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府下からの研ぎの御依頼

 

大阪府下のY様より、研ぎを御依頼頂きました。包丁はミソノの炭素鋼です(刻印にはスウエーデン鋼とあります)。切れ味への拘りが感じられますね。

ある程度、錆が出ていますが新品状態から磨かずの使用であれば、かなり優秀なレベルだと思われます。

 

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刃先も酷い損耗は見られず、全く切れない状態ではありません。しかし、刃体の厚みが綺麗にテーパーになっている割りに、切り抜けがもう一つ。

 

 

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先ずは人造の1000番で、小さな刃毀れ(欠けと捲れ)を取りながら研ぐ範囲を少々広げ、緩いハマグリに。その後、耐水ペーパーの二段階(1000番・2000番)と研磨剤三段階で錆・汚れを落としておきます。

 

 

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白巣板(サラサラ下りる)で研ぎ目を消しながら、刃先の角度を切っ先に向けて徐々に鋭角に研いで行きます。

 

 

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敷内曇り(砥粒の目が立っていて細かい)で更に追い込み・・・

 

 

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千枚に繋ぎます。

 

 

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最終仕上げは浅葱で。左上のは共名倉に使用した中山の黄色いのです。

 

 

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鋼の包丁を御使用との事で、つい応援したくなり通常よりも磨きを入念に行いました。磨きその物の御依頼では無かったので完全ではありませんが(そもそも拙い手作業でもあります)。水を弾き、汚れを取り易くする事で錆や変色を遠ざけられるからです。又、それで切られた材料の味にも好影響を与えます。

今後も、使用後にクリームクレンザーを御使用になる事で、ほぼ同状態の維持が可能でしょう。(怪我防止の為に俎板等の上に包丁を安置して、キッチンペーパー・ティッシュ・布に付けて磨いて下さい)

 

確認画像では了承を頂けましたので、明日にも御返送致しますが、実際の御使用に於いても使い勝手が改善されている事を願っております。Y様、この度は研ぎの御依頼、並びにブログ掲載への御協力を頂き有難う御座いました。

 

 

いつもの常連様から

 

私のベスパやパソコンで御世話になっている常連様から、研ぎ依頼を受けました。まあ、パソコンを持ち込んでメンテナンスを御願いしたので、ついでにと言った感じですね。これら以外にも、アメリカ製のマスプロナイフも研いだりしつつでしたが・・・。

 

 

以前から研いでいた包丁、研ぎ前。

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確か青紙スーパーの三徳

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鋼(恐らく日立白紙に準じる刃物用炭素鋼)のペティ

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ステンレスの牛刀

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大半は同一行程にて、代表して三徳の画像を

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シャプトンの1000番で小さな欠けと厚みを取ります。

 

 

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巣板で傷を消しながら、刃先を鋭く。

 

 

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今回は、目の細かい合いさで更に鋭利に。

 

 

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浅葱で最終仕上げ。

 

 

 

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研ぎ上がり

 

 

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地金は、千枚仕上げです

 

 

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平は耐水ペーパーで、切り刃(地金部分)は小割りした巣板・千枚です。これは薄く製造されているので、切り刃の錆や傷などは人工の研磨剤ではなく、減りの少ない天然で落としていこうかと考えて居ます。あ、刃先は又、少しばかり気になって撮影後、研ぎ直しています。

 

 

 

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この手のステンレスとして、期待出来得る最大限の切れが得られたのは、砥石との相性の良さが際立った為でしょう。可笑しな話ですが、殆どのステンレスで性能を引き出しつつも、中級とそれ以下の物に、特に恩恵があります。具体的には切れ味と長切れです。柔いステンレスが採用されている包丁ほど、よりはっきりと改善された刃先を実感して貰えるのではと思います。

 

今回は二本が和包丁でしかも両刃でした。本来なら、(洋包丁基準より高い)和包丁基準の料金になる上に、片刃の二倍の料金になる両刃です。しかし、三徳は切り刃が狭い仕様で且つ形状が整って来ている為、片刃と同一料金(しかも最低ライン)。ペティは切り刃が広いものの、研ぐ部分が未だ刃先周辺に限定的で切り刃自体は磨きが主体である事から、此方も片刃と同一且つ最低ラインとなりました。

