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北海道から再度の御依頼

 

数か月前に御依頼頂いた、北海道のT様より再び和包丁二本が届きました。柳の方は一部の欠けを取り、刃と地の対比が際立つ仕上がりを御希望でした。

 

柳刃

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研ぎ前、全体画像

 

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欠けも大した事が無いので、研承1000番(白緑2種)からです。

 

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3000番の白

 

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3000番の緑

 

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巣板で傷を減らして、更に小割りで(主に地金を)均し研ぎ。巣板から八枚、千枚と進みます。後者に成る程に錆・変色を抑え、汚れ落ちも速く食味の向上にも貢献してくれます。

 

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千枚で仕上げ研ぎです。

 

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最終は、此れで。

 

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研ぎ上がり全体画像

 

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刃部のアップ

 

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刃先拡大画像

 

刃と地のコントラストを強調するなら、地金は巣板や八枚仕上げの方が良かったかも知れません。しかし地金の質が千枚向きでしたので、つい普段通りの仕上げにしてしまいました。御好みの仕様と、かけ離れていなければ良いのですが。

 

 

 

 

出刃の方は御任せだそうなので、調子を見ながら相性次第で。

出刃

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研ぎ前、全体画像

 

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研承の400番で形状の土台を。

 

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1000番の緑で確認と正確な刃先を。刃元側の鎬下に、少し砥石に当たらない部分が現れます。(切り刃の地金の光沢部分)

 

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1000番の白で更に精度を上げて

 

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3000番の白まで掛けましたが、当たらない部分が未だ大きく

 

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久々にキングハイパーを使いました。研承以外で使っているのは、殆ど此れ(標準と軟)くらいですね。

 

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研承に戻って3000番の緑

 

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巣板で傷を減らして

 

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小割りで均し研ぎ。八枚の小割りは、砥粒の目が立っているのと滑らか二種ですが、前者との相性が良かったので其れで仕上げました。千枚よりも八枚が合う地金も、結構在るものです。

 

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最終は此れで

 

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研ぎ上がり全体画像

 

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刃部のアップ

 

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刃先拡大画像

 

 

今回は、両方とも青紙だったのですが硬さと粘りのバランスには違いが見られました。柳の方は少し硬さが控え目で、出刃は硬さと粘りが均等な印象です。

一般的には、柳は強引な使い方が少ないので硬い刃で永切れを。出刃は、其れに比しては荒く使う場面が有るので大きく欠けない硬さで。と成るでしょう。

しかし何れも、目的の使い方に照らして適切な刃先角度に砥ぎ上げれば問題無いと思いますし、その様に仕上げましたので御確認頂ければと思います。

北海道のT様、今回も研ぎの御依頼を頂きまして有難う御座いました。今後も、私で御役に立てる様でしたら宜しく御願い致します。本日、発送しましたので明後日には到着との事です。

 

 

 

 

 

前回の砥石館イベント

 

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この前の土曜・日曜は、天然砥石館のイベントとして集大成の様相を呈していました。土曜の内に、亀岡在住の刀匠の下で玉鋼を使用した鍛造・焼き入れ・焼き戻し・整形まで行なった小刀を、翌日曜に砥石館にて研磨を体験して貰うという内容です。

 

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ベルトサンダーで荒く仕上げた状態と、上野館長が内曇りまで仕上げた状態との比較。

 

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ダイヤから荒砥、中砥と進んで行く途中

 

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館長の完成品が此方。完成予想図ですね。刃紋も結構、様になっています。

 

 

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人造の中砥の後は巣板。最後には予て用意の水木原産の内曇りです。

 

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刃紋を表現するのは中々、難しいですね。

 

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少し手順を早めて段階を踏み、仕上がりの加減を様子見です。やはり形状の完成度や傷消しに付いては再度、調整が必要な様です。もう一度、或いは二度程は研ぎ直してからの完成と成るでしょう。

