その研ぎの種類として、刃先以外はほぼベタ研ぎで、切り刃の厚みもほぼ一定にした物の例です。これは、包丁の身自体が刃元から切っ先に掛けてある程度テーパー状に造形されているからです。

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白巣板仕上げ

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これも刃先以外はほぼベタ研ぎながら、切っ先に掛けて切り刃の厚みを意識的に抜いた物です。これは上記の物とは違い、両端以外は身自体の厚みの変化が少なかった為です。

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敷内曇り仕上げ

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此方は身のテーパーがかなり強調されている仕上がりだったので、切り刃の厚みは一定気味。しかし鎬から刃先まで極緩いハマグリ刃にしてあります。やや欠けやすい白紙一号Aである事も関係しますが、普及品の大半が多段・若しくはハマグリ風の刃付けになっているのと対比が出来ればとの想いからです。

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千枚仕上げ

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最後にもう一度研ぎ直した普及品の切り出しです。

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研磨の精度

 

これまで研ぎに於いては、刃の厚みや角度の連続的且つ不可逆的な変化、また面の連続性・平滑性・平面度合いの向上を重視しつつ取り組んで来ました。それは刃先の切れ味と並ぶ重要項目である、「掛かり・走り・抜け」に直結するからです。つまり対象に切り込み始めてから刃が受ける抵抗(スライドしつつ進むので縦横2種類の方向からの抵抗になりますが)が一定・或いは軽減しながら切り進む状態に仕上がるかどうかに関わります。これが実現されれば、綺麗に野菜の皮を剥く・切り分ける、肉や魚を傷めずに切ると言った事が出来るだけで無く、それに必要な筋力も少なくて済みます。

しかし製造段階での刃身の状態や出荷直前の刃付けにより、どの程度研磨すれば問題無いレベルにまで仕上がるかは大きく左右されます。大まかに言えば値段の高い製品程、良い状態で販売されている確率が高い訳ですが、各項目全てに十分なコストが掛けられる最上級品を除き、材料・デザイン・本体の表面処理・刃身や刃付けの歪み取り等、それぞれ何処かに絞られています。勿論コスト以外にも製造側の技術的な限界もあり、一定以上のレベルに仕上げるには多かれ少なかれ購入後の調整研ぎが必要になります。(和包丁は洋包丁よりも調整範囲が広く、より大変になります。)

結果として、安い刃物だから研ぎも安く済ませたい、といった感覚は良く理解出来る物の、現実的には逆に正確な状態に仕上げるまでのハードルが高くなります。使用されている鋼材は硬度の低い物が多い為、研磨は楽に思われそうですが、これも逆に粘りが強すぎて返りが取れなかったり下りが悪くて刃が付きづらい事も多いです。従って快適に使える仕様に調整するには研ぎ手や砥石に要求が多い刃物とも言えます。

上記の「掛かり・走り・抜け」では刺身など、主に引き切り(プルスライド)の場面で重要になりますが、反対に押し切り(プッシュスライド)の場合は楔効果で割り開く働きが得られ、植物性の繊維を断つのに効果的です。効率的では無いので薦められない刃を真っ直ぐ押しつける落とし切り(ドロップカット)では関係ない様に思われますが、この場合も切り刃の断面形状によって対象への侵入時の抵抗が違ってくるので、最低限「直圧による刃の通り」だけでも考慮するべきだと思います。

 

以上の要素を突き詰めてきちんと研げているかを研究する為、遠からず産業総合研究所的な施設で平面精度や表面の平滑度合いを検査して貰う予定で居ます。具体的には凹凸を色違いで画像に表したり、厚みの変化のバラツキの程度が可視化出来ないかと考えています。そこで手始めに普及品の切り出しを仕上げて新品との違いを確かめる準備です。

 

新品時の画像

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一端ここまで仕上げましたが

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GC240番、電着ダイヤ1000番、キングデラックス1000・1200番からのシャプトン1000・2000番

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敷内曇り

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白巣板蓮華

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本戸前

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千枚

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カミソリ砥

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他には、下画像のホームセンターで販売されている三徳包丁に対して、自分の手持ちの三徳の新品、更にはそこから研ぎを加えた物で比較して違いを見たいと思います。包丁の値段の違いによる差異が明確になれば、それぞれの値段なりの包丁の価値が再認識され、的確に目的の形状に研磨されている事が実証されれば、研ぎの正確性や重要性が確認出来ます。

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