 

色々御世話になっており、研ぎの依頼も頂き有難う御座います。過去に御購入頂いた包丁・鉈の仲間入りするであろう特注の鉈は、いつもの様に数ヶ月~一年程かかるかも知れませんが、気長にお待ち頂ければと思います。この度も、有難う御座いました。

 

 

五月二十九日の砥石選別

 

常連さんからの依頼で、特注の鉈を日野浦さんに相談した折り、此方から手配できる砥石の種類が増えた事を話しました。何でも、過去に興味を持って当たった時期が在ったものの、巡り合えなかった石があるとの事。今回、それに叶うかどうか分かりませんが、送ってくれる様に頼んで来ますと返事をしたので、昨日の日曜に選別に出掛けました。

幸い、元々協力関係であった事もあり、趣旨に賛同を得られて十本の立派な砥石(中山戸前・浅葱・巣板、菖蒲巣板)を発送して貰う手筈が整いました。後で考えると、かなり自分好みの色が強く出ているので、お気に召して頂けると良いのですが。

 

 

それとは別に、仕事用の石も見て来ました。この前、北海道へ御送りした三毛みたいな中山の巣板ですが、同系統が手持ちに二つでは最低限な感じですので後一つは追加したいなと。

これが案外、多くは無かったみたいで二、三の中から一つを選びました。少し前までは結構な数が揃っている印象だったのですが・・・大事に使わねばならないのかも知れません。

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之までの三毛とは違い、縞模様というか八枚柄が見えますね。砥ぎ感と仕上がりは大体同じですが、ややガッチリしている様な。

 

 

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地金はやや明るめ、刃金は薄曇り。研磨力強し。

 

 

 

 

白巣板よりはナマズ入りの敷内曇りでしょう。当たりは中庸な硬さですが、砥ぎ始めると泥も出てかなり変形も出易い傾向。しかし刃金は、曇り系の易変形性の巣板としては明るく仕上がります。

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地金の砥ぎ目は少し荒いですが、それと対照的に刃金は細かく仕上がっています。これはこれで、本焼きに向いているとも言えそうです。巣が殆ど無いのも扱い易く手間要らず。

 

 

 

 

たまに砥石の御依頼を頂くと、千枚・八枚系統の御要望が割合多い印象です。それを受けて、選別に出向きますが必ずしも「一定期間・一定量に幾つ」と決まって並んでいる訳では有りません。

ですので、直近では千枚の質に近い(千枚と隣り合った層の境目)と思われる砥石で御納得頂いたりしました。しかし今回は運良く、それと思われる石を探し出せました。

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砥面・側面の色柄・模様は正に千枚で、砥ぎ感や仕上がりも頷けるもの。

 

 

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若干気になるのは、刃金・地金ともに仕上がりが、少しばかり浅葱に寄り過ぎやしないかと感じる点です。

 

 

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そう言えば、裏の模様が東物に似ていなくも無い様な・・・やはり此れは東の浅葱ですね。まあ私は、使って性能に問題なければ良いタイプの人間ですので、良しとしましょう。次に千枚(系統)をと御依頼の際に、手頃なのが無ければ此れを御送りしても御不満は出ないのではと思われます。

 

 

 

 

下画像は、完全に水浅葱です。先の石よりも更に細かな砥粒を感じさせます。

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小さ目ですが均一で、刃金・地金ともに明るく仕上げてくれます。やや硬口ですが、地も引き難い上、軽く砥げます。

 

 

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文句なしの仕上がり。刃金は鏡面に近く、地金もそれに迫ります。

 

 

 

 

此方はおまけで。

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手の平サイズですが、切り出しなどには充分ですね。中庸(やや軟)な硬さで砥ぎ易く、仕上がりも良いです。

 

 

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仕上がりは、上の水浅葱に近いレベルです。小さくても侮れない性能を見せてくれて嬉しい限り。

 