単一鋼材(三枚その他の複合で無い)とは言え、素材は玉鋼で土置きによる本焼きですので、やろうと思えば美術刀剣の登録も取れるレベルの物が出来る体験です。鍛錬場で刀匠が付きっ切りの指導でもあり、刃物好きには堪えられない二日間だった筈です。

参加下さった方々、刀匠の将大様には感謝致します。有難う御座いました。研ぎには予備日が必要と成りそうですが、引き続き奮励を期待し、晴れて完成の日を迎える事を祈っております。

 

 

 

 

 

香川県の常連様から

 

ビクトリノックスのツールナイフ(大小ブレード)と和式の小刀(両刃)です。両方とも、結構な所まで御自身で砥がれているのは何時も通りなので少々、戸惑う面もあるのですが・・・もっと追い込んだ研ぎをしろとの御要望なのでしょう。

 

と言う訳で、初期の状態です。先ずはビクトリノックスから。一応、オリジナルは片刃寄りの両刃で刃付けされていたと思いますが、かなり片刃寄りを強調されています。

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大きい方のブレード

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その拡大画像

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小さい方のブレード

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その拡大画像

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傷んでいる訳では無いので、人造中砥からです。

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次に黒蓮華

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最終仕上げは、奥殿の天井巣板です。やはり、ステンレスに向いている印象です。私の手持ちでは、中山の並砥と並んでステンレスを仕上げる標準と成りそうです。

極端に、掛かりの良さを求める等であれば他の選択も有りますが。

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研ぎ上がりです。

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大きい方のブレード研ぎ後

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拡大画像

Still_2018-02-15_030929_60.0X_N0005.jpg vic L

 

小さい方のブレード研ぎ上がり

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拡大画像

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和式小刀の研ぎ前

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切り刃のアップ

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拡大画像

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人造中砥から始めて、白巣板で形状を整えつつ傷を消し、敷き内曇りです。

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拡大画像

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千枚で更に傷消し

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拡大画像

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田村山の切り落としで

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大谷山で

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拡大画像

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此処までで分かるのは、硬く細かい砥石で仕上げる程、刃金や地金が明るく、或いは光って来る事です。大まかに言って、刃金の状態が光っている程、微細で鋭利な刃先となり永切れが期待できます。

但し、刃物と砥面が平面同士でないと傷が入り易い砥石とも成り得ます。上画像は、刃を拭う際に硬い砥粒が擦れた跡が付いています。刃先の光り方は期待通りでは有りますが。

 

 

 

此処で終了でも良かったのですが、満足出来ず研ぎ直しです。青紙は、白紙に比べて添加物の影響や耐摩耗性の高さから、光り難い傾向にありますがこの砥石は何方も同様に仕上げてくれます。

東物ではあるでしょうし、恐らく中山なのでしょう。しかし層は良く分かりませんね。砥ぎ感としても合砥と巣板の何方とも付かない感触です。強いて言うなら巣板寄りかなと。

レーザー型ですが私の奥の手の一つで、返りを出さずカッチリした刃先を研ぎ出してくれる最右翼の一つです。後は中山の黒?浅葱でしょうか。

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拡大画像

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刃先のみならず、刃金の広い部分が同様に光って来ています。通常の硬いだけの砥石と違い、面の構成を問わず砥ぎ易さも併せ持ち、追従性の高さもまずまずです。

 

 

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一応例の判子も有りますが、絶対的な性能保証では無いと考えています。相当数を試した結果の実感です。勿論、それに恥じない性能で面目躍如の石も有り、此れもその一つでした。

しかし結局は、相性次第です。私が試し研ぎをする場合は、有名どころも無名もスタートラインは横一線です。研ぎ上がりだけが判定基準と成ります。実際、この砥石はステンレスには極限の刃先とは行きませんでした。

 

 

香川県のK様、いつも御依頼を頂き有難う御座います。この状態で宜しければ、明日には御返送させて頂きます。宜しく御願い致します。

 

 

 

 

 

砥石選別の基準

 

稀にでは有りますが、砥石選別の御依頼を頂く事が有ります。何故、わざわざ砥石の採掘や加工を生業としている訳では無い、一介の研ぎ屋に過ぎない私なのか、と不思議に思う事が有ります。只でも、適正に研げさえすれば砥石の種類・銘柄は問わない。刃物との相性次第で問題が無い物を選ぶと公言している訳ですから尚更です。

例えば、肉の料理が食べたいとの御意向を受けて牛肉を選ぶ場合、その料理がステーキ・焼肉・肉じゃが・シチュー・青椒牛肉絲なのかによって変わって来ると思います。必ずしも単独の、例えば神戸牛のシャトーブリアンが常に最良の結果に繋がるとは限らない筈です。

同様に、或る山の或る層の砥石でさえ有れば最良、とは行かないのではないか。刃物や鋼材・研ぎ手・使い道、更に好みまで入れると条件が定まらない場合すら有るからです。一応、産地や砥石層によって大まかな傾向は見られる様です。しかし之も、個別の砥石其々の性能や質的な個性を体験すれば、全くとは言わないまでも別物ではとの印象を強く受けます。

従って研ぎ屋にとって重要視するべきは、産地や層の鑑別・同定が出来る鑑識眼を持つ鑑定家の能力より、その砥石がどれだけ良いか・何処まで仕上がるか(研磨力・外観仕上がり・切れ・永切れ)・質の個性(硬さ・泥の種類と出方・砥粒の目の立ち方・砥粒の均一性・凝集性)等を読む判別眼だと考えます。

特に、銘柄の指定無しで御相談を受けた場合は其の能力が頼みに成ります。過去に使った・試したあらゆる砥石の中から、現在入手可能で相手の求めている働きをする種類。しかも予算や使い方から、サイズや価格を判断しなければなりません。私などを当てにしてくれる方々は、この辺りを勘案の上なのだろうと愚考し、感謝しております。

相手の研ぎ方や御持ちの刃物を把握していれば、御提案する際の砥石の適合の確度は上がりますが、前述の項目から判断すれば大きく外れる可能性は低くなります。自らに置き換えて研ぎの仕事でも、使用砥石の違いに因る研ぎ料金の違いは皆無です。仮に、大突・奥殿・中山・マルカで差が有って、後者に成る程に研ぎ料金が上がるなどナンセンスでしょう。

砥石の説明として情報が限られている中で、二択の内から区別が逆に成る事は有り得ましたが御依頼頂いた砥石を意図的に、より一般的に高価と認識されている銘柄と偽って別物を渡すなど有り得ませんし、そうで無くても有り合わせを無理やり別銘柄で渡す事も有り得ません。

とは言え、産地や層の銘柄を最重要視される方の御気持ちも理解しているつもりですので、そう云った向きの一番確実な入手方法は、現地で採掘・加工している方から直接が良いでしょう。私の場合は其の山の其の層の石が有っても、質や個性で満足いかなければ見つかるまで御待たせし続ける可能性も有りますので、早く手に入れたい方も同じく直接を御薦め致します。

 

 

 

 

 

嬉しい再会と、新しい出会い

 

この連休には、砥石館で嬉しい再会が有りました。砥取家で六年前に出会った方が御家族と御来館、手持ちの包丁の研ぎ上がりと手作りした切り出し(自宅の庭で作ったとか)を見せて頂きました。

何でも、砥石の置き場所に不自由しない自宅の離れ?には、専用の研ぎ場も備えるなど、刃物趣味者には夢の様な恵まれた環境。拝見した見事な研ぎが施された包丁は、一度ならず月山刃物へ出掛けて手に入れた物だとか。趣味への傾倒を病気に例えるのは如何な物かと思いますが、これは重篤・・・予後不良ですね。

 

 

 

もう御一方は数か月前に御来館頂いた、割と私の御近所の方。以前は通常の酒屋を営んでいた店舗で、近頃は料理も出しつつ総菜の持ち帰りや御節の注文も受ける様に成っていらっしゃいます。