今回の選別で、東物の範疇を含め、当面自分用の石は足りたかなと考えています。個人で保管可能な量もこの辺りかと・・・。勿論、御依頼に応じたり、自身の勉強の為にも砥石詣では続きます。

 

 

売り切れの御知らせです

 

販売用に在庫していた包丁ですが、立て続けに品切れになった種類が出ましたので御注意を御願い致します。ホームページをリアルタイムで弄れませんので、此方のブログ側で失礼して御知らせとさせて頂きます。

香港に御送りした司作の三徳に続いて、東北のS様(最近S様が重なっておりますが)に御送りする事になった中屋平治作イカ割きも売り切れになりました。

平治作は今の所、追加の仕入れの予定は有りませんが、司作は時間を頂ければ又、注文して追加が可能です。

 

 

最後のイカ割きは、研ぎ見本として巣板である程度形状を整え、カミソリ砥で刃金を仕上げてあった物です。今回、注文を頂き改めて巣板で均し、千枚で地金を、浅葱で刃金を研ぎました。最後の裏押しは鏡面青砥です。

 

先ずは巣板で全体を

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浅葱で刃金を。共名倉は一本松の戸前浅葱

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裏押しで鏡面青砥。共名倉は八枚

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研ぎ上がり

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東北のS様、週明けにも発送できると思いますので、少々お待ち頂きますよう御願い致します。

 

 

 

香港からの御依頼

 

香港のS様から包丁購入の御依頼が有りました。その際、お任せでの研ぎを併せて申し込まれておりました。

新品への最初の研ぎでもあり、半分サービスの意味合いもある研ぎでしたが、鋭利過ぎる刃先は通常でもお好みで糸引きを入れて来ました。ですので、もう少し完成形に近付く様に仕上げて行きました。

 

新品状態。人造砥石ながら、かなり追い込んだ研ぎが施されています。

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刃部のアップ

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天然砥石にて研ぎを開始。先ずは巣板から。白巣板・敷き内曇り系統。

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巣板での研ぎあがり。曇り仕上げ。

 

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千枚での研ぎ

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刃金は半鏡面レベルと言うべきか、かなり明るく仕上がっています。地金も小割りした巣板から千枚で。

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浅葱での研ぎ

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更に明るく仕上がり、刃金は準鏡面に。地金も再度、千枚(小割り)で仕上げ研ぎ。

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刃部のアップ

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研ぎ上がり

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新品から余り研ぎ減らすのも気が引けるので、人造の研ぎ目は大まかに消す事に留め、刃金部分を刃先へ行くほど鈍角の極緩いハマグリで、強い刃先と軽い切れ味に仕上げました。

これで、切れを保ったまま頑丈さと長切れを両立し、錆びや変色にも人造砥石仕上げに比して耐性が付きました。食材を切っても食味が損なわれにくいでしょう。

 

 

S様には、前回画像を上げた砥石にも興味を持って頂いた様子にて、包丁と砥石の値段は勿論、この司作三徳包丁の仕上がりを見て御判断を頂きたいと思います。

この度は包丁・研ぎ・砥石の御依頼、有難う御座いました。

 

 

四月二十九日の砥石選別

 

今年は桜のシーズンに遅れ、藤のシーズンになりました。指示のタイミング不安定なナビに惑わされ、想定外の経路(茨木回り)でしたが景色は良かったです。しかし余裕が無く写真も撮れず。

北海道用と松阪用、それに香港用の砥石を探してきました。結果的には、一勝一敗一分けでしょうか。

 

先ずは、北海道へと考えて選んだ東物の巣板

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旗星の判子の痕跡が見えます。やや硬口で巣無しの蓮華・墨流し入り

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ほぼ本焼き用として選んだので、地金には余り優しくは無いかも。

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しかし、主目的に対しては良い仕上がり。

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以前購入した自分用の此れ(下画像)と比べると、硬さが僅かに増した分、扱い易さは若干低下。その代わり、使いこなせれば砥面の変形減少・仕上がりの光り方向上に繋がるでしょう。何より形状の確かさと、底面周辺の焼け気味の難が無い為に、砥石としてのランクが違って来ますね。