数週間前には、その総菜を幾つか購入に立ち寄って蛸と大根の炊いたの等を味わいました。その際に話した事が切っ掛けとなったのか、再度の御来訪。

仕事使いの小さな柳を御持ちになり、もう一つの包丁に比べて刃持ちや強度への不満を解消したいと。今回も研ぎ講習を受けて下さり、結果的には切り刃の整え方と刃先に必要な強度を得る角度分け、現状の形状に合わせた裏押しに付いて説明させて頂きました。

 

 

 

新しい出会いとしましては、美術関係の方がお見えでした。今回に先立って一度来られており、その際には切り落としの若狭砥石その他を御購入だったとか。

上野館長からは再度の御来館に合わせて、私の手持ちの田村山を参考にする為に持参する様、連絡を受けていました。結果的に、砥石館にある三つと私の二つを試し研ぎ。改めて正規のサイズの若狭が欲しいと気持ちが定まったとの事で、砥石の選別を御依頼頂きました。

 

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あと、尚さんに小西さんのレーザー型の加工を御願いした際、頂いた切り落としがいたくお気に召した様子にて御所望で。しかし、貰った物を売るのは(進呈するのも)筋が通らないので普通は御断りして来た流れです。

同僚各位にも教えてやりたいとの御意向を聞き、斯界のメリットにも成るのならとの思いから、御購入の他の砥石と一緒に御持ち返り頂きました。

 

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これの左側ですね。現在の砥面は結構狭いです。

 

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扱い易くて高性能な砥石だったのですが包丁メインの私よりも、小さな刃物も多く扱う方の下の方が、活躍出来るだろうと思います。新たな着任先で、持てる性能を遺憾無く発揮してくれる事を願います。

細かい御要望と共に注文を受けた砥石に付いては、春に成り雪と氷が収まったら舞鶴に出掛けてみないとかな、と考えております。

 

 

 

 

 

再び京都市から御持参の本焼き

 

 

以前にも一度、本焼き包丁を纏めて御持ち頂いた方から再度、御依頼を頂きました。御自身での研ぎに際して幾分、乱れが生じたので修正をとの事。

ただ、切っ先が欠けた切り付け以外は大して問題が有りそうな外観には見受けられませんでしたが、結果的には切り刃よりも裏押しの部分が少々気になる共通点でした。

 

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過去に出した研ぎ屋が切り付けの形状を改変した状態にして返して来たそうです。厚みが減るので余計に強度が落ちたのでしょうか。

流石に電動工具を使って先端部を削り、嘗ての名残りを頼りに復元を試みました。取り敢えず、使える切っ先と不自然さの少ない形状には出来たかと思います。

人造中砥を数種、その後は各種天然の巣板で相性を探りつつ砥いで行きます。奥殿白巣板で裏、田村山巣板・敷き内曇りで切り刃を整えて。

 

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最終は奥殿天井巣板で仕上げました。

 

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研ぎ上がりです。

 

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切り刃のアップ。

 

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切っ先です。

 

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裏です。改善して来ましたが、急激にサイズが変わるのを避けて徐々に表裏から追い込む方向に。其れまでは、返りが取れる角度でサラッと仕上げ砥で撫でて貰います。

 

Still_2018-01-31_163234_60.0X_N0003.jpg切り付け

刃先の拡大画像。

 

 

 

 

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やや細身の柳です。研ぎ前

 

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切り刃のアップ。研ぎ前

 

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人造中砥の後は天然に。

 

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奥殿産の白、白の蓮華。

 

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中山の。

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刃先と裏押しは、中山産戸前です。

 

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研ぎ上がり。

 

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切り刃のアップ。

 

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裏です。此処は、上記の包丁と同一の対応です。

 

Still_2018-02-02_195033_60.0X_N0005.jpg柳細

刃先の拡大画像。

 

 

 

 

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ややふっくらの柳。研ぎ前

 

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切り刃のアップ。研ぎ前

 

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人造の中砥。

 

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もう一つ中砥。

 

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巣板で整えます。

 

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中山の。

 

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最終仕上げは、奥殿産天井巣板です。

 

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研ぎ上がりです。

 

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切り刃のアップ。

 

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裏は以下同文ですね。

 

Still_2018-02-02_195214_60.0X_N0007.jpg柳太

刃先の拡大画像。

 

 

 

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先丸タコ引きです。研ぎ前

 

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切り刃のアップです。研ぎ前

 

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人造中砥で。

 

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其の後、白巣板。

 

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白巣板蓮華。

 

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最終仕上げは、中山産戸前です。

 

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研ぎ上がりです。

 

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切り刃のアップ。

 

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裏は同じくです。

 

Still_2018-02-03_023454_60.0X_N0008.jpg先丸

刃先の拡大画像。

 

 

 

 

全体的には刃先の損耗も極軽度で、切り刃の形状の崩れも僅かな物でした。敢えて言えば初回時にも見られた、刃元寄りの4~5割の範囲で逆側よりも砥がれ過ぎの傾向が踏襲されているかな、との印象を受けた程度です。やや鋭角過ぎて耐久はどうかな、と感じた刃先は、好みと使い方次第ではありますし。

裏押しの乱れに付いては、当てにしていた裏押し用の砥石の平面維持力が期待程では無かったのが原因らしく今回、新たな砥石もお求め頂きましたので改善されていくと思われます。

また、今後の御依頼予定もお聞かせ下さったのみならず、近しい方にも御声掛け頂けそうとの事で有難い限りです。しかし、更に楽しみなのは店舗へ御伺い出来るかも知れない事です。自分の砥いだ包丁が存分に働いている所を見られる機会を得られるとしたら、冥利に尽きると言うものですね。

H様、此の度は研ぎ依頼は勿論、様々な事柄に渡って御世話になり、有難う御座いました。ブログ掲載への御協力にも感謝致します。御自身で御持ち下さり、引き取りに来られる程に大切な包丁を任せて頂くからには、可能な限り良い状態にして御返ししたく思っております。私で御役に立てる限りは、今後とも宜しくお願い致します。

 

 

 

 

 

新たな砥石の追加

(注:砥石の名称に修正を加えました)

 

東物の砥石などに少々御縁が出来た事も有り、サンプルなどで確認したり、コッパを中心に幾つか出品したりする傍ら仕事で使うレベルの形状・サイズの砥石を購入しました。

先行して手元に来ていた奥殿天井巣板も、その性能と個性で魅了してくれましたが此の度の砥石も又、方向性の異なる性能と個性を感じさせてくれる物でした。層の名称としては、中山産戸前(五合目の間府だそう)となります。

奥殿産天井巣板が幾分、弾力を感じさせつつの硬口であるのに対し、中山戸前は滑走を助けてくれる泥の御蔭でカッチリとした純然たる硬口砥石のネガな砥ぎ難さを緩和。研磨力と其れに相応しくない程の微細な仕上がりを実現してくれ、平面の持続力も双方甲乙付け難いレベルで優秀です。

 

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その中山戸前です。原石から切り分けて、面を付ける前の状態。

 

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同じく、裏側。

 

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電着ダイヤ(アトマ)で擦って、面を付けた状態。

 

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青紙一号の切り出しで試し研ぎ。刃金の状態は、薄曇り~半鏡面に仕上がります。

 

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角度を変えた画像。地金も明るめで薄曇りに。

 

Still_2018-02-03_023811_60.0X_N0009.jpg切り出し本店

刃先の拡大画像。均一な仕上がりです。

 

 

 

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半自作の菜切りも砥いでみました。主として刃金部分狙いです。

 

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同じく、反対側も。

 

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研ぎ上がりです。刃金は白紙二号のAで、やや硬焼きかと。

 

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完全平面で無い地金には少々、当たりが厳しいので小割りした砥石で均し研ぎを加えてあります。

 

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刃金部分の仕上がりは、カミソリ砥に近いレベルの細かさ・鋭利さ・永切れに加え、其れを凌駕しかねない掛かりの良さを齎(もたら)してくれます。

 