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どちらを選ばれても、又どちらも選ばれなくても問題は有りませんので御心配なく。この品質と性能であれば手元に置いておくのに何の痛痒も・・・と言うより傍に居てくれると有り難いレベルです。

 

 

 

此方は、仕事用の予備として追加した物です。

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以前の此れ(下画像)が強い研磨力の割に期待以上の細かい仕上がりを見せてくれたのでもう一つ有ればと。この手は、巣が巣として邪魔になり難いタイプの様です。見かけと研ぎ感は荒々しいのに不思議な事です。

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松阪に送った三つの内、一つは同じタイプです。それ以外は黄色の軟口のカラス入り、水浅葱(これも私の持ち物と同タイプですが、ややまったり気味)。扱い易い千枚も頼まれていましたが、其処は希少種ゆえ簡単には出会えませんでした。まあ、其れを承知でなければ銘柄・品質を指定しての選別など叶いませんが、軟口カラス入りが代替出来る筈と踏んで選んでおきました。

 

 

 

最後は、現在香港から司作の包丁について問い合わせを頂いている方が、千枚・八枚の砥石についても興味があるとの事。ついては、其方にも相応しい砥石をと見てきましたが、前述の通り。

止む無く、もしも御急ぎで千枚に準じる石でも良ければと、以前購入の此の砥石を参考に上げさせて貰いました。

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戸前と敷き戸前の中間という可能性も有りますが、色調・使用感から天上戸前と千枚ではと思われます。

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実際に研いで見れば、仕上がりは充分。標準的な千枚と比較して、地金の細かさ・明るさ共に順当、刃金はやや明る目かなと。少なくとも性能面から見て、千枚系統に伍するのは間違いありません。

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包丁は兎も角、ペイパルやEMSなど、改めて聞いたり調べたりで手間取っており、恐縮ですので御要望に及ばない迄も、せめて近しい石をと紹介してみました。

 

 

 

因みに上記の砥石達は、個々に研ぎ上げた状態そのままでも充分な性能を発揮しますが(或いは夫々が何れかの分野で最適な可能性も)、そこから鏡面仕上げに持っていく繋ぎとしても有用です。

下画像は、小物を対象としている手持ち最小の大谷山と、鏡面仕上げ用共名倉の大上。

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掛かる手間隙は直前に使用する繋ぎの性能にも因りますが、概ね今回画像に上げた砥石達ならば何れも数分以内で、此の仕上がりに達します。

刃金だけなら大抵1分前後ですが、特に癖の有る地金を速く仕上げるならば間にもう一段階、挟んだ方が良いかも知れません。

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やはり鋼材や刃物に応じて相性を探り、設定した最終段階まで持っていけるルートを構成する砥石群は、大抵の要望を満たしてくれるので心強いです。そして可能な限り一段階を小さく、多くの石で繋いであるなら、より滑らかに上がって行ける訳です。

更にそのルートの用意が複数ならば、組み合わせ次第で或る程度は不測の事態にも対応できる為、仕上げ砥石枠を幾つか御持ちであれば、コンビネーションを探っておかれるのが良いと思います。共名倉の使い分けに限っても、効率や仕上がりに差が出ますので。

 

 

 

府内からの御依頼

 

 

和泉市のF様より、研ぎの御依頼を頂きました。刃物の種類は小さな剣鉈と言うか、副(え)鉈でしょうか。

 

研ぎ前

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全体画像。柄のチェッカリングが細かい細工ですね。

 

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刃部アップ。地金部分はブラスト処理でしょう。

 

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刃先拡大画像

 

 

 

研ぎ手順

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GCの240番とシャプトンの320番から。その後キングハイパーの1000番、硬軟二種。この段階で、平の傷も(特に裏でした)大まかに落としておきます。錆びる素材であれば作業中の防錆も兼ねています。

 

 

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巣板で研ぎ目を細かくしつつ、軽く均し研ぎ。柄の養生はラップの上から各種テープで役割り分担です。

 

 

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更に形状を整えつつ、刃先を研ぎ出します。地金部分は、通常品+小割りした巣板・粒状の巣板で仕上げます。

 

 

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中山の並砥と思われる物。かなり相性良く、仕上がり・下り共に不満の無いレベル。

 

 

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より長切れ狙いの為、撫でる程度ですが中山の浅葱で最終仕上げ。

 

 

 

研ぎ後

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全体画像

 

 

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刃部アップ

 

 

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先拡大画像

 

 

初めの予定では、切り刃から研ぎ下ろして自分の標準的な形状をと考えていましたが、鎬筋から刃金までの間が予想以上にホローグラインド的に仕上げられていた為に変更しました。

フラット近辺まで持っていくには、かなり研ぎ減らさねばならず、そうなれば刃幅の減退は避けられないからです。その代わり、刃金部分の厚みと角度・地金部分の厚み双方を、先に向けて漸減。そしてカーブから切っ先までの切り刃幅減少傾向を改善しました。

以上の作業内容により、刃先の切れ・刃体断面形状に因る切り抜けが充分だと判断し、今回は新品からの研ぎという事もあり無理に減らさない研ぎとしました。勿論、厚み抜きと角度調整を施した刃先も、初期状態から殆ど減らさずに仕上がっています。

 

 

F様、作業の進行に伴って仕上がりを此の様に纏めました。使用する上では問題無いと考えますが到着後、御好みに適わない所があれば御返送頂ければと思います。先ずは此の度の御依頼、有難う御座いました。

 

 

 

北海道からの本焼き第二段

 

北海道のS様から、先丸蛸引きが送られて来ました。今度、注文する同型の練習も兼ねて御家族から譲り受けた物との事。

到着後、一見して分かる問題点は無いような。まあ、切ってみないと何とも・・・。と紙を切るも問題なし。ああ、厚みのある対象には抜けが・・・?と紙束を切るとやや手応えが重いかもレベル。つまり、欠けがちらほら有るのと刃体の捻じれがある以外は、通常は切れに関して問題視されないと思われました。

捻じれは水本焼きという事もあり、余り強引に戻すのは困難でしたので半減させる程度で。それ以上は鏨を打って伸びを惹起し、然る後に何割か鏨目を研ぎ去るしか無いでしょう。そこまでのリスクを取らずとも実用には差し支えない範疇かと。あと、研ぎに於いても裏押し時に砥石上で面を合わせられないのが改善されましたので。

恐らく、欠けが多発する傾向は水焼きの本焼きであるだけでなく、上記も原因となって居た可能性があります。研ぎながら調子を見て、適宜そこそこ戻しを掛けていく内に裏押しで砥石に食い込むのが収束して行きました。

 

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黒檀の柄と鞘で、水本焼きに相応しい装い。ピンの材質も御揃いです。

 

 

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全体的には大きな問題は見受けられず。

 

 

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切り刃もかなり均等に厚みが抜かれており、切っ先に向かってテーパー状。敢えて言えば、刃先へ続くハマグリの開始位置が急角度だった点、それとは逆に最先端の角度が僅かに鋭角(この鋼材の仕上がりとしては)だった様に思います。

 

 

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裏は捻じれの関係かやや不安定。あとは変色など。

 

 

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一番目立つのは切っ先周辺。本来は刀の帽子状のデザインですが、厚みを抜くのと切れるように研いだ様子。通常、磨く程度で砥石は当てない部分でしょう。

 

 

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拡大しても、欠け以外の部分は良く研がれて居ます。しかし最終角度はやはり、ベタ気味の鋭角。刃先の欠けや捲れに繋がり易いですね。

 

 

 

今回も、荒砥を使うまでも無くキングハイパー1000の硬軟二種からスタートです。それで更に厚みの最適化を図り、切っ先の成型・刃先の欠け取りを行ないます。

 

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後は天然砥石です。切っ先を但馬砥で研ぎ進め。

 

 

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切り刃を柳用砥石で均して行きます。此れは蓮華・ナマズ入りの敷き内曇り。柔らかく研ぎ易い上に仕上がりも良いので、初期の全体的な均しや最後の纏めに向きます。

 

 