Still_2018-02-04_231703_60.0X_N0001.jpg菜切り

刃先の拡大画像からも上記内容を確認できます。

刃金部分は、地金よりもハマグリ度合いが強いので、うっすらと等高線が見えます。其れが最先端で、よりハッキリと密になっているのは一番、急な角度変化を与えてあるからです。

 

 

下画像は少し前にTVで放送された内容ですが元々は、その場の流れで突然、何か披露をと考えた末の単なるテスト動画でした。

思いがけず其のまま流れてしまいましたが、準備万端な状態では有りませんでしたし、現在の仕上がりであれば満足いく動画として十分な切れを見せられたのにと、忸怩たる思いです。

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味方屋作の三徳ですが、刃先のみ砥いでみました。鋼材は白紙相当ですが少量のクロームが添加されていた筈です。焼き加減は中庸な感じです。

 

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右側を研いで。

 

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左側も。

 

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研ぎ上がりです。前述しましたが、刃先以外に砥石は当てていません。

 

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ですので薄曇りの切り刃の先の、半鏡面~鏡面に仕上がった刃先が分かり易いと思います。

 

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切っ先付近のアップ。

 

Still_2018-02-04_232231_60.0X_N0002.jpg味三

刃先の拡大画像でも、コントラストがくっきりですね。刃金部分の先側三分の一が中山戸前で砥いだ部分です。一番光を受けて光っている最先端は、他の部分に対して最も鈍角に研いである部分です。

 

 

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序でに普段使いのビクトリノックスのスーベニア。

 

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刃は、荒れている状態から下研ぎ無しで砥ぎました。

 

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ですので、余り綺麗では無いですし、厚みも結構出ている状態です。厚みが出ている場合は、先に行くほど鈍角にするハマグリでは無く、最先端は可成り鋭角に仕上げてあります。

 

Still_2018-02-04_233256_60.0X_N0004.jpgスーベ

とは言え、拡大画像で見る限り研磨痕も刃先も整っています。どちらかと言えば、天井巣板の方が特殊鋼・ステンレス向きだと思いますが、ステンレスでしかもハマグリ形状の研ぎ方にも可成り対応してくれる様です。

 

 

巣板の王様などと称される事もある奥殿ですが、教えて頂いている方曰く、本巣板天井がその真髄・或いは止めを刺すとか?だったと記憶しています。試し研ぎでは、少々難易度高目な記憶があり、上級者向けかも知れません。

自分自身では、本巣板の卵色掛かったのや紫色掛かった物、そして勿論天井巣板も良かった印象です。そして、今回の中山戸前ですが特に炭素鋼の平面刃物に適する様に感じたものの、それ以外へも対応してくれる幅の広さも併せ持っており、優れた砥石だと感じました。

今後は此の砥石を仕事でも頼りにしつつ、刃物の形状や質・研ぎの工程など、相性を探りながら活躍して貰おうと考えています。

 

 

 

 

天然砥石館に付いて

 

本日は、常連の方御二人の他にも数組の御家族連れ、職人風の男性が数人と、広島の料理人の方が御出ででした。

料理人の方は、大阪への用事の後で興味が有った砥石館へお立ち寄り下さったとの事。道案内を要する御二人を上野館長が送り届けている最中でもあったので、切歯扼腕では無いですが、私が対応させて頂きました。

天然砥石に興味が出たのに加え、先輩から指導され続けて来た研ぎを改めて見直したいと、簡易研ぎ講習も御所望で。打ち物などに使用すると、切れを優先した研ぎでは刃先の永切れを期待出来ないのが問題点だと。

 

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基本的には、調理の現場にて御自身で砥いで来られた経験者ですので大きな問題点など有ろう筈も無く、結構な仕上がりの牛刀を更に向上すべく砥いで貰いました。

人造の中砥三段階の後、巣板から戸前に繋いで、片刃風の洋包丁研ぎの右側に、少し糸引きを入れて強度と抜けを両立する仕上げを提案しました。

結果的に、刃の付け方に因る切れと永切れの両立、其れに天然砥石の掛かりの良さと更に上乗せされる永切れ性能に満足頂けた様子。その証拠と言う訳では無いですが、帰り際には岡花の硬口青砥と東物の白浅葱の砥石を購入されました。