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他にも標準的な敷き内やナマズ・卵寄り(此れはやや硬い割りに今回、良い相性)で、部分毎や個別の課題毎に対応。

 

 

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続いて従来からの本焼き用白巣板蓮華巣で仕上げようと考えていたのですが、相性がいま一つ。急遽、最近のも取り混ぜて調子を見つつ進めます。

 

 

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裏押しにも2~3、試しましたがもう一声ですか。此れはその内の一つでS様に御送りした裏押しに適す硬口にかなり似た質の物。この段階では未だ裏が不安定だった様子。

 

 

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上(中山)で傷消し・中(奥殿)で仕上げ、下(中山)で裏押しはまずまず。

 

 

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この時点で終了としても良かったのですが、切っ先の状態と欠けの痕跡が気になり、研ぎ直し。特に切っ先の仕上がりが切り刃に対して合っていない気がしました。

 

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関で使っていたGC砥石(800・1000・1200・1500)

 

 

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頂き物の白のボタン

 

 

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白の目白

 

 

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ボタンは良く下ろしますね。目白は硬く細かく、合砥の様。

 

 

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刀の帽子で云う所のナルメでしたか、そんな感じの研ぎ。

 

 

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本焼き用(地金には優しくなく、刃金を良く下ろす)コッパで研ぎ目を細かく。

 

 

 

 

 

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最後は奥殿の蓮華巣板で切り刃を仕上げ、裏押しはカラス入りで仕上げました。工場出荷時の形状とは違うかも知れませんが、持ち主が今後研いで行く上で、自然に形状を維持し易いと思われる物にしました。

一番大きな欠けの名残や、刃先が2~3の僅かな乱れ程度に収まった時点で研ぎを留めました。普通に御使用頂き刃先の研ぎを数回、行なって頂ければ解消されるでしょう。

今回の切り刃と切っ先の研ぎ上がりに付きましては、御依頼主の判断を仰ぎたいと思いますが先ずは、この度も御依頼頂きまして有り難う御座いました。

 

 

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S様

メールでも記載しました刺身包丁の種類に因る使い勝手に付きまして、他にも気になる方が有るやも知れませんので、此方にも一部転載させて頂きたく思います。

柳に比べて切り方での違いが出易い様な気がします。柳は対象に当てながら引いていけば、ある程度自然な切れ込みをしますが、蛸引きは「弓切り」を明確に意識する必要が有ると。先ず柵を俎板の手前ぎりぎりに置いて、更に柵の手前ぎりぎりに包丁を構えます が、包丁の刃元を柵の角付近、切っ先は柵の上空の60~70度の角度で立てます。そこから、包丁を引きながら倒して行くのですが「柵と包丁の 接触点」の視点からは、回転鋸の刃が進んで来る様に感じるようで無ければいけません。この場合の蛸引きでの難しさは、直線的な刃線を動きにより曲線的に作用・接触させていく運行を強いられる部分でしょう。

蛸引きよりも(殆どの刺身包丁よりもですか)反りのキツイ先丸では、前後へのスライド(押し切り・引き切り)を伴わない「押し付け」だけでも対象に切れ込む効果が期待されますが、逆に刃線が先へ行くに従って後退している訳ですので、刃先の接触点を常に維持して(引き切りで)切り進めるのには極端に言えば、他の包丁より押し付け 続ける努力を要する事になります。蛸引きは蛸引きで、先丸は先丸で、各々に扱い方は違えど独自の難しさが有る事になります。

代わりに、柳や菖蒲よりも刃幅が狭く薄めである事の多い蛸引きや先丸蛸引きは、対象へ切り進んでいる最中 の方向転換や角度の急変を受け付けてくれると思います。特に先丸だと、接触するのが面>線>点の関係性で言う所の後ろ寄りになるでしょうか ら、自由度が高いです。その特性を活かした使い分けを試して頂ければと思います。但し、柳の複合的な刃線カーブと先細りの切っ先は、取っ付き易さと万能性で誘惑が強いと思いますが。