 

 

今回も御役に立てて何よりでしたが、亀岡の天然砥石館は来年度から少々、体制が変更される公算が大きくなって来ました。現状、私も土曜・日曜・祝日は基本的に詰めていますが、それも今年度中までになりそうです。

対応する陣容・展示物・開館日など、変更箇所に付いては先々に広報される筈ですので、御来館をと御考えの皆様におかれましては御気を付けて頂きたいと思います。その為にも関係各位による会議が遅滞なく進み、その結果をHPにリアルタイムで反映される事を望みます。

 

 

 

 

 

奥殿産砥石

 

奥殿で採掘される砥石の種類の幾つか、そのサンプルを試してみました。勿論、これ等の反応が必ずしもその層の標準的な特徴を体現しているとか、性能を保証するものでは有りません。

しかし何れも小振りな砥石達ながら、まずまず納得の仕上がりを見せてくれたと思います。刃物は青紙と極軟鋼の切り出しです。

 

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本巣板の白あたりになるでしょうか。蓮華も少し混ざっており、やや硬口です。

 

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刃金は薄曇り~半鏡面、地金も明るめの曇りに仕上がります。

 

 

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本巣板の黒蓮華ですが、かなり硬いです。

 

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仕上がりは、刃・地共に曇り~薄曇りです。

 

 

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本巣板の卵色がかる部分に紫も混じっています。此れもかなり硬口です。

 

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やや明る目の曇り~薄曇りに仕上がります。此の石は斜行で層の境が砥面に出ているのですが、硬さと研磨力を感じる程度で違和感無く使えます。

 

 

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天井巣板から八枚の層の砥石です。最大限の硬さを感じさせ、其れに相応しい粒度の細かさも併せ持っています。

テストに使った、ロックウェル硬度で60台後半の特殊鋼も難無く下ろし、硬くて細かい砥石における常識を聊か以上にグラつかせてくれました。

 

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上画像は裏側で、皮の表情をみていると、採掘時に村上株などと言いながら作業していたのが思い出されます。

 

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刃は薄曇り~半鏡面、地金は薄曇りで明るく仕上がります。

 

 

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巣板で有名な奥殿ですが、浅黄も採れます。此れは砥粒の凝集の仕方が独特で、泡立ちとも称される質の石です。

分類的には硬口でも、上記の質に因る反応から地を引くことが少なく使い易い場合が多いとの事。

 

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実際、研ぎ易くて仕上がりも良い結果となりました。

 

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刃・地共に明るい仕上がりです。

 

 

幾つかのサンプルと販売用の砥石での試し研ぎを経て、少しずつ砥石の性格や相性も理解出来つつあります。しかし、まだまだ見ていない・触っていない層や質も在りますし、違う山ともなれば言わずもがな。僅かずつでも経験と知識を蓄積していければと思います。

 

 

 

 

赤ピンの続き

 

前回、赤ピンの間府から幾つかサンプルを採ってきました。それらは柔らか目・やや柔らかい・やや硬いと性質の異なるものでした。

以前に採れた石にも、硬い物や大きな物などバラエティが有ったとの事で、その資料が下画像です。

 

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大型赤ピン

 

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硬口赤ピン

 

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研ぎあがり画像

 

 

 

そして、今回のサンプルですが

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中央

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右端

 

左から右へ行くほど硬めでした。それぞれ、刃金は結構細かく仕上がりますが、地金に対してはやや精粗の違いを見せます。基本的に、硬くなる程に細かい傾向にあります。

露天から間府に成って行くと硬さ・細かさが増し、赤ピンから、風化の進んでいない戸前層に近付くと此方も硬さ・細かさが上がる様です。

掘り進んで、層の中央部に近付けば同様の結果ともなり、天然の砥石層は興味をそそる要素が多くて飽きさせないですね。