以上は、之までの経験・知識から自分が理解している程度ですので拙いとは思いますが御参考になれば幸いです。因みに以前、私の先生は刀で切る際の刃の運行・軌跡につい て、刺身包丁の刃の働かせ方との関連を指摘された事があったように記憶しています。

 

 

更に身内へ向けまして

 

前回紹介した砥石の仲間達です。今回は、中山産ばかりだと思います。因みに前回の後半二種もそうなのでしょう、〇カの判子が有りましたので。浅葱は一つを除く全てに・・・レーザー型とコッパにも判子付きは有ります。

しかしそれらは持ち帰って側面を濡らしたり、明るい場所で見てから改めて気付く事も。入手ルートは緘口令が敷かれたままにて伏せますが、大元の出所は確実なので安心です。

私は元々、少ないラインナップから渋々ピックアップするのは性に合わないのと、有名処へのブランド信仰も別段強くないので過去には余り注目して来なかった砥石達です。しかし多くに触れる機会があり、その中の50~60個を撫でて確認し、選んだ30個程を試しに研ぎ、最終的に十数個を手に入れました。

所謂、東物で中山主体。尚且つ〇カも相当量散見される中で、納得いくまで探せた為に本当の実質重視で選べました。〇カが付いている傾向が強い質や形状。しかし例外的な物や首を傾げたくなる個体。逆に何故これに判子が無いのか理解出来ない程の性能を見せる個体(只単に付ける前だったと考えれば納得いきますが)。色々興味深く勉強させて貰いました。

大判や尺長、完全均一な黄板や色物も含めて試し、実際一度は少し見栄えのする立派な黄色(或いは黄土色)を持ち帰ったものの、後に浅葱と交換しました。他に選んであった浅葱の幾つかも、欠けの無い綺麗な30型・40型を返品し、形状は不完全・サイズも小さく成りはしましたが、操作性・仕上がりの良さを優先した同系統で選び直しました。

以下の砥石達がそれで、自分にとっては納得の銘有りと、平均的な銘有りをも凌ぐ驚異の銘無しと言う訳です。

 

 

之まで幾度か画像を上げた浅葱。最初に選んだ石の一つで基準・或いは目標となった物。硬口で泥は余り出ず、滑走感強い。

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その予備

上の石を基準とすれば、やや硬めで刃金は更に鏡面気味。しかし滑走感はかなり低下。

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同じく硬めで鏡面傾向強い。滑走感は更に低下。

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やや柔らか目で研ぎ易く仕上がりと滑走感は基準に近い。砥粒の目は僅かにまったり?

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最も基準と近い質。厳密に言えば、直上画像の石の成分を僅かに基準に混ぜた感じです。

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以上の浅葱はどれも自分の研ぎに合い、特に刃金の処理は秀逸で最上の刃先を提供してくれます。中山の特徴的な模様なのか、妙な表現ですが「瘡蓋と其処から伸びる枝」みたいなのが在るようです。これは鉋や剃刀を極限まで研ぎ込む場合に、注意が必要かも知れません。まあ問題ならその部分を避けて使えば良い事ではありますが。

ネットの画像や知り合いの持ち物、しかも黄色や緑の石についても見た覚えが有るので結構普遍的に現れる共通項なのかも知れません。あと、裏に直径2ミリ前後の小さく綺麗な球状陥没が見られる物も。

兎も角、最初期から高い基準となる浅葱と出会い、それに比肩しうる予備達を追加出来た事は、真に僥倖でした。

 

 

 

次はレーザー型です。同じ色物でも、レーザー型には浅葱に近い刃金の仕上がりを見せてくれる物があり、之はやはりレーザー型と云うだけあって剃刀と合う質の石が選ばれているのかも知れませんね。

だとすれば、単に小さく採れたからそのサイズなりに仕上げるのとは違い、見識ある対応と見極める能力、そして贅沢な選択も賞賛されるべきだと思います。大きく採れた原石を敢えて小さく仕上げるのは、採算性から考えれば忌避される行為の筈ですので。

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と言いつつ、先ずは浅葱系です。 しかし浅葱系の中では最も柔らかいです。何故か色物とは逆に、この外観・サイズに限っては浅葱であり乍、硬口では無い物を幾つか確認しました。それでも刃金が光って来るのは流石。画像の石には、前述の球状陥没の痕跡が砥面にも見えますね。

 

 

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やはり浅葱寄りかも知れません。反応も近い感じ。しかし此方は柔らかくは無いです。最初に選んだ石の一つですが、その後は中々近似の物に出会わず

 

 

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色物らしく、ややまったりした研ぎ感。地金は浅葱系統より曇り勝ち。此方も最初に選んだ一つでしたが、幸い同系統が見付かりました。

 

 

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上の砥石と、ほぼ近似の反応。

 

 

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以下同文ですが、少し刃金はしゃきっと。しかし側面を見る限り、レーザー型の中では一番巣板っぽいような。

 

 

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レーザー型では、と言うより全体の中でも地金・刃金共に鏡面に近いです。

 

 

変な形ですが性能はまずまず。

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これだけは表裏、面付けされていない状態で選んだので何か分からずでした(暗い中で巣板っぽいのを探したのですが)。仕上げてみると並砥なんでしょうか、小鮎様から頂いた中山並砥に近い研ぎ感と仕上がり。しかし頂いた石と同様、硬さ・細かさが控えめに感じたので鉄を吸わせて育てた所、同様に改善されました。

砥面の性状として、濡らした状態では砥粒の凝集性がややクラスター状、例えれば丸尾山の天井戸前うぐいすに度々見られる感じになります。繋ぎに使えば良いかと考えていましたが、普通に使う刃物で不満は余り出ない質になって来ています。これも後になって判子に気付きました。

 

 

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黄色ですが、研ぎ易さと仕上がりのバランスが良かったので、相性探しのバラエティにと選びました。刃先の性能も問題なし。

 

 

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紫系統ですが、同じく研ぎ易い割りに仕上がりも充分。研いだ刃先の性能は、黄色と比べて同等若しくは其れ以上です。

 

 

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おまけで貰った物と購入したカラス入り。右と下は黄色・紫同様ですが、カラスは殊の外硬くて中々減らないでしょうね。使い道も切り出しなどに限られるでしょうから余計に。しかし全く地金を引かず鏡面で切れ味良く仕上げてくれるので、サイズ以外の点では完璧と言えます。

 

 

 

(業務連絡: こんな感じで選んだけれど、好みが近いなら納得の品揃えかと。先々そっちの手が空いたら選びに行く日を連絡されたし。予定を合わせて選別に。助言・手伝いは問題なし。)

 

 

 

S様(と身内)向けに巣板の紹介

 

S様には次の石(菖蒲産?)と同様な物(実用には高価過ぎ?)に御興味を持って頂いたり

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下の石(これも菖蒲?)を参考として御紹介したりしましたが・・・

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確定的ではありませんが、他にも次の二種類の巣板で選別が可能かも知れませんので、その際の御参考になればと載せてみます。

 

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白巣板っぽいですが、巣無しなのか余り側面からは巣板らしさは感じ難いです。研いで見れば当たりは硬すぎず中庸で、そこそこ泥も出ます。

 

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試しに研いで見ます

 

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切り出しでは地金は曇りはするものの、やや明るめと言うか光沢もあります。刃金も結構光り気味。

 

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本焼きの包丁でも試しましたが、以前の奥殿と同等の仕上がりで尚且つ研ぎ易いです。その代わり砥面の変形はやや早く感じます。

 

 

もう一つの方ですが、此方はかなり硬いです。奥殿と同じかそれ以上で砥粒の目も立っている印象です。しかしその分、特に刃金は明るく光り気味になります。

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試しで研ぎ上げた包丁画像だけになりますが、研ぎ目の細かさ・光り加減は巣板としてはかなり上級と言えそうです。

 

 

今回の後半二種は中山の砥石ですがサイズ的な理由などにより、一番目の砥石に比べれば未だ現実的かなと思いますので、どうしてもあちらが好みと言う訳でなければ、候補として今回の系統も当たってみたいと考えています。自分に出来る限りの範囲で努めますが、確約とは行かない点は御理解頂ければと。